ep4 目覚める聖川
聖川は目を覚ました。
寝起きするためだけに借りたアパートの一室で。
するとその直後、彼は眉間に皺を寄せる。
いつもの貼り付けたような笑顔が嘘のような顔だ。
「あぁもう…………もう少しみんなと一緒にいたかったのに」
彼は右手を顔に当てた。
今知らされた、残念なお知らせを思い返しながら。
「そんなにピンチなのか。余所は」
※
「…………ぇ……? 父さん達が?」
朝起きてすぐの事だった。
僕の両親の知り合いから電話があったので、緊急の用事かと思い目を擦りながら出てみると、衝撃の事実を告げられた。
と同時に、僕は……もうこの町にいる理由が無くなったんだなぁと。
僕の両親を襲ったまさかの衝撃の事柄を悲しく思いながらも……そう思った。
「…………分かりました。そうだ、それでこれからの事なんですが」
僕の両親を襲った悲しい事柄。
そのまさかの内容への驚きを隠しつつ……僕は両親の知り合いと、数分だけ話し合い。話し終えるとすぐに電話を切り。昨晩散らかした服を整理しようとして……また電話があった。
「はいもしも……ああ、知佳ちゃん」
電話の相手は、竹田のおばあちゃんの孫の知佳ちゃんだった。
「どうしたの、こんなに朝早く…………ぇ……?」
そして告げられたのは。
二度目の衝撃を受ける事実だった。
「竹田のおばあちゃんが…………目の前で、消えた?」
※
僕はすぐに着替えて家を出た。
脱ぎ散らかした服など今はもうどうでもいい。
それよりも、この情報をグループ内で共有しなければ。
ちなみに、マイフォンのリーネを使えば、一瞬で情報を共有できるかもしれないけど、入來院の情報網に確実に引っ掛かるだろうし、それ以前にマイフォンを管理している人達が失踪していないとも限らないのだ。
だから、迂闊に使えない。
そしてそれ故に僕は急いで学校に行こうとして――。
「昨晩、こいつだけが家にいなかったからまさかと思ったけど」
――聞きたくもない声の主とその取り巻きが、目の前にいるのを見た。
「ついでに言わせてもらえれば、私達の情報網に引っ掛からないように気を付けて活動していたから分かりにくかったけど……ナニかをしていた事だけは、ちゃんと把握していたから」
そしてその取り巻きの一人は、僕よりも先に家を出て、自宅に帰ったハズの志乃を拘束していて……しかも志乃は、猿轡を嵌められてうまく話せないようだった。今まで僕が志乃のピンチに気付けなかったワケである。
おそらく彼女は、僕の家を出た直後に猿轡を嵌められ拘束されたのだ。
僕がこうして、志乃よりも遅れる形で、家から出るまでずっと…………だけど、なんで今さらこんな事を?
今まで目立たないように、グループのみんなと生活していて。
そしてついでに、気配を極限まで薄くするよう努力していたのに……今さらそれが癇に障ったとでも?
だけど、どう考えても…………今さら過ぎる。
今までそんな僕達に、無理に……それこそ肩がぶつかったりしない限り干渉してこなかったじゃないか。
なのに、なんで……!?
「仲間の家にいるんじゃないか。そう思って、あんた達の家を張っていたけど……まさかまさかで、想定以上のイイ事を知っちゃった♡」
次の瞬間だった。
入來院は邪悪な笑みを浮かべた。
美少女な外面が歪み。
内面を反映したような顔になる。
「まさかねぇ。あんた達がそんな関係だったとはねぇ。あんた達の情事を盗撮してモザイクかけずにネット上に晒す、なんて事も考えたけど…………それだけじゃ、私の怒りは収まらないのよ」
次の瞬間。
入來院はハンドサインで取り巻き達に指示を出した。
その内の三人が、僕を拘束して。
そして、拘束された志乃に二人の取り巻きが近付いて…………おい、まさか!!
「や、やめろ!!」
拘束されてる中、僕は叫ぶ。
志乃を助けようと、必死に拘束から逃れようとしながら。
「なんで!! なんで今さらこんな事を!!?」
「あんたが私のオモチャになるハズだった聖川慧斗のお気に入りの一人だから」
僕の問いに、入來院は淡々と答えた。
焦る僕を見て、恍惚とした表情を浮かべたまま。
「私はね、一度気に入ったモノは何であろうと手に入れたいの」
志乃に近付いた取り巻きを、ハンドサインで合図して止めつつ彼女は告げる。
「だけど聖川慧斗は、あんた達にしか興味を持たなかった。私に向けて『鈴峰良太郎とその知り合い以外の人間にあんまり興味ないから』……そんな、屈辱的な事を言ってきたのよ。私が欲しかった聖川慧斗の心を、生意気にもカーストの最底辺のあんた達が奪い取ったのよ。だから、私はあんた達に罰を与えなければいけない。この世を支配する側の人間として…………あんた達の大切なモノを私達が蹂躙するという罰を」
そして彼女は、改めて取り巻きにハンドサインで指示を出す。
「おい…………おいやめろ!! やめろ!!!!」
僕の目の前で……志乃を蹂躙する指示を。
猿轡を嵌められ、あまり声を出せない志乃の顔が歪み……しかし取り巻き達は、そんな事などお構いなしに、それどころかその顔を見て支配欲などが刺激されて、さらに興奮し、志乃の体を触ったり、服を無理やり脱がそうとして――。
「身重な子に、乱暴をするなんて…………君達は人類カーストの最下位だよ」
――その瞬間、時が止まったような感覚がして。
そのすぐ後に、聖川が僕の目の前に立っているのを見た。
志乃をお姫様抱っこし、倒れた取り巻き達の中心に立つ……聖川だ。