ep1 終末への序曲
『続いてのニュースです。漫画「エルザイムの銀翼」でお馴染みの漫画家、榎木謙さん(32)が突如失踪した事件に――』
朝食にパンをモシャモシャ食べながら僕は朝のニュースを聞いていた。
かつてアニメ化作品も出した人気漫画家であったものの、その人気が出過ぎた故に何かに巻き込まれたのか、それとも漫画家自身に問題があったかは知らないが、そのニュースに出た漫画家が何の前触れもなく失踪したというニュースを。
僕はその漫画を読んではいないけど、最近ネット上に書かれる、その漫画家への意見には酷評どころか他の人気作品のパクリじゃないか、という根拠のないモノも存在していた。
まったくもって見ていて気分が良いもんじゃない。
寧ろ漫画家が失踪してもおかしくないような意見だ。
というか……ただでさえ学校で嫌な事があるから、別の話題で気を紛らわそうと思ってTVを点けたのにこれじゃさらに憂鬱になる。
なので僕はチャンネルを変える。
だけどどのチャンネルも似たような事件を扱っていた。
『――署の警察官が突如行方不明となった事件で』
『――イドルグループ「アンジェリオン」が昨日』
『――に謎の消失を遂げたアニメ制作会社「ハーモリオス」について警察は』
それらを見ていて気分が滅入る。
と同時に僕はまたネットが大騒ぎになると思った。
【集団異世界転移・転生事件】
最近連続して起きている失踪事件をネット住民がそう呼んでいて、現在ネット上は盛り上がりを見せている。
今まで人気だったりした、もしくは不当な目に遭っていた人物や組織が、ある日突然……まるで、ここ数年、小説投稿サイト『小説家になっちょれ!』で爆発的に流行り始めた……こっちの世界で亡くなった主人公が異世界に行って、無双したりする流れの異世界系の物語の主人公のようにどこかに失踪をするからだ。
ちなみに、未だに彼らは見つかっていない。
なので異世界に行った事の証明はできない。
そしてついでに言えばその影響で、徐々に物騒になって……。
「…………考えても、しょうがないか」
しかし事実はどうあれ。
僕の高校生活はこれからも続く。
今までと変わらず。
あまりにも物騒な高校生活は。
※
「えー、実は……誠に伝えづらいのですが、高橋先生は失踪いたしました」
いつもとは違う先生がHRのために僕がいる教室にやってきた。
いったいどういう事なんだと思っていたら……そのやってきた先生は、開口一番そんな事を告げた。
このクラスにもいるかもしれないネット住民がざわつく事を。
高橋先生によって守られていた、僕を始めとする生徒は絶望する事を。
「警察に捜索願を出しましたが、まだ見つかるかどうかは分かりません。そして、高橋先生が見つかるまで私がこのクラスを担当します」
するとその時。
一部の生徒が口元を歪めたのを僕は見た。
今まで武闘派である高橋先生によって監視されて、僕を始めとする生徒に対しての嫌がらせなどができなかった…………僕の中学時代、僕を始めとする多くの生徒にイジメを行っていたグループの連中だ。
一方で、新たに僕達のクラスを担当する先生は……あまり良い噂を聞かない。
これは転校していった先輩から聞いた話だけど。
僕のクラスに来た先生は、クラスのイジメは見て見ぬフリをするゲスらしい。
なんであの先生が教師になれたのか……先輩がずっとうわ言のように言っていたのをふと思い出す。
でも、そんなに長く回想に浸ってられない。
今はそれよりも……どうやってこれからを過ごすべきなのか。
それを考えなきゃ。
「さて、それはそれとして」
ホントに…………この教師は先輩の言う通りゲスらしい。
高橋先生が行方不明になったっていうのに、あっけらかんとしている。
「HRに入る前に、転校生を紹介します。入って」
先生が指示を出すと……ヒビが入ったガラスが嵌め込まれているどころか、少々ボロくなっているドアを開いて転校生が入ってくる。
ちなみに、ウチの学校が貧乏なワケじゃない。
ウチの学校と契約を結んでいる備品の業者を始めとする業者までもが、行方不明になったらしく……そのせいで交換できないんだ。
いったいなぜ、こうも失踪事件が続くのか。
ワケが分からないけど……とにかくその転校生はそんなドアを開けると、僕達は溜め息を吐いた。
なんとその転校生は、この世の者なのかと疑うほどの美少年だったのだ。
「初めまして。私の名前は聖川慧斗といいます」
しかも、まるで男性声優かと思うくらい良い声もしていた。
そしてそんな声を聞いて、僕を始めとする多くの生徒にイジメを行っている者達のリーダー格である女…………入來院由華子が、うっとりとしているのが見えた。
一瞬、もしかするとイジメが一時的に止まるんじゃないか。
ふとそう思うくらい、入來院は転校生である聖川に注目していた。
でもすぐに、僕はそんな考えを振り払った。
彼女がイジメを止めたくらいで何かが変わるワケじゃないし。
それに、下手をすると聖川が被害に遭う可能性だってあるんだから。
「ッ!」
そして、僕がそんな事を考えている時だった。
なんとその聖川が、僕と視線が合った瞬間に目を丸くした。
いったい、どうしたんだろう。
僕は混乱した。
すると次の瞬間。
聖川が、僕に微笑みを向けてきて。
より波乱に満ちた高校生活を…………僕は予感した。