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マッチョなハスキー警部と気まぐれポメラニアンは幼馴染2

西灯駅直結ショッピングセンター

3階コーヒーショップチェーン店


 西灯駅とその周辺は、首都央灯に次ぐ賑わいを見せている。

 ショッピングセンターに入ると、仕事終わりの動物や学生達のカジュアルな雰囲気に包まれる。胸板パッツンパッツンのワインレッドサスペンダーの強面犬は、どうしても浮いた存在になる。そんなことは一切気にせず、小宮は大輔が待っているというコーヒーショップに入店した。


「おそーい、疲れたー」


 雄ポメラニアン犬の大輔は中央の長テーブルの角席で顔を伏していた。


「お前が俺の予定を確認せずに来るからだろう。

 コーヒーを注文してくる」


「テイクアウトにしてね。俺はさっさと店を出たいから」


 小宮がアイスコーヒーを片手に店を出ると、出入口傍で大輔はスマホをいじっていた。

 彼の立ち姿を見て、小宮は目の上の皮膚をしかめる。


「大輔お前、いい大人なんだから毛量調整しろよ」


 二足歩行姿の大輔は、青いパーカーのフードを被り、ジッパーは首元いっぱいまで上げており、ショートパンツで足下を出していた。足元は、踵にベルトのついた黒いサンダルだった。

 カジュアルな服装には問題ないのだが、薄手のパーカー生地がゴワゴワに膨らんでいるのだ。羽毛の入り方がいびつなダウンジャケット、或いは内側にグニャグニャの針金を仕込んで空気で膨らましているような見た目になっている。原因は彼のフワフワしたオレンジ色の長毛の上からパーカーを羽織っているからだ。

 体毛が多かったり長かったりすると、着心地が悪くなり、見栄えも悪い。なので通常、動物達は服で隠れる部分の毛量を減らすのだ。小宮のようにほぼ毛無しにする動物は珍しいが、大輔のように何もせずゴワゴワのまま歩いているのもかなり不格好だ。ビジネスマナーの視点からでも、毛量調整は身だしなみとして必須とされている。


「別に良いじゃん、誰にも迷惑かけてないし」

 大輔はプイッとそっぽ向いた。

「駅ロッカーに荷物置いているんだ。小宮が持ってね」


 大輔は手ぶらで跳ねるように歩き始めた。

 最低基準身長※の100cmギリギリの背丈でしか化けていないので、身長150cmを死守している小宮とはかなり目線が違う。小宮はアイスコーヒーをストローで吸いながら黙って彼について行った。


 ※彼らの暮らす国では、成人動物は二足歩行姿になる際、身長100~200センチの間にする決まりがある。大輔は元の身体が100センチ無いので、大きめに化けている。


「飯、どうする?」

 ロッカーに到着し、リュックを取り出した大輔が言った。


「スーパーに寄って、焼き肉でもするか」

 小宮はそのリュックを背負いながら言った。


◇◆◇◆◇◆


北西灯(きたせいとう)市住宅街

某中型動物専用単身向けアパート


 小宮と大輔は、小宮自宅に到着した。

 廊下の肉用冷凍・冷蔵庫に、小宮は買ってきた枝肉を入れる。


「うわー! 広いなぁ」大輔は廊下を駆け抜け、リビングに入る。

挿絵(By みてみん)


 アパートは1LDK間取りで、カウンターキッチン付きの10帖程のLDKと、スライドドアを挟んで寝室がある。

 整理整頓が行き届いており、小宮の性格が丁寧に反映された室内だった。グレーがかったフローリングの上に、黒を基調としたシンプルな家具が配置され、ベージュの大小2つのクッションが転がっている。


「ね、もう身体を戻して良いよね?」

 大輔は小宮の方を見ながら、目をウルウルさせている。


「好きにしろ」


「ヒャッハー! あぁ~疲れた」

 大輔はポンッと身体を小さくした。身長が30センチ程縮まり、一番小さなクッションに勝手に身体を埋め、スマホを触り始める。


 小宮は手早く夕食の支度を始める。サスペンダーの上からエプロンをつけ、カウンターキッチンでグリルを温め、ホットプレートを取り出す。

「四足歩行姿には戻らないんだな」と小宮は声かける。


「風呂に入って寝る前までは戻らないよ。飯を食う時どうせ二足歩行姿になるだろ。

 あ、テレビつけるね。なんか有料配信入ってる?」


「加入してないよ。公営放送しか見ないしな」


「つまんねえ~」大輔は文句を言いながら、テレビをつけ、リモコンのボタンをムニムニ押した。


◇◆◇◆◇◆


 普段視聴することのないバラエティー番組のコメディアンの声を聞きながら、小宮はウサギ肉に塩コショウを振りかける。グリルに入れてじっくり焼いている間に、先ほど購入した鹿の枝肉を廊下の冷蔵庫から持ってくる。わざと骨付きになるように、専用包丁で骨を割るように断ちながら肉を切り分けていく。湯を沸かした大鍋に骨肉を入れて臭みを取る。その間に浴室へ行き、風呂を洗う。


 テレビを見ている大輔の軽快な笑い声が浴室ドアを閉めていても聞こえてくる。大輔がこの部屋に入るのは当然初めてだが、かなりくつろいでいる様子が知れて、小宮は安心した気持ちになった。


「飯が出来たぞ」


 カウンターと垂直になるように設置された正方形のダイニングテーブルの上に1〜2人前用のホットプレートを置く。そこに小宮は鹿肉を並べる。皿にはウサギ肉のローストと添野菜が盛り付けられている。


「うわぁ、美味そう! いただきまーす」


 大輔は丸チェアによじ登り、立った状態で傍の缶ビールのプルトップを開けた。小宮が適当な段ボール箱を持ってきて、彼の補助イスとして丸チェアに置いた。


「ありがとう〜」

 ぽふんっと、大輔は補助イスに座る。


「汚したら嫌だから、これ脱ぐわ」


 大輔は青いパーカーのジッパーを下ろし、脱ぎ投げた。

 ボワボワッと、一気に空気で膨らんだかのように、彼のオレンジ色の毛並みは丸く広がった。ずっと抑えつけられていたにも関わらず、跡がつくこともなくピンと長毛は伸びている。


「ふわー、やっと楽になった。いただきまーす」


 上半身裸で、大輔は骨付き鹿肉を両手で持ち齧り始めた。


 一連の流れを向かいの席で見ていた小宮は、目が離せなかった。

 パーカーを脱いだ途端にフワッと現れたオレンジ色の柔らかい毛並み。丸みを帯びたシルエットを保ちながら動く度に揺らめく毛先。長毛に埋もれているけどピンと立っている耳。昔よりも茶色味が広がったように見える鼻の周り。


 こども園にいた頃、宿題を手伝う等些細な用事を大輔が頼み、小宮が応じた時、大輔は小宮の背中や腕に擦り寄ってきた。大人達にこれをするとウケることを大輔は知っていて、自分の都合の良いように進める為にクゥ~ンと鳴きながらスリスリしていた。同じことを小宮にやっても通じると、大輔は気付いていたのだろう。

 「小宮は()()()()()()だから」と大輔は認識しているはずだ、と小宮は思っている。


 今日は大輔のお願い通りに迎えに行き、荷物を持ち、夕飯の支度をした。でも彼はまだ擦り寄って来ない、と考えていることに気付いた小宮は、頭の中を払拭するつもりで缶ビールを一気飲みした。


◇◆◇◆◇◆


 夕食後、小宮が後片付けをしている間に、大輔を風呂に入れさせた。洗い物を終え、リビングに落ちている青いパーカーを見る。近付くと犬でもキツイと思わせる臭いが鼻孔をついた。相当風呂も洗濯もサボっていたのだろう。指先で摘まんで脱衣所兼洗面所に入る。床に脱ぎ捨てられたショートパンツと下着からも刺激臭がした。

「服、洗濯しとくぞ! 自動乾燥だから朝には乾くからな!」


「ありがとー」

 浴室から大輔の声が響いてきた。


 洗濯機のスイッチを入れた後、寝室に入り、就寝スペースを整える。

 敷マットの上に大きさも形もバラバラのビーズクッションが6個程置かれている。いつもはその隙間に潜るようにして眠るのだが、今宵はクッションを4個外に出す。自分は絶対に手放せない2個があれば良い。残り4個から大輔が使いたいものを選んでもらおうと思ったからだ。


「お風呂いただきましたぁ」


 大輔がスライドドアの隙間から寝室側へ顔を出した。

 今日はシャンプーしたらしく、乾かした毛並みが一層フワフワになっていた。貸したコットンのパジャマがゴワゴワになっているが、寝る時の恰好に対しては小宮も何も言わない。


「じゃあ、俺も入ってくる。寝る時のクッションだけど、この4つから好きなの使え」


「あー、いいよ。俺リビング(こっち)のクッションで充分だし。リビングで寝るよ」


「そうか、分かった」


 大輔は勝手に冷蔵庫から缶ビールを出してきており、スマホで動画を見ながらクッションの上で飲み始めた。

 小宮はその傍を通り、リビングを出て浴室に向かう。残念な気持ちになっていることを自覚し、必死で首を振った。

2023/04/23夏まつり様から、大輔イラスト頂きました。今話題の猫じゃグリーンバージョン♡

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