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マッチョなハスキー警部と気まぐれポメラニアンは幼馴染1

猫じゃらし様主催の『獣人春の恋祭り』企画参加作品。

ほんのりBL。

獣9:人1、途中で100%獣になります。

完結済連載小説『家畜の意思 「愛玩用と呼ばないで」』のスピンオフ作品です。時系列は『家畜の意思』第3部分のうずしおビル襲撃事件の翌日です。

本編未読でもほぼ問題ありません。


警察庁西灯支部

第3ブロック警察機動隊


 第一隊隊長の雄ハスキー犬の小宮警部は、睡眠不足をコーヒーで無理矢理打ち消しながら、事務処理をしていた。

 昨夜のうずしおビル占拠事件は、公安管轄となり、その後の対応は自分達の手から離れた。隊員を休ませる為に、被害状況や活動報告の取りまとめを、隊長である彼が引き受けていた。


「小宮警部、経費申請がまだ出ていませんよ。

 あと、ここにハンコするの抜けてます」


 経理係の雌パグ犬警官がペシンッとクリアファイルを小宮の机脇に置いた。書類にはペタペタと付箋がついている。


「ごめん、すぐやるよ」


「午前中までに。時間厳守ですよ!」

 雌パグ犬は捨て台詞を残し、他の机に書類やファイルを置きに回った。

挿絵(By みてみん)


 文書偽装の罪が存在しなければ、この国の業務効率は大幅に改善するだろうに。という絶対口に出してはいけないことを頭に浮かべながら、小宮は目の前の作業を中断し、ポンポンとハンコ押し作業を始めた。


「おはようございます〜」


 欠伸をしながら入室したのは第一隊副隊長の敏明警部補だった。雄ヒトの彼は隊長小宮の隣の席に座る。


「昨日はあんなに大変だったのに、相変わらず小宮警部は早いですね。身だしなみも完璧ですし」


 パソコンを起動しながら俊明警部補は言った。

 機動隊員は、訓練や出動以外では警ら課等と同じ制服を着ている。制服姿で民間動物の前に出ることが少ない為か、俊明は腕まくりし、側頭部に寝癖を残したままで仕事を始める。


 一方、小宮は制服ではなく自前のスラックスとワイシャツとネクタイをビシッと決めていた。盛り上がった胸筋の上を走るサスペンダーが彼のトレードマークだ。本日はネクタイの色と合わせてワインレッドを選んでいた。

 ボディビルダーのような筋肉を纏った上半身は、小宮の美学と努力の賜物だった。二足歩行姿になる際に胸筋が発達して見えるように、日々二足歩行姿のまま身体を鍛えてきた。より美しいボディラインを目指して、雄ヒトの彫刻やヌードモデルのデッサンを繰り返し、イメージトレーニングもしてきた。

 小宮が特にこだわったのは、体毛だった。小宮は首までは他の動物同様に毛をそのままにしているが、鎖骨下からは徐々に毛量を減らし、胸板と背中と腰回りまではほぼ毛を無くし皮膚を剝き出しにしている。通常体毛がある動物達は皮膚と布が接触するのを嫌う為、薄っすらと毛は残している。ファッションモデル等オシャレへの意識が高い動物でも体毛ゼロにすることは無い。毛量を減らし毛並みを整えて身体のラインを調整するのが一般的だった。

 しかし小宮はワイシャツ越しの胸筋のラインを見栄え良くする為に、布の擦れに耐えながら、毛量をゼロにしていた。今では擦れが無い方が落ち着かない位だ。

 そんな彼に付けられたあだ名は「サスペンダー小宮」だった。彼自身は「マッチョ小宮」と呼んでほしいのに、ボディラインを魅せる為に取り入れたサスペンダーの方が通ってしまったことが正直悔しかった。だが、縦社会の警察内部で上官にも「サスペンダー小宮」と親しみ込めて言ってもらえた以上、反論も撤回も出来なくなってしまった。


◇◆◇◆◇◆


 朝礼が終わり、小宮と敏明は並んでデスクワークを続ける。小宮がどんどん事務処理を片付けていく横で、敏明はどこか上の空だった。


「体調が優れないなら、休んで良いぞ」小宮がややキツめに言った。


「すみません、違うんですよ。これは恋わずらいかな?」


「はぁ?」

 敏明の返答に、小宮は髭を逆立てる。


「うずしおビルから出てきた、公安関係者らしき雄ライオンと雌ヒトのことを報告したでしょ」


「公安が非公開情報だとストップをかけたやつだな」


「誰にも報告してなかったんですが、その公安の雌ヒトが物凄い美人だったんですよ」

 敏明はうっとりとした表情をしていた。


「確かに、不要な報告だな」と小宮は冷たく返した。


「本当に信じられない美女だったんです。女優やアイドルよりも綺麗だと思いました。あれだけの美女なら絶対話題になっていると思って、昨夜睡眠も取らずに、警察のデータベースを調べたり、同僚に聞いたりしちゃいましたよ。でも、いなかったんですよね」


 敏明は深くため息をついた。


「あの二人組の正体は公安じゃなくて、軍関係者かもしれないです。

 実は数年前から陸軍にとんでもなく美人の雌ヒト二等兵がいるって噂があったんです。最近姿を見かけなくなったんですが、もしかしたら公安絡みのポストに異動になったのかも。

 はぁ、また会いたい……」


「お前、軍の動物と接点を持っているのか?」

 小宮がオッドアイをギロリと光らせる。


「いやいや、ただのプライベートな酒飲み交流だけですよ。怒らないでくださいってば」

 敏明はやや焦りながら言った。


「その美女についての詮索はこれ以上するな。公安から絶対非公開と強く言われているんだ。

 万が一、軍関係者なら話がややこしくなる。いいな?」


「分かりましたよー」

 敏明はやや納得いかない様子だったが、先程よりは滑らかにキーボードを打ち始めた。


 書類を提出する為に、小宮は席を立つ。

 敏明の話はどうも落ち着かない。西灯支部公安には元軍人の典巻という雄オランウータンがいる。やり手と呼ばれる一方で、警察の伝統を無視して軍との交流も憚らない存在故に、毛嫌いする連中も少なくない。

 昨夜現れたという二人組が公安絡みの軍関係者というのは、有り得ることなのだ。だからこそ、機動隊の立場として、そこに深入りするのは賢明ではなかった。


 席を立ったついでに小宮はトイレに向かう。用を足し、手を洗いながら考える。

 自分は、気になる異性に現を抜かすような性質じゃなくって良かった、と。


◇◆◇◆◇◆


警察庁西灯支部

食堂


 午後の会議を控えた小宮は、手早く昼食を済ませようと食堂に向かった。サラダチキン大盛が乗った盆を持って、空いた席に座り、私用携帯を見る。


「大輔からメッセージが来てる?」


 思わず声が出てしまった。

 文面はシンプルで「電話したい」というものだった。

 慌てておかずを平らげ、速やかに食堂を去る。


 開放中の屋上へ行き、柵越しに景色を眺めながら、小宮は電話をかけた。


 5コール目で相手が出た。早い方だった。


『あ、小宮ぁ、久しぶりぃ。電話ありがとうな』


 高めのキーの雄声が骨伝導で聞こえる。


「どうした、急に。何かあったのか?」


『うん、頼みがあってさ。今晩、お前ん家泊めてくれよ』


「はっ、今夜!?」


『そう。もう西灯には着いているからさ。お前が仕事終わってから合流しようぜ。

 今日は何時に終わる予定?』


 小宮は呆れてしまい、しばらく返答出来なかった。


「お前、俺の仕事を知ってて言っているのか?

 俺は警察だぞ。夕方定時退社だと思っているのか?」


『え、じゃあ今夜は無理ぽい?』


「いや、夕方前には合流出来る」


『んじゃあ良いじゃん。駅直結のショッピングセンターで時間潰しているからさ。終わったら連絡くれよ』


「分かった」


 大輔との通話はあっさり終わった。

 小宮はフーっと息を吐く。


 小宮と大輔は同じこども園で育った幼馴染だった。

 オレンジ色の毛並みをフワフワさせた雄ポメラニアンの大輔と、シベリアンハスキー犬の小宮は、寝室が同室だった。だからと言って常に一緒にいる関係性ではなかった。しかし大輔が気まぐれに声をかけると、小宮も応じて相手していた。それが大人になった今も続いていた。


 それでもこうやって会うのは1年以上ぶりだろう。警察学校を卒業した小宮の配属先が西灯になり、それ以降会うことはなかった。連絡を取り合ったのも半年ぶりだった。


 小宮は自席に戻り、会議の準備をする。それが終われば今日の仕事は終わりだ。


「敏明、今晩急な私用が出来たから、俺は会議が終わったら帰る。後は頼んだぞ」


「分かりました。昨日みたいな出動が起きないことを願っておきますよ」

 彼はぐぅーんと腕を上に伸ばしながら言った。会議室へ向かおうとする小宮の後ろ姿を見る。

 ドアが閉まってから、傍を通りかけた雌パグ犬に話しかけた。


「小宮警部、よっぽど嬉しい予定が入ったんだろうな。めちゃくちゃ尻尾振ってる。あれは本人気付いていないな」


 敏明がニヤニヤしていると、無反応のまま雌パグ犬はハンコ漏れの書類を彼の机にペシンッと置いた。

2023/04/23加純様から頂きました雌パグ犬を掲載しました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サスペンダー小宮w ごめんなさい、気になっちゃって(てへ!) なにげに経理の雌パグ犬も! [一言] 小宮警部、ストイックな性格なのでしょうね。 わたしとしてはチラリと出てきた、公安関係…
[良い点] 確かにサラダチキンは、筋肉増強に最適な食材とよく言われていますからね。 小宮さんが自身の筋肉をいかに大切にしているかが伝わってきます。 自慢の筋肉質な身体よりもサスペンダーの方を仇名にされ…
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