7「気まぐれ種まき」
花を植えようと思ったのは、そこが殺風景で仕方のない庭だからだった。
ところがそれが主人の逆鱗に触れたらしい。曰く、自分には花を愛でるような資格はないのだという。
そういう訳で私は雇われて三日で懲罰房行きになった。ここで丸一日、主人の意志に背いたことを反省せねばならない。
とかく手持ち無沙汰なので、反抗ついでに差し入れられた果物や木の実から種を抜いて、窓から思い切り放り捨てることにした。
私は不注意が多かったため、その後もたびたび懲罰房に入れられ、その度に種を撒いていた。
ひまわりの種をもらったときなんて大喜びで投げた。
しかし、私とて流石に二度も花を植えて怒られるほど馬鹿ではない。その間も庭は相変わらず殺風景なままである。
私自身すっかり忘れていた種が芽吹いたのは数ヶ月後だった。主人はそれはそれは怒ったが、まさか私が独房からせっせと種を撒いていたとは思わないらしい。
「種を撒いてもいないのに芽が出るなんて、きっとご主人様への祝福ですね」とこの上なく白々しく誤魔化したら、主人がいきなり泣き出した。
「私は許されたのだろうか」
そんなもん知る訳がない。そもそも主人の事情も知らない。知るつもりもない。
とはいえ、そのとき既に私は主人の求めるものを提供できる優良メイドだったので、すぐ「そうですね」と答えておいた。
実はこうした奇跡をずっと願っていたのだと主人は語る。あんまり嬉しそうなので少々後ろめたいが、何も知らない私の気まぐれが人を救ったなら、これも多分奇跡の一種なのだと思う。
案外世の中そんなもんだ。
ちなみに、大輪の花でも咲かせるかと思った芽はすくすく育ち立派なスイカを実らせたので、主人は本気で困惑していた。
「これがあの人からのメッセージ……?」と首を傾げているのを見ると、流石の私も目を合わせることができないのである。