6「綴り手」
物心ついたときから、物語を綴ることが習性だった。好きとか嫌いとかじゃない。綴らずにはいられないのだ。
物語が天から降りてくるがごとく、私は突如襲い来る衝動に突き上げられるようにして、死に物狂いで物語を綴り続けた。
降りてくる物語には止めどがなく、内容も多岐にわたった。私には才能がある。私には物語を作り出す才能がある。そうした自負に裏打ちされ、私はすべてを蔑ろにして物語を綴り続けた。
私は弟たちのように、毎日あくせく水汲みや籾摺りに人生を費やすような人間じゃないのだ。
「へえ、海の向こうの王国の生活について、とてもよく書けていますね」
高名な先生だというおじさんが、私の綴った物語を読んで驚いた顔をした。
……海の向こうの王国? 馬鹿言わないで、これは私の中に降りてきた舞台だわ。しかし先生は真剣な表情で私に言った。
「今まで書いたものを、すべて見せてください」
……先生によれば、私が今までに綴ってきた物語は、すべて現実に起こった出来事と一致しているらしい。そして、私がそれらを綴ったのは、どれも事件より前のこと。
世の中には、預言者――神が下した天啓を人々へ知らせる役目を担った人がいて、私はそれなのだそうだ。私はお城へ招かれ、預言者さまとして傅かれるようになった。家族も裕福な暮らしを与えられた。
私は幸運なのだろう。けれど、己の才能を盲目に信じていられた頃の、あの焼け付くような熱量は、もう決して戻ってこないのだ。