表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

4「宿主」


 依巫(よりまし)、神の器、人柱。妹はそれに選ばれたのだという。その身に神を降ろしてしまえば、妹はもう神殿から出ることは叶わない。家族と離れ離れになるなんて嫌だと妹は泣きじゃくる。

 妹を胸にきつく抱いて、僕はこの村から逃げることを決意した。


 妹の小さな手を引き、その軽い体を背負い、いくつも山を越えた。不安に泣きながら縋り付く妹の腕が熱かった。

 

 僕は放たれた追っ手の包囲網を掻い潜り、無数の生傷を四肢に刻み、「お兄ちゃん、」羊歯を踏み分け、蔦を切り払って歩いてきた。「わたし、」あてのない旅が何年も続いた。妹を守るためなら何も怖くない。「お兄ちゃんのこと」妹のためなら僕は何だってする。「ずっと大好きだからね」だってそれが兄の務めだから。「お兄ちゃん」妹のため。妹のため。「たすけて」ああ助けるとも。だってお前は僕の妹なんだから。僕はお前のために、全てを投げ打って……




 ……妹はいつしか泣かなくなっていた。篝火をひとつだけ灯した野営の夜、僕はふと、そのことに気づく。思えば、妹の笑顔を最後に見たのはいつだろう。僕は逃げるのに必死で、一番大切な妹を見ていなかったのだ。そうと悟って、僕は酷く反省した。


 妹の名を呼んで、柔らかな手を取る。直後、その氷のような冷たさに僕は息を飲んだ。


「――そろそろお兄ちゃんごっこは満足かな?」

 人の奥底の望みを見透かし叶えるという神が、妹の顔をして、そこで笑っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ