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3「英雄」



 体のいい捕虜として、その王子は停戦中の敵国に送られた。戦で大切なものを失った人々の矛先を一身に受け、彼は孤独な少年時代を送ることとなる。


 ところで、その国の王女は自ら剣を執って戦うような、誇り高き姫騎士であった。

「悪いのは戦であって彼ではない」

 理性的にそう言い放った彼女に導かれ、少年は自らも剣の道を辿る。


 幼い彼にとって、王女の振るう剣は憧れであった。ある昼下がり、勇気を出してその剣をくれと言ったら、私から一本取れたらね、と彼女は悪戯っぽく微笑んだ。剣は貰えずじまいだった。



 時が過ぎ、二国の情勢が悪化するに伴って彼は祖国へと帰還した。姫騎士に教わった剣の腕を恃みに戦地へ赴く。彼女と対話し、この下らない惨劇を食い止めるために。


 気づけば彼は将軍で、彼女は無謀な国主と化していた。自ら剣を執る癖は直らなかったらしい。懐かしさに苦笑した彼に、土煙越しの女王は憎悪の目を向ける。


「よくもお父様を」

 幼き日の高潔な彼女の言葉が、痛みを知らないが故の寛容であったことを彼は悟った。


 勝負は一瞬でついた。初めて彼女に剣先が触れた。それだけのことだった。


 倒れた彼女の手から剣を奪う。かつてあんなに輝いて見えた刃は、今や薄汚れて傷だらけの血錆びたなまくらである。変わってしまった全てを噛み締めて、彼はただ黙祷した。


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