17「影」
二年ほど前に気づいたことだ。私の影は、他の人に比べて、僅かに大きい。
気づいたのは、私と身長がほぼ同じ親友と並んで歩いていた夕暮れだった。土手の斜面に伸びる影は奇妙に歪んでねじれ、そして、私の影の方が遠くまで届いている。
親友は身長こそ私と等しかったけど、それ以外の全ては私より長じていた。成績だって良かったし、手足もすらっとしていて、運動もできて、気立ての良い可愛い人気者だった。
私が親友よりも長じていたのは影のみだった。
私の両足の裏から離れない影は、自覚すれば瞬く間に膨れ上がっていった。真昼なんかは、私の下の地面がぽっかりと深淵まで口を開けているように思えたものである。
劣等感と、憧れと、執着と、居心地悪さ。完璧なあの子に向けられたあらゆる感情を自覚しながら、私は彼女から離れられないでいた。こんな私が彼女の隣に立つ資格はないのにな。
私の影が最大になったのは受験の頃だ。私が選んだのは、卒業後の進路まで鮮明に浮かぶような凡庸な道であった。一方彼女はその実力に相応しく、目が飛び出るような進学校を目指すことにしたらしい。
私たちの世界が完全に分かたれるのは自明だった。
互いの将来について語り合った夕暮れが、私の影が最も伸びた瞬間だった。土手の天端の東屋で、私たちの影が草地に並んでいる。彼女の影はすらりとしなやかで、ぞっとするほどに濃い色をしていた。
それに気づいたとき、妙な安堵が胸に落ちた。――影の大きさだけを比べることの、なんと愚かしいことか。
視線が重なる。互いに同じことを考えていると直感する。親友が囁く。「わたしたち、ずっと一緒よね」その口元が弧を描いている。
ベンチの上で指が絡んだ。縋るように繋いだ手に影が落ちていた。
遠くで影が触れ合う。