14「悪運」
あたしの母さんは本当に男運がないんだ。
町のみんなも口を揃えてそう言ってるけど、母さんは「私は自分の目を信じるわ」と言って譲らない。それでもたまに、不安そうな顔になる。
だって、前の父さんもその前の父さんも、ろくでもない犯罪を理由に町を追放されたのだ。「そんなことする人じゃない」って母さんだけが必死に弁護していたけど、無駄だった。
今の父さんも多分、そのうち逮捕されるんじゃないかなぁ。それがそう遠くない未来だって、あたしは知っている。
予想は見事に的中して、ある日父さんは速やかにお縄になった。嘆き悲しむ母さんを見るに見かねた様子で、慈悲深い領主さまが優しい声で申し出てくれる。
「僕がこの子の父親になろう。君たち母子の力になりたいんだ」
でも母さんはそれを断った。住民はみんな非難し呆れ果てていた。選ぶ男は揃いも揃って犯罪者の屑ばかり。それなのに素晴らしい人格者である領主さまからの求婚は断るなんて、身の程知らずの馬鹿がすることだって。領主さまは本当に信頼の厚い人なんだね。
どうして断ったの? 念の為に訊くと、母さんは「何となく、あの方を愛せる気がしなかったの」と自分でも理由が分かっていないような表情で呟いた。
重ね重ね言うけど、本当にあたしの母さんは男運がない。でも母さんの、男を見る目は誰よりも確かなんだ。……あたしはそれを知っている。