第3話 美しい池
「トキ山、トキ山です。」
ついに俺たちはトキ山駅に到着した。
「ほんと山しかねぇな。」
目の前に壮大に広がる山々は圧倒的で、その美しさに、つい見惚れてしまうほどだ。
「こんなとこにほんとにカフェなんかあんのかな?」
この駅で降りる人なんて 一日一人いるかいないかだろう。
カフェなんかあるわけないと薄々気づいていたが、トキ山に来てそれは確信に変わった。
「とりあえずゆっくりしようぜ、晴人」
「そうだな」
まあ、暖かい空気を感じながらこの山の中で過ごすのも悪くない。
それに翔平もカフェについてはもう諦めているだろう。
ゆっくり休むとするか。
それにしても綺麗な山だ。
「あれ?」
眺めているとき、何かが目に入った。あれは光だろうか。
そこには、何か光っているものがあるように見える。
「翔平、あそこなんか光ってないか?」
「たしかに見えるな、あそこに何かあるかもしれない。晴人、行ってみるか!」
小走りで走る翔平を追い、俺は山の中へと足を踏み入れた。
その光は、俺たちが近づくごとにその輝きを増していった。
そして、ついにその光に届こうとしたとき、先を進む翔平が叫んだ。
「こりゃあすげぇぇぇえ!!おい、晴人!早く来い!!」
「ちょっとまってくれ、進むのが早いんだよ翔平は!」
未だ少年の心を失わない翔平は、まるで小学生かのような叫びを上げている。
「いいから早く見ろ!」
しかし、その光景は、誰もが驚きを隠すことのできないほどのものだった。
「こりゃあ、すげえや、、、」
そこは、池だった。
しかしどう見てもただの池ではない。
あまりに透き通った水が、太陽の光を反射して、虹色に光り輝いているのだ。
そして、周りの木々には、見たこともないような鳥達がとまっているのが見える。
明らかにこの池の周りの空間だけが異質である。
「こんなとこがあったなんて、聞いたこともなかった。」
「ああ翔平、すごいよ、こんな綺麗な水は生まれて初めて見る。」
「あぁ、最高だな。」
今までテレビやネットで見てきた綺麗な景色なんかとはレベルが違う。
その空間は俺を圧倒し、感動させた。
「なあ晴人、あれって井戸かな。」
翔平の指差す先に、井戸のようなものがあるのがみえる。
「ぽいな。ここに人間がいたってことか?」
「見てみようぜ。」
またもや翔平は先々と進んでいく。
そして翔平はここへきて一番の盛り上がりを見せた。
「おい!!晴人!!早く来い!」
一体これ以上何があるというのだ。
「おい、晴人!これを見ろ!」
それはまた俺を驚かせるものだった。
「おいおい、嘘だろ!」
満面の笑みで翔平が見つけたものとは井戸のすぐ脇に立ててある看板だった。
「カフェはこちら」
看板にはこう書かれている。
そう、翔平が一番探していたものである。
「な!言っただろ晴人、ここにはカフェがあるんだよ!」
「いや、まさか、看板があっただけだろ、」
看板があると言っても、周りに何か建物がある気配など全くない。
ただ誰かが捨て行ったのかもしれない。
「まずここに、井戸があるのも謎なんだよ。だって、ここに水を汲みにくる人なんて誰もいないだろ。」
「たしかに。」
翔平がそういうと、俺と翔平は井戸の中をのぞいてみることにした。
俺と翔平は、井戸の中に首を突っ込んで中を見た。
「眩しい!」
俺たちは同時に叫んだ。
水が井戸の壁に無数に反射して、井戸の中は大きな光そのものである。
俺たちの反射した声とその光でなんだかあたまがくらくらした。
次の瞬間、体が無抵抗に引っ張られていくような感触がした。
突然の出来事だった。
俺たちは井戸の中へと吸い込まれたのだ。
「んぅぅ、、…」
声を出そうとしたが、出ない。
俺たちは謎の、大きな光に包まれて井戸の奥へと消えていった。