人をダメにするソファに勝った日
スティックのりが目の前に落ちている。
ほんとうに目の前、寝転んだカーペットの上にね。
このスティックのりは、さて、いつからここに転がっていたのだろうか。
書き置きの御朱印用紙を御朱印帳へ貼り付けたときからだろうか。それとも、封筒に84円切手を貼り付けたときからだったのだろうか。
これの持ち主は、ずいぶんと怠惰な性格のようだ。すぐそばにあるというのに、ただ眺めるばかりでちっとも動こうとはしない。
ふと、思いいたった。もしかすると。もしかするとだよ、これはわたしへのプレゼントだったりするのだろうか。そうなのかな、そうだったのかな。そわそわするね。わくわくしてきた。そうか、そうだったのか。
お伺いは立てた。ちら、ちらと何度も顔を仰いだし、しっぽも数度、ゆらりゆらりと揺らしもした。ぷすー、と鼻息だって鳴らしたのだ。
それの持ち主は、どこを見ているともわからぬ目で、ただただそれを眺めているばかり。だらりと力なく落ちている手。深々と人をダメにするソファに沈みこみ、無気力さをまとってダメになっている。とても、さまになっていた。
もう一つ、ぴひゅー、と鼻息を鳴らす。
…あとで、顔を洗っておくことにする。
そうして、目を見開き、視線を外さず、狙いを定める。瞳孔が広がったような感覚になり、視界がチカチカと明るくなった。姿勢を落とし伏せる。手足で足踏みし足場を確認し、ついでとばかりもう一度ふみふみふみと足場を確認する。視線を外さずにもう一度足場を確認し、しっぽをゆらし、さらにもう一度後ろ足で足踏みをする。
そうして、やっぱりもう一度ふみふみふみと足場の確認をして、ぶん、ぶん、としっぽを地面に叩きつけ、駄目押しとばかりにもう一度後ろ足で足踏みし、たところで
…視線を感じた気がした。
ちらり、と一瞬、目線だけを向け見上げる。
ぶっっふぁ、ぐぐふぉっっっ!!
…すっげぇへんな鳴き声で震えだした。
ぐ、ぐごぉっ、ふ、ふふふっっヒーっ
ちょっと、なんでか、なんとなくだけれど、ほんのすこぅしだけ、イラッときたので、バシンッとパンチを一つお見舞いしてやった。