表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6(飛べない)

 家に入ってボニーは暴れる。わたしの手から虫かごを払って落として。本棚を倒して、食器棚をひっくり返して。カーテンを引き絞って、荒れた家で泣き叫んだ。ひどい面相。ドレス、ぐちゃぐちゃ。

 わたしはボニーを抱きしめて、耳元で歌いながらドレスを脱がす。裸にして、ボニーをお風呂に入れる。さめざめ泣く裸の背中を抱いて、歌ってやる。

 それでもボニーは泣きやまない。わたしもしくしく泣き出して、歌が歌にならなくて。ボニーと一緒にしくしく泣いて。

 ボニーを寝巻きに着替えさせ、髪を乾かし、梳いてやる。ボニーはとても大人しい。まるで天使のよう。

 泣くのはおやめ。ほら、サナギが羽化して蝶になる。皴の翅を伸ばして蝶になる。暗がりの中で蝶になる。小さな灯りを翅に映して。

 蝶は羽ばたき、翅に翅脈。わたしたちは追い回す。蝶は逃げよと翅を動かし、翅脈の亀裂が増えていく。きらきら輝き、割れていく。細かくなって欠けていく。小さく砕けた翅が散る。飛べない蝶は這い出して、芋虫みたいにひくひく動く。

 ──いや!

 叫ぶボニーを抱きしめる。ボニーの髪を梳いてやる。サナギはさっきの乱痴気で。すっかりどこかで潰れてる。


   *


 あなたの名前は? 白い女の先生が訊ねる。

 ボニー。わたしは応える。小さな声で。

 白い男の先生が眉をひそめる。メアリはどこ?

 メアリはいません。わたしは応える。涙をこぼし。

 ふたりの白い先生の顔は、依然に厳しい。

 メアリはいません。わたしは泣く。わたしはひとりです(お薬ください)。メアリはわたしの想像です(お薬ください)。メアリは消えました(お薬ください)。メアリは戻ってきません──存在しません、メアリは二度と出てきません(お薬ください)。

 太った看護婦さんにベロを出し、上げて裏も見せる。はい、大丈夫。わたしは頷く。はい、大丈夫。白いちっちゃなお薬は、お水と一緒にお腹に収まる。

 わたしは訊ねる。ドリス叔母さん、来てくれました?

 看護婦さんは首を振る。どうかしら。先生に訊いてね。おやすみなさい。

 おやすみなさい。

 ふと、目が覚める真夜中。窓の格子が部屋に影。この部屋は安全。鍵がきっちり締まってる。この部屋は安心。頑丈で、わたしにも開けられない。

 ああ、それにしても。

 なんでこんなに、お腹が重たいのだろう。大きいのだろう。ボヤいただけで、内側からぐいと蹴られた。蹴りつけられた。


 了


1911-2002, 30.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ