表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5(蝶の時間)

 毛むくじゃらの手が、わたしをなぶる。カッカと火照ったわたしの身体。毛むくじゃらの手が気ままにまさぐる。

 はっはっはっは。息が荒い。

 はーっ、はっはっ。息がにおう。

 サナギが揺れる。背が割れる。蝶が殻から抜け出そうとしている。

 さあ──(はっはっ、はーっ)。

 ちからいっぱい、突き飛ばす。机にゴツンと頭にぶつける。カップが落ちて、ガチャンと割れる。ソーサーが飛んでで、パリンと割れる。

 頭を打った先生は、ごろりと床に転がった。

 毛むくじゃらの太った身体。咽喉の奥から呻き声。わたしは狙って顔を蹴る。ボリッと砕ける鼻の骨。ぶわっと飛び散る血の滴。

 はー、はー、はー。虫の息。

 ふー、ふー、ふー。獣の息。

 わたしは虫かごを手に取って、大きな身体を踏んづける。大きな身体がぶよっと揺れる。生物室を飛び出して──ピンストライプのダニーとぶつかる。

 探してたの?

『ああ、探してたさ』

 鬼の子ダニーの顔に笑み。口元に、尖った牙がにょきっと光る。

 ダニーは、わたしの肩に手を置いて、『よくもコケにしてくれたな』

 まさかまさか。否定する。どうしてそんな悪女(ワル)みたいな?

 指がぐいと肩に食い込む。

『恥の上塗りだ』

 あんたに塗るほど(痛い、痛い)、恥はお安くないものよ?

 わたしは(シャ)ッと振り払う。(ダン)ッとダニーが突き飛ばす。わたしは脱兎(ダッと)と駆け出して。

 ボニーを探して体育館。向かう途中に呻き声。茂みの奥が震えてる。

 ダニーが覆いかぶさって、自分のベルトのバックル相手に奮闘中。片手でボニーの口を押さえ、片手でズボンを下ろすのは大変そう。

 掴んだ石で、ダニーの頭を殴りつける。ごつん。ぐちゃ。崩れたダニーの下から、ボニーが這い出す。ドレスの肩が大きく落ちてる。ダニーが呻く。石を振り下ろす。ぐちゃ。ボニーの目が大きくなる。早くおっぱい隠しなさい。ぐちゃ。みっともない。ぐちゃ。それともお邪魔だったのかしら。ぐちゃ。

 血まみれダニーはうつぶせで、満月みたいなお尻を突き出して。間抜けもいいとこ、すてきなとこ。脱げかけズボンを引っ張って。だめだ、重いや、このデクは。わたしは足で、足を払う。鬼の子ダニーが仰向けに。行き掛けの駄賃よ、受け取りなさい。剝き出しの男の子目掛け、足を振り下ろす──えいっ。

 ぐちゃ。

 ああ、やだやだ。男の子、潰しちゃった。潰れちゃった。

 でもこれで。鬼の子ダニーは半端者。鬼の子ダニーはただのダニー。

 ねぇ、ボニー。どこよ、どこに行ったの?

 ねぇ、ボニー。ひとりで帰れたかしら?

 わたしは暗い家の中。テーブルの上に虫かごを置く。さぁ始まるよ、蝶の時間。サナギの羽化をご覧あれ。呼び鈴鳴って、ボニーのご帰還。ブランケットに包まれ、保安官の付き添いで。車のライトが、あっちこっち。遠巻きに学校のみんな。

『ダンスパーティは?』

 今夜はサナギが羽化するんです。

 保安官が眉をひそめる。わたしはプラスチックの虫かごを見せ、補足する。

 観察したくて。ねぇ、ボニー?

 腕に触れて、わたしは訊ねる。大丈夫?

 ボニーは、顔を上げ、口を開きかける。触れた指でぎゅっとつねる。ボニーの口は閉じられる。

 保安官が言う。『ホーマー先生が怪我をした』

 まぁ大変!(なんだ、生きてるのか)

 ところで、ボニーを早くお風呂に入れてあげたいの。ほら、こんなに汚れて……かわいそうに。どこか痛くない? ひどいことされたの? ねぇ、保安官、ボニーは誰かに……乱暴されたの?

 保安官、答えに窮して渋い顔。

 ねぇ、保安官。ひどくデリケートでプライベートな部分に触れてるのを思い出して。

 ()()()()()()()

『この家に、入らせてもらうよ』

 ダメです、お断りです、保安官。お引き取り下さい、保安官。

『いや、ダメだ』

 ダメは承知よ、保安官。でも今は、お引き取り下さい、保安官。

 ()()()()()()()

『必ず、入るぞ』

 ええ、いずれ。まだなにか、保安官?

 ダニーはどうした?

 さあ。どうして? 用がなければ、早くお風呂に入りたいのですが。

 彼といっしょだったろう?

 ええ、とわたし。『賭けで誘われました』

 保安官の眉が上がる。

『バカみたい。そそのかされて』肩を竦め、『舞い上がって』ここで涙。『本当に、バカ』

 そして幕が下りる。観衆を締め出し、蝶の時間が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ