4(観察する)
寝室の窓から外を見て、ママに報告、行ってきます。ママはベッドの上でいつもの通り。
髪を梳かした。ルージュも引いた。糸くずを取って、ドレスも皴を伸ばした。呼び鈴鳴った。背筋を伸ばした。
よし、行くよ。
お出迎え。鬼の子ダニーはピンストライプ、チャコールグレーのズートスーツ。なんなの、もう。とっても似合って、なんだか悔しい。
ボニーはやっぱり気後れしてる。ここで負けるな、うすのろボニー。なんとか言いなよ、伊達男。
『似合ってる』
鬼の子ダニーが柔らかに、白い歯を見せコサージュボックス。胸の上につけようとしたので、手を上げ阻止する、そこはダメ。ダニーは察して、手首に通す。よしよし。そうよ、よくできました。
エスコートされて、銀色の車。小さな灯り、いっぱい拾ってピカピカと。流星みたいに輝いて。夜道を開いて飛んで行く。
さよなら、昨日までのわたし。こんばんは、今夜の女王。ご機嫌いかが、マイ・マジェスティック、健やかなるユア・マジェスティック。
イエス・マイ・舞い・道路、御世永久に!
体育館はダンスフロア。鬼の子&うすのろご到着!
ひらひら揺れるクレープ紙の花、ざわざわ着飾る生徒で膨らむ。お目付け役は、教頭先生:ミズ・レモンリップ。鋭い目付きで睨んでる。ざーんねん。じゃあね。ご苦労さま。
『なんだって?』
鬼の子ダニーが問い詰める。
『ドレス、着てみたかっただけなの』
なんてこったと目玉をぐるり。鬼の子ダニーは呆れ顔。
ごきげんよう。
蝶のように手首をひらひら。ちっともぜんぜん乗ってこない。
なんだよ、あいつ。ウソでも無理でも強引に、一曲くらいは誘いなさいな。
まぁいいや。
わたしなら生物室にいるから。気が変わったらいつでもどうぞ、お馬鹿さん。
『プリンセスはおしのびかな?』
ホーマー先生、にっこりお迎え。わたしの手首に目を遣って、『きれいなコサージュだ』
ありがとう、先生。
わたしもにっこり。
『ダンスはいいのかい?』
あっちはあっちで、好きにするでしょう。
『一杯、付き合うかい?』
はい、先生。
わたしは虫かごを前にしゃがむ。プラスチックに映ったミスター・ホーマーが、スキットルの中身を二つのカップに注ぐのを見る。自分のカップと、わたしのカップ。
『さぁ、飲みなさい』カップをソーサーに乗せ、『温かいうちに』手渡して。
ありがとう、ホーマー先生。
わたしは両手でカップを持って、ふうふう冷まして、ぐいと飲む。先生がジッと見てる。ごくりと飲む。先生もぐいと飲む。
ねぇ、先生。
『どうかしたかな』
なんだか、熱いです。
『そうかな』
ええ、先生。わたしはお茶をぐいと飲む。ええ、先生。わたしはお茶をごくりと飲む。熱いです──とても。
『ほら、そろそろ羽化しそうだよ』
ええ、そうみたい。
『よく見て』
先生は、わたしの手からカップとソーサーを取り上げ、テーブルの上にかちゃりと置いた。
『ほら、よく観察するんだ』
先生、熱いですね。この部屋。
『大丈夫──ほら、サナギが羽化する』
頬の直ぐそばに先生が顔を寄せてきた。強いお髭がチクチクする距離。
『さあ』
さあ、さあ、さあ。
毛むくじゃらの手が肩に触れて、毛むくじゃらの手が腰に回され、毛むくじゃらの手が、ドレスの上から足を撫でる。
さあ、さあ、さあ──。




