3(虫かご)
鬼の子ダニーをやっつけて、ホットチョコレートで乾杯。ホット・ホット・ホット。チョコレート。ホットチョコレート・ホット。ざまあみさらせ、乾杯!
ねぇ、メアリ。ありがとう。
ボニーが素直。なのに、でも、と難癖つける。
ねぇ、メアリ。汚い言葉を使うと、自分も汚くなってしまうの。
わたしはボニーをひっぱたく。ごめんなさいと、ボニーは半べそ。
ねえ、ママ。ほんとにあの子、どうすりゃいい?
ママの看病。手を取れば、手が取れた。電話が鳴って、放り出す。どちらさま?
ドリス叔母さんはママの妹で、遠くに住んでる素敵な叔母さん。
『もうすぐお誕生日よね?』
そうだっけ?
『カード、送ったから』
ありがとう、ドリス叔母さん。
『そっちは変わりない?』
いつもどおりよ、ドリス叔母さん。
『アニーに代わってもらえる?』
ちょっと無理みたい。
『そう──なら、あなたからママによろしくって伝えて貰える?』
よござんすよ。
ドリス叔母さんは、笑いながら電話を切る。静寂。切り取られた我が家。マイホーム・ホーム・マイ・スイート・ホームルーム。
ホットチョコレート、すっかり冷えてるカップの中。
変なの。
なんでカチコチにならないの?
ダニーが男を見せたって学校でウワサ。そうさ、えっへん、改心させたさ。なんと、えっへん、わたしがやったさ。
そしてびっくり、ダンスに誘う。誘われる。
学校の、廊下で起きた大椿事!
なのにボニーは浮かない顔で。
わたしはトイレでひっぱたく。トイレでお尻をひっぱたく。金星って言うんだ、少しは浮かれろ。でもでもだってのボニーにうんざり。
『ダンスに誘われたって?』
ホーマー先生、耳が早い。
ええ、そうです。
『楽しむと良いよ』
はい、そのつもりです。
『わたしは、その夜、ここでサナギの観察をしているよ』
ホーマー先生はサナギの虫かごに触れて、『きっと羽化する』
そう、きっと。
羽化する。
うすのろボニーがまたぐずる。今度は何さとひっぱたく。だってだってと、涙声。『ドレス、どんながいいのかな』
知るもんか。ダニーはきっと見ちゃいない。でもまぁやっぱり、気になるか。
ダンス・ダンス・ダンスパーティ。
五月祭の女王さま。
メイ・メイポール・メイクイーン。
祭の女王、誰になる? どんな夢の夜になるの?
知ったことか、何もかも。誰より先に脱皮しろ。大旗掲げてひるがえせ。月に向かって吼え散らかせ。鯨波を上げて迎え討て。破れかぶれだ、キニスルナ。
そうじゃなくてとボニーが涙目。『着ていくドレス、無いのよ』
なんてこった、怠った。浮かれてすっかり忘れてた。
『お金ないよね。贅沢だよね』
ボニーはすっかり意気消沈。始まる前から負け戦。
ダンスパーティ、やっぱり行けない。
なにさ、まったく気の早い。ちっとは女を見せなさい。
わたしは家を見回して。あれだあれだと、ひらめいた。
ボニーは首を横に振る。『ダメよ。きっと怒られる』
どうして誰に怒られる?
『分からない、でもダメよ』
まったくいったい、なんてこと。ダメは、あんたよ。あんたなの。鬼の子退治の心意気、いったいどこに落としたのやら。お尻、ぶつよ? 何度でも。もっと強く痛く、もっと激しく。
椅子に昇って、カーテンを外し、お洗濯。
たっぷりの生地・ひらひらのレース。これでダメなら、なんだってダメさ。
お裁縫箱から裁ち鋏。
さぁて、さてさて、腕まくり。一世一代のお縫製。誰もが唸る一着を、ここでひとつ、作ってやろうじゃないの。
綺麗に可憐にセクシーに。せっかくなら大胆に。それこそまさに、羽化の時。
仮縫いを姿見に映して。
『大胆すぎない?』
そんなことないさ。
けっこういいよ、素敵だよ。
わたし、とっても素敵だよ。
おっけー☆
祭の夜は朔月の夜。銀色の車に乗って、鬼の子ダニーがやって来た。




