自称宇宙人の電波美女にプロポーズされたっ!?
冬休みも終わろうかというある日のこと。
高校生の穂高晟は特にすることも無く、火燵でだらだらと家で過ごしていた。
冬休みも終わるし、どこか遊びに行こうか……と考えつつも、火燵から出る気にならないでいた。
すると――――
「よう、アキラ。暇なら、お兄ちゃんが遊んでやろう。なにをする? ゲームか? 人生ゲーム、カードゲーム、新作の対戦ゲームもあるぞ? なんなら、正月らしくカルタでもいいぜ♪」
大学生の兄、夕立がトランプやボードゲーム、携帯ゲーム機を抱えながら、微妙にウザいテンションでにこにこと晟に絡んで来た。
「・・・パス」
「な、なぜだっ!? アキラっ!? お兄ちゃんが遊んであげるんだぞっ!?」
「ぇ~・・・別に嬉しくない」
両親は仕事で、家には二人。
「な、んだとっ! アキラはいつからお兄ちゃんに冷たくなったんだ? ハっ!? これが世に言う反抗期というやつかっ!? お兄ちゃん、寂しい……」
ゲーム類を床に置き、よよよと泣き崩れる真似をする夕立。
「・・・酔ってンの?」
醒めた瞳の晟に、
「フッ、なにを言うんだ? アキラはお兄ちゃんの年齢を忘れたのか? この、うっかりさんめ☆お兄ちゃんはな、まだ未成年なのでお酒は飲めません! そして、飲みません! 未成年の飲酒は、健康に多大な悪影響を及ぼすからな! このお兄ちゃんを信じなさい!」
夕立はどや顔で胸を張る。
「や、甘酒飲んで酔ってンのかと。兄貴、アルコール弱かったよなぁって」
「確かに、初詣では甘酒を飲んで毎年酔っ払っている。しかーしっ、お兄ちゃんは今は素面なのだ!」
「ふぅん・・・」
「もう、相変わらずアキラはノリが悪いな? お兄ちゃんは寂しいぞ☆」
「・・・で、なんなの?」
「実は、な……羨ましくも妬ましいことに、友達がみんな彼女持ちでっ、誰も予定が空いてないんだ! だから・・・お兄ちゃんに構ってください!」
「断る」
「クッ……一片の迷いなく断るとは、さすがアキラと言ったところか……手強いぜ。しかーし、お兄ちゃんは諦めないからな! アキラに予定が無くて暇だということは、惰眠を貪り怠惰に過ごす姿でわかっているんだ! というワケで、お兄ちゃんと暇を潰そうぜ! さあ、なにして遊ぶっ?」
「・・・ぁ~、今ちょー忙しいから無理」
「いやいや、アキラ? 朝っぱらからこたつでだらだらしているの、お兄ちゃんは知ってるんだぞ☆」
「ごろごろだらだらするので忙しい」
「クッ……アキラは、お兄ちゃんと遊ぶよりも、ごろごろだらだらしている方がいいと言うのかっ!?」
「もち」
勿論と晟が言い切る前に、
「え? あ、餅が食べたいって? よかろう! お兄ちゃんが焼いてあげよう! 磯部、きな粉、チーズ、砂糖醤油、明太、好きな物を言え!」
夕立が晟を遮る。
「・・・必死だな? 兄貴」
「構ってほしいからな☆」
晟の皮肉にも、笑顔でウィンクと共に返す夕立の図太さ。
「ふぅん・・・」
兄の夕立は長い休みに入ると、数日毎に晟をやたら構い倒そうとする。なぜか、晟が出掛けようかと考え始めるタイミングで。
これは、何年前から始まっただろうか・・・
「なんだ? 餅は要らないのか? なら、冬休みの宿題はどうなんだ? あるんだろう? よければ、お兄ちゃんに宿題を教えさせてくれ」
「そこは普通、教えてやろうなんじゃないの?」
「そんな上から目線で言ったら、アキラは絶対に断るじゃないか!」
「まぁ、そうだね」
「というワケで、諦めて今すぐにお兄ちゃんに構いなさい!」
「ぇ~・・・めんどい」
「そんなこと言って、後で困るのはアキラの方なんだぞ? 遊び倒し、怠惰に過ごした休み明けの、全く手を付けていない宿題の山を見たときの虚しさと絶望と言ったらっ・・・お兄ちゃんはな、アキラにそんな惨めな思いをしてほしくないんだ!」
「や、宿題はもう終わってるから」
「へ? ・・・なんてことだ! 宿題を終わらせていたとはっ……アキラはいつからそんな優等生になったんだっ!? お兄ちゃん、知らなかったぞ」
そんな風に話しているときだった。ピンポーン、と玄関の呼び鈴が鳴った。
「うん? 誰か来たな。お兄ちゃん出て来るわ」
「行ってらー」
と、晟が火燵で夕立を見送ると、玄関で騒がしい気配がし、ドタン! と大きな物音がした。
「? 兄貴ー? どうし……っ!?」
気になった晟が玄関へ向かうと、
「……アナタのこと、好き。愛してる。だから、結婚して? 子供、ほしい」
熱っぽく告白する白無垢姿の褐色美女に、兄の夕立が押し倒されてキスをされていた。そして、段々と濃厚になって行く口付け。
「・・・ゎお」
と、一瞬思考が飛んだ晟だったが、
「・・・ぁ~、兄貴。数時間くらい、外出てるわ。準備するから、とりあえず待ってて」
ふいと目を逸らし、
「あと、玄関閉めなよ」
出掛ける準備をしようと玄関から踵を返そうとした、ら……
「ま、待ってくれアキラっ!? これは誤解だっ!?」
夕立が必死の顔で晟を呼び止める。
「や、彼女いるなら彼女と過ごせば?」
呆れ顔で言うと、
「? アキ、ラ?」
白無垢姿の褐色美女がきょとんとした顔で夕立を指し、聞いた。
「いや、俺は夕立だが・・・」
「・・・間違えたっ! ワタシ、結婚したいの、アキラの方! ごめんなさいネ!」
エヘっと笑った彼女が夕立の上から退き、
「アキラ! 愛してる!」
晟へ向かって足を踏み出そうとし、
「土足禁止!」
晟に怒鳴られて草鞋を脱ぐ。
「了解ネ」
「え? いや、気にするのそこ? アキラ?」
「・・・あのな、兄貴。ドッキリにしても、随分と趣味が悪いぞ?」
「いやいやいやっ、ドッキリとかじゃなくて! って言うか、俺この人全く知らないから!」
「は?」
「アキラっ♥ 子供作るから結婚して!」
草鞋を脱いで家へ上がり、バッ! と晟へ飛び付く白無垢褐色美女。
「はあっ!?」
「って言うか、ちょっと待て! そこの頭おかしい女! 晟は女の子だからっ!?」
「? ・・・オンナ、ノコ? アキラが?」
「いや、見てわかんじゃん」
穂高晟の性別は、正真正銘女だ。パッと見で判らない程、中性的な容姿はしていない。
「・・・アキラという名前、男の方が多いと?」
「最近じゃ、女でもアキラは少なくないよ」
「ぉ~ぅ・・・近年の統計はデータが少ないネ。う~ん・・・失敗しちゃった☆」
テヘっと笑う褐色美女。
「でもワタシ、アキラのこと好き♥結婚して?」
「待ていっ!! いきなり俺にディープキスぶちかましたクセになにを言い出すっ!? というか、誰だアンタは? なぜ白無垢姿なんだ? いや、そんなことより、いい加減アキラから離れてさっさと出て行かないと、警察を呼ぶぞ」
「ケーサツ? ぁ~、確か、治安維持組織のこと。呼ばれると、ちょっと困るネ」
白無垢褐色美女は、不満顔で晟から一歩離れる。
「なんだ、本当にドッキリじゃないの? 兄貴」
「断じて違うっ!!」
「じゃあ、兄貴の彼女が電波な外人さんとか?」
「それも違うっ!! その頭おかしい女は、全く見ず知らずの赤の他人だ!」
「ふぅん・・・」
「アキラ、ワタシのこと、覚えてない?」
ふ、と悲しげな表情でアキラの顔を覗き込む美女。その瞳は、黒みがかっているのに青や緑の混ざった複雑な色の光彩で・・・
「は?」
「・・・アキラの知り合い、なのか?」
夕立が思案するように晟へ顔を向ける。
「いや、全く初対面の外人さんだけど」
「ヒドいっ・・・ワタシのこと忘れるなんて!」
「や、忘れるもなにも、アンタさっき、あたしと兄貴を思っきし間違えたよね?」
晟の冷静なツッコミに、
「・・・アレはその……間違えちゃった☆ワタシ、実はとってもうっかりさんネ」
テヘっと笑った彼女が口を開く。
「あれはそう・・・今から六年と約五ヶ月前のことだったネ。昔から旅行が趣味だった【私】は、旅行先の環境に合わせて原生生物のアバターを作成して、精神をリンクさせ、現地を体験することが好きだった。そして銀河系を通りがかったとき、この青い星を見付けて降り立った。けれど【私】は、そこで重大なミスを犯して・・・作成する原生生物のアバター素体を、別の星用の素体と間違えたネ☆」
「「は?」」
ぽかんとする兄妹二人に構わず、続けられる話。
「真夏の暑い日。森の中で粘性生物の身体が乾涸びようとしていて、【私】本体との精神リンクが切られた【端末としてのワタシ】は、後は死を待つだけの状態だった。そのとき……」
と、彼女は、優しい瞳で晟を見詰める。
「地球人の子供が、赤い体液を頭から流してるところに遭遇したネ」
「・・・六年前の夏休み、森の中・・・」
そのキーワードに、晟と夕立は絶句する。
「YES♪ワタシは、ぐったりした地球人の子供の、その赤い体液を啜ることで生き延びたネ! だから、そのご恩身体で返します♥」
「ちょっと待て! どういうことだ? なにを言っている? 意味がわからん!」
絶句から立ち直った夕立が、白無垢姿の褐色美女へ不審な眼差しを向ける。若干、可哀想なモノを見るような感情が混ざりつつ。
「ぁ~・・・この星、辺境で文明の発達が遅れ気味。宇宙、知ってる? 惑星の外の空間。ワタシ、ここの銀河系よりも外の宇宙から来たネ」
「宇宙くらい知っとるわ!」
「なら、話早いネ♪ワタシ、この星の風習を尊重するつもり。だから、受精卵を宿した女性体は、受精卵の遺伝子上の親である人間と婚姻という契約形体を結ぶと、扶養義務が生じるネ。拠って、子供を作るから結婚してください♥」
「色々滅茶苦茶だな! 自称宇宙人! 最近あれだが、基本は妊娠より結婚する方が先だからな!」
「そうなの?」
「そうだ! あと、言っておくが、同性同士では子供はできないぞ」
「・・・マジで?」
「常識だ」
「・・・遺伝子情報を取り込んで、受精卵を作れば大丈夫では?」
「法律と倫理的にアウトだな」
「法律と倫理・・・」
「ちなみに、戸籍が無いと結婚もできん」
「コセキ……確か、個人の識別データのこと」
「つか、なぜに外人の姿で白無垢よ? しかも、スライムが人型になるとか、どういう設定だ」
「この格好は、この国の伝統婚姻衣装なのでは? 外人……というのは、民族性の違い? 地球人の平均的な女性体を参考にしたネ」
「地球人の平均的女性? アジア系人種が一番多いから、その辺りとか言うつもりか?」
「多分、そんな感じネ。ちなみに、タンパク質をたっくさん摂取して、体組成分の再構築頑張ったネ」
夕立と美女との言い争い? を聞きながら晟は、ぼんやりと思い出す。
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――――あれは、六年前の夏休みのこと。
当時十歳だった晟は、二つ年上の兄夕立と一緒に近所の森へ遊びに行った。
けれど、夕立は森の中で友人と出会い、晟を置いて別の場所へ遊びに行ってしまった。
一人置いていかれた晟は存外平気で、森の中を楽しんでいた。
そして確か、晟は木に登った覚えがある。けれど、それからの記憶が無い。
気が付けば晟は病院で寝ていて、数日が経っていた。しかも、起き上がれない程の酷い貧血状態で。
後で聞いた話に拠ると、夜遅くなっても帰って来ない晟を心配した家族が森で晟を捜索すると、倒れている晟を発見。外傷は見られなかったが、晟の意識は無く、慌てて救急車を呼んだそうだ。
そして、晟は意識不明のまま数日後に病院で目を覚ます。謎の酷い貧血症状と共に。
一週間程入院し、貧血以外特に問題無しと検査結果が出て退院した。
それ以来、兄の夕立は長い休みに入ると、数日毎に晟に構い倒すようになった。
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「なんかもう、色々ツッコミどころ満載なんだけどさ。結局、どういうこと?」
「アキラの赤い体液が美味しかったので、ワタシを養ってください♥」
「自称宇宙人なんかにアキラは絶対やらん!」
「大丈夫♪貰われるのワタシの方ネ」
「お前なんか要らんわ! 出てけっ!!」
「アキラっ、ユーダチが意地悪する!」
「アキラから離れろ! この自称宇宙人め!」
「・・・なんだこの状況・・・」
読んでくださり、ありがとうございました。
投げっ放しで終わりました。
そしてどうでもいい裏設定ですが、晟の血液型はB型のRHマイナス。夕立も同じで、兄妹揃って珍しい血液型です。