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敗北令嬢は自由を手にする(3)

 張り手を受けて赤い秋の葉を顔に付けた竜神とシエルサは向き合っていた。それも正座で。投げ飛ばされた毛布は今、シエルサをくるみ暖めている。


「……というわけだ」


 そんな状況で何をしていたのかというと、誓約(ゲッシュ)を交わした本当の理由を説明していたのだ。結果、誓約は魔法の構成で言えばシエルサが受けている紋様とほとんど同じだった。

 どちらも人間や動物、ひいては植物に存在する魔力回路に直接『核』を埋め込まれるため、契約に違反しようとした場合、罰を受けることはなく強制的に契約を履行することになる。もちろん、契約に違反しようとしたことは契約者に知られることになる。


 魔法の構成、つまるところ本質というのは核によって異なる。コアとも呼ばれるそれは、もっと単純に言い換えると魔法式そのものだ。

 核を体に埋め込むと言うものの、実際は魔力回路に魔法式を刻み込み、穴を開けるといった表現が正しい。魔力回路の中の魔力溜まりとされるひときわ広いところに穴をあけて、そこから他人の魔力を流し込み汚染する。魔力溜まりは心臓のすぐ上、丹田が代表的だ。

 そのために、そもそも魔力が低い人に穴を開けるときには相応の負荷がかかる。


「だからといって私の体を使って実験などするのは辞めてほしいのだけど」

「理解した。もうする必要がないな」


 これから学院で生活するのに男言葉はまずいと、令嬢らしく振る舞いながら話した。それを「別にいいんじゃないのか」の一言で切り捨てたルゼルに、イラつきが隠せない。


 ひとまず、そんな男の結局の目的というのはシエルサに魔力を流し込んだ場合に耐えられるのかというものだった。


「まあ、そんなものを体に入れているのなら器として完成しているのも納得がいく」

「……皮肉なことに、これがないとサリュメインの人間としてもシエルサとしても成り立たないのよ」


 胸元の紋様は既に両肩に届きそうな大きさだ。紋様の大きさはそのまま核の大きさ、ひいては支配力の強さを意味する。

 それを見ながらルゼルは正座を崩した。


「誓約を結んだことで、ひとまずその縛りからは自由になる。あの程度の小物に俺が負けるはずがないからな」

「……それなら、いいけれど」


 紋様を見ながらシエルサは複雑な気持ちを隠せずにいる。

 契約を交わした2人のことは契約者と呼ばれるが、正しくは『主契約者』と『従契約者』に区別される。

 シエルサの場合、父ソレイユとの契約では従契約者となり、ルゼルとの誓約では主契約者となる。

 従契約者でありながら主契約者となったことは本来ならすぐさまソレイユに伝えられるが、ソレイユよりもルゼルの方が力が強いために知られることはない。また、シエルサが主契約者の時はソレイユがルゼルより力が強くても知られることはない。

 つまるところ、主従の関係は例外を除き、絶対のものなのである。


「ひとつ聞かせてほしいことがあるわ」

「なんだ? まさかこの誓約をなかったことにでもして欲しいのか?」

「いえ、そんなことではなくて……」


 ルゼルの前で見せる威勢のいい態度でも、人形のような態度でもなく。なんだかもじもじと恥じらいながらシエルサは竜神の瞳を見る。


「その、誓約を交わした相手に感情が流れることは……ある、のかしら?」


 いの一番に聞くことがそれなのか、と呆気に取られる。

 竜神である自分のことなんぞどうでもいいのだろうか。そうげんなりしていることにシエルサは気づかない。


「俺がまだ信用出来ないのは分かる。だが、今回の誓約にそんな内容はないから心配するな。気にしすぎると本当に成るかもしれないぞ」

「なら気にしないわ」


 シエルサはすぐに切り替えた。それから誓約についての知識を一通り聞き出したあと、唐突に口を開いた。


「命令をしてもいい?」

「……何をする気だ」

「誰にも気づかれないようにソレイユ・サリュメインの1週間分のスケジュールを把握してほしいの。場所や時間だけでなくお付きの人が誰なのかまで。それとサリュメイン公爵家の金の動きも探って欲しいわ」


「焦らずじっくりと待つことが、料理には必要な時もあるそうよ」とシエルサは言う。その目には決意が。手にはどこから出したのか、ナイフが。口には笑みが。清らかな令嬢の皮をかぶりながら、シエルサは着実にソレイユを陥れようとしている。

 そしてルゼルはそれに文句一つ言わなかった。シエルサの望みの果てまで付き添うと決意し、ほかの全てを滅ぼしてでも己の娯楽を1番に考える。


 ──だから、止めるものはいない。


「とうとう始めようと思うんです。この紋様も首輪みたいで嫌ですし」


 シエルサはやはり紋様に手を当てながら、そう口にした。令嬢としての美しい顔で、存分に成長した花を刈りとろうとしている。


「ああ、そうするといい。邪魔なものは全て俺が消してやる」

「さあ、楽しい復讐をはじめましょうか」


 知ってしまったのなら、もう戻れないのだから。

面白いなー、よさそうだなー、続きみたいなー、と思う方はぜひ! ぜひとも評価、ブクマ、感想、レビューを!! やる気出るので〜〜!! 感想くるとあ、読んでくれてるっ! すきっ! と思えるのでぜひともっ!



過去作は↓↓↓↓↓↓

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ、シエルサが、第一の復讐に向けて、行動開始! ソレイユがどんな末路を迎えるか、楽しみにしています(できれば、ソレイユがこの作品から永久退場するくらいのものを!)。 [気になる点] …
2020/01/08 08:05 桂木 瑠奈
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