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敗北令嬢は自由を手にする

前回からしばらく時間が経ってしまいました……。エタらせないのでそこだけはご安心を! 半年位で完結できるよう頑張ります!!

 懐かしい香りの中で、シエルサの意識はゆっくりと浮上していった。花の甘い香りだ。目をしばしばと瞬かせながら、シエルサはゆっくりと起き上がる。


 目に見える景色は、あまりいい思い出がない。ベッド、机、椅子、窓、扉、バルコニー。その程度だ。対外的なシエルサの部屋はまた別にあるので、必要最低限しかここに置かれない。食事はその時々の指示に従う。

 シエルサはベッドから降りて、窓から外の景色を見た。

 遠くに落ちる夕焼け。

 ……それだけだ。


「失礼します。当主様がお呼びです」


 扉を開けて入ってきたメイドは、シエルサに一言告げると、要件だけ口にして外へ出ていった。愛想のない彼女は、メイドの中でも特殊な位置にいる。常に父である当主の傍に仕えていて、シエルサになにかあればすぐさまそれは伝えられるだろう。世襲制らしく、地位とともに名前も継いでいるらしい。


「……着替えてすぐに行くわ」


 ドアの向こうへ消えた人影に声をかけて、シエルサはふぅと息を吐いた。


 シエルサは東の塔の最上階で暮らしている。それはサリュメイン公爵家の本邸別館『青玉館』へと続いており、そこから中枢館を経てようやくサリュメイン公爵が暮らす中央館へとたどり着く。

 おそらく今日は執務室へ呼ばれるのだろう。執務室は中枢館の3階でサリュメイン公爵は基本、この部屋にこもっている。


 今から出たとしても着く頃には日は沈んでいるだろう。それほどサリュメイン公爵家は広い。またしてもため息をつきながら、シエルサは階段を下りて青玉館にあるもうひとつの自室へと向かった。

 扉を開ければ先程のしんみりとした殺風景な部屋とは変わり、淡い色で統一されている。いかにも高位令嬢の部屋といった風だ。ここにシエルサの好みは反映されていないが。


 続き部屋となっている隣の部屋は衣装部屋だ。扉を開ければ壁を埋め尽くすようにドレスが並び、今はその中心に1人のメイドがいた。傍らにはドレスが1着用意されている。


「蒼……か」

「何か問題でも?」

「いえ、別に」


 用意されていたドレスは、あの竜の瞳を思い出すような蒼。体型が分かるようなマーメイドドレスは上から下へ色が淡くなっていく。

 ほとんどコルセットに苦しめられることなく着替えると、今度は青い宝石のついた銀細工のネックレスをかけられた。


(なにか、あるのかしら)


 問う暇もなく、部屋を追い出されるようにして外へ出る。これで終わりということらしい。もう少し親切にしてくれてもバチは当たらないと思うのに。

 足音を鳴らしながら、シエルサは呼び出された場所へと足を進めた。



 ≪≪≪≪≪



「お待たせ致しまして申し訳ございません」


 頭を下げながらそう告げる。その瞳からは感情が感じられない。目の前にいる男に相対するのに、感情は必要ないからだ。

 長い金糸の髪と翠色の瞳。それは社交界の華と謳われたシエルサの亡き祖母から受け継いだものだ。皺はあるが美しい顔立ちで、未だに老若男女からの人気を誇っている。それがシエルサの父であるソレイユ・サリュメイン公爵。


「来週だ」


 その言葉でシエルサはようやくここに呼ばれた理由を思い出した。シエルサが王都のアルヴェオラ学院へ向かうのが1週間後なのだ。


(そうだ……どうしてこんなことを忘れてたのだろう)


 シエルサは実の父の次の言葉を覚えている。


(必ずや──)

「必ずや妃の位を射止めてこい。そのためなら多少の犠牲を払っても構わぬ」


 シエルサに1度も目をくれず、ソレイユはそう告げた。


「……かしこまりました」


「忘れるな。そのために、その紋様があるのだから」


 その言葉を最後に、シエルサは執務室から締め出された。

 ソレイユの言う紋様は鎖骨の下にある。今のシエルサがいるのは良くも悪くもこの紋様があってこそと言っていい。

 窓際でそっと鎖骨に触れて、シエルサは唇を噛んだ。その紋様ははるか昔に使われていた奴隷紋の1つを復元したものだ。内容は視界と魔力の流れの把握。本来なら五感全てを把握することが出来るため、奴隷にはプライベートというものは存在しなかった。シエルサにそれが使われていないのは、ソレイユの魔力が紋様を満たすのに足りない──貴族としては多い部類に入るのにも関わらず──からである。


「わたしは、駒でしかない。この紋様がある限りあの男からは逃れられない」


 吐き捨てるように呟いて、ひとまずシエルサは……部屋へ戻ることにした。

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