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敗北令嬢と彼の儚い時間(4)

前世が長いのは許してください。私も想定外でした。すみません。

「じゃあ基礎から説明を始めようか」


 やっと大人しくなったレオンの兄弟に、シエルは魔法の説明を始める。全員で円になり、シエルを見ていた。


「俺やっぱり抜けてていい?」

「だめ」


 やけにレオンが抜けたがるのが問題だけれど。


「兄ちゃん一緒にやろうよ」


 キュッとロセがレオンの手を握る。それでも、レオンは居心地が悪そうだった。他の兄弟たちもチラチラとレオンを気にしている。


「レオン、どうしてそんなに嫌がるんだ?」

「……うー」

「兄ちゃん学校行ってたじゃん。大丈夫だよ」

「学校?」


 トルの言う学校とはどこのことなのか、シエルに教えてくれたのはアンだった。


「兄ちゃん剣の試合で勝ったから、あの大きな学校に通ってたの」

「ちょっ、アン!」


 アンが指さした建物は王都の中心にある建物だった。シエルサの忘れられない卒業パーティの会場だ。


「……同時期に、騎士学科にいたのか」


 しかしそれならレオンが魔法を使えないのはおかしい。基礎なら教えられるはずだ。そう思ったシエルだったが、不意に食堂でのことを思い出した。


「なるほど。だから、剣なわけだ」

「覚えてやがったな……」


 レオンはきっと魔法が使えても、教師の説明が分からなかったのだろう。あの場所は、平民には厳しいところだ。シエルサも相当努力してあの地位についていた。


「まぁ、あとはシエルの主がいた場所でもあるしな。だから言わなかったんだよ」


 どうやらシエルに気を使っていたらしい。それも会った直後から。


「結局単位取れなくて危うかったんだが、騎士長の息子が教官に直談判してくれてなんとかなったわけだ」

「……そうか。だからといって逃がさないがな」

「そこは優しくしろよ!」


 納得した顔でサラリと流した言葉を、レオンはさらりと流せなかったようだ。

 ひとまず輪から逃げないだけでもマシだろう。


「嫌になったら、抜けてもいいから」

「……やるよ。シエルの説明はまだ聞いてないからな!」


 改めて、シエルは説明を始める。人に教えるのが初めてで緊張していたが、レオンのおかげでそれもほぐれた。


「まず魔法には属性があるのは知ってるな? 火、水、土、風。この4種類が基本属性と言われる。そして闇、光を希少属性と言い、無属性と合わせて計7つだ」

「それは知ってる! 女神様のお話に出てくるよね!」

「火と風が光の子供で水と土が闇の子供!」

「でも無属性は聞いたことないね」


 神話に出てくる属性に無属性が出てこない理由は未だに解明されていない。もしかしたら誰かは知っているのかもしれないけども。


「じゃあ無属性はどんなことが出来るのか、知ってる人は?」


 全員が首を横に振る。


「無属性魔法はレオンみたいな騎士が使うと相性がいいんだよ」

「俺?」

「なんでー?」

「無属性魔法は強化魔法や付与魔法と言われていて、普段より強い力を使えたりするんだ。農作業にも使えるね」


 感心したように見てくる子供たちの興味を上手く引けたらしい。


「今日はこの無属性魔法を教えるよ」

「俺もできる!? ロセだけじゃなくて俺らもできる??」


 出来ないと言えない空気が出来上がってしまった。「俺、魔法使いになる!」なんて状態だ。


「最近の研究では、生きるもの全てに魔力が流れているみたいだから大丈夫だと思うよ。その度合いは違うかもしれないけどね。というわけでみんな手をつなごうか」

「手? 隣と?」


 手を握ってまだ戦々恐々といった風なのはレオンだけだ。


「魔法が使えるのはロセだよね」

「うん! ちょっとだけね!」


 にぱっと笑うロセには魔力感じられるだろうか? 少し不安になりながら、シエルはゆっくりとロセに魔力を流してみた。


「あれ、なんか暖かい!」

「今魔法が使えるロセから順に魔力を流してるよ。すぐには回らないから絶対に手を離さないでね」


 目をぱちくりさせながらロセはお腹辺りから視線を左手へと向けていく。そしてレオンに魔力が入った。


「んん? なんか右手から熱くなってくな」

「それが魔力だよ。ロセは感知出来てるみたいだね」

「うん……。すごいの。自分の体からすーって兄ちゃんに流れていく感じ」

「さて、今日はこれをしばらく続けます。自分の魔力と手を繋いだ人の魔力を感じるところまで出来たら一旦休憩。ここがしっかり出来たら少し教わるだけで魔法が使えるからね」


 少しずつ魔力が流れてくるのを感じると、相手の魔力も見れるようになったらしい。1番成長が早いのはロセだ。元々魔力が使えたことが大きい。


「待て。待ってくれ。相手の魔力が……」


 なんだかんだいいながらレオンも楽しんでいる。根性はあるし、分かれば楽しいのだろう。


「レオンが出来ないのは年齢もあるけど意識する場所が違うんじゃないかな。向かいのレンの魔力を見ようとしてるでしょ」

「なんで分かる!」

「よくある失敗例だからだよ」

「ぐっ……」


 悔しそうに呻くレオンは、もう弟妹たちが魔力を感知できることに焦りを抱いていた。それでも楽しんでいるようでシエルは安心する。


「レオン。自分の魔力は見れる?」

「見れるぞ! ……もしやそこから辿ればいいのか?」

「そう。あとレオンがなかなか上手く出来ないのは年齢のせいもあるからあんまり気にしなくていいよ。今まで使ってなかった回路がびっくりしてるわけだから」

「……なるほど?」


 太陽が傾いてそろそろオレンジ色になりかける頃、レオンも無事に相手の魔力を感知することが出来た。

 そろそろ帰らないとまずいなとシエルは城の方を見た。


「見たか! 俺もちゃんと魔法使えるんだぞ!」

「いつまで言ってんの兄ちゃん……」


 辺りから芋の匂いがしてくる。鼻をひくひくと動かすと、お腹もぐぅっと鳴いた。


「あ! ご飯作らなくちゃ!!」

「忘れてた!」


 ロセとアンが家の中へかけていく。「シエルも食べていってね!」と言っていたから帰ったらダメだろうと、立たせようとした足を崩した。


「シエル! また来てくれる?」


 後ろからレンが抱きついてくる。座ったままレンを背負う。


「シエル今魔法使った!? なんか動いた!」

「うん、僕は力がないからね」

「じゃあ俺のこと畑の向こうまで運べない?」

「そのくらいなら」


 シエルは立ち上がり、畑の端へ向かう。青々とした葉っぱを踏まないように向こう側へゆっくり歩く。


「おーすげえ! さすが騎士!」

「……ねえ、レン」


 年相応にはしゃぐ少年にシエルは鬱々とした気持ちで声をかけた。なぁに、と聞き返すレンは10歳。あの5人の中では1番年上だ。


「もしレオンがいなくなったらどうする?」

「え……?」


 そんな子供にこの質問は酷だと思いながらもシエルは質問せざるを得なかった。


「5人で生きていける?」

「んー、案外俺ら5人いればなんとかなるかもよ。いつも兄ちゃんいない時もなんとかなってるし!」

「そっか、それならいいんだ」


 気にしないでとシエルはレンを背に乗せて、追いかけてきたレオンたちと鬼ごっこをする。やがて夕飯をご馳走になり、シエルは家を後にしようとした。


「じゃあ、もしまた休み取れたら遊びに来るよ」

「待ってる! 来てね! また!!」

「ご飯また食べてね!!」

「じゃ、お前らちょっとだけ待っててな。送ってくるから」

「いいよ送らなくて。1人で帰れる」

「食後の散歩だ!」


 最後まで騒々しく別れて、夜の街を歩く。これも初めてだなと、そして今日のことを忘れないでいたいと思った。


「なぁ」


 黙って隣を歩いていたレオンは急にシエルの肩を掴んだ。


「俺は……」

「俺は?」


 その目は揺れている。わざわざ遠回りをしてまで人気のないところに来たのは、話があるからという理由しか浮かばない。

 レオンは、おそらくここ数日悩んでいただろうことを口にした。


「お前のことが知りたい。お前と、妃のことを」

面白いな、更新はよ、まだもう少し読んでやるって人がいたらぜひ読んでください。そしてレビュー、感想、ブクマ、評価お願いします。お願いします。

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