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敗北令嬢は自由を手にする(6)

 少し血なまぐさい感じです。

 シエルサが地下へ細工を仕掛けに向かった日から5日。使用人によって目まぐるしく磨かれながら、ルイユの指導をして過ごした。

 結局ルイユは確かに刺繍が下手だったけど、それはセンスがないだけだった。色の使いすぎやそもそもの構図の難しさで下手なように見えていただけのことで、練習を積み重ねて今はそこそこ見れるものになっている。

 それ以外の時間は使用人としてではなく、男爵令嬢ルイユ・フィーとして過ごしている。扱いになれるため、傷んだ肌を少しでも休ませるために。

 また、シエルサと同じように体全体のメンテナンスも行われている。先輩の使用人に太り過ぎだと叱責されていて、筋トレのメニューも追加された。

 そんなこんなで、慌ただしく日々は過ぎた。


 客間でルイユが寝付いた頃、シエルサは父ソレイユと共に馬に乗ってサリュメイン公爵邸の外に出ていた。


「……」

「……」


 シエルサは夜着の上からソレイユの上着を羽織り、ソレイユは仕事着のままだ。互いに言葉を交わさず、森の中のある廃村へと辿り着く。

 そこは前回ではユースクリットの村と呼ばれていた。この村には元々魔法師たちが隠れ住んでいたため、辿り着けるものは少ない。招待されなければ一生森の中で迷うことになる。

 そんなユースクリットの村の跡地に住み着いたのが、ジョジア・ワーロックだ。ジョジアは苗字が示すとおり貴族だが、家は20年前に滅んでいる。没落貴族というやつだ。


「おやぁ、着きましたか!」


 村の中央に1人の男と1人の子供がいる。出迎えたやけに若いその男こそ、ジョジア・ワーロックだ。ごわついた髪の上からハットを被り、胡散臭い笑みを浮かべている。喋り方に独特の癖があり、人を捨てたような異様な存在感がある男だ。

 その瞳の奥はうまく隠した怒りがあることを、シエルサは知っている。フードを被った子供が、やがて同じように紋様を使うことになることも。

 シエルサを抱えて、ソレイユは馬を降りた。


「本日も、ご依頼通りご息女様の紋様の更新でよろしいですねぇ?」

「ああ。余計なことはするなよ」


 一礼してシエルサの手を引き、ジョジアは1番広い館へと向かう。ソレイユは馬を繋ぎに向かった。


「お久しぶりにございます。ご機嫌いかがですか?」

「そこそこ、と言ったところでしょうか。魔法師様こそいかがでしょう。前回話していた特別な何かは出来上がったのでしょうか?」

「ええ、ええ出来上がりましたとも!」


 令嬢としての面を繕うことなく、人形のように話をする。表面上は穏やかに見えるけれど、シエルサの気持ちは荒ぶっていた。


(なんとおぞましいの!)


 それがシエルサの本音だった。人の運命を弄び、人の命を糧として生きてきたジョジアを、シエルサは許容できない。


「ところでぇ……ご息女様」

「なんでしょう?」


 目を合わせず、淡々として見えるよう心がけてシエルサは答えた。


「あなたぁ、随分変わりましたねぇ?」

「変わりましたでしょうか?」

「変わりましたよぉ……。体も健やかになり、御髪も美しい。ただその本質は変わっていないようだ。私は嬉しいですねぇ」


 前回と同じことを言っている。地下へ続く螺旋階段を降りながら、シエルサは思わず腐臭と汚泥の匂いに鼻をつまみたくなる。

 ジョジアは手を離した。諸手を挙げて、ジョジアはシエルサを歓迎し、感激した。


「さぁ! 我が工房へいらっしゃいませご息女様」

「いつもとは随分装いが変わっておりますが……」

「でしょう!? そうでしょう! ああ、あなたなら分かってくれると思っていました!」


 開いた腕を戻して自分の体を抱きしめる。誰かと踊っているかのようにくるくるりと回り、コートの裾がそれに合わせて舞い、そして沈む。

 真ん中にシエルサが横になるための台が置かれ、その周りは入口を除き、全てが檻だった。檻の中にいるのは奴隷の子供たちだ。違法なルートを使って買われたこれから散る命たち。


(それを助けようとしない私もまた、罪人ね)


 もとよりシエルサはこの儀式を利用するためにここにいる。正規の手段で開放されるチャンスを、わざわざのがすことはできない。


「私はねぇ。子供が好きなんですよ。純粋で、美しい」


 後ろからジョジアが近づき、シエルサの耳元で囁く。


「父のことは?」

「彼はパトロンだ。上手く使います」

「……私は、どうなんでしょう?」

「もちろんあなたは別だ! ご息女様、あなたは純粋で、可憐だ」


 シエルサの背中に手を回して、台へと促す。シエルサは台の楕円形に凹んだところへ寝転ぶ。


「私の想像しうる最も美しい存在だ」

「美しい、ですか」

「ええ。だからこそ手に入れたくなるのです」


 ジョジアがそう言って離れたあと、螺旋階段からソレイユが降りてきた。


「では役者が揃ったところで……」


 ソレイユが顔を顰め、ジョジアがニタリと笑う。シエルサはただ天井を見上げていた。


「儀式を始めましょうかぁ」

 今回の話が少し辛かった方は次回を読まないことをおすすめします。結末は13話にも書きますので……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪と悪が喰い合う話良いですね(๑╹ω╹๑)b しかしここから溺愛に展開できるのかはちょっと疑問ですが。主人公さんもアベンジャーだから悪人臭がするものね、竜に愛される価値がこれから生まれ得る…
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