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異世界でアイドルをする話  作者: ウォーター
アイドル始めました
4/4

3.出会った

書くの遅い進むの遅い。

1章終わるのに3年かかりそう

鳥のさえずりが朝を知らせるように、子供達の元気な声もまた、朝を知らせた。


「起きろハヤト!」

「ぐふっ」

腹の上を子供達に踏まれ、布団を引っ張られゴロゴロと転がり壁にぶつかる。なんといういい目覚めの朝なのだろうか。とても爽快な気分だ。

俺が寝ているのは孤児院にある大広間で、ここではほかの子供達も布団を敷いて眠っている。もちろんミュトスさんも一緒に。

ここの孤児院には十五人くらい子供達がいて、それを一人で回しているミュトスさんは本当にすごいと思う。


「クルムお前、少しは優しく起こしてくれよ……」

「やだよ、おれ人間きらいだし」

「ぐふっ!!!!」


きらいだし、と口にしたあと再び腹を踏まれる。こういう時に筋肉があるとダメージが少なくていいな。踏まれたことにより腹筋を感じ、レッスンの成果が出てるなと思った。

…って、いやいや、そういうことじゃない。


そう言えばここの人達はみんな獣耳だな、人間はまだ見たことがない。下等種族とも言っていたか、獣耳が下等種族とか知り合いの獣耳好きが憤怒しそうだな。

とはいえ、この国の歴史をもう少し知る必要がある。俺はこれからここで生きていかなくてはならないのだから。


「あさごはん出来るてるぞ!もうみんなあつまってるからな!」

クルムは耳をひょこひょこさせて食堂の方へ走っていった。

ショタで獣耳でって、属性付与し過ぎだろ!!

あぁ、俺も音楽プレーヤーなんかじゃなくて何か特殊なものを付けてもらえばよかったな。





顔を洗って、歯磨きをして (この世界にはハブラシというのがちゃんとあった)ミュトスさんが用意してくれた服に着替えて食堂に向かった。

昨晩と同じ席について、同じように皆とご飯を食べる。

あっちの世界では一人暮らしだったから、誰かとご飯を食べるのは久々だ。

悪くないな、うん。ちなみに朝ご飯はなんかのクリームとパンだ。質素でいい。


「ハヤトはいつまでここにいるんですか?」

一人の賢そうな少年が聞いた。

「そうだなぁ、しばらくしたら他のところに行ってみようとは思うよ」

俺がそう言うと、ミュトスさんが「ならホロムスカーに行ってみたらいいわよ」と提案した。

ホロムスカーは確か"タクミ"という同じ彷徨い人がいるという話だったな。


「ホロムスカーは彷徨い人に優しい国なの。王様が彷徨い人だって噂だし、他の国だと余所者には厳しいから…。昨日言った彷徨い人の専門家も道中に住んでたはずだから、尋ねて色々お勉強してきなさいな」


「なるほど、ありがとうございます」


「ところで、昨日聞くのを忘れてたんだけれど、ハヤトはどうしてこの世界に来たの?こちらの世界はあちらより不便でしょ?」


「俺は向こうの世界で死んだんです。それで神様がこっちに……、あれ、彷徨い人って皆そういう経緯じゃないんですか?」


「まさか!彷徨い人は本当に迷い込んできた人達よ!どうやってここに来たか分からない人が大半で、一説によると別世界に生きる者の魂が何らかの影響を受けてこちらに来てしまったって言うのがあるけど……」


俺もミュトスさんも顔を見合わせて数秒黙った。子供達はそんなの気にせず和気藹々とパンを食べていた。


「それこそ専門家に聞いた方がいいかもしれないわね…」

「専門家……」

俺が呟くと子供達が次々に反応した。

「えれがんて!」「えりー!」「えりーさん……!」「おれのよめだ!」

えれがんて、えりー、それがその人の名前だろう。一人を除いて、反応を見る限り悪い人じゃなさそうだ。


「そう、エレガンテっていうの。私達はエリーって呼んでるんだけれど、彼女も元は捨て子で、ここにいる子達のように孤児院で育ったそうなの。その後彷徨い人に育てられて、今は専門家をしているのよ。たまにうちにも遊びに来てくれるわ」

「親しい関係なんですね」

「えぇ、まぁね。ハヤトと同じ人間の子だからあなたも仲良くなれるわよ!あと、結構な美人だからほれちゃダメよ。…クルムなんて俺の嫁にするって言って聞かないんだから」

困ったように笑うミュトスさんと「おれのよめをとるなよ!」と威張るクルムを交互に見て俺も苦笑した。




そんなこんなで朝食の時間が終わり、今日は孤児院の裏にある山へ山菜採りに行くことになった。

山へ行く途中に見えたのだが、孤児院の庭には砂場やちょっとした遊具だけではなく、畑などもあって、自給自足の生活をしていることは理解した。孤児院自体がボロいのもあったが、かなり貧しい生活を強いられているのは見て分かる。


下等種族とか余所者に厳しいとか、もしかしてこの世界は人種差別が行われているんじゃなかろうか。


「明日か明後日くらいにはホロムスカーに行く馬車の用意してあげるわ、そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫よ」


山を登りながらミュトスさんが眉を下げて言ってくれた。不安そうな顔をしていた自覚はなくて、思わず謝ってしまった。


「誰だって知識ゼロで知らない場所に放り込まれたら不安になるわ」

「ミュトスさんは優しいですね、得体の知れない人間を助けてくれて、そうやって励ましてくれる。ありがたいです」

普通なら知らない人間を助けるなんてしないだろう。俺でもしない。もしそいつが悪者だったらどうする?俺達の後ろをちょこちょこと歩く子供達に危険が及ぶとは思わなかったのか。(まぁ、孤児院に連れて行ったのはクルム達なのだが)


「そうね〜、あなたが彷徨い人じゃなくてメルトゥ帝都の人間だったら見捨てたけど、一目見て違うって分かったし。それに、感謝を言うのはこっちの方よ」

「え?」

「昨日あいどると言うのを見せてくれたでしょ?ここって何も無いから、子供達へいい刺激になったのよ。勿論私にもね。あいどるというのを初めて見たから呆気に取られて昨日はきちんと言えなかったんだけど、あの輝きと温かさは素晴らしいものだわ!絶対に広めるべきよ!」

「それは俺にアイドルをやった方がいいと…?」

「そうとは言ってないわ、貴方には誰かを笑顔にすることが出来る。こんな所にいたら勿体ないと思うの」

「ははは、俺には勿体ない言葉ですね」

「ふふ、まぁ結局私が言いたいのは、早く街へ行った方がいいってこと」

ミュトスさんは立ち止まってその場でしゃがみこんだ。小さな草、多分山菜を採るとそれを俺に見せて「クズリハ、美味しいのよ」と微笑んだ。


「クズリハを沢山採って来てくれるかしら、クルメとススもハヤトに着いていって教えてあげて」

ススは初めて聞く名前だな、今朝の賢そうな少年が返事をしたので彼がススなのか。


「行こ!ハヤト兄!」

クルメは俺の腕をぐいぐいと引っ張って歩き出した。行ってらっしゃいとミュトスさんが小さく手を振って、ススが駆け足で俺たちの後に着いてきた。


ちょっと歩いただけでもうミュトスさん達の姿は見えなくて、俺達は山の開けた場所に出た。


「ここはクズリハだけじゃなくて、他の山菜も採れるんですよ」

ススは生えてる草を選別するように見た。

「へぇ、ススは山菜に詳しいのか?」

「そういう訳じゃないです。うちの孤児院は貧しいので、山菜を採って生活してるんですよ。だから自然とどれが食べられるものか覚えちゃいました」


これは食べられる、これは毒がある。ススとクルメは俺に教えながら山菜を採っていく。


籠の中に大分山菜が溜まった頃、

「……何か匂いますね」

突然ススが顔を顰めた。俺には何も匂いは感じない。


「僕達シュトル族は鼻が良いんです。ちょっとした匂いの変化もすぐに分かります。…クルメ、これは…」

「…この匂いはエーポスだ……!」

「やっぱり……!逃げましょうハヤト!!」

「え!!エーポスて何!?!?」

言われるまま二人に腕を引っ張られ走り出した。

エーポスが何かはわからないが、二人の焦った表情から恐らく、モンスターか何かではないかと推測する。


とにかく、来た道を戻って皆に知らせなければ。

山は安全じゃない。それはどの世界でも言えることだな。


「きゃっ!」

ドサッと音がして片手から手が離れたのに気付いた。

「クルメ!!!」

転んだクルメを優しく立ち上がらせ、怪我がないことを確認してほっとする。

「怪我はないみたいだ、良かった」

「ごめんハヤト兄……」

女の子だからな、怪我なんてされたらたまったもんじゃない。無事ならそれでいいんだ。しょげるクルメに微笑んで落ち着かせてやる。

「っ、待って…」

クルメが何かに気付いた様子で匂いを嗅いだ。

「匂いが近い……もうすぐそこにいるみたいです」

それと同じくススも耳を澄まして音を聞く。

俺も真似して耳を澄ましてみた。


ーーガゥルルル____……


微かだが、獣の声がする。これやばいやつじゃないか。

俺が勇者とか戦える人間だったら良かったんだけど、残念ながら能力も何も無い。

茂みの奥でこちらへ何かがやってくる気配を感じる。俺は二人を先にミュトスさん達の元へ行かせ、獣を警戒しながら走った。


だけど俺達はすぐ異変に気付く。

ミュトスさんのいた場所からそう離れていないはずなのに、いつまで経っても辿り着かない。

思えば同じ道を走っているような気さえする。


「はぁ、はぁ、…エーポスの魔術にかけられてます、これじゃ戻れません…!」


気の所為ではなかった。前を走るススが辛そうな顔をして立ち止まった。


「魔術!?」

「エーポスは幻影魔術を使うモンスターなんだよ!こうやって山や森に迷い込んだ人間や、小さい魔物を喰う為に幻影の中に閉じ込めるの!」

「そんなモンスターが……」


でもおかしいな、そんなモンスターがいるならミュトスさんは俺達だけ別行動になんてさせないはずだ。危険をわかっていて別行動させるなんてするはずがない。

この子達もそれはよく知ってるはずだ。


「しかし変ですね、エーポスは絶滅したはずです。まだ生き残りがいたとは思いませんでした」

ススが息を整えながら獣の声がする方を見つめた。

絶滅したモンスターか。それならミュトスさんが別行動をさせたのにも納得がいく。

まさか絶滅したモンスターが出てくるとは思わないからな。


「どうする、逃げられないぞ」

俺がそういった時だった。獣の声が段々と近づき、ガサガサと木々の音と共にそいつが姿を現した。


「ガゥ…ウォオォォォォオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「「「うわぁぁぁぁぁあ!!!!!」」」


狼の五倍、いやそれ以上の大きさのそいつは鋭い牙をむき出し俺達に向かって吼えた。

恐怖で三人とも尻もちをついて震える。

エーポスはジリジリと俺達に間合いを詰めて、今にも喰われそうだ。


「やばいやばいやばいやばい!!俺戦えないんですけど!!」

「私もまだスキル習得してない!ススなんかスキルあったよね!」

「ぼくは学習系スキルしかまだありません!!戦闘は管轄外です!!」


各々が後ずさりながらどうするか考えた。

その間にエーポスはこちらへ寄ってきている。

どうする、考えろ、考えて考えて考えるんだ。


「ガゥゥァァァァァアア!!!!!!」


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


考えている暇もなかった。

エーポスは大きく吼えて俺達に襲いかかった。

もうダメだ、ここで死ぬのか俺達は___

二人の手を握って目を瞑った。




「ーーシアザネ」



静かに誰かが呟いた。

その直後、鎖のようなものがどこからともなく伸びてきて、エーポスを捕らえた。


「ウウゥアアアッッ!!!!!!!」


エーポスは呻き声を上げて縛り付けられ、身動きの取れない状態になる。

来るはずの衝撃が来ず、俺はおもむろに目を開けた。


目の前には片手に本を開き、黒いローブを纏った女の子が立っていて、その子は俺達に振り返ると「…大丈夫?」と無表情で聞いた。


「えりーさん!」


ススは立ち上がってその子に駆け寄る。

そうか、この子が専門家の!


「ススもクルメも無事で良かった」

「えりー!」

子供達が嬉しそうに抱きついた。俺は未だに尻もちをついている。


「どうしてこんな所にいるのですか?」

「ミュトスに会いに来たらたまたまエーポスの気配を感じた。人間もいるみたいだし、来て正解だった」

エリーさんはそう言って俺をチラッと見たあと、エーポスに向けて何か呪文を呟いた。

縛られていたエーポスの鎖は解け、もうこれ以上襲うのは無理だと悟ったのかそのまま逃げてしまった。


「大丈夫、人間」

「なんとか」

差し伸べられた手を取って苦笑した。

気づけば辺りは見覚えのある場所になっていて、遠くの方にミュトスさんと子供達の姿が見える。

おーい、と走ってくるミュトスさん達にほっとする。

あぁ、怖かった。モンスターがいる世界かなとなんとなく思っていたけれど。

二度目の人生始めて早々死ぬかと思った。


ススとクルメもミュトスさん達の姿を確認するとほっとしたような表情をしていた。

まぁ、俺が死ぬのはいいとして、この子達が無事なのは本当によかった。


そして、彷徨い人専門家エレガンテさん。彼女に会えたのは思わぬ収穫だったかもしれない。

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