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異世界でアイドルをする話  作者: ウォーター
アイドル始めました
2/4

1.こんにちは世界

遅筆許して



アイドルを始めて俺には変わったことがいくつかある。

まず性格。高ノ宮と出会ってから面倒みのいい性格になったし、人を放っておけなくなった。

何よりファンを庇って死ぬなんてそんなこと、以前の俺なら絶対にしない。

人って変われるもんなんだなと関心した。

だってそうだろう、親のスネをかじりながらコンビニでバイトしてたような男だぞ。


そんな俺が刺されてからしばらく。目を覚ますと、言葉では言い表せない空間にぽつんと佇んでいた。


全体的に白い部屋で、壁もなく、どこまでも広がっている宇宙のような空間だ。

そんな中に俺と、見知らぬ女が一人。


「え、激ヤバなんですけど〜!!待って本物!?!?やばたにえん〜!!握手してもらっていいスか〜!?!?」


見た目は天使のように美しく、清純派と言ったところか。

その見た目とは裏腹にミーハーな反応をして俺に握手を求めた。


「あぁ、どうも」

すんなり笑顔でそれを受け入れる俺もどうかと思うが。


「やばいやばい、めっちゃ長いこと神様やってるけど推しに会えたのはテンアゲ!!もうこの手一生洗えないわ!」


それは洗ってくれ。

目をキラキラさせながらくるくる回る、興奮した様子のこの女はどうやら神様らしい。

刺された記憶とこの空間と目の前の女。信じるとか信じないとかではなく、受け入れるしかなかった。


「あの、神様さん」

「あたしはリリ……コホン、ーー(わたくし)はリリア。この世とあの世を繋ぐ門番をやっております。ようこそ五十嵐颯(いがらし はやと)さん」


にっこり微笑んだ彼女は、見た目だけなら確かに天使、いや、神様だと言われても納得出来る。


「あー、リリア様?ここは一体……」

「ここはあなたのいた世界とあの世を繋ぐ中間地点、といえば分かりやすいかしら?」

「……やっぱり死んだのか俺は」


分かってはいたものの、本当に死んだのかと少し落胆した。


「まぁまぁ!死んだけどだいじょーぶ、あの世は悪いところじゃないよ!」

「そうなんですか?」

「んーと、そうだなぁ、詳しく話しとくか〜、正確にはあの世とはちょっと違うんだけどね?貴方の生きてた世界とは別に存在している世界が無数にあって、そこにランダムで飛ばされる、転生するっていうのが正しいかな」


つまり、俺はこの後別の世界に行くということか。

…現実離れしすぎじゃないだろうか。むしろ、そんなことありえていいのか?

いや、死んでいる俺が言うのもアレだけど。


「赤ちゃんからやり直す的な感じですかね」

「いや、それが違うんだな〜!!実はあたしこう見えていがちゃんの大ファンでね!!!!!!いつもお空から応援してたんだよ!!たまにお忍びでライブも行ってたし!!……まぁ、それでその、たまたま握手会行ったら目の前でいがちゃん死んじゃってさ……」


ーーあの時か

どうやらこの神様はあの時現場にいたらしい。


「刺されても尚ファンを守るいがちゃんとそれに駆け寄って必死に声をかけるはじめん……SKS最高かよッ……!!って思ったよね」

「いや助けてくれよ」

「それでね!!いつもだったらあの世に転生って形になるんだけど、今回は特別にこのまま転移することにしました!」


ぱちぱちぱち、神様は小さく手を叩いて誇らしげに言った。


「俺は違う世界でまた生きるって事か…」

「そうそう!記憶も持ったままでいいよ!推しの為に上司に頼み込んだんだから!第二の人生、楽しんでね!」


神様にも上下関係があるんだな。

何はともあれ、俺は別世界に転移することになった。

しかし、アイドルの俺が好きな神様には申し訳ないが、俺は別世界でアイドルをやるつもりは無い。

俺の為に手を回してくれたみたいだが、正直どうでもいい。


「なぁ神様、申し訳ないが俺は違う世界でアイドルをやるつもりはないっすよ」

「はぁ?何言ってんの?……ま、確かにあたしはアイドルのキラキラしてるいがちゃんが好きだけど?推しが幸せに生きてるだけで十分だし、そこにアイドルとかアイドルじゃないとかは関係なくない?少なくともあたしはいがちゃんが元気に生きてればいいタイプのファンだから!!いがちゃん強火担なめんな!?」


元気に生きてればいい、か……。

高ノ宮もここにいれば似たようなことを言う気がする。



「いがちゃん何か欲しい能力とかある?」

「能力?」

「ほらー!よくあるじゃん!勇者になりたい!とか、高い身体能力!とか!金!とか!?」


そうだなぁ、俺は頭をひねって考えた。二、三分考えたところで


「音楽プレーヤーが欲しい」

と答えた。ちなみにSKSの楽曲が入ってるやつがいいとも付け加えた。


「ふふ、おっけー!じゃあいがちゃんを別世界に転送しまーす!別世界に着いた瞬間からあたしは干渉出来なくなるからここでお別れ!まぁたまに例外でそっち行く時もあるけど…」


神様はそう言うと右手を上に掲げて不思議な模様の描かれた魔法陣のようなものを出現させた。青く光るそれは、俺の頭上に現れ、ゆっくり上から降りてくる。


「貴方の輝きに出会って、私の神様人生も明るくなった。最高最強の推しに出会えた事、幸せに思うよ!次はいがちゃんが幸せになってね!!」


神様のその言葉と同時に魔法陣が弾け消え、俺は意識を失った。




______

___

_

___

___________





サァー…、風で砂が目の前を舞った。

それくらいに何も無い道のど真ん中で俺は目を覚ました。

服は何故か普段着ている私服の寿司Tシャツで、ズボンのポケットには音楽プレーヤーが入っている。ご丁寧にイヤホンまで付けてくれたみたいだ。


「本当に何も無いな」


道の先には道が続いていて、後ろを振り向いても何も無い。数本木がまばらに生えているが、それ以外目立ったものは無い。

辛うじて畑がちょこちょこあるが、耕された形跡もなく、人の存在も確認できない。

廃れた村のようだ。


別世界に来たのだからてっきりテンションが上がるかと思ったが、混乱もしていないし、思ったより冷静な自分が逆に怖い。

生きている事に喜ぶべきなのだろうが、そんな暇もないし。俺はただただ道を歩いた。


暫く歩いていると、村の中心部か何かだろう、古い噴水とベンチのある広場のような場所に出た。

掲示板も置いてあるがボロボロで何も貼られていない。

空き家らしきものも何個かようやく見つけた。


ーーまるでRPGに出てきそうな雰囲気だな


ゲーマーという程ではないが、知人に勧められて少しかじったことがある。廃れた村ではなくもっと活気づいていたが、確かこんな感じだったはずだ。


それにしても人っ子一人居ない。このまま歩き続けても野垂れ死にそうだし、今日は野宿かなぁ。

そう思っていた矢先、ガサガサ、と物音がした。


「誰か居るのか!」


シーン…。

声をかけても返事はない。出てくる気配もない。

仕方ない、向こうから出てくるまで待とう。俺は噴水前のベンチに腰掛けて相手の出方を伺うことにした。


___五分。


十分。二十分。四十分。

時計はないので感覚だが。それくらい待っただろう。

人の気配はいくつか感じるが、出てくる気配はない。

やることもないし、俺はおもむろにポケットから音楽プレーヤーとイヤホンを取り出して音楽を聞くことにした。


選んだのはSKSのデビュー曲で、まだメンバーが七人いた時の曲だ。

歌割りはリーダーの高ノ宮が殆どを占めていて、俺やほかのメンバーはその引き立て役。

この頃はまだメンバー仲も悪くてどうしようもなかったな。高ノ宮が頑張っていたのを思い出した。


ーー…やっぱ歌うめぇな


俺は高ノ宮の歌声を聞いてそう思った。

それもそのはず、彼はリーダーなだけあってハイスペックなのだ。歌もダンスも完璧。ファンサだってファンの中では神対応の上を行く神そのものとして崇められている。


「……LaLaLa…La……」


アイドルなんて辞めたかった。面倒臭いし疲れるし。それなのに五年も続けてしまった。もう身体に染み付いているのだ。

おかげで今もこうやって曲を聴きながら口ずさんでしまっている。体が勝手に動く。


「……っ…」


どうしてだろう、曲を聴きながら涙が出てきてしまった。

もうここには俺のファンは居ないし、高ノ宮と踊って歌うことも出来ない。

アイドルなんて辞めたかったはずなのに、五年も続けたあれこれは体に染み付いて離れないのだ。


「___おい」


不意に声をかけられ、ぐちゃぐちゃの顔をあげた。

目の前には小さな男の子と女の子が二人ずつ立っていた。

全員頭には犬のような獣耳が生えており、しっぽもついている。

それ以外は人間と変わらない。

リーダー格のような少年が高圧的な態度で威嚇してくるので、こちらもそれなりに警戒する。


「おまえ人間か」

「…そうだけど」

涙を拭って答えた。今更だが、こんな幼い子達に泣いてるとこを見られていたと思うと少し恥ずかしいな。

「どこから来た」

少年は気にせず続けた。

どこから来たかと問われると少し返答に迷うが、ここは分からないと答えておこう。

俺は分からない、と答えると四人は集まって何やらコソコソと話し始めた。


「あの、あなたはメルトゥ帝都の人間ですか……?それともホロムスカー?グローム?」

一人の赤髪の少女 (リーダー格の少年と顔が似ているな、恐らく兄妹だろう)がそう聞いた。


メルトゥ、ホロムスカー、グローム。この三つがこの世界にある国なのか。残念だが全く知らない。


「申し訳ないけど、どれも知らない。……というか、分からない」

「お兄ちゃん、この人たまにいる彷徨い人だよ」少女はリーダー格の少年に言った。やはり兄妹だったか。


「彷徨い人ぉ?うーん……」

少年は少し考え込んで

「よし、かーちゃんのとこ連れてって聞いてみようぜ!」

と言い放った。


リーダー格の妹はどこから取り出したのか一本の縄を取り出すと、申し訳なさそうに俺の手首を縛り付け、それをリーダー格の少年がついてこいと言わんばかりに引っ張った。


どこかへ連れていかれるようだが、不思議と不安はなかった。



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