0.俺が死んだ理由
沢山の声援と眩しい光が俺を照らす。テンポのいい曲に合わせて体は動いて、手を振りながらステージの花道を歩いた。
俺の顔写真の貼られた団扇や、指さしてと書かれた団扇を見つける度にファンサをして、ファンの叫び声とも言えるような嬉声を受け取った。
これが俺の仕事ーーアイドルである。
ちなみに、今所属しているグループ、Starry Knight Seven通称"SKS"の社長さんにスカウトされた事がきっかけだ。
当時二十一歳、親のスネをかじりながらコンビニバイトをしていた俺は顔が良いこと以外は取り柄のないダメ人間だった。
ある日、たまたま客として来ていた社長が俺の接客スマイルにやられてスカウトしてきた。「あ、楽して稼げるならやろうかな」そんな単純な動機でそれを引き受けたのだが、アイドルはそんなに楽じゃなかった。
踊りや曲を覚えるのはもちろん、ファンへのサービスも忘れない。アイドルを初めて二日目でやめようと決心した。
しかし、そんな俺もSKSに所属してから五年経った。何故、やめようと決心した俺が五年も続けられていたかというと、それはSKSのリーダー"高ノ宮一"がどぉぉぉおおぉぉぉおおおしようもないドジっ子だったからだ。
ダンスレッスンの為にレッスン室に行くだけなのに『ふぇぇえ〜!いがちゃん助けて〜〜!!荷物もったおばあちゃん手伝ってたら転んじゃって、転んだ拍子に鞄落としちゃったんだけど、たまたまおばあちゃんと鞄が似てたからおばあちゃんがそれ間違えて持ってっちゃって、それでそれで……』
おい。どういうことだ。
その時レッスン室で高ノ宮を待っていた俺は、その電話を受けながらなんとも言えない表情をしていた。
まぁ、ドジっ子というのは訂正しようか、物凄い不運体質の方が合っていたかもしれない。
そんなこんなで、辞めたくても辞められなかった理由は、こいつが心配で辞められなかった、というのが大きい。
俺は高ノ宮と出会って初めて、自分が面倒みのいい性格をしてることに気付いたくらいだ。
さて、そんなSKSもメンバーが七人から二人になり、俺と高ノ宮で何とか持ち堪えてきた。
五周年ライブも控え、これから、という時にあの事件は起きた。
アイドルには握手会というのがある。勿論俺達SKSも握手会を開催しており、握手会でファンとの交流をしているのだ。
しかし、その時は違った。
「しねぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
大きい叫び声と共にファンの列から一人、俺と握手していたファンをナイフで突き刺そうとした。
「危ない!!!!!!!!!」
咄嗟にファンの子を庇おうと身を乗り出して俺は___
ーー天国では楽出来ますように……
そっと目を閉じた。