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カノンちゃんはタイヘンです。  作者: 陽海
〈chapter:01〉ジョージさんと対面です。
5/28

【01 – 04】

「ふぉおおおおおお! マジですか!? マジですかこれジョージさん!?」

「……? 何を疑っているのかはわからないけど、今日からここが、僕とエンジェルのホームだよ」


 さて、カノンちゃんが車内でひとしきり爆笑したあと、JKを乗せた跳馬印の高級外車は住宅街の一角に停車しました。洋風の、デザイナーズハウスとでも言うのでしょうか。いかにも世間のパパさんたちが『三十年ローンで頑張って建てました!』という家とは趣の異なる、庭にも幅にも余裕のある二階建てガレージ車庫付きの一軒屋。


 格子状の門を開けてなかに入ってみると、デザイナーさんの工夫なのか、実際よりも広い印象を受ける庭園の花壇には鮮やかな季節の色彩が咲き誇っておりました。その横に立てられた小さなビニールハウスには、何種類かの野菜が栽培されていました。


 敷地を埋める芝生は丁寧に刈り込まれていて、

 垣間見える緑が瑞々しいです。


 庭の端に植樹された緑葉樹が、

 心地よさそうな陽だまりを作っています。


 木陰にはガーデニングチェア。まるで海外ドラマに出てくるホームセットのような見事な庭園に、オサレ大好きなJKのテンションはここにきて一気に急上昇です。


「うわぁー、すっごいすごいっ! とってもステキな庭ですね、ジョージさん!」

「サンクス、気に入ってくれたのなら何よりだ」


 わかりやすいカノンちゃんの上機嫌に、嬉しそうに口元を緩ませるジョージさん。背中を押され、そのままJKは家のなかに。すると外観からの予想通り、全体的に洋風テイストになっている室内は、しかし予想以上のクオリティをもって、新たな住人を歓待してくれました。


 たとえば廊下。


「えっ、もしかしてこの家、床暖房なんですか!? 冬は冷え性を気にしなくていいんですか!? それになんですか、この照明!? かぁ~わぁ~いぃ~いぃ~♪」

「エクセレント、エンジェルとは趣味が合いそうだね。それはティファニーの限定モデルで、アールデコ風なのが気に入っているんだ」

「ふわっ、すごいですよジョージさん! トイレが広いです! 内装もオシャレ! しかも全自動のうえウォシュレット、消臭機能つきですか!」

「現代人として当然の設備だね。もちろん、二階にも同じものを設置してあるよ」


 たとえばキッチン。


「キャー、このカップすっごい綺麗! 使うのがもったいない!」

「それはバカラのグラスだよ。気に入ったものを、自分用にするといい」

「うぉおおおおなんだこのバケモノ冷蔵庫ぉー! そして夢のシステムキッチンー! シンクきれーい! 収納スペースが多くてべんりーっ! しかも調理道具が充実! 中華鍋まであるときた! ジョージさん、あなた私にいったい何をご馳走する気ですか!?」

「ハハッ、クッキングは和洋中と、一通り嗜んでいるからね。何でもリクエストしておくれ。喜んで腕を振るおう」


 たとえば居間。


「ふぉおおおおついに最新の超巨大薄型プラズマテレビまでもが降臨んんんんん! すごいすごい、これ、私が両手広げたぐらいありますよっ! それに……この、瑞々しい空気! ハウスダストの気配がゼロ! これがウワサにきく、マイナスイオン機能付き空気洗浄機の力なのですか……っ!」

「エンジェルの肌は敏感だからね。ホコリと乾燥は大敵だ」

「あはは! あはは! なにこのソファ! フッカフカ! バインバインですよ! いったいなかに何を仕込んでいるんですかぁー!?」

「それは知り合いの職人が手掛けた一点ものでね。皮製品はやはり、ドイツ製に限る」


 たとえば脱衣場。


「ほぉうぁあああああ! ついに出会えましたね、憧れのドラム型低周波洗濯機くん! それに乾燥機くんも! これで雨の日の湿気も怖くありません! んでこっちは……ヤタ! マイナスイオン機能つきドライヤーはっけぇーんっ! それにアイロンも! わっ、これちゃんとロールやウェーブにも対応しているじゃないですか! やばいです、明日からの身だしなみに迷っちゃいますうぅううう!」

「いちおう最低限のスタイリングセットは用意しておいたけど、気に入ったもの、必要なものがあれば遠慮なく言っておくれ。エンジェルの髪質を守るのは、僕の義務だ」

「ふぅっふぅ♪ ふぅっふぅ♪ んもぉー、ジョージさんったらこの浴室にいったい何人の女を連れ込む気なんですかぁー? こんなの、下手したら浴槽で水泳の練習できちゃいますよぉー? 私、バタ足の練習とかしちゃいますよぉー?」

「ジャパンには『風呂は命の洗濯』という名言があるそうじゃないか。ゆっくりとくつろいでくれ」


 そうして次々と繰り出されるミラクルに、テンション爆上げ、ひとりフェスティバルモードに突入したカノンちゃんは、そのままの勢いで二階に突撃です。恥じらいを忘れ、喜色をまったく隠さない姪に、付き従うジョージさんもニコニコです。


 それから階段を上がってすぐの扉に、英語で【エンジェル・ルーム】と書かれた看板を発見しました。即座に脳内会議で『この看板は交換ですね』と判断するJKは、極めて合理的と言えるでしょう。


「いやっふーっ! なんですかこのオシャレ空間!? これが私のお部屋ですかっ?」


 以前は物置に使っていた部屋を片付けたというその部屋は、広さは八畳ほど。カーテンや壁紙などは淡いピンク色で統一されており、室内にはすでにオシャレな小机や本棚、衣装入れなどが、バランス良く配置されていました。


 シワひとつないまっさらのシーツに、

 スプリングのよく利いた収納スペース付きのシングルベッド。


 シンプルなデザインの勉強机にはノートパソコンがスタンバイしており、いかにも新型モデルのいった風格のそれは、小型で幅が薄く、持ち運びに便利そうです。


 また部屋のどの位置からでも見えやすいように配置されたテレビはもちろん液晶タイプで、ご丁寧なことにその横に立てかけてある雑誌入れには、今週のテレビ情報誌や女性向けファッション誌までもが補充されているのだから、恐れ入りますね。


 いちおう部屋の片隅には、先日輸送しておいたカノンちゃんの私物がダンボールとなって積まれているのですが……わざわざそれらを紐解かずとも、このまま問題なく新生活がスタートできるほどの、完璧な充実ぶりでした。


「ひとまず生活に必要な道具は、僕の趣味で取り揃えておいたけど、気に入らなければ言っておくれ。今度は一緒に、エンジェルの好みのものを買いに行こう」

「いえいえいえー。そんなそんな、これだけ充実させてもらって好みじゃないとか言えませんよー。というかお世辞抜きに、どれもこれもすっごくステキです! ジョージさん、本当にセンスいいですよー! これはグッジョブです!」

「……サンクス」


 カノンちゃんが満面の笑みでグッと親指を立てると、ジョージさんは照れたようにはにかみます。三十路男性の照れ顔。ブサメンならば吐き気を催しますが、イケメンならば許されるのが、世の不平等というところでしょうか。


「……本当に、お気に召してもらえたようで、ホッとしたよ」


 安堵の表情を浮かべるジョージさんに、カノンちゃんはチクリ、罪悪感を抱きます。


(うぅ……ごめんなさい、ジョージさん。こんなに気を遣ってもらっていたのに、失礼な態度ばかりとってしまいました)


 このときJKは、過去の己を恥じました。まったく、どうして自分はこんなにも、気遣いの利く優しくて美形でセンスのいい同居人を、少しばかり中身がアレな程度で、あそこまで軽んじてしまったのでしょうか。


 完璧な人間など、この世にはいません。

 誰にだって少しくらい、欠点はあります。


 そんなことさえ忘れて、ああも叔父を無碍に扱っていた姪は、己の愚行を反省することしきりです。もしドラ○もんがいるのなら、タイムマシンを出してもらって数時間前の自分のマウントをとり、奢った精神を諫めるために往復ビンタラッシュは必死でしょう。


(いや……今からでも、遅くはありません!)


 ここからです。

 ここからジョージさんの評価を改めましょう。


 ママ狂信者という偏見を取り除いて、渋沢丈治という人間の、ありのままを見つめて、受け入れていこう。


 そう……カノンちゃんは決意しました。


         ◆


 そしてここから、ジョージさんの怒涛のラッシュが始まります。



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