【05 - 01】
本日は四話連続投稿ですので、読み飛ばしにご注意ください。
m(__)m
「……なんだか、おかしいですね」
カノンちゃんたちが監禁されていたのは、どうやら今は使われていない廃ビルの一室でした。ロープで拘束した見張りたち二名を残し、部屋を抜け出したJK一行は、息を殺して電灯の絶えた廊下を進みます。手にする光源は、制圧した舎弟コンビから拝借したスマホのみ。心境はまるでホラーハウスを歩むがごとしですが、そうした緊張感にも慣れてくると、ひとつの違和感が浮上してきました。
「さすがに……静かすぎませんか?」
「え? 廃ビルですし、気のせいではないでしょうか」
「べつに誰とも遭遇しないんだったら、それに越したことはないんじゃない?」
「それはそうだけどさ。でもここまで人気がないってのは、さすがに不自然すぎると思うぜ?」
カノンちゃん、マコトさん、ヒメカさん、アキラくんが、それぞれの見解を述べます。ともすれば脱走した自分たちを捕らえるため待ち伏せているのではないか――と、そんな疑問さえ浮かぶほどに順調な彼女たちの歩みは止まることなく、とうとう建物の出入り口と思わしき一階のロビーにまで到着してしまいました。
「やった! 外だよ!」
「なんだよ、マジで着いちゃったのかよ。拍子抜けだな」
「……どうやら、そのようですわね。待ち伏せの気配もありませんし」
緊張からの解放に喜色を浮かべるヒメカさんの後ろでは、護身のために拾った角材を手にするアキラくんが肩を竦め、やや遅れてから周囲を窺っていた様子のマコトさんも皆の意見に同意します。
「とにかくこれは僥倖です。見つからないうちに、さっさと出ましょう」
「……待ってください」
唐突に降りかかった不幸に差し込む、一筋の光明。喜々として縋ろうとするクラスメイトたちに、待ったをかけるのは、この場で唯一神妙な面持ちを崩さなかったカノンちゃんでした。
「……? いかがなされましたか、カノンさん」
「マコちんいま、あそこを見ていましたよね」
周囲を窺っていった彼女が、視線を留めたのはほんの一瞬。しかしその違和感を、幼馴染みは見逃しませんでした。特盛JKが止める間もなく、並盛JKがツカツカとロビーの隅に置かれた清掃用ロッカーに歩み寄ります。
「か、カノンさん!」
ギィィィ……ガチャン。ドサドサドサッ。
「ひっ! な、なによあれ!?」
「……まあ、普通に考えるなら見張りだろうな。気絶してるみたいだけど」
カノンちゃんがロッカーを開くなり、崩れ落ちてきた複数の人影にヒメカさんが悲鳴を上げます。一方で冷静に状況を分析するアキラくんに、マコトさんが眉根を寄せます。
「やっぱり……マコちん、この人たちに気付いていたんですね」
「それは……その……」
「どうして私に、隠そうとしたんですか?」
「……」
カノンちゃんの問いかけに、マコトさんは悪巧みが露呈した子供のように、表情を曇らせて黙り込んでしまいました。普段は聞いてもいないことでも見境なく発信してくる幼馴染みの奇妙な反応に、JKの危機センサーが反応します。
(やっぱりマコちん、何かを隠していますね)
具体的にマコトさんがカノンさんから隠そうとしていたのは、ロッカーに詰め込まれた見張りたち。そこに彼女の意図があります。
(あの人たちの存在を隠す理由ですか……ふつうに考えるなら、後腐れなくさっさとこの場を離れるためですよね。となるとやはり、ただ単に早く身の安全を確保したかっただけなのでしょうか? もしかしたらここに来るまでにも、似たようなことがあったのかもしれませんね)
そこでふと、カノンちゃんは問題の根幹に気付きました。
(いえ、違いますね。そもそもこの人たちをこのようにしたのは、いったい『誰』なのか……マコちんが隠そうとしたのは、その存在ですか)
そしてそこまで思考が現状に追いついたとき、カノンちゃんの脳裏に浮かぶ人物はたったひとりしかいません。
「……ジョージさんが、ここに来ているのですか?」
「っ!」
カノンちゃんが辿り着いた解答は、やはり幼馴染みと同じようです。表情を強張らせるマコトさんに、にわか探偵JKは自身の推理が正しかったことを確信しました。
「っ! マジかよ!? ジョージさんが、オレを助けに……っ!?」
「ねぇねぇあっくん、そこであっくんが頬を染めるのはいろんな意味でおかしいですよね? ね?」
「べつに、直江くんを助けに来たのかどうかは知りませんが、というか本当にジョージ様なのかどうかすら不明ですが、おそらくカノンさんの推測通り、この場にはわたくしたち以外の『イレギュラー』が入り込んでいるようですわね」
喜色に浮かれる女装男子にとても納得のいかないカノンちゃんですが、ひとまず今は考える別にあるので、思考をそちらに回します。
(どうしてジョージさんがここに……なんてのは、野暮な疑問なのでしょうね)
カノンちゃんのいるところにジョージさんの姿アリ。
這い寄る叔父の影に、早くも順応を見せるJKです。
(でもだとしたら、ジョージさんの性格からして、まっさきに恩着せがましく私を助けに来るはず。それをしなかったというのが、どうにも腑に落ちませんね)
こうして出口までの見張り役たちを無力化しているあたり、ジョージさんはある程度の事情を把握しているのでしょう。しかしそれをわざわざロッカーに隠すところに、相手の不審さが伺えます。
(あの人たちをロッカーに隠す意味……いや、というよりは『自分のいた痕跡を隠そうとした』と見るべきですかね。ということは、ジョージさんは私に、自分が『ここに来たこと』を知られたくないと思っている……?)
常日頃から「エンジェル」などとのたまう大事な姪を助けに来たはずなのに、それを横道に置いてまで、彼が優先させたこと。しかもそのことを、当人には知られたくない様子ときた。そこまで思い至ったとき、カノンちゃんの背筋に特大の悪寒が走りました。
バリンッ……ドガッシャァァァンッ!
廃ビルの外から、何かが砕ける音がします。
一拍遅れて、大きな破砕音が鳴り響きました。
「な、なによ!? もしかしてアイツらが追ってきたの!?」
「落ち着けよ姫路。なんか、外に物が落っこちてきただけだ」
「……上の階で、何かあったのでしょうか」
音の発生源を確かめるべくJK一行が外に出ると、予想通り、そこに破砕した椅子のような物体とガラスの欠片が見て取れました。視線を上に向ければ、廃ビルの上階の一室に、割れた窓の向こうで揺れる暗幕が見て取れます。ユラユラと揺れる遮光幕の隙間からは、本来廃ビルには有り得ないはずの光源が漏れていました。
「……どうやら、あそこのようですね」
これでもう、この場にイレギュラーな『第三者』がいることは確定です。居場所も特定できました。ならばカノンちゃんが、選ぶべき道はふたつ。
ひとつはこのまま、この場を立ち去る無難な選択。すでに舎弟コンビから拝借したスマホで通報をしているので、もう十数分と経たないうちに、この場には国家権力の先兵が派遣されることでしょう。カノンちゃんたちはその様子を、遠く離れた安全地帯で見守っていればいいだけです。
ですが、もうひとつの選択は……
「……おいバカノン。おまえまた、変なこと考えているんじゃねぇだろうな」
そうしたカノンちゃんの胸中を察したのは、やはり付き合いの長い幼馴染みでした。普段は素っ気ない態度なのにこういった些細な変化は見逃さない女装男子に、承認願望の強いJKは胸をキュンキュンさせてしまいます。
「ま、茉莉さん? もう、いいのよね? さっさとここから離れるのよね?」
「……すいませんが、皆さんは先にどうぞ。私は少し、確認しておきたいことができましたので」
「カノンさん!」
責めるような幼馴染みの視線にも、覚悟を決めたJKは怯みません。それがわかっていたからこそ、先んじて『第三者』の存在を察していたマコトさんはそれを伏せようとしていたのでしょうが、すべてはあとの祭りです。
「え? あの、えっと……なに? どういうこと?」
「はぁぁぁ……」
一方でいまだに事態が呑み込めずにうろたえるヒメカさんの肩を、深い嘆息を吐き出すアキラくんが叩きます。
「おい、姫路。もし今後もマジでバカノンと付き合うつもりだったら、覚悟しとけよ。――コイツと一緒にいると、こんな無茶振りはしょっちゅうだからな?」




