【04 - 04】
申し訳ありません、予約投稿をミスしてしまい、一日遅れの投稿となりました。
また本日は二話連続更新なので、読み飛ばし注意です。
m(__)m
「ふぅ。なんとか上手くいきましたね」
部屋に残っていた見張り役を制圧したあと、マコトさんはすぐにカノンちゃんたちを拘束していたロープを解き、逆にそれを用いて舎弟コンビを拘束してしまいました。その手つきはじつに流暢であり、まるで何百回と荒縄に触れてきた職人のごとき美しささえ感じます。
「それにしても、意外でしたよ! まさかマコちんに、縄抜けの特技があったなんて!」
「いえいえそんな、大したことありませんわ!」
しきりに謙遜する巨乳JKですが、彼女のそうした特技がなければ、いかに女装男子が身を挺した囮役を演じたとしても、見張りたちの無力化は難しかったでしょう。
「これくらい、時間をかければ誰だってできますもの」
ちなみに今回マコトさんが用いた抜縄術は、古武術にある呼吸式のもの。簡単に説明すると『横隔膜の伸縮を用いて内臓の位置を徐々に下方にずらす』ことで、身体を締め付ける縄に余裕を生み出す技術です。愛情によって脳内麻薬をコントロールできる、巨乳委員長ならではの絶技と言えますね。
「それにロープの扱いだって手慣れていますし、ほんとマコちんって多彩ですね~。これって、あの『きっこうしばり』ってやつですよね! マンガで見たことあります!」
「うふふ。まだまだ未熟者で、お恥ずかしい限りですわ。……そ、そうですわ、よろしければ今度、お互いを使って縛縄術の練習でもしませんか! 護身目的に! あくまで、ソフトな感じで!」
「いやいや~、マコちんみたいなメリハリボディならともかく、私なんかを縛っても絵になりませんよ~」
「い、いいえ! そのようなことは断じて!」
「……なあ。そういうコントは、ここを脱出してからにしてくれねぇか」
こんな場所でも普段と変わらない幼馴染みたちを諫めるのは、乱れていた衣類をすでに整えたアキラくんです。金髪ロン毛の意識を占領した男の娘のオトコノコは、ふたたびスカートの中に隠されております。
「ねぇねぇあっくん。先ほどからずっと気になっているのですが、その、見た目はともかくとして、いまあっくんの下着はいったいどうなっているのでしょうか?」
「よし、先を急ぐぞみんな。今はそれだけに集中しよう」
あの金髪ロン毛がスカートのなかにナニを見たのか。女装男子はナニを履いているのか。開けてはいけない禁断の扉に、好奇心旺盛なJKの興味は尽きません。
「あの……さっ!」
そんなシュレディンガーの猫と化した男の娘と幼馴染みたちに、躊躇いがちに声をかけたのは、自称努力系JKでした。
「わ、私はいったい、どうしたら……」
「いや、どうするもなにも、ねぇ……?」
「このままここに残っていても、あいつらにヤられるだけだろ? だったら一緒に逃げればいいじゃねぇか」
「わたくしはカノンさんがいいと思うのであれば、物申すことはありませんわ」
「……っ!」
さも何でもないことのように告げるクラスメイトたちに、ヒメカさんの表情が歪みます。打算と本音、虚勢と矜持、見栄と後悔、様々な感情が渦巻いて、自称努力系JKはその場から動き出せずにいました。
(私の存在なんてしょせん、『この程度』のものなんだ……っ!)
いっそ罵ってくれれば、気が楽になったでしょう。ですが今の自分には、それだけの価値すらない。彼女たちの障害として認識すらしてもらえない。その事実が、ヒメカさんの最後に残ったプライドを煽り立てます。
「……だったら、放っておいてよ。私はもう、汚れちゃったんだ。今さら、どんな顔してあなたたちと一緒に逃げるだなんて――」
「汚れたのであれば、磨けばいいだけのことじゃないですか?」
ですがそうした『意地』を――『甘え』を、
カノンちゃんは許してくれません。
「たしかに一度汚れてしまったものは、完全に元通りには直らないでしょう。でも諦めずに何百回でも磨き続ければ、元よりもキレイになるかもしれませんよね? だったらすぐに諦めるなんて、もったいないですよ!」
上手くいかなかったからと、投げ出すことは簡単です。けれどそこで踏み止まって、自分の失敗や醜態を直視しながら、なお諦めずに無駄かもしれない努力を重ね続ける。そうすることで見えてくる道もあるのだと、カノンちゃんは信じています。
「で、でも私は、もうこれ以上、なにを『演じ』たらいいのか……わからないの」
「ふぅ~む。姫路さんはそのままでも、十分ステキだと思いますけど……」
とはいえ物心ついた頃からずっと、『他人が期待する自分』を演じてきた自称努力系JKにとっては、目指すべき指針がないという状況は不安で堪らないのです。それがある種の依存であることを自覚しつつも、長年の習性というものはそうすぐには改善できません。
「……あ、だったらちょうどいいですね」
すると、カノンちゃんが閃きました。
「ねぇねぇ姫路さん。でしたら次は、『私のお友だち』を演じてはくれないでしょうか?」
「……は?」
とはいえまさか、ヒメカさんとしては、自分が貶めていた相手から次の『役割』を提案されるとは思ってもいなかったのでしょう。つい、素で反応してしまいます。
「ま、茉莉さん?」
「じつはですね、姫路さん。私には、今の学校で叶えたい『目標』があるのですよ」
困惑するヒメカさんに、カノンちゃんは語ります。
あくまで無邪気な――底の見えない笑顔を浮かべて。
「……え? そ、そんなこと?」
「ええ。人によっては大したことのない……それこそ当たり前のようなものかもしれませんが、しかし私にとっては、とても大事なことなのです。だからそのためには、味方のクラスメイトは多いにこしたことはないのですよ」
「いや、だからって私はもう、あなたを一度、裏切って……」
「むしろちょうどいいじゃないですか! 姫路さんが私たちに罪悪感を覚えているのなら、それを帳消しにできるほどの楽しい思い出を、これから一緒に作っていけばいいだけのことです! そうすれば姫路さんは罪滅ぼしができて、私は目標に一歩近づける。これぞウィンウィンな関係ですよね!」
「……」
グッと親指を立てるカノンちゃんに、
ヒメカさんはゾワゾワと背筋を粟立てます。
(たしかに損得勘定としては、そうなのかもしれないけど……)
しかしその計算には、『人の感情』という減算が抜け落ちています。少なくともヒメカさんであれば、自分を敵視していた人間が調子よく寝返ってきたとてしても、不快感を抱くだけでしょう。ましてそれを自ら提案してくるだなんて、正気の沙汰とは思えません。
(く、狂ってる……)
そこでヒメカさんはようやく、
カノンちゃんの本質の一端を理解しました。
(そうか……この子って、『正常に狂っている』んだ)
例えるならそれは、あまりにも激しく振動する物体が遠くから観察すると制止しているように見える錯覚、のようなものでしょうか。
見えている外見と、
抱えている内面の乖離。
それがこの天真爛漫なクラスメイトに隠された、おぞましい本性でした。
(でも……それって、私と同じだ……)
しかし――だからこそ、ヒメカさんのような人間は、その仄暗い引力に惹かれてしまうのかもしれません。闇の中を彷徨う蛾は、危険だとわかっていても、煌々と燃え盛る炎の魅力に抗えないものなのです。
「……茉莉さんはこう言っているけど、そっちのふたりは、意見はないの?」
最後の抵抗とでもいうように、自称努力系JKは残るクラスメイトたちに意見を求めます。しかし返ってきたのは、諦観じみた嘆息でした。
「……ですから先ほども申し上げたように、カノンさんがそう仰るなら、わたくしに異論などありません」
「ま、本人がそう言ってんだから、あんま気にすんなよ、姫路」
「でも、私はこうして……じっさいに、茉莉さんを危険な目に遭わせて……それに前に、靴を隠したこともあったし……」
「あっ! あのときの犯人って、姫路さんだったのですね! もう、あれは本当に困ったんですよ! ジョージさんを学校に呼び寄せてしまった責任、ちゃんととってくださいよね!」
「え? そこはまず、靴を隠したことを責めるんじゃないの?」
「だからコイツはそういうヤツなんだって。いい加減に慣れろよ。だいたいそんなことを気にしていたら、中学のときに『学年単位でイジメを扇動していた』岩千奈なんて、どういうツラの厚さをしてるんだってハナシだよ。靴の一足や二足なんて、コイツのイジメに比べたらカワイイもんさ」
「な、直江くん!? それは言わない約束ですよ!」
「あ~、そんなこともありましたねぇ。懐かしいお話です」
「……。ははっ」
どれだけシリアスに自分の罪を責めようとしても、すぐに脱線してしまうクラスメイトたちに、とうとうヒメカさんは意地を張ることが馬鹿らしくなってしまいました。呆れたように苦笑する表情は、一方で、憑き物が落ちたように清々しくも見えます。
「本当にもう……あなたたちって、いったい何なのよ」
「何って、ただの可愛いあっくんのお嫁さんですがそれが何か?」
「おいまてバカノン、息を吐くように嘘をつくな」
「……直江くん? いったいいつのまに、カノンさんに手を出して……?」
「落ち着け誤解だ岩千奈だからその持っているロープを床に置け。そもそもオレの身体は、もうジョージさんのものなんだよ!」
「え、直江くん? あえて女装には触れなかったけど、やっぱりそういう趣味が……」
「あっくんこそ誤解を招く物言いは控えてくれませんかねぇ!? 同性愛とか、姫路さんが困惑しているじゃないですか!」
「……うん、アリね! 私、全力で応援するわ!」
「むしろ興奮していましたか!?」
「ふむ。姫路さん、意外と話のわかる人のようですわね……」
ともあれ――その日。
カノンちゃんに、新しいお友だちが増えました。




