【04 - 03】
「ま、マジすかマジすか!?」「伝説のってーと、あの十年以上前のヤツっすか!?」「あ、俺も観たことあるわ」「あれマジでヤベーよな」「つーかアレの撮影にパイセンが参加してたってウワサ、マジだったんかよ……」
辮髪男の暴露によって、舎弟たちがざわつきます。なかにはあからさまな、好色の笑みを浮かべる者たちもいました。一方でクラスメイトの衝撃的な生い立ちに、ヒメカさんは言葉を失ってしまいます。しかし話題の中心であるカノンちゃんだけは、いつもどおりのまっすぐな瞳で、目の前の現実を直視していました。
「あ~なんだ、その顔、もう知ってたのかよ。インランなママのヒ・ミ・ツっ」
そうした反応が気に入らないのか、辮髪男は腰をかがめて、簀巻きJK(並盛)を正面から覗き込みます。その顔に浮かぶのは、弱者を甚振る愉悦です。
「つーかさぁ、あのビッチ、よくケッコンできたよな。パパはそのこと知ってるのかな? あ、もしかして逆に、知っているからこそ燃えちゃった系? NTR属性的な? ん、んん? っていうかよくよく考えたらキミの年齢って、おかしくね? JKだからサイテーでも十五歳として、あれがたしか……そうだ、ちょうど十五、六年くらい前だから……え? もしかしてキミ、あのときデキた子どもなの? もしくはデキてた子どもなのかよ? うっわー、ウケるー。パパさん、完全に托卵乙じゃん! ちゅーかママが腹黒いわー! さすが稀代のビッチだよなぁ!」
「……」
「……おい、テメーなんとか言えよ。犯すぞクソガキ」
「べつにこのまま何もしなくても、どうせやることは変わらないのでしょう?」
どれだけ煽っても反応しない簀巻きJK(並盛)に、機嫌を損ねた辮髪男が脅しをかけます。それでもカノンちゃんは怯みません。堂々と言い返します。
「もちろんパパは、そのことを知っていますよ。そしてママはどうしようもない事情があったとはいえ、当時のことを悔いています。であれば娘である私が、今のパパやママに、昔のことをあれこれ咎めたり嫌悪したりする理由はないと思うわけですよ」
「はっ! イイ子ちゃんだねぇ! そうやって自分をムリヤリにでも正当化しないと、自分自身がどこのキモブタのザーメンに孕まされたかわからない汚物だって、認めなくちゃいけないもんなぁ! いやぁ不幸な身の上の子はツラいねぇ! オジサン、涙が出ちゃうよ!」
「……まあ、不幸の基準なんて、人それぞれですからね。とくにあなたみたいな人には、わかってもらおうとは思いませんよ」
「あは! あはははナニソレかっこイイぃいいいい! 決め台詞!? ねぇ、それって前々から用意していたキメ台詞だったりするの!? だったらチョーウケるんですけど! あはははは!」
そんなカノンちゃんの態度を強がりと捉えたのか、辮髪男は大爆笑。舎弟たちも追随して嘲笑します。ですがヒメカさんの胸中に浮かんだのは、まったく別の感情でした。
(な、なによソレ……そんなのよ、それ!)
生まれながらに自分ではどうしようもない境遇を背負い、しかしそれを恥じたり恨んだりすることなく、堂々と胸を張って生きている。他人にそれをどう詰られようが、確固たる意志で撥ねつける。自分の幸せは自分で決める。他人の評価など気にしない。先ほどヒメカさんにかけられた言葉は、そのままカノンちゃん自身の決意表明でもあったのです。
(う、うぅぅ~)
対して、自分はいったいどれだけ矮小で卑屈なのでしょうか。カノンちゃんと比べるとあまりに恵まれた環境にありながら、それでも小さな不平不満を見つけては大げさに嘆いていた、典型的な井の中の蛙。いや、それすらも簀巻きJK(並盛)の言を借りれば『不幸の基準なんて人それぞれ』なので、自虐する必要はないのかもしれませんが、それでも目の前のあまりに眩しい少女の有様を見ていると、胸に灯るものがあります。
「まあいいや。そんだけイキり倒したんだから、最後まで貫いてくれよな。キミのその高尚なハートをリスペクトして、撮影はウルトラハードでマニアックなやつにしてやるから、途中で心折られるなよ。目指せ、ママの記録越え! タイトルは『現役JKで妊婦ですが何か?』で決まりだYO!」
新しい玩具を見つけたような笑みを浮かべて、辮髪男が踵を返します。
「おうお前ら、今回の撮影は気合入れていくぞ! トクベツにクスリもガンガンにキメさせてやるから、汁男どもはキンタマパンッパンに膨らませとけ! それとユージ! マイコー! 景気付けだ、準備ができるまでお前らのオンナども貸せや!」
「おぉ!」「さすがナマチューさん!」「わかってますね!」「滾ってキタぁあああ!」「うーす」「そういうことだから、ふたりともヨロねー」
辮髪男の指示に、舎弟たちが歓喜の声をあげました。ギャル男たちもあっさりと了承したことに、その恋人関係にある黒ギャルたちが慌てます。
「えっ!? だ、だぁ?」「ジョーダンだよね? ね?」
「いやいや、パイセン命令だから諦めてー」「まあオレら、基本的にピースフルなブラザーじゃん? だったらモノでもオンナでもみんなで使いまわすのがエコな感じじゃん?」
「そ、そんな!」「そんなの有り得ないし!」
「ピーピーうるせぇぞ売女ども! いいからビッチは臭い股開いとけや!」
「い、いや! やめて!」「痛い痛い! 離せよっ!」
髪や肩を掴まれ、なかば引きずられるようにして、悲鳴を漏らす黒ギャルたちが辮髪男と舎弟たちに連行されてしまいました。部屋に残ったのは見張り役の舎弟たちが二人に、撮影待ちの簀巻きJK(女装男子を含む)が四名です。
「……さて、と」
そのような逼迫した状況下において、先ほどから妙に大人しかった簀巻きJK(特盛)が、何でもないことのように告げました。
「カノンさんが時間を稼いでくれたおかげで、準備が整いました。それではさっさと、反撃に移りましょうか」
◆
「……うっ……うぅ……」
辮髪男たちが部屋を出て行ってから十数分後。呻くようなソプラノボイスに、見張役で残っていた舎弟たちが気付きます。
「お、なになに、ようやくビビり始めたの?」「もうおせーよ。諦めろ」
スマホを弄っていた舎弟たちは冷たく切り捨てますが、続く簀巻きJK(平原)の言葉に、その表情を愉悦色に染めました。
「あの……も、洩れそう、なんですけど……」
「……ああ、そう。そういうことね」「いやー、でもなー。オレタチ見張りだからなー」
「お、お願いします。がまん、できないんです……っ」
「いやそんなこと言われても、ダメなもんはダメだから。パイセンあのとおり、キレたらマジでヤバいから」「でもなー、女優をションベン塗れにしたら、それはそれで問題だしなー。あー、マジ困ったわー」
そんなことを言いながら、見張り役のうち短髪ピアスの舎弟が、部屋の隅に転がっていたバケツを拾い上げました。
「ということで、じゃんっ! オレからそんなキミにプレゼント!」「ヒュー、冴えてるねぇ~♪ これで問題解決じゃんっ!」
ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべる短髪ピアス。これにもうひとりの見張り役である金髪ロン毛は、口笛を吹いて便乗します。
「あ、あの、でもこれって……」
「いいからいいから! 遠慮するなって!」「ささ、一気にドバーと行こうか! ちゃんとこれも、ばっちりムービで撮ってあげるから!」
「いや、それにオ――わたし、見ての通り、手が使えませんし……」
「ノープロノープロ! そこはオレたちがフォローするから!」「キミはバケツにガニ股でまたがるだけでオーケィ! パンツはずらしてあげるよ! あ、でもスカートの裾は咥えておいてね!」
あっという間に舎弟コンビの手によって、両脇を支えられた簀巻きJK(平原)は、即席トイレという名のバケツに跨る姿勢をとらされます。そのまま短髪ピアスは背後から主演女優を羽交い絞めにして拘束。金髪ロン毛が正面に回って、動画機能を起動させたスマホを構えます。飛び散る黄金水にも怯まないその姿勢は、カメラマンの熱意の証明に相違ありません。
「よーしそれじゃあゆっくり腰を下ろしてぇ……あ、でもその前にスカートを咥えて……っておお、なかなかのドテっぷりだね! すっげぇオレのタイプだよ!」「おいズルいぞ! オレからは見えないんだから、さっさと終わらせろよ!」
興奮する金髪ロン毛を、短髪ピアスが諫めます。にわかに鼻息を荒くしたカメラマンは、片手でスマホを構えたまま、被写体の下着をゆっくりとずらしていき……
「さてさて、ドテの生え具合はどんなものか…………えっ!? なにこれオ×ン×ン!?」「は? 馬鹿おまえ、何を言って――クペッ!」
次の瞬間、短髪ピアスが奇声を漏らして白目を剥きました。その首は、危険な方向へ捻じれております。しかしそうした仲間の姿を金髪ロン毛が目にするよりも先に、背後からの拘束が解かれて自由となった簀巻きJK(平原)が動きました。
「いつまで、人様のナニを見つめてやがんだよ! この変態野郎が!」
罵声とともに繰り出されたのは、密着状態からの膝蹴りです。超至近距離からの一撃は、回避など不可能。脳を揺らされた金髪ロン毛は、女装男子に変態呼ばわりされたことを反論することも許されずに、その場に崩れ落ちたのでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回の更新は8/15の予定です。
m(__)m




