【04 - 02】
「あのぉ……」
それからやや、間を置いて。少しだけ気を取り直した様子のヒメカさんに、おずおずとカノンちゃんが声をかけます。
逃げ場のない、三方を壁に囲まれた薄暗い部屋の奥。唯一の出入り口は黒肌カップルとその仲間たちが押さえているため脱出は望めませんが、今はまだ簀巻きJKたちに手を出すつもりがないのか、双方の距離は開いています。
またアブノーマルな空間の雰囲気に当てられたのか、彼らの情欲に火がついていることも、カノンちゃんとしては追い風でした。ギャル男たちの手が、黒ギャルたちの短すぎる服の裾やスカートにインして、湿った水音を響かせております。上の粘膜同士による体液の交換も始まっていました。周りの仲間たちも囃し立てて、当然のようにギャルタッチに加わっております。非常にパブリックな光景ですね。
しかしそのおかげで得た、会話の機会。
芋虫状態の這い寄るJKは時間を有効活用します。
「さ、災難? でしたね?」
「……っ! ば、馬鹿にしているの!?」
カノンちゃんとしては本心からの気遣いだったのですが、想像よりも追い詰められているらしいヒメカさんは、一気にフルスロットルです。盛り上がっている黒肌カップルたちを刺激しない程度の声音で、感情を爆発させます。
「どうせアナタも、いい気味だって思ってるんでしょ!? 自業自得? はっ、笑わせないでよ、たしかに私はあの子たちを内心で見下していたかもしれないけど、あっちだって私と一緒にいたことでいろいろとイイ思いをしてきたはずじゃない! それなのになんで、私が一方的に悪者扱いされてこんな目に遭わされるのよ! 理不尽じゃない!」
「……」
「だいたい、アナタが悪いのよ! アナタが、頑張っている私の邪魔をするから! いつもヘラヘラ笑っているだけのあなたが、いつも頑張っている私の居場所を奪ったりするから! だから、こんなことに……っ!」
「……」
「……そうよ……私は悪くない……私はちゃんと、頑張ってきた……頑張って、みんなの望む『私』を演じてきたのに……それなのに、なんで……」
カノンちゃんへの悪態は、次第に独白へと変化していきました。ハイライトを消した自称努力系JKの瞳には、ふたたび涙が浮かんでおります。
「……もういやだよぉ……なんで、こんなことになっちゃうのよ……私、悪くないのに……今まで一生懸命、がんばってきたのに……なんで誰も、褒めてくれない……認めてくれないのよぉ……」
「……姫路さんは今まで、努力してきたんですか?」
再度の問いかけに、感情を爆発させたことがガス抜きとなったのか、今度は反発することなくヒメカさんは首肯します。
「……うん」
「でも、報われなかったと?」
「……だって、そうじゃない。あの子たちも、そう言ってたじゃない」
「いえいえ、他人が何を言っても関係ありませんよ。けっきょく、人の幸か不幸かなんて、その人自身にしか決められないのですから」
「……。いったい、何が言いたいのよ?」
そこでようやく、ヒメカさんは自分に向けられるクラスメイトの瞳と向き合いました。
「いえね、べつに私だってそんな大層なことを言える人間ではないのですけれど、それでも私なりに、抱いている人生訓なんかがあるわけですよ」
「……」
「そのうちのひとつが、自分の幸せは自分で決めること。そしてそのためなら、他人の目なんて気にしない、です」
つい先ほどまで、内心で見下していたクラスメイトの口から『人生訓』などという意識高い系のワードが飛び出したことに、自称努力系JKは衝撃を受けたようでした。しかし気圧される自分に納得がいかないのか、すぐに否定の言葉を吐き出します。
「そ、そんなの、ただ自分勝手なだけじゃない! 人間っていうのはね、協調性が大事なの! ちゃんと周りの目を気にして、気を遣っていかないと、出る杭はいつか打たれるんだから!」
「ですが姫路さんはその結果、こうして打たれてしまったようですが?」
「……っ!」
そうなのです。
これまで散々と、周囲に気を遣って、ときには本当の自分を押し殺してまで、周りが望む『理想の自分』を演じてきたというのに、その結果がこの有様であることに一番憤りを抱いているのは、何を隠そうヒメカさん自身なのです。
「もちろんヒメカさんの仰ることも、ごもっともだとは思います。ですが人生とはままならぬもので、ほんのちょっとしたことで、今まで自分が立っていた場所から転がり落ちることもあるのですよ。そしてそうなったとき、誰かに責任や助力を求めようとしても、都合よく手が差し伸べられるとは限りません。そうなったときにけっきょくのところ、それに抗えるのは、自分自身しかいないわけです」
だから私は――他人の目など気にしない。
だから私は――他人を言い訳にはしない。
いつだって自分の思うように生きる。
いつだって自分の選択に責任を持つ。
そんなカノンちゃんの『ワガママ』とも呼べる『覚悟』に、これまで自分というものを他人に預けていたヒメカさんは、抗う言葉を失ってしまいます。
「アナタ……いったい、何者なの?」
「ふぇ? いえ、ご存じのとおり、ただのふつうの女子高生ですが?」
「いいえ……そんなわけ、ないじゃない。そんなの、おかしいじゃない。『普通』の女子高生は、そんな『覚悟』なんて、持って生きているはずがない……っ!」
「あはは、『覚悟』とは大げさですねぇ。でもまあたしかに、私は少々生まれに難がありますので、そのせいで少しひねくれたところがあるかもしれませんが」
照れたように苦笑するカノンちゃんに、しかしヒメカさんはもう、侮りの視線を向けてはいません。何も考えず自由気ままに振舞っているように見えたクラスメイトが、そのじつは自分よりもよほどしっかりと『自分』を抱いていたことは、自称努力系JKに大きな衝撃を与えていました。
もっと、彼女と言葉を交わしたい。
もっと、彼女のことが知りたい。
そのように、いちクラスメイトに対して場違いながらも今までとは異なる興味を抱いたヒメカさんが、言葉を続けようとした矢先に――
「チスチース。産地直送JKが届いているのはこちらですかー?」
部屋の扉が開いて、新たな人物が現れました。
◆
「チュース!」「ナマチューさん、チューっす!」「お疲れ様です!」「今日はお早いっ到着すね!」
「そりゃまあ、JKは鮮度が命だからな。捕まえたらさっさと犯る。これマメな」
先ほどまでギャルたちの身体を貪っていた男たちが、一斉に姿勢を正して頭を下げます。そんな彼らに、鷹揚に手を振りながら応えるのは、一回りほどは年上に見える辮髪の青年でした。側頭部には黒蛇のタトゥーが刻まれており、一目でその素性が、堅気でないことが見て取れますね。
「んで、今回の採れたてJKはどんな感じ……って、いいねいいね! いいじゃないの、キミたち! みんな揃ってかわうぃーね! 逸材揃いじゃないかYO!」
室内でもグラサンを外さない辮髪男は、簀巻きにされている少女たちの容姿を確認するなりハイテンションで褒め称えました。当然、喜ぶ女性などこの場にはいません。表情を硬くしたまま口を開いたのは、あえて声音を女性に似せた、女装男子でした。
「あの、貴方はいったい……?」
「おっとこれは失礼、自己紹介がまだだったね! オレっちは相生忠助。こいつらのパイセンでナマチューって呼ばれてるから、キミたちもそう呼んでくれて構わないYOっ♪」
「……それで、その相生さんは、いったいウチらをどうしようと――」
「――ん? そんなのハメ撮りに決まってるじゃん?」
「……」
「いやいや、そんな、JK拉致ったらとりあえずハメるっしょ? マワすっしょ? ついでにカメラで撮影しとくと、オレっちたちは小遣い稼げて、キミたちは憧れの女優デビューで、ウィンウィンの関係っしょ?」
「……最低ですね」
「ん、ん~、いいねいいね、イキがイイね! でもあんまり、そういうイキった態度はとらないほうがいいかもよ? 撮影は確定だけど、内容は未定だから、ソフトな輪姦ものになるか、ハードな強姦ものになるかは、キミたちのこれからの態度次第なり~……って、ん? んんん?」
そこで辮髪男が何かに気付きました。確認するような視線は、簀巻きにされた栗毛髪の並盛JKに注がれています。
「ねえねえ、キミキミ。キミさ、名前はなんていうの? 言っとくけどこっちはもうケータイとかサイフとか押さえてんだから、余計な手間かけさせないでね?」
「……茉莉、花音です」
「ん? ん? 茉莉? 違う苗字……いや、結婚して姓が変わったのか? ねえカノンちゃん、だったらもしかして、キミのお母さんって、旧姓が『渋沢花織』とかだったりしない?」
「……っ!」
「おお、マジか! その反応、ビンゴですか!? うっわ懐かしっ!」
突如出てきたママの名前に、思わず反応してしまったカノンちゃんです。一方で辮髪男は喜色を隠さず大はしゃぎ。これには控えていた舎弟たちが疑問を呈します。
「あの、ナマチューさん?」「いったいどうしたんですか?」「もしかしてその子のオフクロと、知り合いだったりします?」
辮髪男は両手を広げて満面の笑みで答えました。
「おぉ、つーかお前らも知ってる――というより『お世話』になったことあるだろ? なにせあの、伝説のハメ撮り動画の主演女優だぜ?」
お読みいただき、ありがとうございました。
次回の更新は8/13の予定です。
m(__)m




