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カノンちゃんはタイヘンです。  作者: 陽海
〈chapter:03〉アキラくんはオトコノコです。
18/28

【?? - 03】 ×××は憂鬱です。

 本日は二話連続更新なので、読み飛ばしにご注意ください。


 m(__)m


「うーわー、相変わらず×××ってカワイイよねー」「高校でもやっぱモテまくりなんでしょー? ね、だぁもそう思わない?」「うんカワイカワイ」「チョーイケてるよマジで」「あ、でもだぁはウチのだからね! ×××にはあげないよ!」「アタイだって! それにウチらのカレシってこう見えて、けっこうヤバげな人たちともマブなんだから、気安くちょっかいだしたらダメだかんね!」「おいおい、そういうことは人前ではあんまり言うなって」「シロートさんをビビらせたらマズいっしょ?」


 そんな頭の悪い会話に愛想笑いを浮かべて、けっきょく一日が経過してしまった。最悪だ。一ヵ月ぶりに顔を合わせた下僕どもはケバくギャル化しているし、くっついているオトコどもはどう見てもヤンキー崩れのチャラ男だし、会話は軽くて中身がないし、近すぎる距離感がウザいし、ノリだけで形成されている軽薄な空気にイライラが止まらない。


 しかもこんな連中と一緒にいるところを、

 よりにもよって『あいつ』に見られてしまった。


 すぐに視線を逸らしたが、間違いなく向こうも私に気付いただろう。そしてもしこのことを、月曜から始まる学校で言いふらされでもしたら、コツコツと築いてきた私のイメージが崩壊してしまう。……ああ、また学校に行くのが憂鬱になってきた。これもぜんぶ、『あいつ』のせいだ。


「なになに、どったのー? 顔色悪いよー?」「気分悪いなら俺らでカイホーしようかー? ちょうどいい『休憩所』なら、クワシーし!」「バッカおまえのそれラブホじゃん! ごめんねー、コイツ下品でー」「でも俺、テクとかマジヤバいから! 一回試してみ! ね!」


 軽食を下僕がコンビニに買いに行っているあいだ、ここぞとばかりにギャル男たちが迫ってくる。そういえば今日一日、一度も彼らが会計を清算する姿を見ていない。ああ、だからあの子たちのルックスで、いちおう年上でガタイもいい女遊びの激しそうなサルどもを餌付けできたわけか。身銭と身体を捧げてようやくこのレベルのオトコしか確保できないとは、ほんとうにご愁傷様です。少しだけ、気分が晴れた。


「しっかし×××ちゃん、ホント可愛いよねー」「クラスでもモテるっしょ?」「たしか青羽峰に通ってるんだって? あったまイイー」「でもぜったい男子どもって、童貞ばっかっしょ?」「ガリ勉ども、ぜってぇ×××ちゃんでオナってるって! 間違いない!」


 うるさいサルども。それでも勉強もせず遊び惚けてどうせこのまま定職に就けないお前たちよりは何倍もマシだ。あとさっきから香水臭いんだよ。それで口臭誤魔化しているつもりか。歯も汚い。


(……はぁ)


 そう思いつつも、なんだかんだでコイツらに今日一日付き合ってしまったのは、どれだけ下心が見え透いていても、こうして繰り返される露骨な世辞が、気持ちいいからなのだろう。まったく、どれだけ私は称賛に飢えていたのだろうか。ここまでくると、さすがに恥ずかしい。はやく高校でも、中学までのようなシンパどもを確保せねば。


「おっ、あの子ら可愛くねー?」「つーかアレじゃん。イーオンで×××ちゃんを見てた子じゃね? しかもなんか増えてるし」「たぶんダチじゃね? ぜんぶオンナンコだし。つーかカワイイし」「ねーねー×××ちゃん、あの子らも×××ちゃんと知り合いなのー?」「ショーカイしてよー」「やっぱ可愛い子って、可愛い子同士でツルむよねー」


 いちおうこの場には彼女連れで来ているはずなのに、堂々と女を紹介してとねだる厚顔無恥さには、呆れて物も言えない。だがそんな苛立ちも『あいつら』を前にすると、そちらのほうが上回る。


(あれは……委員長。もうひとりは知らない子ね)


 彼らの言うように、あのあとで合流したのだろう。学校でもよく一緒にいるデカパイ委員長と、こちらは知らないが相当に可愛い女子と一緒に行動する『あいつ』に、つい先ほどまで私に注がれていたギャル男たちの視線は向けられていた。学校と同じだ。


(やっぱり……許せないっ!)


 腹立たしい。

 憎たらしい。


 私から称賛を奪っていく――『あいつ』が。


 自分は大したことないくせに、周りが派手なせいで、そのお零れをもらっている『あいつ』の存在が、目障りでムカついてどうしようもない。


「……べつに、大したことないですよ」


 だからだろうか。


 思わず漏らしてしまった本音は、

 自分でも驚くほどに冷たかった。


「……へぇ」「ああ、そういう……」


 そしてチャラ男どもは、オツムの程度はお察しだが、それでも人の機微を読むことには長けていたようだ。


「あ~、もしかして×××ちゃん、アイツらのことムカってる? オコなの?」「だったらさー、ちょっとオシオキしちゃうー?」「そーそー、軽くビビらせときゃ、アイツらも大人しくなるっしょ?」「×××ちゃんの敵は、オレらの敵だし」「ま、ちょっとだけ。ほんのかるーくちょっかいかけるぐらいなら、べつに問題ないっしょ?」


 考える間もなく刷り込まれる、甘い毒。煽られる嫉妬の炎。都合のいい責任転嫁。そんな彼らの誘惑に乗ってしまったことを私が後悔したのは、すべてが『終わってしまった』あとのことだった。


 お読みいただき、ありがとうございました。


 次回の更新は8/09(木)の予定です。


 m(__)m


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