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カノンちゃんはタイヘンです。  作者: 陽海
〈chapter:03〉アキラくんはオトコノコです。
17/28

【03 - 05】

 本日は二話連続更新なので、読み飛ばしにご注意ください。


 m(__)m


 それから十数分後。


「それでどうして、わたしはけっきょくジョージさんと一緒に、部屋の外に追い出されているのでしょうか? 非常に納得いかないのですが」

「ソーリー、もう少しだけ我慢しておくれ、エンジェル。マコトの提案を実行するには、このほうが都合よくてね」


 ジョージさんとマコトさんによる部屋の外での『相談』は、十分とかかってはいませんでした。それなのに部屋に戻ってきたふたりのあいだには確かな信頼感が見て取れ、事実こうして話をしていても、彼に部屋の中に対する疑念や不信はまったく感じられません。いったい何が、ここまで急速に彼らの絆を深めたのか、カノンちゃんは不思議でなりませんでした。


「ジョージさん、準備できました」


 不可解な状況にJKが頭を悩ませていると、

 扉の向こうから幼馴染みの声がします。


「オーライ、マコト。問題はなかったかい?」

「ええ。正直自分でも、引くぐらいの仕上がりです」

「……もちろん、エンジェ――カノンが『使用済み』のものは、使っていないだろうね?」

「……ええ。そこはちゃんと匂いで判別して、ジョージさんが用意された『未使用』のものだけを採用させていただきました」

「ねぇねぇふたりとも、さっきから何をコソコソとお喋りをしているんですか。いい加減にわたしも混ぜてくださいよ」


 扉越しに小声で会話をするふたりに、なんだか大事な親友を取られてしまったようで、ゴキゲン斜めなカノンちゃんです。口先を尖らせるNTR属性アリのJKに、ジョージさんは笑顔で答えます。


「ソーリー、待たせてしまったね。それじゃあルームに入ろうか」


 そしてジョージさんは前置きなく、

 カノンちゃんの未知の扉を開けました。


「……っ!? あ、あああああ、あっくんっ!?」

「……ンだよ、バカノン」


 部屋の中にいたのは、当然ながらふたりの幼馴染み。うち一方のマコトさんは扉の側に控えているため、驚愕に目を見開くカノンちゃんの正面にいるのは、もうひとりの幼馴染みであるアキラくんに他なりません。


「な、なんなんですか、その恰好は!? ふぁああああ! ふぅああああ! ああああああああああああ!」

「……うっせぇな。こっちにもいろいろと、事情があるんだよ」


 驚愕と興奮のあまりもはや意味を成さない感情を口から吐き出すカノンちゃん。対するアキラくんはいつもどおりに半眼で毒を吐きますが、しかしその姿は到底『いつもどおり』とは言えません。ふと油断すれば間欠泉のごとく真っ赤なパトスを鼻孔から噴出しかねないカノンちゃんの目の前には、なぜか『女装姿』の幼馴染みが、降臨しておりました。


(か、可愛い過ぎますよぉ!)


 もとから美少女めいていたビューティフルフェイスは化粧で整えられており、睫毛はマシマシで、髪もウィッグで盛られております。服装は体形を隠すためなのか、服装はボーイッシュなジャージ&ミニスカートでしたが、おそらくパットで増量された胸元と、黒タイツで魅せる絶対領域が、女子力を引き立てて留まるところを知りません。


「……ふぅ……ふぅ……可愛いよあっくん可愛いよ……ふぅ……」


 この完成した芸術美を舐めまわすように鑑賞するJKの息が乱れ、目が血走ってしまうのも、致し方ないと言えるでしょう。


「フーム……エクセレント。マーベラスな出来だよ、マコト」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


 すでにこの案件を承知していたらしいジョージさんと、それを実行したマコトさんも、この女装男子のクオリティにはニッコリです。


「ほ、本当ですかジョージさん!?」


 そうした評価に、アキラくんは『ぱぁぁ……』と笑顔の花を咲かせました。


「うっ……」


 カノンちゃんは鼻頭を押さえて天井を見上げます。


「で、でしたら例の、ジョージさんの新作モデルの件、採用していただけますか!?」

「……ふぇ? 新作モデル? って、ジョージさんのお仕事の件ですか?」

「ザッツライトだよエンジェ――カノン。最近少々、思うところがあってね。既存の『ミューズ』や『エンジェル』以外のシリーズも、手がけてみたくなったのさ」

「そこで熱烈なジョージさんのファンであるところの直江くんに、どうせならその作品のモデルになってみないかと持ち掛けてみたのです。もちろんジョージさんのこれまでの作品はすべて女性がテーマということでブランドがついているため、モデルに立候補するのなら、最低でも女装という条件をクリアしてもらわなければならないのですが」


 そこでこの、女装男子が爆誕という経緯でした。マコトさんの説明に、カノンちゃんもようやく得心がいった様子です。これで安心して、気兼ねなく新生した幼馴染みの男の子――もとい男の娘オトコノの艶姿をスマホで乱写できますね。大容量が予想されるため、フォルダの作成と保護も忘れてはいけません。


「お、オレ、ジョージさんの手助けになれるのだったらなんでもします! 必要ならタイにだって行ってきます!」

「グッド、いい覚悟だ。それでこそ、僕が見込んだだけのことはある」

「大切な友人の新たな門出ですもの。パスポートや新しい戸籍もろもろは、こちらで用意させていただきますわ」

「ちょっとちょっと皆さん落ち着いてください。あっくんも、ムスコさんを未使用なまま放り出すなんて、さすがに薄情過ぎますよ!」


 本人も含めてじつにスムーズにまとまりつつある幼馴染みの性転換スケジュールに、そのムスコの使用権を主張してやまないカノンちゃんは慌てて異議を唱えます。結婚願望の強いJKはなるべくなら、養子よりも、生直結を経た自然分娩による愛の結晶が望ましいのです。


「うっせぇバカノン! これはオレと、ジョージさんの問題だ!」

「いいえわたしとあっくんの問題ですね!」

「まあまあカノンさん。こんなヘンタイな女装男子のことなんて、どうでもいいじゃないですか」


 なんとかアキラくんを思い止まらせようとするカノンちゃんに、ここぞとばかりにマコトさんが絡みつきました。豊満な胸元を押し付け、耳元に顔を寄せて囁くその姿は、遥かなる昔にアダムを唆した知恵の蛇を想起させます。


「カノンちゃんに、男に媚びを売るためなら、こんなホイホイと身体と心を売るような尻軽は相応しくありません。いい機会です。目を覚ましてください。カノンちゃんにはもっと、すぐ近くに相応しい相手がいるはずです……っ」

「そうだよエンジェ――カノン。もし仮に彼が僕のモデルを引き受けるなら、少なくともそのあいだはずっとこのような状態を維持してもらわなければならない。イメージを統一しないと、作風が乱れてしまうからね。当然ながら、男女交際なんてもってのほかだ」

「ジョージさんが望むなら、オレは一生このままでも構いません! 清い身体も維持します! 性別の壁だって超えてみせます!」

「あ、あっくん……」


 あまりに固い男の娘の決意に、カノンちゃんは怯んでしまいます。そんな彼女の態度に、実行犯たちは微笑みを浮かべてアイコンタクトを交わしました。


『どうやら上手くいったようだね、マコト』

『ええ。さすがにこれだけの醜態を晒せば、カノンさんも熱を冷ますでしょう』

『エンジェ――カノンに想いを寄せる異性がいるのは業腹だが、それを直接排除してしまえば、その怨みが僕たちに向くことになる。エンジェ――カノンの側に控える守護者として、それは避けたい』

『ええ。ですから理想は、彼が自らカノンさんに「嫌われてもらう」こと。そうすれば、すべてが丸く収まります』


 さらに理想を追加すれば、そうして傷心したカノンちゃんを献身的に支えることで、少しでも自分への依存度を深めてもらうことなのですが、そのような打算まで打ち明けるマコトさんではありません。きっとジョージさんもそのポジションを狙っているでしょうから、そこは先着順、早い者勝ちなのです。この共犯者であり競争者でもある協力者たちの心理戦は、すでに始まっているのです。


「そうですか……わかりました」


 そしてカノンちゃんもまた、激動する人間関係に対して、己のアンサーを導き出した様子でした。


「あっくんの決意が固いことはよく理解しました。ならば未来の妻としてできる行動はただひとつ。わたしも一緒にタイに行って、性転換手術を受けますよ!」


「「「 ……えっ? 」」」


 力強いJKの主張に、その場にいた全員が目を丸くします。


「大丈夫ですよあっくん。性別が変わった程度で、わたしの愛は揺るぎませんので!」

「いやそれもう重いし怖いしキモいよ! お願いだからオレに、勝手におまえの人生を背負わせないでくれよ!」

「そうですよカノンさん! そんなことになったら、いったいわたくしは誰と幸せな家庭を築けば……いやその場合はむしろ、カノンさんに性転換していただいたほうが都合がいい……?」

「シット、抜け駆けはズルいぞマコト! そもそもエンジェ―カノン! そのような重要なことを、自分で勝手に決めるんじゃない! ミューズを悲しませる行為は、さすがの僕とて見過ごせないよ!」


 そのような互いに譲れない主張によって、話し合いは紛糾を極めます。そして一時間以上にもわたる喧々囂々な折衝の結果、話の落としどころは『アキラくんは期間限定で条件付きの女装男子として、ジョージさんの仕事に協力する』『期間中は男女交際の自主的な禁止』ということになりました。


 当然ながらタイ行きのスケジュールはキャンセル。カノンちゃんは最後まで『男女交際の禁止』に反対していましたが、それが「カノンさんだけでなく他の女子にも適応されるので寝取られる心配はないですよ」というマコトさんの言葉に、渋々ながら納得してみせたのでした。


「つまりあっくんは相変わらず、わたしだけのダーリンというわけですね!」

「いやオレはもうジョージさんの専属モデル『アキ』だ。くだらない色恋沙汰にうつつを抜かしている暇はねぇんだよ」


 なんとか現状をキープできて一安心なJKに、人として一皮むけた戦士のような顔つきで女装男子が答えます。


「……とりあえず今回は、最悪の事態を免れただけよしとしますか」

「……そうだね。まだ時間はある。ネクストの一手を考えようじゃないか」


 思わぬ同士を得たマコトさんもまだ、秘めたる目標を諦めていない様子です。性別を、年齢を、世代を超えた両名の熱い視線に、本人だけが気付いておりません。


「うふふ。あっくんたら照れちゃって!」

「黙れバカノン。それとオレ……じゃなくて、ウチのことはアキと呼べ」

「ノンノン、アキ、まだ口調が乱暴だよ。今のキミはキュートなガールなんだから、言葉遣いももっと女性を意識すべきだ」

「さあさあカノンさん。直江さんはさっそくジョージさんから女装指導を受けるようですし、わたくしたちが邪魔をしてはいけません。あちらに行きましょう。あ、よろしければアルバムなど、見せていただいてもいいですか?」


 ともあれ、そうしてそれぞれの思惑が交錯した『第一回・ジョージ邸の訪問』案件は、こうしてひとりの犠牲者も出すことなく、なんとか収束の運びと成ったのでした。


        ◆


 そして『事件』は、その日の帰路で発生しました。


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