INSECURITY 2-4
2月26日:誤字修正
食事も済んで後片付けを終えた頃、外で行われていた魔獣の解体も終わったようで馭者の1人が報告にやってきた。
「肉は売るなりなんなり好きにしてくれていい」
「ええっ!? そりゃ、まあ、あっしらは助かりますが」
「構わねェよ。それより、護衛の奴に俺ァ災いの調査に出たって騎士団に伝えるよう言っといてくれ」
「騎士団に……。わかりました。それでは、ここで」
ヴァースはこのまま直で行動を共にすることを決めたようで、そうとなれば話は早いとカインは全員を椅子に座らせて会議を始めることにした。
まずはじめにカイン達の行動目的をヴァースに話し、ひとまずはエレインの祈祷を終わらせる事が優先であること、その辺りの地域から魔獣が出てきたことなど、昨日からの事を共有する。
「したら、まずはエルフのお嬢さンが居たってェ場所に行くか」
「どの辺りかわかるかい」
「ええと……ここからですと、南東に行くと行商人が使う道があります。そこを伝って行けば空気が変わりますので、あとは流れ行くままに進めば辿り着けるかと思われます」
「…………。この世界は、こう……曖昧な感じで旅をするのか?」
「エルフは自然と一体となって育つせいで、そういうのは敏感です」
「エルフの生態を知ってンのか」
「少しだけは。……すみません、これ以上はちょっと」
サニアが気分を悪くしたように俯いてしまったので、更に訊くことは誰もしなかった。
曰く、ここからエレインの活動していた教会がある村までは歩いて2日かからない程度だそうだ。それを聞いて真っ先に「そんなに長く逃げてきたのか?」とカインが驚いたが、エレインは身体強化の魔術を使っており、必死の思いで走っていたために半日もかからなかった……ということらしい。それでも、半日逃げ続けたことにおっさん2人は驚くしかない。
「なら、支度が終わったら出るとしよう」
「2人は休ンでてくれ。俺らは用意してくっからよ」
そうしておっさん2人は再び地下室に戻ったのだが、待ち受けていたのは口径をどうするか、という、世論でも決着の付かない問題だ。これに明確な答えを出すのは難しいが、銃という文明が存在しないのなら、ここには少なくとも明確な防弾装備というものが存在しないのではないかという結論に至った。だとすれば急所へ当てるのは以前に比べて楽なもので、そもそも弓くらいしか遠隔武器が無いと思われるこの世界では圧倒的に優位なはず。だったら9mmでもいいんじゃないかという答えが出た。
そうとなれば話は早く、カインは候補のピストルをいくつか取り出して協議が始まった。今までの選択もそうだが、この世界の地理がわからない以上は長期間整備ができないことや、悪環境での動作を優先して選ぶ必要がある。精度や操作性も重要ではあるが、動かなくては意味がないのだ。それに、この世界で長距離での撃ち合いが起きるとも思えなかった。
他にも補給がないことからグローブの供給も無いわけで、そうなると素手での操作が必須になる。ライフルではあまり意識しないが、ピストルは多くの場合スライドを持ち、これを後ろへ引いてコッキングする必要が多数あるのだ。平時ならともかく、なんらかで手が滑りやすくなっているときは大きな問題になるため、できる限りスライドの操作がしやすいものが良い。他にもスライドストップやマニュアルセーフティの位置など、考えるべき点は多岐にわたる。
「となると、これか」
「偏ってんなァ色々」
そうしていくつもの条件付けをして選ばれたのは、ヤリギナと呼ばれる拳銃だった。
正式名称をMP-443と言い、カインがかつての同僚から横流しして貰った自国軍用のフルスチールモデルだ。操作のしやすい長めのスライドストップレバーを持ち、マニュアルセーフティでのコック&ロックもできて即時発砲可能な上、ファイアリングピンセーフティと呼ばれる暴発防止の安全機構を備え、そのスライドは大きく、滑り止めの切り込みが前後に配置されている他、ハンマーを囲うように延長されているため抜く時に引っかける心配も少ない。マガジンは飾り気が全くないものの実質剛健であり、左右両方に残弾確認用のホールが設けられているために使い勝手も良く、なんといっても装弾数が18+1発と比較的多めである事も長所だろう。
「ライフルもショットガンもピストルも連邦連邦連邦……コブラだけじゃねェか違うの」
「KTRは合衆国製だ」
「中身は連邦だろうがよ」
「そうではあるが、法的には…………今更、どうでもいいか」
そうして選ばれた銃に使うマガジンをかき集め、その数は合計で18本とコブラ用のスピードローダーが2つというかなりの数になった。うち4本はカインが今朝から持っていたものだが、残りには弾を込めなければならない。各種1本ずつは破損した際の予備なので装弾しないとしても、ショットガンに4本、ピストルに6本、ローダーが2つと多くの数をやらなければならなかった。
スプリングの強さにもよるが、物によっては指が痛くなる量だ。
「弾は……これと、これと、これと、あと……この2つだな」
アモ缶とも呼ばれる物に似た樹脂製の弾薬箱を次々とワークベンチの下から取り出し、引き出しからはピストルのマガジンにも似た樹脂製の道具と、いくつものツールが統合されたマルチツールを2つ用意した。
今度は反対側の壁までそそくさと移動し、鉄の臭いがひしめくウォークインクローゼットから巨大なキャリーバッグを1つ、それと吊されていた中からタンクトップシャツのような物が掛かったハンガーを取り、ワークベンチに戻ってくるなりヴァースへ投げつけた。
「ッてえな。なンだこ……れ」
「レベルⅢAのソフトアーマーだ。弓矢にどの程度使えるかは知らんが、気休めにはなる」
「おいおい……しかもこれ、モジューラパネルが付く奴じゃねえか」
「ここから選べ。好きに使っていい」
「ケッ。俺より良いモン揃えやがってよゥ。ありがたく使うぜ」
「スリングとレールMODは右の棚だ。バッテリーが必要な物は最低限にしろ」
ここまで決まればあとは早い。
各々はこれまでの訓練や経験を元にMODを選び、必要な装備を組み上げ、試しに身につけて整合性を確認する。どれだけ機能的な選択であっても、実際に装備しなくてはわからない干渉もあるものだ。
「予備の照準と主要照準補助器はどこにあンだ」
「バックアップはそこの籠の中に集光樹脂照準器があるが、蓄光と集光樹脂か自己発光物質があるからそこから選べ。今は状況が状況だからな、製造が最近の奴を使っていい」
「太っ腹じゃねェか。メインは」
「メインは端の棚だ。RMR Dは去年のロットが有るはずだが、HWSも有るから好きに選べ」
「ブルジョアめ。暗視鏡はねェのか」
「合衆国の守りが堅くてな」
「あァ……。それもそうだな」
2人はあっちこっちとせわしなく動き回り、各々の銃に様々なMODをいくつも乗せていった。
カインのライフルは今朝と変わりなく、収納スペース付きのストックにした上で基部に折りたたみ用のヒンジを追加、後付けのマグハウジングとトリガー下へ延長されたマグリリースレバーを本体に施し、上部レールには3倍倍率の特定弾弾道用照準機と無倍率照準機を備え、下部にはSIX12と呼ばれる回転式弾倉散弾銃が前寄りに付けていた。よく見れば右側にはフラッシュライトまで装備され、余ったレール部分は細かくレールカバーで保護されている。全部乗せという言葉が合いそうな程にはてんこ盛りだ。
対してヴァースのショットガンは上部レールに自己発光照準機をバックアップで乗せ、大口径無倍率照準機をクイックリリースマウントでメインに。下部にはフラッシュライトと合体した大型のフォアグリップを装着している。
どちらの銃もストックの基部とハンドガードに肩紐用のアダプターを付けて携行性を上げ、ガスブロックは流量を調節できるレギュレータ付き、ガスパイプは20mmレール付きのカスタム品、内部のガスピストンも途中で排気が可能な物にしてあるため、余分なガスの流入を防ぎ反動を軽減、整備の頻度を下げる上にどんな環境でも最適な状態で動くようになっている。これらはカインが以前に改修した部分だ。
「縛られるモンがねえと、やりたい放題だな」
「気にせず持ち歩けるのは楽で良い」
「ヘッ。法もクソもねえ奴がよく言う」
「味方をしない法に従う義理はない」
それぞれがベルトの装備も組み直した所で、カインは赤い十字が描かれた引き出しから手の平ほどに袋詰めされた何かを2つと止血帯を取り出した。止血帯とパッケージの片方をヴァースに渡し、それを2人がベルトの背面中央に装備している同じく赤い十字の描かれたポーチに入れるよう指示する。
なんのことはない。ただの応急処置用のキットだ。有事の際には少しでも延命できるように、あるいは少しでも助かる確率を上げるために、僅かでも目的を達成する糧とするために。どうせこの世界にろくな医療は存在しないと思われるため、それ故これがどこまで役に立つかはわからないが、何か備えがあるという精神的支柱は大事なものだ。
「戦闘で使えるマガジンはプライマリ4本とセカンダリ3本だ。バックアップはアテにするな」
「つッても、俺の場合はダブルオーが3本にスラグが1本だろ?いけンのか」
「やるしかない。予備の弾薬も基本同比率で持って行くぞ」
「だな。ローダーは……これか。めンどくせえンだよなあこれ」
「ローダーがあるだけマシだ」
2人は椅子に座り、先程カインが用意した弾薬箱の中から9x19mm拳銃弾をそれぞれ拾いながら、ちまちまとMP-443のマガジンに弾を込め始めた。抑えの隙間から弾を弾で底へ押し込んで抑えとの隙間に差し、また弾を押し込んで……と、人によってはノイローゼにもなるとかならないとか、そんな話が流れるほど地味な作業だ。
「これ、俺の知ってる9x19ミリと違えンだが……」
「どの辺りが」
「薬莢はどう見ても真鍮じゃねェし、弾頭だってこンな銀色じゃねえよ。シルバーチップか?」
「ああ……最近は使われないからな、知らなくても仕方ない」
2人が今まさにマガジンへ押し込んでいる9x19mm弾は、銀の薬莢に銀の弾頭を備えているものであり、ヴァースからすると少々異質なモノだった。
とはいえ、いかにカインが神に仕え神罰の代行者を名乗っていたとしても、これは銀製の弾丸ではないし、特別な物というわけでもない。
「俺はお前らのように街中をふらふらしているわけではないし、毒ガスの中だろうが泥の中だろうが海底だろうが、罪人がいるのなら何日かかろうと何処へでも裁きに行く」
「脈絡も無く嫌味かテメ」
「まあ聞け。そうなると、あまりの悪環境に弾も錆びる事がある。そこでこれだ」
箱から取った1つを立ててみせると、さらりとヴァースに奪われてしまった。
「ハッ。こいつなら錆びねェって?」
「お前の関節よりはな。弾頭は115グレインのSCJCPHP、薬莢はニッケルメッキ、薬量は10パーセント増しのマグナムで初速は約330メートル毎秒だ。主に長期保存用の対人弾薬だな」
「今はともかく耐久性、ッてこったな。徹底してやがンなテメエ」
「お前達のように誰かが装備を考えてはくれない。……いや、元々私がその役割だっただけだ」
昔を思い出すように口にした言葉に察したのか、ヴァースは続けなかった。
かつて世界中が血眼になって追っていた連続猟奇殺人犯”カオナシ”は、本来2人組の犯行グループだった。白の短髪で顔が一切見えないカオナシと呼ばれる男と、茶色の長髪で仮面をしたツラハガシと呼ばれる女、その2人によって犯行は開始されたのだが、作戦立案や武器の整備をしていたのがカオナシことカインなのだ。
そうして数年、およそ100人以上が犠牲になった頃だろうか。世界にその名を轟かせた犯罪者は突如として半身を失った。喉から脳を無数に撃ち抜かれ、顔面は原形を留めないほどに焼かれ、その胸に残された1枚の書き置きは世界中に公開された。内容はただ1文のみ。
″if GOD is there save ABEL__by CAIN″
それは、誰にもカオナシを捕まえることはできないと人々に植え付けるには充分だった。
「安心しろ。その銃は俺が整備した、世界で1番信頼できる俺の銃と俺が選んだ弾薬だ、絶対に最後までやり遂げる」
「もしトラブッたらどうすンだ」
「神にでも祈っておけ」
「なら、懺悔の練習でもしとくぜ」
そうしてまた、地下室には無機質な音だけが響き始めた。
カチリ、カチリと1発ずつ丁寧に奥まで押し込まれた弾薬はその姿を綺麗に連ね、銀の姿はどこか威厳のようなものすら感じてしまう程に美しく、放たれる事を今か今かと待ちわびているようにも思う。元々は長期保存のできる自衛用の弾なのだが、それはまさしく希望を与えるにも相応しい姿なのかもしれない。
無機質な音ばかりでしばし退屈な作業をしていると、今度はカインから口を開いた。
「……ヴァース」
「ンあ?」
「お前、サニアに興味があるだろう」
「ッ──!?」
バチンと1発の弾がマガジンからすり抜け、ヴァースは振り向くこともなく声を強張らせた。
「…………テメェ、あの子らの前で言ったら後ろ弾な」
「恥じてるのか」
「ッたりめェだ。歳を考えろ!」
とんでいった弾をカインが拾い、ヴァースに投げ返す。
「この世界で我々の法や文化は忘れた方が身のためだと思うが」
「そういう問題じゃねェだろ! 大体なンでテメエがそんなこと知っていやがる!」
「あの子によく似た女には、お前のせいで散々な目に遭わされたからな……」
カインは遠い昔を思い出すように呟きながら、弾を込め終わったマガジンを置いて次を取り出した。
かつてヴァースと交際していた女性の1人が、どうにもサニアと面影が似ているらしい。その相手のせいでカインは軽症を負いはしたがそれっきりで、様々な協力者によって法から守られているために2人とも捕まることもなかったのだ。
カインはそんな事もあって覚えていたようだ。
「目的を終えるまでは手を出すなよ。あー、マガジンの1つはこれにしておけ」
「出すか莫迦が。……ンだこりゃ。9x19ミリにしちゃへんな形だな?」
「連邦で使われている徹甲強装弾だ。何かの役に立つだろう」
9x19mmが入っていた箱とは違う箱を開き、なにやら尖った弾頭を持つ同規格の弾薬を取り出した。
それはMP-443と共にカインへ密輸されたもので、硬い目標への貫通力は2人の使う弾薬の中で最も高いと言っても過言ではなく、ヴァースに渡されたレベルⅢAの防弾衣すらも貫通する威力を持っている程だ。
「ッてこたあ、気軽に使えンのはピストル2マグだけかよ」
「比率を変えるのは構わないが」
「……持ってく9x19ミリを増やしてくれ。あと、俺にAPは要らねえ」
「スラグもあるからな……。俺の予備の弾倉1本ならいつでもくれてやる、優先して使え」
ヴァースは渡されたAPマグナムの箱を押し返し、先程と同じ銀色の9x19mm弾を詰めていた。
「そいつァ助かるが、ピストルが2本でやってけンのか?」
「有るだけマシだ。ライフル1つでもあらゆる距離に対応できるよう、幼い頃から訓練を受けてる」
「そりゃ俺たちが勝てねェわけだ。ヘッヘッ」
ピストルの弾が詰め終わったところで、唐突にカインは立ち上がって何処かへ消えてしまう。
特に気にした様子もなくヴァースは弾薬箱をいくつか開け、お目当ての弾を見つけたのか手を突っ込んで無造作に取り出したのは、暗い緑の胴体に黒の底部分を持つOOバックショット弾と、白のケースに金のロンデルでできた翼付きサボットスラグ弾のショットシェルだ。
ヴェープル12SPのボルトハンドルを引いて排莢口からショットシェルを1発入れてボルトを離し、再びボルトを勢い良く引くと入れたばかりのシェルが飛び出して床へと転がった。
「……ま、あいつが間違うわけもねェな」
信頼と諦めの混じった溜息を吐き、野暮ったい程に大きなマガジンにショットシェルを詰め込んでいく。
用意されたマガジンは10発仕様のもので、その大きさはかなりのものだ。銃によって様々なマガジンが存在するが、これは一般的に大型とされる7.62mm弾を使うマガジンより巨大であり、その取扱いには多くの人が難儀する。無論、カインが渡した各種ポーチのキットはそれを見越してフリーサイズのモノが多い。使えないことはないのだがそれをどう配置しようかヴァースは悩んでいた。
「弾を転がしておくな。死にたいのか」
「おっと、ワリィ……なっ?」
両手になにやら色々と持って帰ってきたカインは、手が使えないからと床に転がっていたショットシェルを魔素でできた蛇に咥えさせて投げ返してきた。
……のだが、蛇の動きは何かにぶら下がっているかのようで、せいぜいアンダースローで山なりに投げるのが精一杯だったらしい。
「便利じゃねェか」
「マジックハンドくらいにしかならん」
「第3の眼とかってなァよく見るが、腕はどうなンだ」
「物を拾う時に屈まなくていいのは膝に優しいな」
「そりゃァ地味に羨ましいぜ」
地味ながらも切実な羨望の眼差しを受けながら、蛇は照れたのかそそくさと消えてしまい、カインが荷物を置いた金属音だけが残った。
今度は何を持ってきたのかと訝しむと、予想できないこともないが、ヴァースはまさかそんな物までと思わされていた。
灰色の筒のような物が大中小と3つ。銃口に取り付けるアダプターと、地域によっては違法性すら問われる特殊な発射音減音機2つだった。他にも手に余るような大きさの無線機やそれに接続するためのヘッドセットがいくつかと、ペアでビニール袋に個包装された耳栓、他にも様々な小物が転がっている。
もはやどこからコメントを挟めばいいのかわからないヴァースは、静かに溜息を吐いて自分をごまかすしかない。
「無線機はわかンだけどよ、なンでサプレッサーまで」
「あの子たちの耳を潰すつもりか?」
「そンなら耳栓だけでもいいだろ」
「あのな……」
椅子に座り直したカインがKTR-08のストックを下に床に立て、銃口についていた3つ叉のフラッシュハイダーをレンチで掴んで捻り始めた。固定が緩むと今度は両手でキュルキュルと回して取り外してしまう。
「ただでさえ音が大きい7ミリと12ゲージを耳栓型だけで防ごうとすると、自然と会話も難しくなるだろう。我々は慣れているからいいが、あの子達と戦闘中に意思疎通が取れなくなるのは危険だ」
「だったら集音機付き耳当てに」
「バッテリーの要数を増やしてどうする。それと、エルフの耳に使えるとは思えん」
「……都合良くはいかねェな」
「世界はファンタジーでも、生態はリアルだ。むしろ言葉が通じるだけ大いに恵まれている」
今度は幾つかのスリットと四角い穴が空いた物を差し込み、逆の手順で締め込んでいく。手締めの後に壁に向かってKTR-08を構え、角度が正しいのを確認してから専用のレンチでしっかりと締め込み、最後に筒状のサプレッサーを被せてロックをすると満足そうに「よし」と呟いた。
「ケッ。連射対応のサプかよ……しかもマズルブレーキまで」
「下部フレームは単発限定モデルだがな」
「なンでそこだけ法遵守してンだ」
「フルオートは弾の無駄だ。使う状況になる時点で積みだろう」
そう口にするだけの事はあり、事実この地下室にフルオートが可能なライフルは1つも存在しない。様々な支援者からそういった物も納入されているのだが、ことごとくカインは機能を潰してしまうのだ。一応は町民に貸与する事も前提らしい故に、そういった事も考えてあるのだろう。
過去、個人で活動する前はフルオートが可能な物はそれなりに持っていたようだが、使いもしない機能なので無くても構わないし、なによりその方が入手が容易な為に自然とそうなったらしい。
「お前のにはこれを付けておく」
「サルヴォ12……の10インチか? 組み合わせはどうしてンだ」
「フロントからBBBCBCBCだ」
「つまんねェくらいに普通だな」
「面白味なんぞ要らん。さっさと弾込めを終わらせろ」
カインはKTR-08と同じようにヴェープル12SPも先端のパーツを付け替え、ショットガン専用の大型サプレッサーをアダプターを介して装着させた。取り外したマズルブレーキは棚に仕舞うわけではなく、持ってきた小物の中に混ぜてしまう。
するとまたもや席を立ち、今度は梯子の掛かった角とは正反対の部屋の隅にあるドアを開け、中に入るなりわざわざドアをきちんと締めて施錠までしていた。
「…………野営具は最低限にしておくか」
武器庫ほどの大きさはないが、アパートメントのワンルーム程度はありそうな広さだ。壁中に張り付けられた人の仮面の様な物と、同じだけの誰かの写真、様々な地域の航空地図やどこのものかもわからない見取り図、そういった物が壁が一片たりとも見えない程に張り巡らされているためか息苦しさすらも感じてしまう。中央に置いてあるテーブルのせいもあって回廊の様になっており、そこに幾つも転がっているパッキング済みオーガナイザーから4つを選び取り、床に投げ捨てられていた3dayサイズのアサルトバッグに手をかけて急に止まった。
「誰かと旅をしようなんてのは、何十年ぶりだろうな……。なあ、アベル」
部屋の一角。
奇麗に畳まれた女性物のキャソックと白いクロブークの上に、外装は酷く汚れてフロントサイトが折れているマカロフ拳銃と、NR-40と呼ばれる細身のナイフが置いてあった。
カオナシ
自称:カイン
本名:???
種族:人
職業:無職
特技:キャベツの千切り(料理が上手いわけではない)・スキニング
特殊技能:無顔の呪い(被害者)
サニア・ルルイラフ
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
特技:火起こし
特殊技能:神託
エレイン・カーボネック
種族:エルフ
職業:弓の教官→神官
特技:裁縫・交渉(笑顔ごり押し)
技能:神聖魔術・弓
ヴァーテル・スレイム
種族:人
職業:刑事
特技:錆落とし
特殊技能:刑事の勘
KTR-08
AKを素体にサイガのレシーバーを使って合衆国のメーカーが組み上げたフルカスタムコンプリートモデル。
信頼性をそのままに拡張性や使い勝手を引き上げた物。
外装を素のまま使うカインにしては珍しく、非常事態ということでゴテゴテと多量のMODを装着してサプレッサーまで付けている上に中も外もはカスタムパーツがモリモリでSIX12を無理矢理アンダーマウントされているためハイパーフロントヘビー。弾無しで計5kgオーバーがグリップより前にある。スリング必至。非常事態だから……(震え声)
弾は7.62x39mm
SIX12
リボルバー構造のユニット式ブルパップショットガン。
10.5inchバレルにバーティカルグリップを使用することでフォアグリップ変わりにしている。
本来AKにつけるものではないし想定もされてない。非常事態だから(ry
弾は3inchまでの12ga(12x70を使用)
ヴェープル12SP VPO-205-00
サイガの従兄弟に当たるAKフレームのセミオートショットガン。サイガとはマガジンの着脱が違ったりボルトがホールドオープンできたりする。サイガのマガジンを一方的に使える。
サイガほど口径バリエーションが無く、残念がらカインの要求を満たす7.62x39mmモデルは無かった。統一させろ。
ショットガンモデルは過去に使用経験が有るため、その際に使い勝手を考えて各部へカスタムパーツを組み込んである。追加でサプレッサーが装着された。
弾は12x70
MP-443
強装弾に対応したピストル。
衣服の下に収める事を想定された作りになっているが、秘匿目的の構造ではない。
強度面からフルスチールの国内向けモデルが選ばれた。
SCJCPHP
JHPの上から更にクロムを付与することで作られた弾頭。腐食に対して極めて高い耐性を持ちながら性能が劣るどころか上がっている。
9x19mmのくせに1発辺り1ドルを超えるトンデモコスト。