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ANXIETY 4-4

次は2月かもしれない。

「言い忘れていたが、拳銃(ピストル)も更新するぞ」

 エレインやヤコたちも眠り、月が人々を見下ろす頃。

 用事があるとだけ言い残してどこかへ消えていたカインが戻ってくるなり言い放ったのは、驚くべきか当然と思しきかは微妙な線にある事実だった。

「また変なのじゃねェだろうな?」

「いや、極めて一般的(ポピュラー)だろう。Gシリーズ(タッパーガン)だ」

「……悪いもンでも食ったか?」

「半人半獣の料理をそう定義するならな。──本来なら更新する必要はないが、可能な限り共用できるよう揃えるべきだ、特に部品やマガジンを」

今まで使ってたの(MP-443)はもうないの?」

「キャベツとは違うからな。とはいえ他にも理由がある。魔王領までの間に砂漠があるらしく、MP-443(このまま)では適切とは言い難い」

 この武器庫に現存する拳銃において、動作可能な上で3つ以上保管されている物は極めて少ない。

 本来であれば最も使いやすいと思う物を選べるのが最善とも言えるだろうが、それはあくまで個人単位の話、集団となってしまった以上は他にも要項として浮かぶものが数多くある。

 部品の共有などはその最たるものだろう。他にも、マガジンや弾薬といったものを揃えておけば有事においてそれらを受け渡すことも適うし、仮に予備の部品が尽きたとしても破損部位が異なれば1つを生かすこともできる。

 彼らが成そうとしているのは映画やドラマの無謀な博打ではない。緻密に計算された軍事的活動でもない。

 目的の為に最善を模索する。それ以外の全てを切り捨てて歩む茨の道。

 備え、不要ならば捨て置き、必要なものだけが残る。ただそれだけだ。

「そも、KTRやヴェープル、MPを使っていたのは即時に持ち出せる用意があったのと、環境による汚染や不備(アクシデント)からの復帰が容易だからだ。だが、現状観測した限りそこまで酷い地域はなく、現地民ども(あいつら)の話ではこの先にもほぼ無いと言っていいらしい」

「ンで、入れ替えるわけか」

「そうだ。どこぞの軍でコンパクトモデルのGシリーズがマイナーチェンジされ、採用された話は記憶に新しいだろう」

「ってこたァ、G19Xか? でもありゃ」

「ああ、持っていない。しかし私は───これでも普段は法に則った民間人だ、そして法的な区別はともかく職人だ。求めている性能が足りないのなら、どうする?」

 ぴたりと指先を合わせた両手を見せびらかせば、ヴァースはそれをニヤリと笑って肘で突いた。

「テメェ、魔改造しやがったな」

「この半日で3丁分の制作なんぞやっていられるか。市販されている部品を用いた極めて簡単(イージー)な改造だ」

「……違法性は」

「ああ…………一応は違法ではない。いくつかの税金を収めていないことと、許可の出ていない弾薬を除けば」

「毎度毎度はっ倒すぞ、ンのクソ野郎!?」

「密輸されたものに対してそう言われてもな……。しかし、おかげで我々はより安全に目的へ近づける。一応にも警官の助けになるわけだ、司法取引の一環ということにはならないか」

「そういうのァ裁判所で言うンだな!」

「そうか。ならお前も令状を持ってくるといい」

 お互いに出来もしないことを言い合いながら、カインが雑多用に使われる(ユーティリティ)ポーチを3つ取り出した。

 やや厚みのあるそれはARのマガジンならば4本はすんなり入るだろう。話と噛み合わない外見は疑問を抱くのに十分だ。

「ンダそりゃ。4重式弾倉(ファットマグ)でも入ってンのか」

「いや、次のピストルセットだ」

「……Gシリーズ(タッパーガン)つったよな? 小さすぎやしねェか」

「幾つかの条件を考えた結果、自然とこの形になってな」

 渡されたそれを開けると、なんとも意外な形に変形しているピストルと、更には極めて大型のサプレッサーまでもが一緒に入っていた。

 目を引くのは変形したピストルそのものもだが、それともう1つ。なにやらスライドの後ろへ突き出すように奇妙なパーツがついている。

「なにこれ。フック?」

「ロングマグと……サプレッサーか、こりゃ。まァた変なフレームセットだな」

「普段は関係ないが、そのうち必要になると思ってな。1つずつ説明しよう」

 ポーチに入っていた物を全て並べると、それらが一般的な支給セット(パッケージ)とあまり変わらない──いや、むしろ簡素な物なのは明らかだ。

 グリップが根本から前方へ折れ曲がり変形しているものの目立つカスタムパーツの類いは1つしか見当たらないピストルと、折れ曲がったグリップにセットされた弾数拡張弾倉(ロングマグ)、予備であろう同じ大きさのマガジンが2本。

 それと極めて大型のサプレッサーだ。いっそ折りたたまれたピストルと同じ位はある。

「グロック19、M3Dカスタムロアー。見ての通りグリップを根元から前方へ折り畳めるようにされたカスタムフレームグロックだ。本来なら畳んだ状態で簡易式なロックが働くが、ロックと可倒式トリガーガードがサプレッサーと干渉するから排除(オミット)した」

「じゃあなンで組ンだ」

「通常時はホルスターを用いた運搬でいいが、時と場合によってはそれが難しいかもしれん。その時のためだ」

「お得意の暗殺とかか?」

「そうだ。現地の衣服を身に纏う場合、我々の持つホルスターでは対応できない。マガジンもそれに合わせてクリップを装着した」

 グリップを起こせばカチリとロックがかかり、その姿は慣れ親しんだコンパクトピストルとなった。

 加えて、全てのマガジンには下部に簡素なクリップを備え、容易に様々な所で保持できるだろう。専用のポーチだけでなく、ポケットや衣類の淵など場所を選ばない作りだ。

「そーかよ。ンで、そのスライドの後ろにくっついてンのは」

腕部装着型安定器(アームブレース)頬当て(チークピース)だ」

「よゥしわかった、脱法ストックだな。お縄にかかれ」

「まあ待て。この刻印を見ろ」

「ああ? ……”ストックではない”だァ? ンな子供騙しが通じるかボケ」

「法的問題は無いパーツだ。とはいえ、ストックとしても使うが」

「やってみろ、逮捕だ」

「そうか。ならそうしてみろ。異世界(ここ)に該当する法があるのならな」

 トリガーの上に設置されたレバースイッチを押し込むと、スライドの後ろに伸びていたパーツが大きく飛び出した。

 法的に許容されている長さギリギリに作られたそれはストックと呼ぶには短く、安定器とするには頼りなく、頬に当てるには細すぎる。どこをとっても中途半端と思えるが、わざわざこれを取付たことには意味があるんだろう。

「いい加減、頭を切り替えろ。この世界はお前の管轄でもなければ、お前の信じる法の下でもない、適用できるのは拉致されたマリーの救出だけだ」

 国境を、それどころか世界などという理解の及ばない枠すらも越えてしまったのなら、その果てで自国の法に当てはめるなど強欲にも程がある。

 彼の信じる正義はここには無い。

 暗に都合良く解釈させようとしたのが正しかったか、あるいは。

「……それがテメェの娘ってのが気にかかるけどな」

「犯罪者の娘では気が乗らないか?」

「ンなわけあるか、あの子に罪は何1つありゃしねェ、市民とその権利を守るのが俺の役目だ。テメェに恩を売るってのが妙な気分なンだよ」

「普段は押し売りをする癖に、よく言うな」

 再びトリガー上のスイッチを押し込んでブレースを縮め、グリップに隠されたレバーとマグキャッチを操作して折りたたんでしまった。

「ブレースは単純なワイヤードリトラクタブルストックと同じ操作だ。ロックレバーはトリガーの右側面上部にある。グリップを折る時はグリップ後部にあるレバーを使え」

「30年でこんなピストルが生まれたんだ……」

「どう見ても脱法改造だろ」

「違法ではないな。まあ、この2つを組み合わせるのには加工を要したが」

 本来はグリップをロックしているレバーとブレースの接続部分が干渉するようだが、カインはその部分を排除しても問題ないと断定したようで切り落としてしまったのだ。

 他にも妥協として排除している部分は多数あるらしく、彼の要求が極めて特異なのが伺える。

 それは異世界だからなのか、あるいは彼だからなのか。どちらもか。

「操作は直感で理解できるはずだ。やってみろ」

「いくらコンパクトオートっつっても、ここまでくると州によっちゃアウトじゃねェのか」

「グリップを立てて、このレバーを……わっ! 飛びでた!」

「持って行く銃の都合上、今後はこいつが最終自衛手段(リーサル)を兼ねる事になる。操作に不都合はないと思うが、何か質問は」

「はいはーい。装填状態(ホットロード)でハンマーダウンってできる? ていうかハンマーどこ?」

「無理だ。発砲不可状態は未装填かグリップを畳んだ時のみになる。暴発は基本的にしない構造ではあるが」

「あ、そなんだ。じゃあ未装填運用かな」

「判断は任せる」

 渡されたM3Dを2人がいじっている横で、カインはポーチに入っていたサプレッサーを銃口下のレールに差し込んで見せた。

 真似るようにヴァースが装着してみれば、重心の変動が気になるのか何度か構えては降ろし、また構えて握り直す。もはやピストル本体よりも大きく思えてしまうそれは、脱着が極めて迅速簡易である代わりに巨大になってしまったもので、ピストルを使い慣れているからこそ気になってしまう点なのだろう。

「脱法ストックにこの規模のサプレッサーまでも着くと、いっそピストルカービンに思えてくンな」

「フォアグリップでも欲しそうだな」

「いっそアリかもな。マグナム(+P)を使うンなら実用的だ」

「可能ではあるが、サプレッサーに着いているアンダーレールはそのための物ではない。より戦術的運用を前提にライトかホルスターアタッチメントを選べ」

 言葉と共に転がされたアクセサリーから2人が選び取ったのは、どちらも迷い無く戦闘用のフラッシュライトだった。

 カインは予期していたかのように小さく笑い、続けて奇妙な形のホルスターをも投げ渡した。本来の全周を覆う形ではなく、競技用に特化したような形に見えるが……。

「ライトアタッチメントホルスター。使用可能なライトは限られるが、ピストルを選ばず運用できるホルスターだ。これを使えばサプレッサーを付けたまま運用できる」

「サプレッサーを外してる時はどうすンだ。ライトを付け替えンのか?」

威圧的運用(ハイプロファイル)の時だけ外せ。我々だけならまだしも、有事の際に協力者の耳を潰すのは避けたい」

「獣人とエルフしかいないから、たぶんサプレッサーあっても辛いと思うけどね」

「……誰かが起きた頃合いで試すとしよう。なんであれ、あいつらの聴覚保護具(プロテクター)は新調する必要があったからな」

 先日、ワイバーンを誘うためにライフルを撃った時は害の少ない音域まで減音できるサプレッサーが付いていたにも関わらず、ヤコは1発目から難聴をひき起こしていた。

 相性の悪い超音速弾、更に銃の構造も相まって十分な減音効果がなかったとも言えるし、ただ単純に獣人の聴力故かもしれない。だが、何かしらの保護を施さない限り誘発することは確かだ。

 カインが思い出す限りではエルフの耳も人間とは多少異なる点がある。これまでに使わせていたイヤープロテクターも本来の性能を発揮出来ていないだろう。

「魔法だなんだがあるのなら、聴覚保護ができるなんらか(トンデモ)があってほしいものだがな」

 カインが聞いた話では音に関する魔法魔術の類いは存在するそうだが、それらは完全に”遮断”することしかできないらしく、彼の求めるものではない。技術的なものなのか、認識によるものなのかは不明にしても未熟と言えてしまう。

 ヤコ曰く、元々は狩りで使われていたものが盗賊や戦争用に派生したとかなんとか。そのせいもあって自身の発する音を局所的に遮断するか、あるいは短時間自他共に音を完全に遮断してしまうそうだ。

 都合良くはいかないものである。

「俺らのは継続か?」

「お前はな。私はアベルに渡すものと同じイヤマフに変える予定だ」

「お揃いだね」

「あン? 贔屓か?」

「戦術的判断だ。見ればわかる」

 いつの間にか引き寄せていたワゴンからヘッドホンのような物を2つ取り出し、片方をアベルへと投げつけた。

 ヴァースからすれば、それは極めて見慣れた電子式の聴覚保護具だ。物理的に音を減少させ、周囲を音を電子的に増幅し銃声だけをカットするありふれたイヤマフ。……に、通信機と接続して使う機能のついたものだろう。

 とはいえそれだけではヴァースも理解が出来ないらしく、眉根を歪めるばかりだ。

「……ンで?」

「短距離通信機能付きのモデルだ。範囲は限られるが、通信機(ラジオ)を介さずに使える」

「場合にもよるけど、装備類って邪魔だからありがたいかも」

「一応古い世代の通信機(ラジオ)は渡しておくが、これ単体でも通信は可能になる。荷物を放り出してやたらと動き回るお前には丁度良いだろう」

「ヘッドセットにナイトヴィジョンに……ヘルメットでも持ってかねェと辛くないか?」

「だろうな。可能なら考えたくはなかったが……同行者(あいつら)にも荷運びを頼むことになるかもしれん。あの村と違い 、期間も環境もわからなければ魔獣や魔物(UMA)とも対峙することになる可能性がある以上、携行できる限りの装備を揃えたい」

 彼が考える限り、状況は最悪だ。

 これまでに長距離を徒歩で動く機会は数あれど、相手の居場所や装備はある程度予測ができた。更に言えば各地に協力者がいるために現地付近で武装を整えることもできたが、この世界でそういった手段は一切不可能と言っていい。

 足跡を追いながら未知の環境を踏破し、1度たりとも装備の補給ができぬままに勇者に辿り着く必要がある。その間に何が待ち受けるのかすらわからない。

 なにが、いつ、どこで、どれほど起こるのか。

 健常者が目と耳を塞いでトライアスロンを走破しようとしているようなものだろう。

「車ぐらいは欲しいところだ」

「ATVとかな」

「まあ、ガソリンが無いんだが」

 なんとも、現実は非情である。

「だったら、馬でも使おうってか?」

「私とアベルは鞍無しでも乗れるが、お前にできるのか」

「だァら、どうしてテメェらはそうなンでもできちまうンだよ」

「野生も多かったしね」

「現地で調達できる手段として学んだからな」

「ボクは熊も乗れるよ」

「わかった、テメェらは参考にならねェ」

「田舎で暮らせば乗馬程度は身につくと思うが」

 都会で生まれ育ったお前には酷な話かもしれんな。

 挑発とも取れそうな言葉に引っかかる所もあったようだが、ヴァースは慣れたように鼻で笑って受け流してしまった。この程度では軽いジャブにすらならないようだ。

 そんなことはどうでもいいのか、あるいはいつも通りのやりとりなのか、カインも気にすることなく次々とワゴンから装備品を取り出して並べ始めていた。

「ヴァース、ナイフは何を持ってる」

「何っつったって、普通の折り畳み(フォールディング)を」

「なら、これも持て。雑多用(ユーティリティ)だけでは不足する」

「まるで軍に入った気分になるぜ……」

「お前ならクレヨンも食えるだろうな」

 取り出した品々の中から10インチほどのナイフを鞘ごと渡せば、溜息を隠しもせずに刀身を眺めていた。

 大きめのヒルトがついたそれは小細工には不向きな程に大きく、あからさまな程に攻撃的な形状だ。彼の言う”不足”がどういった方面に対してなのかは確認するまでもない。

「おねーちゃんのは?」

「出来損ないのカランビットは捨てろ。それと、今後は制圧用刀身(コントロールブレード)の必要はない」

「……この刀身(ブレード)見るの、訓練の頃以来かも」

 アベルに渡されたカランビットナイフは形状こそ彼女が持つ物と大差無いが、刃の部分がやや異なっていた。湾曲の内側だけではなく外側にも刃が付き、いかにも殺傷用途といった様になっている。

 起源である農具としてではなく、それを用いて生まれた武術としての道具。敵を制するためではなく、より確実に死へと追い込むための。

「これもお前が持っておけ」

「っとと。これ、ボクが使ってたナイフ?」

「ああ、遺品だ。蘇った奴の遺物をどう呼ぶのが正しいかは知らんが」

「ふーん……へー? んふふー?」

 カインが左腕の鞘からナイフを抜き放つかのごとく投げ渡し、それをいとも容易く受け止めたアベルは誰が見ても苛立つほどのにやけ顔を隠しもせず、ただただカインの周りをうろついて覗き込んでは意味深な声を漏らしていた。

 悪趣味と言うべきか、挑発的と言うべきか、端から見てるだけのヴァースですら呆れてしまう程の表情は彼らが何者かも忘れさせるような、どこにでもいそうな平和な景色に映った。

 話題が極めて物騒なのが傷だが、彼らならばそれでこそとも言える。

「ヴァース、コブラを返せ。今後はグロックが担う」

「あー……最終手段(バックアップ)がオートマチックってのは信用できねェ。持ってかせてくれ」

「あ、おねーちゃんも同じく」

「……。携行数を鑑みると、予備の弾薬は極めて少ないが」

「2回分もありゃ十分だ。頼む」

「そうか……。いや、構わん。アベルはこれを使え」

 カインはブーツに取り付けていたホルスターごとコブラを外し、アベルに装着するよう手渡した。

 素直に承諾したのが意外か否か、ヴァースはどうも驚いているというか、なにか訝しんだように眉を寄せながらも小さく”ありがとよ”とだけ呟き捨てていた。

「気持ち悪ィくらいに素直じゃねえか」

「かつて背を預けた奴が、オートマチックの動作不良(マルファンクション)で致命傷を負ったからな」

「余所見しながら傷口抉るの得意だよね」

「お前の場合、信頼性云々による故障ではなかったがな。無断で強装(PMM)弾を使っていたろう」

「ん? うん。それが?」

「それが原因だ。各部の寿命は通常(PM)弾で計算していたせいで、よもやあのタイミングで破損するとは思っていなかった」

 銃には弾薬への適正が存在する。

 これは口径に限った話ではなく、全長と口径の他にも弾頭の形状や表面処理によって相性があったり、弾薬に使われる火薬の量によっては過剰に銃を痛めてしまったりと重要なものだ。表記上同一口径とされる5.56mmNATOと.223に相互互換性は無くイコールではなかったり、銃によっては円錐形(スピッツァー)型の弾頭以外では給弾不良を起こすものもある。

 そうした給弾や排莢を起因とする動作不良の多くを無視できるのが回転式弾倉(リボルバー)タイプの利点とも言えるだろう。

「えっ。あれって専用弾じゃなかったの?! 口径は独自規格だったはずなのに!」

「PMM弾はPMの後継であるPMM専用に作られた弾だ。PMMにPM弾は使えるが、PMでPMM弾を撃てば強度不足を引き起こす」

「なんて?」

「黙って私が指示した弾を使えばいい」

「それは原則?」

「私の指示が届かない場合を除いてな」

「ん、わかった」

「そいつァ俺もか?」

 黙って横で聞いていたヴァースがニヤけ面で横槍を入れれば、カインは鼻で笑うように「そうだ」と付け加えた。

 持ち込む弾の特性を最も理解しているカインが判断すべきであるというのはわかるが、些か個人の判断を蔑ろにしている気がしないでもない。

 しかし、それもいつものことなのか、ヴァースも咀嚼するように頷くだけだった。

「ヴァースに渡したコブラは操作面に変わりないが、アベル、そのコブラはアイアンサイトが簡易式に置き換えてある。気をつけろ」

「簡易っていうか付いてないよね」

「代わりにセンターラインの溝が彫ってあるだろう」

「あー……。これで狙うの?」

「近距離では必要十分だ。なまじ大層な近距離用(コンバット)サイトよりも衣服等への干渉が極めて少なく、迷う要素も少ない」

「……それがテメェにとって最良のサイトなのか」

「そうだ。切削面を見ろ。フロント側の先端にトリチウムカプセルが埋め込まれているだろう」

「細けェなおい……」

「お前アイアンサイトにはリア、フロント共にトリチウムカプセルと蓄光のホワイトドットを入れて視認性を上げてあるはずだ」

 ヴァースが脇のホルスターからコブラを抜いて確認してみれば、確かに3点のトリチウムカプセルが埋め込まれていた。用意が良いと言うべきなのだろうか、心配性なのか。あるいはただのマニアか。

 悩んでいる間にもカインは新たなピストルを1つ取り出し、やや平たいようにも思えるそれを何度か弄っていたものの身につけることはなく、グロックの隣に置いて溜息を零していた。

「それは持ってかねェのか」

「ああ……いや、悩ましいところでな」

 再び手にするなり9mm弾にしても細すぎるように思うマガジンを引き抜き、無意味にスライドを引いては戻してを繰り返すこと数回。やはり彼の中で答えは定まらないのか、もう1つのピストルをパンツベルトから引き抜いた。

 ZIP.22──これまで彼が最も愛用した、最も信用ならないピストルだ。

「出たなリベレーターもどき」

「単発式ではないがな」

「撃てねえンだから似たようなもンだろ」

「2発目が撃てる事もあるぞ」

「なにその牛の糞と馬の糞を比べるような不毛な言い争い」

「まーァどっちもクソだしな」

「否定はしないが、これはこれで利用価値があったものだ」

 ZIPからマガジンを引き抜いたと思えば、カインは唐突に銃口をワークベンチの角に叩きつけた。それと同時にZIPから飛び出た弾を拾い上げ、レンジの中へと投げ捨ててしまう。

 脱弾……にしても乱暴が過ぎる。

「なーにしてンだ」

弾抜き(アンロード)だが」

「マジかよ」

「知っての通り、ZIPは欠陥が凄ま……癖が強くてな。こうでもしないと弾を抜けない事が多い」

「欠陥って言ってンじゃねぇか」

「こんな物を買うぐらいなら、レンガブロックでも買ったほうが利口な選択だ」

「本当に利用価値あったの?」

「銃としての価値は……考えない方が得策だろう」

 そうして並べられた2つの小口径ピストルは全く異なるシルエットを映しながら、己に求められるものがなにかを暗に語りかけていた。使用する弾薬こそ同じだが、設計思想からして全く異なるこれらは対極的にも近い存在だ。

 ZIPはその携帯性から来る秘匿や予備としての側面が強いものの、致命的な完成度のせいで武器としては価値が無い。

 対して、もう1つの22口径ピストル──CP33は、同じ弾薬をいかに主要な武器として成り立たせるかを突き詰めたものだ。小口径故のコンパクトさを半ば捨て去り、極めて多い装弾数と拡張性、多くの条件下で良好に動作する信頼性を用いて"数多く当てる"ことを主眼にしている。

 今後の事を考えるのであれば、そもそもとして22口径を選択すること自体が間違っているような気がするが……。

「素直にリボルバーでよくねェか?」

「元よりZIP(こいつ)を銃とは見ていない、これは天秤と剣を合わせた審判具だ」

「ンなこと言ってたな。ま、後で後悔しても俺は知らねェぜ」

「だろうな。……私のことはさておき、 話を戻そう、2人の装備に関してだ」

「銃の他にもなにかあるの?」

「当然だ。武器だけで勝てるのは非現実(シネマやドラマ)に限る」

 ピストルのことなど無かったようにワゴンから引きずり出されたダンボール箱を開けば、先日ヴァースに選ばせた時のような布製の装備品がごっちゃになって詰め込まれていた。中には樹脂部品を使用したものや、今となっては旧式と言えるような大戦期の物まで、どういう基準で選んだのかが不明なほどバラバラな装備品ばかりだ。

 それを見て良い顔をしたのは1人もいなかったが。

「ヴァース、問題はお前だ。口径の都合上、お前の携行弾薬数は少ない。レッグリグとファストベルトもきちんと組んでもらう」

「……つったって、具体的にゃどうするンだ」

「まずもってはベルトだが、組み合わせ(セットアップ)は共通性と汎用性を重視するために全員で同じ組み合わせを基準にする」

「根拠は」

「経験だ。マガジンなり、何かを拝借するとき個々人で配置が違うと手間取るからな。おおまかにだが制限を設ける」

「へっ。運命共同体ってことかよ」

「共用が可能なよう、口径を揃えているわけだからな」

 意図を理解したのか、諦めるようにヴァースはほくそ笑んでいた。

 隣で眺めているはずのアベルはただただ傍観しているばかりで、なにを訊く必要もないのか、あるいはその意味がわかっていないのか、それとも興味がないのか。そのどれでも構いやしないのか、カインも特に確認せず話を進めてしまった。

 長々しい口上を垂れながら用意された2本のベルトは機能こそ同じものだが、その構造やメーカーは全く異なるものだった。それでも構わない、ということなんだろう。

 続けて引っ張り出されたいくつかのポーチも色は全て黒で統一されているものの、やはり細部の構造や微妙なサイズの違いがあるようだ。外見は全く同じようでも取り付けられているメーカーロゴが異なっている。

腰回り(ベルトキット)には最も汎用的かつ優先順位の高い装備を並べてもらう。ピストルマグとライフルマグを2本ずつ、弾倉保管嚢(ダンプポーチ)雑嚢(ユーティリティポーチ)応急処置具(IFAK)止血帯(TQ)、ピストルホルスターの他、空きがあれば手榴弾(グレネード)類やナイフを装着しておけ。配置もある程度は指定する」

「俺は収まるたァ思うが、テメェの場合はどうなンだ」

「今述べたものは十分に配置可能だ。既にそうなっているからな」

「そーかよ。ンで? 配置ってなァどれだ」

「実際に見せたほうが早いだろう。アベル、脱げ」

「はーい」

「脱ぐなバカ! やめろ! テメェもなに言ってやがる!」

 すぐさま衣服に手をかけたアベルに迷いはなかった。

 素直を超えて従順か、服従にも見えるが問題はそこではない。制止も虚しく隙間から覗く肌はその面積を増やし続け、いつしかヴァースは背を向けてしまっていた。

 度重なる衣擦れの音になにを考えているのやら、彼の想定するようなものとは程遠い、しかしそれでこそともとれるいつも通りの淡々とした声が混ざっては消え、最後には面ファスナー(ベルクロ)特有のバリバリとした音が響いて事を終えるのだった。

「なにこの服。動きやすくてキレそう」

「理解し難い沸点は相変わらずだな」

「切れそうなのはクーパー靭帯だけどね」

「……私物は当時のまま残してある。心当たりは」

「あ。じゃあブラとかあるかも、取ってくる。ここからだと……左奥だよね」

「中の管理まではしていない。埃は適当なダクトの傍で落としてこい」

 カインが渡した服に着替え終えたアベルが螺旋階段を登っていき、ようやくヴァースが体の向きを戻していた。

 この僅かな時間でなにがあったか、その顔はやつれている。よほどの心労があったのだろうか。

「他人が居るってのに脱がせるとか、非常識にも程があンぞ……」

無法者(バンディット)だからな」

「ったく。なにに着替えさせたンだ」

「そこらのコンバットシャツとオペレーターパンツだ。見てわかるだろうが、胸部を除いて俺とあいつの体格はほぼ変わらん。共用できる程にな」

「ンで、ブラ無しと……。振り返ンなくてよかったぜ」

 どうやらそういった事への免疫がないらしい。

 彼の経験がどうであれ、苦手なものは苦手なんだろう。カインも茶化す事無く無視していた。

「…………。ヴァース、耳を貸せ」

「着脱式じゃねェぞ?」

「切り取る価値も無い。……アベルには注意しろ」

「はァ? そりゃ制御不能ってことか」

「いや……。あいつが本者かは未だに疑っている。それだけだ」


 単身地下1階へと戻ったアベルが目当ての部屋に入ると、ドアの周りに溜まっていたであろう埃が積雪のように降ってきた。

 彼女の知る限り、その光景は表層が出来上がっていること以外はなにも代わり映えしない記憶通りの姿で、クローゼットやチェストの中身も確認する限りは何1つ動かされた形跡がない。

「いつになっても虫1匹いない辺り、さすが虫嫌いのカインなんだけど……」

 洋服が犯されているようなこともなく、ましてやダクト伝いに鼠や虫が入ったような形跡もない。蜘蛛の糸すら見当たらないのには徹底ぶりが伺える。

 だが、だとするならば。

「ここに……あるはず」

 当初の目的とは違い、アベルは木製のデスクに備え付けられていた引き出しの1つを抜き取り、中身が無いのをいいことにひっくり返してしまう。

そして大地には(イ ラスティニア)草木が生まれた(ロヂリス ノズミア)──────あれ?」

 なにかの1節を意気揚々と唱えていたアベルとは裏腹に、引き出しの裏面に刻まれていた文字はやや違うものだった。

 刻まれた言語は変わらない。考えずともその意味がわかる。

 だが、あるべきはずの場所には別の文言が重なっていた。

そして神は大空(イ ナズヴァ ボゥ)を天と呼んだ(トウェド ニァボン)…………? 待って。待ってよ。これは……これじゃあ、この世界は……。ううん、違う。それはありえない。だって今のカイン(・・・・・)とはつじつまが合わない」

 なにか彼女の中で誤算でもあったのか、これまでからは想像もできないほどにその声は震えはじめていた。

 なにかを間違えているんじゃないか。思い違いなんじゃないか。そう思って思い出せる限りの記憶をいくら掘り起こそうとも、それらがアベルを納得させることはない。頭を巡る情報全てが彼女を惑わすばかりだ。

「死後に肉体をそのまま使い回された……? 違う。もし文面(これ)の通りならカインはあんな年齢じゃない。ボクが最期を観測した以上、この世界軸の(・・・・・・)カインは絶対に死んでるはず。それに今のカインが世界から隔離されたのを確認してる以上、変革期(ポイント)で分岐したカインでもないはず」

 椅子に積もった埃を落とすことすら忘れ、アベルはどすりと腰掛けてしまった。

 もはや周りも見えていない。気にする余地も残されていないのか。

 それも無理ないことだろう。彼女からすればありえてはならない事がありえているのだから、致し方ないのだ。

「なのに、どうして一緒にとばされたらしいこの地下室(ここ)の世界軸と相違があるんだろう……。不思議の国(ワンダーランド)とか、そんな規模じゃないよ」

 異世界などと呼ばれる別の世界だからなのか、あるいは無理矢理に彼が転移させられたからなのか。

 最悪を予想した彼女はついぞ祈りでもするように手を組み、頭を垂れた。

「カイン…………貴方は本者(アリス)? それとも偽者(アミネ)? ボクはそれ知ってもいいの……?」

 拭えない疑問に溺れた彼女が2人の下に戻ったのは、それから30分以上経ってからのことだった。




カオナシ

自称:カイン

本名:???

種族:人

職業:無職

特技:キャベツの千切り(料理が上手いわけではない)・スキニング

特殊技能:無顔の呪い(被害者)


ヴァーテル・スレイム

種族:人

職業:刑事

特技:錆落とし

特殊技能:刑事の勘


ツラハガシ

通称:アベル

本名:???

種族:人

職業:無職

特技:お姉ちゃん特権ワガママ

特殊技能:???




グロック19 with CBJ

G19のスライドをfluxブレースを装着したm3dカスタムフレームに乗せたもの。

グリップを折り畳め、ストックとしても使えるブレースを装着したゲテモノ。そのため畳んだ状態でロックはされず、可倒式トリガーガードも外されてしまっている。

口径は6.5x25へと変更されている。

フレーム装着式サプレッサーであるFD919と、予備にスプリングガイド型のガイドロッドウェポンライトを装備。

全てのマガジンにはMC19マガジンクリップを備えている。

素体となったG19は1丁だけ世代が違うが、フレームを変えてしまっているため事実上の差はない。

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