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ANXIETY 4-2

3ヶ月半の間、出張等であまり時間が取れず更新が遅れ続けました。

そして今は4日間のアレで遅れております。

今後は気温で遅れます。

 轟音が4人の胸を射抜いた。

 岩が砕けたかとも思えるこの音を聞いて何事もなかった等と言えようはずもなく、ましてや壁に貼り巡らされた吸音剤があって尚この衝撃波だ。

 予想の出来ていた3人とは違い、エレインだけは何が起きたのかすら理解できずに目を見開き、未だ頭を揺さぶる残響の中でカインが平然と歩いているのが信じられないでいた。

「まあ、APマグナム(アレ)で抜けるから当たり前か……」

 レーンの奥に積まれた土から拳大の大きさの何かを掘り起こし、戻ってくるなり3人にそれを見せつけた。

 ワイバーンの鱗。細い指ならすっぽりと通りそうな穴が空いてしまった、剣を阻むと云われる外殻。

 それが、耐え難い轟音と共にいとも容易く貫通している。

「見ての通りだ。51口径では障害にもならん。ヴァース、用意しろ」

「へいへいっと。いつでもいいぜ」

「撃て」

 再び空気が大きく揺らいだ。

 先程よりかは幾分か柔いが、それでもとてつもない轟音だ。

 もしもカインに渡された耳栓と耳当ての両方をしていなければ、聴覚に優れる種であるエレインの耳は破壊されていたことだろう。いや、エルフでなくてもしばらくは難聴になっているか。

安全確認(セーフ)

確保(チェック)

「さて、どうなることか……」

 ヴァースがライフルからマガジンを外してボルトを後退位置でロックし、それを確認してからカインは再びレーンの奥から1枚の鱗を取ってきた。

 狐面からはみ出た口元は微かに笑っているような、しかめているような、なんとも微妙な表情だ。

「硬度はレベルⅢA程度か? 貫通は出来ていないが、角度次第で有効打になり得るな」

 ひらひらと見せてきた鱗は表面が大きくえぐれてひしゃげていたものの、かろうじて貫通している様子はない。同一箇所に2発目を当てれば風通しが良くなりそうなほどだ。

「なンでわかンだ?」

「ベオウルフはスピッツァーFMJであっても、レベルⅢに1発撃ったところでこうも変形しない。厚みや形状の違いはあれど、これはあと数発で抜けただろう、そこから推定した」

「意外と貫通力ねえンだな、50口径なのに」

元が拳銃弾だ(ボトルネックではない)からな。おかげで防弾措置バリスティックプレートを装備した雇われ兵士(コントラクター)どもを無力化するのには最適だった。プレートに当てれば軽い交通事故程度の衝撃、生身に当てれば身体欠損だ」

「……殺さねェはずだよな?」

雇われ兵士(あいつら)は数字に出ない。つまりは亡霊、そんなものは殺しても世には公表されないし、存在しないのなら殺しても問題は無い」

「まァた屁理屈言いやがって……。ったく、こンな弾を持ってるわけだぜ」

 本来は狩猟用途の、それも熊や大型の鹿を対象として設計された弾薬だ、人間相手に使えばどうなるかなど想像に難しくない。

 鱗を捨てるように手放したカインは片膝をついてブーツに取り付けられたキングコブラを抜き、ハンマーを親指で支えながらトリガーを引き切ることでシリンダーラッチを1つ送り出し、そのままの姿勢で壁の土に立てかけられた鱗に向けて発砲した。

 先の音とは大きく違う破裂音が響き、カインだけが小さく頷いて納得している様子だった。

「見ろ。ほぼ無傷だ。レベルⅡ以上、ⅢA未満だろう」

「俺が着てるベストより柔らけェのか」

 カインが投げて寄こした鱗には表面にこそ丸い傷痕が出来ていたものの、貫通した様子はない。

「そうなる。とはいえこれを備えたワイバーンより硬いのがいるらしい、対魔物用(アンノウン)には余裕を持ってレベルⅢプラス程度は抜ける弾がいいだろう」

「ってェと……30ー06APか?」

「その辺りが基準として妥当だな。勇者とやらが余程の阿呆でないのなら、対峙する相手と同等以上の防備くらいはするはずだ」

「目処は付けてンのか? そのクラスを抜ける弾はそンなに多くねえだろ」

「勇者相手に関しては対魔物用でいいだろう。それと、対人用は市販されている防具を貫け、生身を効果的に殺傷可能な物が良い」

「負傷じゃなく殺傷目的かよ……」

「効果的に人数を減らす意味では負傷が良いと言うが、それは正規戦の話だ。その辺りはお前の方が理解していると思うが?」

 呆れていたヴァースは口元を濁し、自分の行いと経験から導きだされた結論はカインに近いものだった。

 警察組織に身を置くヴァースにとって、発砲対象への理想は無力化だ。例え重症であったとしても犯人を捕まえる事に意味があり、殺傷は不可抗力という名の最終手段ではあるものの、そこに至る事は少なくない。正規戦、いわゆる軍隊や、政治だの人命だのといった対外的立場を気にする組織との戦闘においては負傷者の搬送や手当てで敵戦力を大きく削れるが、それを犯罪者や賊に対して行っても見捨てられたりで削れやしないし、場合によっては負傷者から反撃を許す可能性が高い。

 そのためにも、殺傷……ないしは再起不能な重症に近い重症に陥らせるのが理想になる。

 人間、銃弾を受ければ必ず即死するわけではない。動きが止まるのと死ぬのもまた別なのだ。

「だとしても、俺ァ凶悪犯でもねえ奴を殺す気なンてねえぞ」

「わたくしとしては、どちらも避けていただきたいのですが……」

「お前は無理強いをして従う奴ではないからな、好きにしろ、無力化さえするなら文句は無い」

「そうすればボクかカインが──こりゅぉ」

「やめろ」

 何かを言いかけたアベルの口をカインが塞いだせいで、その続きは誰にも伝わらなかった。

 両頬を鷲掴みにされているアベルはなんとも不服そうに唸っていたものの、何を思いついたのか間抜けな声を漏らした。

「えろっ」

 ぺろり。

「舐めるな」

 べちん。

 手を舐められて即座に放すなり、その頬を軽くはたいたのだ。

「鉄の味する……」

「当たり前だ」

 べちっ。

 カインが振り抜いた手を逆行させるように手の甲で反対の頬をはたいた。

 こればかりはアベルも予想外だったのか、珍しく意外そうな顔で目を丸くしていた。

「ぶった! 2度もぶった? ていうか2回目いらなかったよね!?」

「マトフェヤ、05:39」

「それはやった人が言うことじゃないから!」

「かっ、カイン様!?」

「ん?」

 舐められた手をアベルの胸元に押し付けて拭っていると、呆れたようにヴァースが息を吐いていた。

 頃合いをみていたようだが、やや気がそがれている様子だ。

「で、候補は決まってンのか」

「一応はな。色々考えてはいるが、極力理想に近いものを選ぶためにも先に50口径のテストさせた次第だ」

 キングコブラのシリンダーを解放して撃ち終えた1発だけを抜き去り、ブーツに挿し戻してM107A1と.50ARを回収し始めた。

 合図と共に銃を構え、的に向かって5連射……それだけではどうとも言えないかもしれないが、鱗の防弾試験の前にやらせたそのテストでカインは何かを理解したようで、彼の中に結論が出ていたらしい。

「まずは51口径……50BMGから話そう。ヴァース、お前は流石と言うべきだな、立位射撃(スタンディング)であれほどの安定性を見れるとは思わなかった」

「テメェが素直に褒めると気持ち悪ィな」

「だが躊躇いがある。どこかで畏怖しているのか知らんが、その様子では生物に対して撃てるのかが疑問だ」

「……よく見てンな」

「アベルは反動制御も速射も十分だが、どうにも体への負担が目に余る。力技で抑えつけているせいで右肩が痺れているだろう」

「見透かされてるみたいでなーんかご不満なおねーちゃんです」

「精神的なものであれ、技術的なものであれ、どちらも簡単には矯正できない問題だ。極限状態が予想される今後において、適性の無い武器は持たせられない」

 カインはM107A1のボルトを引いてレッドフラッグをチャンバーに差し込み、代わりに.50ARを手に取った。

「次にベオウルフだが、お前とは相性が良さそうだ」

「お? ──ぶねェな! 投げンじゃねえよ」

 そのままヴァースへ投げ渡すと、不意ではあったがなんとか受け取っていた。

 脱弾を確認済みとはいえ危険な行為だ、褒められたものではない。

脱法部品(アームブレース)と見て肩につけていなかったようだが、これは取り替えてやる。51口径のような躊躇いもなく、体格相応の安定性だった、先に貫通力が低いと聞いていて心理的拒否感が薄れていたんだろう」

「……かもな」

「えー。おねーちゃんはダメだったの? スレイム刑事に負けたみたいでなんだかなー」

「向き不向きの問題だ、代わりにお前には他の所で要になってもらう。その為に特別仕様(ワンオフ)のフレームを専用に組んだ」

 カインは後ろのワークベンチにあったARのロアーフレームを手に取り、2人に見やすいよう眼前に掲げてみせた。

 エレインにはそれがどういったものなのか検討もついていないが、2人には言葉通り特別であることが明白で、その見た目は他のARロアーとは大きく異なり、トリガーから先──マグハウジングの存在しない奇妙な形をしていた。

「なンだそりゃ」

「モジュールロアーシステム。元は登録を1つで複数口径のARロアーを所持する為に産み出された脱法アイテムの1つだが、今回はARフレームを基軸にいくつかの口径を持ち込もうと思っている、役に立つだろう」

「……専用っていうのは?」

「ストックは伸縮式(リトラクタブル)のアームブレースかつフォールディングアダプターを噛ませてある。グリップはピストルに角度の近い立った物を、セレクターは右側面の先端が薄くカットされた左右両面非対称(アンビアシンメトリー)仕様。トリガーはローラー型のストレートトリガーだ。元々競技向けだが、スピードハンマーとスプリングの組み合わせで念のために引き白(ストローク)を半分に詰めた上で抵抗(プル)を4.5ポンドまで引き上げ、トリガーガードは基部ごと削り落としてある。グリップの下からトリガーへ指を滑り込ませられるはずだ」

「何言ってるのかわかんないけど普通じゃないのはわかった!」

「こンな早口を前にも聞いた気がすンな……」

 覚えのある状況にヴァースがうんざりするのも無理はない。

 先日、ヴェープルについて説明された時もそうだが、他にも彼が仕事で使っていたピストルはヴァースがカインに正式な発注を出し、州警察の中で最も厳しいと言われるテストを通るよう組まれたカスタム品で、納品時にもつらづらとながったらしい説明をされた覚えがある。

 外観を変えない内部調整から 、フレームすらも大きく変えてしまう削り出しまで、査定が許す限り持ち手の事を考えられたカスタムは彼の署内でも好評だったのだから複雑な話だ。

「なんだ、お前のロアーも聞きたいか」

「誰がンなこと言った?」

「遅かれ早かれ説明はしていたからな、まあいいだろう」

「聞いてンのか?」

「安心しろ、アベルのフレーム程は手を加えていない、極めてシンプルな組み合わせ(アセン)だ」

「聞いてねェな?」

 ヴァースの言葉を全て無視しながら新たに見せてきたのは、ARロアーにしては珍しいグリップガードつきのフレームだった。他に大きく目立つ点は無いが、もはやこれだけでも何か嫌な予感がするのだからどうしようもない。

「以前、お前がピストルを注文してきた時の内容を踏まえ、その上で更にお前好みに仕上げてある」

「……トリガーガードとグリップガードはありがてェけどよ、どうせなンか仕込ンでンだろ」

「そう身構えるな。シンプルだと言ったろう」

 アベルのフレームと同じくストックパイプの根元に装着されたフォールディングアダプターから折りたたみ、そのままストックを引き伸ばしてからその上に装着された頬当て(チークピース)を上へ引き伸ばしてみせた。

 やや大仰なシルエットは野暮ったくあるが、確かにシンプルな作りだ。

「運搬を考えてストックは全てフォールディングだが、お前は我々に比べて体格が良いからな、チークピースがあった方が使いやすいだろう。ストックの肩当て部(バットプレート)(コンケイヴ)(コンベックス)(フラット)から使ってみて選べ、付け替えてやる。トリガーは馴染み深いラウンド型だが、中身は3ポンドと8ポンドの2ポジションにした上でバイナリーシステムを組み込んである、これはフルオートポジションで有効化される仕組みだ。セレクターとマグリリースボタンはアンビかつ大型化して操作性を第一に選んだ。ハウジングが拡張されているように見えるが、これはただの接続部に過ぎん。目玉はグリップの下にあるグリップガードだが、実態は──この通り、展開式の2脚(バイポッド)だ」

「案の定ごってごてに盛ってるじゃねェか!」

 そう、見た目だけはシンプルだった。

 グリップの低部から後ろへ飛び出たボタンを押せばグリップガードから2脚が展開され、それはそれは野暮ったいシルエットに磨きがかかっている。

「使えば機能性がわかる。それにだな、このフレームは見た目より軽いぞ」

「カインはそれ使いたいと思う?」

「まさか。お断りだ」

「はっ倒すぞテメェ!?」

「苦情は使ってから言え。思う所があれば随時報告しろ。これから可能な限りの慣らしをしてもらう、理想は5000発程度だ」

 その数字を聞いた2人が堂々と嫌な顔をしているあたり、それが冗談や脅しの類いではないのだろう、本気に捉えている証しだ。

 しかし、どこにそんな数の弾が──と思ってヴァースが部屋を見渡すと、カインが新たにマガジンを投げてきた。

 ぱっと見は先ほどまでの物と同じだが、よく見ると弾抑え(リップ)の部分が妙にせり上がっていて、かつ絞られた形をしていた。まるで遊戯銃のようだ。

「……22口径、だよなァ」

「ロアーの調子を診るにはそれで十分だ。……足りない物を持ってくる。エレイン、手を貸してくれ」

「あっ、はい。お任せください」

「アッパーはこれを組んでおけ。戻るまでにトリガーでも確かめるといい。ダミーカートはこれを使え」

 アベル用と言っていたロアーにマグハウジングを取り付けると、カインはエレインを連れて階段を上がって行ってしまう。

 残された2人は言われた通りのアッパーフレームをそれぞれのロアーフレーム組み付け、チャージングハンドルを引こうとした。

 ……が、それは1センチ程度しか動かない。

「……あン?」

「引けないね」

「なンか組み間違えてるとかか?」

「んー、カインに限ってそれは無いと思うけど」

「大層な信頼だな」

「そりゃあもう。ボクが死ぬまで1度の整備漏れも無かったからね」

 しかしチャージングハンドルはまともに動かない。というより、ボルトキャリアが途中から動いていないのだろう。ハンドルのロックは解除できているし、フレームが粗悪でない限り何かに引っかかる事は少ない。

「アッパーだけだと……動くな」

 試しにフレーム後端のピンを抜いてテイクダウンした状態でハンドルを引けば、通常通りボルトキャリアが付随して抜け出てきた。

 となれば、問題があるのは今さっき組まれたこのロアーだろう。

「……あァ、バッファーか」

 原因を探そうとヴァースが全体を見てみれば、本来一般的なARフレームでは不可能なバッファローチューブが根本から降りたたまれ、その断面では折り畳み用ヒンジからボルトキャリアをおさえるようにストッパーが飛び出ていた。

 2人はバッファーチューブをまっすぐに伸ばしてから再びハンドルを引いてみれば、今度はバッファーで押さえ付けられるはずのボルトがなんの抵抗もなく数センチほど動き、そこから慣れ親しんだ力が加わった。

「…………んんー?」

「なンっか調子悪ィな」

「あ、ゆっくり戻すとボルトが閉鎖してないね」

「待ってた方がよさそうだな」

 どうにも原因がわからなかった2人は操作を諦め、カインが帰ってくるまで待つことにしたようだ。

 と言ったそばからアベルがアッパーを取り外し、ロアーだけの状態でハンマーを指で支えながらトリガーを引いたかと思えば、なにか感触を得る度に微妙な反応を顔に出していた。

「トリガーがくるくる回る……」

「そのトリガーは指の関節の内側に当てた方がいいぜ。それでもセンターが出やすいンだとよ」

「っていうかすっ──ごく軽い」

「4.5ポンドって相当だかンな。基準値(サービス)が6だか7ポンドだったか? それでも重くしたらしいぜ」

「……スレイム刑事もカインにこういうことされたことあるの?」

「あいつに情報を流すようになってから、仕事用のピストルを組んでもらったからな、その時に」

  ヴァースとカインの関係が気になるのか、アベルは値踏みでもするようにじろじろと視線を這わせながら「ふーん」だの「へーえ」だのと、半ば煽っているように声を漏らしていた。

 銃の改造を請け負っていることを聞いた時の反応からするに、 気に食わない点でもあるのだろうか。

「……なンだよ」

「んーん。どうしてあの熱血正義漢で有名だったスレイム刑事が、殺戮犯代表みたいなカインに協力したのかなって」

「現実を知ったってだけだぜ。軍と警察が管轄違いなのと同じだ。俺は法の中の、あいつは法の外の、それぞれ違う場所に潜む悪人(クズども)を討ってるだけだって気づいたンでな」

 そう言ってヴァースがベルトに手を掛けると、懐かしむようにバッジを取り外していた。

 彼らの付き合い……というと語弊があるが、初めて関わってからの月日は長い。と言っても、アベルは顔を付き合わせた事すらなかったわけだが。

「まだ新人の頃か。あいつと初めて会った時、俺ァ悪魔でも見たンじゃねえかって撃ちまくった。だってのに、1発も当たらねえどころか堂々と歩いてきやがるもンで、そりゃあもう抜群に怖かったぜ」

「うん、それ当たらなかったの偶然だと思う」

「あー、いや。ありゃ俺の訓練不足だ。弾が切れて、ビビって動けずにいたら装備をまるっと没収されてな、褒めてンだか貶されてンだかよくわからねえ説教をされちまった」

 アベルの死後、最初の犠牲者だっただろうか。

 とある警察署内で暗殺が行われ、そこに偶然居合わせてしまった不幸な新人警官がヴァースだった。

 そうして起きたのは銃撃戦ですらない一方的なものではあったが、最後に立っていたのは銃を握るヴァースではなく、その手に誰かの人面を持った殺人犯ただ1人。

「”腰がひけている。脇が甘い。暗所に適した照準(サイト)を備えておけ。光源に向かって撃つだけでは虫と変わらない。”……とかなンとかな」

「スレイム刑事は逃げなかったんだ?」

「逃げられっかよ。俺が逃げたら誰が捕まえンだ」

「そういう所が気に入られたのかもね。でもまあ、さすがかな。あれだけ噂になってた犯人に出会って逃げなかったなんて」

 はたして、それが度胸によるものなのかは定かではないにしても、一端の巡査が凶悪犯に出会って逃げ出すことなく立ち向かったのだ。当時の水準から考えれば十分に賞賛できる事だろう。

 だからこそ認められたというべきなのか、あるいはその出会いが彼を汚職に導いてしまったというべきなのか、どちらにせよ転機になったのは確かか。

「それで? どうして協力したの?」

「気になったンで調べた。上からは中断しろとか謹慎とか左遷とか、あれこれと色々妨害されちまったが、その中であいつが悪徳野郎しかぶっ殺さねェってわかったンでな、裁判所に突き出しても裁かれねえ奴らならそれしかやりようがねえ」

「思ったより頭は固くないんだね」

「固まった頭じゃ捜査は進まねェだろ」

「んふ。他には?」

「その後ってェと────」


 2人が昔話に興じている一方、「足りない物」とやらを取りに向かったカインとエレインは武器庫にあるワークベンチを前に並んで立っていた。

 小口径から巨大な大口径まで、東西問わずおよそ市販される様々な口径のライフル弾を1発ずつ並べてある姿はポートレートでも撮っているかのようではあるものの、そのうちの幾つかをチェスのようにカインが取り除いてしまう。

「カイン様、これはいったい……?」

「今から幾つか質問をする。君が知る限りで構わない、神官としての責務や倫理等を挟まず、正直に答えてほしい」

「申し訳ございませんが、わたくしは神の御前にあり続ける者です。教えに反することは……」

「禁忌を犯せとは言わない。その上で君個人としての意見が欲しい」

「……承りました」

 最近では見ることのなかった物腰にエレインは何かを感じたのか、気がつけば頷いていた。

 ここ数日は乱暴な言動ばかりだったものだが、どういうことだろう、まるで初めて出会った時のようだ。

「では第1に、この世界において最も肉体が強靭な種族は」

「大きな括りですと、魔物や魔獣かと思われます。あくまでその中の一部とはなりますが」

 やはりか、とでも言いたげにカインが何度か頷き、狐面から覗く口を開いた。

「その次は」

「魔族と龍人、でしょうか……。魔族は魔法で、龍人は鱗でその身を守っておりますので」

「魔法を除くと」

「変わりありません。獣人やわたくしたちエルフよりもその生命力は強大です」

「……そうか。弓矢での殺傷は」

「可能ではありますが、時間と数を労しますので推奨は致しかねます」

「それは皮膚が堅いからか、それとも肉が厚いからか?」

「龍人が前者に、魔族が後者に当たります。その上で魔法を備えておりますので……」

 言われて、今朝にも会った1人の魔族の姿が脳裏に浮かんでいた。

 人を優に超える体格に肉厚な体、確かに並の弓矢では刺さったところで……と思わないでもないが、それならばどうやって戦争時に戦っていたのかが気になるところだ。かつては敵対していたのだから、どこかしらにそういった情報があるかもしれない。彼としては毒を用いる以外の手段が知りたいところだ。

 そこから行き着いた解を表すかのように、再び並べられていた弾の幾つかを取り除いてしまう。

「次だ。この世界での光源……暗闇を照らすには何が用いられる」

「魔法、魔術、松明、緑光石が主な灯とされております」

「どの程度の明るさになる」

「ええと……いま現在よりも薄暗く、文字が読める程度と申しましょうか。魔法、 魔術は一瞬ですが、より強く光らせることも可能です」

「それらは有限か?」

「使用者の魔力や聖力が切れるまでとなります」

「人が居る限りか。では遠隔に飛ばすことは」

「あまり遠くには。お見せ致します」

 そう言ってエレインが短く何かを呟くと、指先に白く発光する球体が現れた。

 照明がついているから分かりにくいが、およそ数歩先を照らすのが限度だろうか、それは風船でも投げるように緩くつついてやればふわりと飛んで行き、5メートルほどの距離で制止した。

「こちらが魔術による灯です。これ以上に飛ばすと自然消滅してしまいます」

「明るくはないが、夜間には十分だな。……飛ばしてくれ」

 言われて、エレインが光球をさらに先へと飛ばすと焚火が弱まるように消えてしまった。

 原理はもとよりカインに魔術が理解できないが、そういうものかと認識はできる。未知の技術を相手にする以上は観測した事象を最低限相手が行える規模と位置付け、より高位の術──この場合はより強い光量と射程──を持つ存在を前提に考えるべきであり、遠隔的に光源を設置できる手段は大きな脅威だと認識したのだろう。先ほど比べてカインの口元は険しくなっていた。

「光の優位性が取れないのは痛手だな……。音を伴う武器や魔法魔術はあるのかい」

「ええと……カイン様の武器のように、でしょうか?」

「そうだ。攻撃をすれば音が出るものは」

「一部の魔法、魔術が該当します。ですが、その場合は規模も相応のものとなりますので……」

「なら、暗殺の手段として主なものは」

「わたくしの経験となりますが、主には短剣や短弓、毒、布、縄、水などが思い当たります」

「魔法や魔術は」

「発生までに予兆が存在するために好まれません」

「可能ではあるわけか」

 そうしてカインが並べられた弾から幾つかを選び取り、最後に残ったのは1つの弾だった。口径を確認するなりワークベンチの下に並んだ樹脂製の箱をいくつか取り出し、その中から同じ企画で違う弾頭を備えたものを1つずつ取り出して並べていく。

 先すぼまりのもの、先端がくぼんだもの、いくつものトゲのようになったもの等、その数は両手の指では数えきれないほどだ。

「同じ大きさの……違うもの、でしょうか?」

「弓でも矢を変えることがあると思うが、それと同様にそれぞれ目的と効果が違う。例えば……これなら街に売っていた鎧を貫通して肉体へ到達するだろう」

 先端の尖った単色の弾頭を備えたそれは、ごく普通のスピッツァーFMJ弾だ。それとは別に全く同じ形の弾をもう1つ取り「これでは怪しいがね」と付け足した。

 エレインには見た目だけでは何が違うのか検討もつかないが、彼が言うのだからそうなのだろうと自身を納得させ、反対にこれが矢の様なものというのは理解できかねているようだった。本来は別に原動力を必用とする矢とは仕組みが違うものの、飛翔体という点くらいは同じか。

「この小さな杭で……」

「原理は全く違うが、人間を殺すのは容易と言っていい。下で使っていた大きな物ならワイバーンも容易いだろう」

「……恐ろしい事、と申せばよいのか、わたくしにはわかりかねます」

「畏怖するのが正しいと私は思うが。こんな危険なものが無ければ満足に身を守れないほどに、私たちの世界では武器が発達してしまった」

「それほどの脅威が存在していたのですか?」

「ああ。どんなものよりも恐ろしいのは、結局は我々人間だったがね」

 人によって生まれ、人によって紡がれ、人によって滅ぶ。

 そんな極自然な歴史の繰り返しもこの世界では珍しいのか、エレインの顔はどうにも伏しがちだった。あるいはそういった歴史を知っているが故かもしれない。

「他の種族を滅ぼし、自然を駆逐し、己の為だけに地形すら変え、大地に飽き足らず空や水底にすら住まわんとし、果てには人間すらも生きられない環境へ変化させておきながら、人間こそが世界の管理者たらんと宣い始めた。これ程に傲慢な種族が他にいるだろうか」

「カイン様の世界では、何が……」

「人間が自然との調和をやめた時代があった。幾世の代を超え、手遅れになってようやく危機感を抱き、数多を滅してから再生を願う。……全く、もはや救いようがない。そんな種族は滅したほうが調和が取れ───…………なんだ? この思想は」

「カイン様……? どうかなさいましたか?」

「なんだこれは……こんなものは私の理想ではない。私はあくまで人間だ、人類は幾重の犠牲を産んだのだから、その上に立ち芽吹く責務がある。根こそぎ奪って花を咲かせないのでは歴史の繰り返しだ」

「あの、カイン様。お気を確かに」

「だからこそ無辜を生む者を廃し、せめて人類による犠牲が無駄にならぬようにと願ったというのに、これでは私が人間の側ではないような」

 カインがワークベンチへ手をついた途端、その顔を覆っていた狐面が転がった。

 だというにも、意に介することすらできていない様子で言葉ばかりを吐き出し続けている。

「私はなんだ? ただの人間だ。人々の繁栄を愁い、そのために奔走した愚か者だ。それがなぜ破滅を望む。そんなものは──ぅぐっ……」

 ついぞ立っていることも叶わないのか、カインが膝をついて頭を抱え込んでしまった。思わずエレインも寄り添うが、何か起きているのかは誰にもわからない。

 数少ない情報と言えば、カインが頭痛に苦しんでいるように見えるのと、どうしてか床に落ちた狐面が彼を見つめているように思えてしまうことぐらいだろうか。瞳も描かれていないというのに奇妙なものだ。

「如何なるものであれ種の絶滅など悪魔の所業だ。私は人を殺しても滅することはない、してはならない。そんなことをすれば”可能性”は完全に潰えてしまう」

 世に産まれ落ちたもの全てが幸福であれ、などと幻想を口にする気はない。だがそれでも、本来得られるはずの幸福を特定他者によって阻害されるべきではなく、またそれを許す事は我慢ならなかった。

 だからこそ彼は殺した。他者の利を不当に搾取し、それを裁く法へ下ることなく隠れ続ける卑怯者を殺した。

 人が、人のために、人を律するべく、人によって行使され、人が遵守し、人が罰する。人が繁栄するために生み出された法を蔑ろにし、あまつさえ外側から一方的な不当を働くなど許せようはずもない。

 だというのに……。

「救いようがないから滅亡させるなど……それは人の枠を越えている」

 カインと呼ばれた男は、カオナシと恐れられた男は、あくまで人間である。

 人類の栄華を望み、そのために人を殺す。結局は人間のために動く”ただの人間”に他ならない。

 だが、先ほどからカインの脳裏にちらつく思想は違う。

 まるで自分がそうではないかのように、よもやそれを超えているかのように、人類という枠の外側からのものだった。

「それでは無駄になるだけだ……。無駄にしていい生などありはしない。これは気の迷いだ。疲れているだけだ……」

 ようやく思考を振り切ったカインが狐面へ手を伸ばすと、ずるりと滑るように仮面の横へと手をついた。

 錯覚かなにかだろうか。あるいは精神的な疲れが溜まっているんだろう。そう思ってもう一度手を伸ばしたものの

「────カイン様!!」

 その手がどこへ届くこともなかった。



カオナシ

自称:カイン

本名:???

種族:人

職業:無職

特技:キャベツの千切り(料理が上手いわけではない)・スキニング

特殊技能:無顔の呪い(被害者)



エレイン・カーボネック

種族:エルフ

職業:弓の教官→神官

特技:裁縫・交渉(笑顔ごり押し)

技能:神聖魔術・弓



ヴァーテル・スレイム

種族:人

職業:刑事

特技:錆落とし

特殊技能:刑事の勘



ツラハガシ

通称:アベル

本名:???

種族:人

職業:無職

特技:お姉ちゃん特権(ワガママ)

特殊技能:???





コブラ

ハンティングや護身用としてヒットしたマグナムリボルバーの一つ。

2017年にリニューアルしたが、2人が使用しているのは古い方の2.5inchモデル。

弾は.357Mag


M107A1

全人類が愛してやまない50BMG弾を10発装填するセミオートマチックスナイパーライフル。

50口径対物ライフルの地位を作り上げたM82の後継機。

本来は巨大なマズルブレーキと大型のストックパッドで反動を軽減するが、理由があるらしく取り外されてしまった。

光学機器は搭載されておらず、お情け程度のアイアンサイトが乗っているだけの新品同様の物。


ハイランダー.50ベオウルフピストル

.50ベオウルフ弾を規格したメーカーによる同口径用のARピストル。ARピストルとして特殊な点は特に無く、ベオウルフ弾用にアッパーセットが変更されているのみに留まるモデル。

なにか説明をしたいがそれ以外に言うことがなにもないほど普通のARピストル。


AR モジュールロアー

通常のロアーフレームとは違い、マグウェルが別体になっているロアー。これを基にトリガーガード接続部が完全に削り落とされ、アベル用ロアーが組まれている。

主に特徴的な部品は以下。

・スタビライジングブレース:5段伸縮式安定機。

・フォールディングストックアダプター。

・ローラートリガー:競技向けスピードハンマーとの組み合わせ。プルは4.5ポンド。

・PDWグリップ:ピストルのように角度が立っているシンプルなもの。

・両利き用セレクタ:左側面がロング、右側面は先端が薄くスライスされているハイブリッド。


AR ポッディウムロアー

形状は通常のロアーフレーム。のはずだが、どこにも刻印等が存在しない妙な品。削り落とされたか密造されたかは不明。平均的な物よりやや軽量。ヴァース用に組まれた物。

主に特徴的な部品は以下。

・ショックアブソービングストック:チークレスト付き。バットストックの形状を変更可能。

・フォールディングストックアダプター。

・バイナリートリガーシステム:引いても放してもシアが働く特殊なトリガー。通常の"引き"にのみ3ポンドと8ポンドの2ポジションプルが組み込まれた改造品。

・ポッディウム:グリップとグリップガードとマグハウジングを兼ねたバイポッド。

・アンビセレクター/ボルトリリース。

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