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WYVER(N) 3-2

少女前線日本語版でるって!!!by本国版ユーザー

『…………未熟なシピオンも居たものね』

『とはいえ、あの様子ならボクが動く必要は無いかしら』

『ヒーローはピンチに登場しなきゃ。──あれ? ボクの場合はヒロインか?』

『ま、なんでもいいけど。すぐに会えるよね……? ねえ、愛しき君よ(カイン)



 ※



「それでは、始めます」

 明朝。というよりはそれを過ぎて昼前か。

 予定通り1夜を過ごした一行は森の奥地へと出向き、今まさにエレインが大地への祈祷を始めたところだ。

 エレインは祈りの句をつらづらと口にしながら大地との交流を図り、その結果なのか、あるいはエルフが故なのか、彼女の周りにはぼんやりと見慣れない光が漂い始めていた。

「ほう……」

 宗教的な、ある種超常的な事の真偽判断を放置するカインであっても、己で目の当たりにしてしまえばその事象を認める他はなく、半信半疑だった神や祈祷といったものを無価値ではないらしいと認識を改めていた。

 他教徒のヴァースも真偽はさておき祈祷そのものには興味があるようで、口を半開きにしたまま目を奪われているように見える。

「お主はやらんのかえ?」

「私は祈る者ではなく神罰の代行者だ。……なにかするとしても、様式が大きく違う。見栄えはしない」

「呵々。なに、早うせい。話じゃと、此の地が安全とは限らぬでのぅ」

 何故かついてきてしまったヤコに急かされて、本来予定に無かったカインまでもが儀式をするハメになってしまう。

 しかし、何もしなくては「祈祷に来た」という建前をより強固にできないので、仕方なしに辺りを歩いて木々の種類を確かめたり果実を探したり、動物の糞や食べ残し等の痕跡が無いか、KTR-08を片手に探し始めた。

 ヤコもヤコで、表向きは信用していてもその実は探りを入れているのがわかる。要は「深入りしねーから周りに説明できる建前はきちんと用意しろ」という事なのだろう。長という立場があるので、いざとなったら他の者に説明できるようにしなければならないのもあるが、カインの存在がこの世のものでないのは半ば感づいているのかもしれない。

「こういうのを神秘的ってンだろうな」

「エルフは自然の一部ですから、人から見れば間違っていないかと」

「ほーン。お嬢ちゃンもその血が流れてンだよな?」

「まあ、一応は……ですけど。良い事なんてありませんよ」

 暇そうにしているおっさんが交流を図るも、話題を間違えたのかそっぽを向かれてしまい、それを見ていたカインが鼻で笑っていた。

 人の不幸は何とやらというやつか。

「テメエ、腹立つ顔で笑いやがって」

「好かれようと思っていないからな」

「表情がわかる分、数割増しでウゼェ……!」

 普段通りに振る舞っているカインではあるが、その実かなり浮かれてもいると同時に不安も多く、今まで顔という情報の一切が遮断されてきただけに表情を偽る事ができないでいる。ヤコの渡した仮面によって靄こそ取り払われ口元が見えているものの、彼の呪いそのものが力を失ったわけではない。彼には視覚的に生者と死者の区別が未だにつかないのだ。

 反面、ヴァースは人との繋がりこそが本懐であったためかその手の事には慣れており、ころころと表情がよく変わるし偽りもする。少なくとも、今のところは本音のように見えるが。

「さておき、お前達獣人は今後どうするつもりだ」

「魔獣が暴れておるのでは、戦士の多き獣人とて住むには堪えるでの、我等はまた流浪の旅じゃろうて」

「宛ては無さそうだな」

「村を作るには開拓と人の流れが要る。しかして左様な時間も場所も、そう簡単にありはせん。なれば放浪するしかなかろうて」

「……そうだな。確かにあれは大変だ」

 大地の開拓が終わり自然の保護すらも問題になっていた時代。

 その中で町を新たに作るという稀有な光景を目の当たりにしていたカインには、村や集落を新たに作り、それを存続させられるように整備する事の難しさが嫌というほど身に染みている。自分では手を出していないものの、当事者として完成まで見届けたのだ、要した時間や知識や人員がどれほどのものかは知っている。

 だが、ふと思い当たるものがあった。

「人の街からも近く、水脈も期待できる場所があったな」

「うやっ? それは誠かの?」

「ああ。その地は人を欲している。村と開拓街の間だが、街とはかなり近い」

「ふむ……。案内は頼めるかや。下見をしたいのじゃが」

「目下、次の予定があるわけではないが……考えておこう。村を出る前夜には決める」

「うむ、うむ。借り1つと言いたい所じゃが、お主の正体を黙っておく事でどうじゃろ」

「感づいてたか……」

 口角を歪めて苦々しい顔をすると、ヤコは反対にカラカラと笑い始めた。

 千里眼なる謎の力があると明かされて以来、隠し事は効かないだろうと疑っていたカインもこれではお手上げだ。諦めるしかあるまいかと考えていたが、そういえばと思い出す。

「待て。諍いを起こした借りを返してもらっていないが、それでどうだ」

「むっ。忘れておらなんだか。しかし訊きたい事柄があったのではないかの?」

「お前の一族の命程度では等価にならん。構わないな」

「吾輩は構わぬぞ。……構わぬとはいえ、神官で通すのならその言動はちいとばかし取り繕え。お主が如何な種かは誰ぞ確証無くとも文句は出まいが、神官とするからには相応の振る舞いがあろう」

 片手間に森の調査をしながらエレインを眺めているカインに詰め寄り、ヤコはくどくどと説教をしながら小さな背で執拗に眼を見つめ、不意にそれを見返してしまい逃げようとするカインの裾を掴んで放そうとはしない。

 ああだこうだと小言が積み重なる間に振り払うでもなく動けないでいるカインは、何を思ったのか仮面を側頭部にぐるりと回してしまった。僅かにずれた途端に仮面からは魔素が──黒い靄が吹き荒れ、瞬く間に顔の全てを覆ってしまう。これでは口元すらも見えない。

「こやっ。吾輩が譲ってやった面をせぬか!」

「視界が悪い上に、今の状況で必要性を感じない」

 視界が狭まるのを煩わしいと感じていたようで、仮面を外すなり大きく伸びをして腰を捻り、バキボキと音が鳴り響くと同時に膝から崩れ落ちた。

 あまりにも見事に崩れたためかヴァースとサニアが駆け寄ってきたがこれを追い払い、さも意図的であるかのように振る舞うのだから彼の強がりも相当なものである。

 というか、凄まじい音がしたのだが。ヤコも若干引き気味だ。

「生きとるかのー?」

「枝でつつくな……」

「呵々。他人の厚意を素直に受け取らぬからじゃ」

「……。お前が純然たる厚意でこれを寄越したとしても、私にとっては敵対する危険性の高い相手からの贈呈品であり、かつ戦闘中は邪魔になる物に他ならない」

 これでも怖がりなのさ。

 そう呟きながらようやくの思いでカインが立ち上がると、ヤコは心配そうに見上げていた。中身はどうだかわからずとも、見た目は子供と変わりない、そんな姿で見つめられてはカインのちっぽけな良心もそれなりに痛んだのか、木に手を付けながらも鼻で笑ってみせる。

「歳のわりに無茶をするのう」

「元より先の短い命、後の事は後の私が考えればいい」

「苦労する生き方じゃぞ」

「今がまさに苦境だ」

 痛みにも慣れたので再びカインが辺りの木々を見て回り始めると、荒々しく踏み倒されている茂みが目に入った。その奥には不自然な傷跡のついた木々と、やはりこれまた踏み倒された茂みが連なり新たな獣道にも見えるが、ただ通ったと言うには木々についた痕跡が穏やかなものではない。

 争いか、逃走か、あるいは人為的なものか。馬車が通ったと言われれば納得してしまいそうなほどの幅が倒されていては、これが何を意味するものかは見当もつかなかった。

「これは……? 群でも通ったんですか?」

 何かを見つけたのがバレたのか、いつの間にか隣にサニアがやってきていた。

 見てすぐに獣の跡だと判断できるというのは、よほど旅に慣れているか狩りの経験があるかだ。元々旅をしていたと話している辺り、おそらくは両方だろう。

「群にしては綺麗に続きすぎている。見るに踏まれて日が経ってない上に、食事痕や糞も無いとなれば極少数の個体が通った、あるいは肉食系の獣かなにかだ」

「呵々。狩人の智賢も得ておるとは、ますます神官ではないのぅ」

「私は祈る者でも代弁者でもないが、神の名の下に在るのは事実、神官と呼ばれるのも偽りではない」

「それで、あの、この獣道をどう見ますか」

「数日以内に1度だけ使われたもの……くらいだろうな」

 カインはベルトから掌程のナイフを取り出すなり、木の幹に左右反転したFの字を刻み込む。

 少なくとも何度も使用されていない、即ち危険性の低いものだと判断したのか、今度はこの道を起点に調査を始めた。

 掌に隠れてしまいそうな程に小さなカメラをキャソックから取り出し、傷跡や薙ぎ倒された草木を次々と写真に収めている。モニターやファインダーすら存在しないカメラはシャッター音を鳴らす事も無く、ましてやレンズすらもボディから突出していない姿はただの分厚いミントケースとも思えるが、写真が保存されたのを示す1つのLEDランプがカインの操作に応じてチカチカと光り続けるだけだ。

「……鈴でも持ってくるべきだったか」

 この辺りは草木が多く地面も枝だらけで足跡が見えないためか、個体数を判断するのが難しい。今も視界の端で葉が落ちていくのが見えるせいで、さすがのカインもそこまで調べるのは諦めたらしい。それよりも幹についた傷跡に興味があるようだ。

 順に見て回るものの木々に同一の特徴はない。皮を剥いたにしてはその様子はなく、マーキングにしては多すぎ、共通なのは踏み倒された獣道に面している事くらいだ。これらをふまえてカインは再び思考を巡らすものの、納得のいく答には出会えないのか木の幹に背をバックパックごと預けて座り込んでしまう。

「そもそも、生態が同じとも限らないな……」

 頭の中で導き出された解に自分で頷く事ができず、半ば現実逃避でもするようにぼんやりとエレインの姿を眺めていた。

 舞のようにも思える祈祷は大地の精との交流を図っているとか、祈りの句は草木に語りかけているとか、エルフの祈りは独自のものが多くその詳細は秘匿されている。殆どは宗教的な理由だ。

 舞だけでなく、更には麗しい外見ともくれば、カインといえども目を奪われるには充分なのだろう。

「なンだ、テメエも見物か?」

「やる事がなくなってな」

「元々ねェだろ」

 隣に座ったヴァースは皮肉を口にしながらも、一緒になってエレインの祈祷を眺めていた。

 現状、ここに来たのは多少の情けと貸しを作るためのようなもので、カインとサニアの目的には関与しないものだ。

「無いと言えば無いが、有ると言えば有る。ただの木々も数多くの情報に繋がる」

「ンで?なンかわかったのかよ」

「わかればアレを見る理由は無い」

 エレインの姿よりも森から得られる情報の方が気を惹かれるというのも気の毒な話だ。

 本人には決して伝えないでおこうとヴァースが意を固めていると、サニアとヤコも木陰から祈祷を眺めているのが目に入った。こうして見ると仲の良い友人のようにも映るものの、ヤコはとんでもない年齢だと聞かされていたので奇妙な感覚に陥るが、ふと元の世界の事も思い出してしまう。

 カインとヴァースが居た世界、その極東の地には年齢不詳の民族が複数居たはずだ。服装もどことなくその民族衣装に似ている気がしないでもない。

 立場の違いもあるのだろうが、ヤコの服はこの世界の技術レベルの中でもかなり高い部類にある布地だろう。他の獣人と同じく、服は直線縫いが多いがその細かさや均一さが全く違い、なにより布地の細かさが違う。他より浮いた地位を持っている者の装いなのだ。

「あの狐っ子の名前、ヤコっつったか?」

「ああ。まあ、我々の知る妖狐(ヤオフー)の一種だろうな」

「……てこたァつまり、俺達の世界と同じか似てる伝説があるって事だよな。おかしくねえか?」

「───……言われてみればそうか。知れば知るほど胡散臭くなるな、この世界は」

 大きく溜息を吐いたのを見て、ヴァースも思わず苦笑が漏れてしまう。ビールかワインを飲みながら、お互いに厄介な世界へ来たものだと少しは語りたい気分でもあるがそうもいかず、現実は酒も満足に飲めない異世界に居る。

 簡単な話、未だその芽は小さくともストレスを抱えているのだ。その点において、エレインの舞は1つの娯楽としても機能するのかもしれない。

「そういやァ、テメエの知り合いに孤憑き(フゥリィフーシェン)居たよな」

「居たが……しぶとく生きているだろう。24歳と何ヶ月なのかは覚えていないが」

「狐に憑かれるってなァ、どンな気分なのか知りてえもンだぜ」

「なんじゃ、化かしてやろうかえ?」

「ンあっ!?」

 ヤコがぬるりとヴァースの肩越しに顔を覗かせると、座っているはずなのに身体が浮くほどに驚き、その声も裏返って聞こえた。そんな姿を見てはカインも思わず笑いそうになったが、なんとか押し殺して静かに眺め続ける。

「吾輩のようなものの存在を知っておる者は稀有でのぅ。化かし甲斐があろうものよ」

「俺ァやめろっ。やるならあっちだ!」

「彼奴には通じんじゃろ」

「ヤコ。お前は善きモノか? それとも悪しきモノか?」

「此奴、話の流れを微塵も汲まぬのじゃがー?」

「良くも悪くもマイペースなンだよそいつ」

「まいぺぇす? のぅ……」

 話の筋を中心からへし折るカインに2人が呆れ果てているが、当の本人は至って真面目な様子。これには茶化す気にならなかったのか、ヤコも一息吐いてからきちんとカインに向き合い、その眼光を正面から捉えた。

 ヴァースにはどうにも力みすぎているように見えてしまい、信頼はしていても不安が拭えずにいる。こんなにピリピリしていてこの関係は保つのだろうか……と。

「吾輩が善性か悪性かなぞ、お主になんの意味がある?」

「答えによっては過去の私が肯定される。それだけだ」

「呵々。それでは己が悪だと説いておるようなものじゃぞ」

「ようなっつーか、極悪人だよな」

「極悪……。可笑しな話じゃのぅ。左様な者でこの為りならば、大陸中に名が通りそうなもの。お主はこの世のものかや?」

 しまった、といった様子でヴァースが苦い顔をした。

 魔王を倒したわけでもない勇者ですら大陸に名を馳せるのだ、こんな神官まがいの奴が噂にならないはずがない。

 どう返せばやり過ごせるか、如何にしてはぐらかすか、いくつかのパターンを頭の中で試算するが言及は逃れられそうもない。

 カインが答えられずに対応に困っていると、予想外にも本人から助け船が出されてしまった。

「まあよい。お主とて吾輩を探ろうというより、例を探しておるだけじゃろう」

「……助かる」

「よい。して、吾輩の事じゃが、誰かと生を営むのに善悪の決別は必要かの?」

「必要とまでは言わないが……」

「なれば良いも悪いも、それらは見方によりけりじゃ。悪しき力も使いよう、道を違えなければ化かすも導くも同じ事、綺麗事で世界は廻らぬじゃろう」

「…………。その外見の相手に安堵してしまうと、何か一線を越えてしまった気分になるな」

「此奴! 吾輩が善意で同調してやったというに!」

 複雑な思いにカインが眼光を絞らせると、飛び付くようにしてヤコがぽこぽこと胸板を叩き始めた。

 それがじゃれあいだとお互いに理解しているのか、普段なら投げ飛ばすか顔面を鷲掴むかしそうなカインは鬱陶しそうにするだけで、ヤコもからからと笑っている。隣で眺めるヴァースも親子の団欒でも見ているような顔だ。

 そんな様子では辺りも気になるもので、サニアもここぞとばかりに首を突っ込みに来た。

「祈祷中くらい、少しは静かにできないんですか」

「私は静かにすごしたいのだが」

「……本気で言ってます?」

「こいつ、これで本気だぜ」

「虚言の臭いはせんのぅ。というか此奴、(ぬく)いぞ! 眠るのに丁度よい温さじゃ!ほくほくじゃぞ!」

「カイン様は枯れ始めの香りですっ!」

「死のう……」

「顔の煙が真っ白になってンぞ!?」

「それの色、変わるんですね」

 やいのやいのと騒いでいると、祈祷を終えたエレインも混じって5人で騒ぎ始めてしまった。

 カインの顔を覆う靄が白くなったり黒くなったりを繰り返しながらも時は過ぎ、ぎゃあすかやっていればすぐに日も落ち始め、村に戻ったのは月が夜天の頂に辿り着いた頃だ。


 楽しい時ほどすぐ過ぎる……とはよく言ったもので、誰かにとってはほんの一瞬の出来事だったろう。きっといつしか手に入るかもしれない、あるいはもう得ていたのかもしれない、あの日の選択さえ無ければ創れていたかもしれない、遠い昔に手を伸ばした一時を異界で得ようなどと笑い話にもならないなと、1人のおっさんは煙草のフィルターを噛みながらに口元をニヤけさせていた。

「”世の全ては廻るもの。人が知らずとも循環は途絶えない”……か。こンな世界にまでぶち込まれちまったなら、今まで苦労してきた分は返ってきて欲しいもンだぜ」

 正義に憧れ、正義を歩み、正義の中で生きてきた自分を阻んだのは、正義に潜む悪だった。

 そんな中で見つけた悪を倒せるだけの希望は悪そのもので、ジレンマを抱えながらも自分に言い訳をして上手く付き合ってきたつもりだ。おかげで結婚も出世もできずにこんな歳まできてしまったが、この時間が続くならそんなに悪くないとすら思えるし、きっと楽しんでいるのだろう。

「スレイムさんは、カインとは古い付き合いなんですよね?」

「もう30年か40年か……お嬢ちゃンの歳よりはいってンな」

 夜空を独り占めしていたはずが、気づかぬうちにサニアも夜風に当たりに来ていた。

 ヴァースが火を消そうと煙草を口元から離すと、そのままでいいと勧められてしまう。カインに見つかった時の事が怖くもあるが、本人がよしとしたのだから文句も言うまいと深く一息に吸い込んだ。

「……カインは、昔からあの雰囲気で?」

「気持ちわりィくらいにはあンなだぜ」

「なら、スレイムさんも?」

「俺ァもっと無茶してた。若さに身を任せて、ちっとでも気にくわねえと噛みついてたっけな」

 苦々しい笑みを浮かべて語るヴァースには、言いながらどこか誇らしさまで感じさせる自信のようなものがあり、何も知らないサニアでも彼から正義心を感じるには充分だった。

 この男の語る正義がなにかはわからない。けれど、きっと大衆にとってそれは正義に他ならず、だからこそ治安維持を委されていたのだろうし、街でも騎士団の一部を率いるだけの力があったんだろう。そう思えばこそ、どうしてそんな男がカインと仲睦まじくしているのかがわからない。

「あの……2人の世界は、平和でしたか?」

あンな人殺し(カイン)が闊歩してる世が平和に思えンのか?」

「……すみません」

「ま、それを除けばそこそこ平和だったぜ。たまに戦争して、平和を唱えて、理想を力で実現させようとする奴が現れて、それをまた戦争で潰す。何度も何度もそうやって合間合間に平和を謳歌してンだ」

 悪しき力を正しき力でねじ伏せる。

 それは確かに正義だろう。大多数がそれを正しいとさえしてしまえば、如何なる行為も正義となる。だが悪とされたものはどうだろうか。

 悪とは悪として産まれたのか? 悪たらんとして存在するのか? それとも──

「なら、私たちは潰される側ですね」

 ──我々のように違う正しさを掲げる者ではないのか。

 戦争を回避するためとはいえ、正義の象徴たる勇者を消そうとしているのは紛れもない悪だろう。

 サニアの見た神託は勇者を排除するように命じていた。そうしなければならないと思わせた。宗教で成り立つアイラストリアといえど地位のある者が受けねば賛同者など現れないであろうこの神託に、何故か自分はすんなりと受け入れて使命感さえ抱くほどの力があり、言葉にできない信憑性があった。

 勇者を生かしておけば多くの血が流れるのだと。それをより確実に止めるには異界からの召喚をするしかないと。

 迷いもあった。月が2度も満ちる程度には悩み続けた。その末に辿り着いた答えに後悔はしていない。間違っているなんて考えない。考えたくない。

「勇者ってなァ、たぶん正義そのものだからな。俺の居た世界の法則に則るなら俺たちは勝てねえ」

「それでも、カインに協力するんですか?」

「あいつはある意味で、平和の敵ではあっても正義の敵じゃあねえンだ」

「……それはどう違うと」

「違うかもしれねえし、違わねえかもしンねえ。俺にもよくわかンねえよ。わかンねえのにそう思わせるのがあいつだろ」

 どう言葉にすればいいのかがわからず、あまり説明になっていない言葉にもサニアは共感できる部分がある。

 この人なら大丈夫だろう。そんな気がしてしまう雰囲気を持つのがカインだ。それは毅然とした姿勢が故か、凛とした構えが故かはさておき、あいつなら仕方ないとすら思えてしまう。

 だがそれは、決してあの男だけではない。

「……だーっ! やめだやめだ。こういうのは俺にゃ合わねェ。もっと楽しい話をしようぜ」

「例えば、どんな?」

「お嬢ちゃンはこれまでも冒険してたンだろ? その中でなンかねえのか」

「……。あまり浮かれたのは無いですね。私は小物ばかり相手にしてたので」

「なら……この世界の神様ってな、どンな存在なンだ?」

 話題に悩んだおっさんは苦し紛れに方針を変え、以前から気になっていた事を訊くことにした。

 カインが召喚されるより30日近く前に召喚されたとはいえ、実態は街から出られずあれやこれやと治安態勢に口出しをしていただけでロクな知識は与えられておらず、この世界について知っている量は2人にそれほど差が無い。

 中でも、ここの宗教に関しては2人とも無知なのだ。

「アイラストリアを中心に3国にそれぞれと、魔王領や流浪の民にも別の神が居るとされてるので……5種以上は居ますね」

「ま、同じ大陸だからそういう事もあらァな」

「ただ、どの教えも聖樹に纏わるモノです。聖樹そのものであったり、その苗を与えた者だったり。なので聖樹を世界の基軸として、その樹齢が私たちの歴史になっています」

「ってこた、結構短いンだな」

「貴方がたからすればそうかも知れませんね」

「っあー……そういうつもりじゃ」

 言葉を間違えた。

 自覚した時には既に遅く、サニアはそっぽを向いてしまっていた。

 自分の不甲斐なさに溜息の1つを漏らしていれば、隣からも漏れ出すように小さな笑みが聞こえてくる。今さっき不機嫌になったはずのサニアが笑っていることが理解できないヴァースは困惑するばかりで、半開きの口を閉じることも忘れ、月下に映る少女を呆然と見つめるばかりだ。

「すいません、私なんかでそんなに狼狽えてると思うと、つい」

「……おっさンてのァ、女の子にゃ弱いもンだ。どうしたらいいかさっぱりだかンな」

「カインもですか?」

「そりゃな」

 ふとサニアの将来が心配になりもするが、そこはそれ、悪女になってもどうにかやっていけるだろうと信じて口を出さないことにしたらしい。

 ころころと話題の変わる取り留めのない会話で多少は気が紛れたのか、少しずつではあるがサニアも笑みが増えてきたように思える。カインではそんなことはしてやれないだろうとヴァースが気を回しているのだが、必要かどうかは定かではない。なにせ、その男を相手に堂々と立っていられるのだから。

「そろそろ戻ろうぜ。あンま長いとあいつにどやされちまう」

「警戒心剥き出しですからね……」

「ああ見えて怖が(ビビ)りなのがミソだ。だからこそ面白いンだが」

 筒状の携帯灰皿に吸い殻を放り込み、両腕を空へ向けて軽く体を伸ばしたヴァースは関節を軋ませながらも笑ってみせ、パキポキと各所が鳴っているのをサニアは苦笑しかできなかった。


 面倒な奴にドヤされる前に戻ろうと、そうして2人が宿の2階に当てられた部屋のドアを開けると共に飛び込んできたのは、数秒程理解を拒むような光景だった。

 人数分の寝台だけが並ぶ殺風景な大部屋なのはいいとして、男女相部屋なのも聞いていたため2人は驚かない。

 どうしてかヤコが部屋にいるのも構わない。が、その表情は猫にキュウリを見せた時のようなもので、口を開いたまま牙を剥き、瞼は眼球が落ちるのではと思うほどに大きく見開いて瞳孔は獲物を狙うかの如く細く尖り、耳はピンと天井を指したままで動こうともしなかった。まるで氷付けにでもされたよう……なのは、やはり些細な問題な気がしなくもないが、最大の奇怪は──


 ヤコの尻尾に


 カインが首から


 突き刺さっている


 ──この1点に限るだろう。

 開きかけだったドアは立て付けの悪い音を響かせながら閉じていき、思わずヴァースはドアを指さしながらサニアへ視線を送るが、訊かれても知らんとばかりにサニアは首を横へ振った。

 2人は深呼吸を挟んでから再びドアを開けるが

「──────」

「………………」

 ヤコが固まっているのも、カインが刺さったまま床で死んでいるのも、色素の消し飛んだエレインがそれらを眺めているのも、何も変わらない。

 人は脳の処理能力を超えると喜怒哀楽のどれかに振り切れてしまうと言うが、それはこの2人も例外ではないらしく、現実を閉め出すようにドアを閉じた2人はただ静かに笑みを浮かべていた。


次回からはノベルにあるまじき選択肢によるシナリオ変化が開始。ぶっちゃけフラグとEDが多すぎてフローチャートがアリの巣か何かだゾ。

いつの日にか作りたいADVバージョンでは自分で選択肢を選んでくれ。

ちなみにノベル版は専用EDだ。そして私はハピエン厨だ。ただしEDの大半で胃痛を催しながら描いてる。笑顔で終われよォ!




カオナシ

自称:カイン

本名:???

種族:人

職業:無職

特技:キャベツの千切り(料理が上手いわけではない)・スキニング

特殊技能:無顔の呪い(被害者)



サニア・ルルイラフ

種族:ハーフエルフ

職業:冒険者

特技:火起こし

特殊技能:神託



エレイン・カーボネック

種族:エルフ

職業:弓の教官→神官

特技:裁縫・交渉(笑顔ごり押し)

技能:神聖魔術・弓



ヴァーテル・スレイム

種族:人

職業:刑事

特技:錆落とし

特殊技能:刑事の勘



ヤコ

種族:獣人(妖狐?)

職業:獣人集落の長

特技:

特殊技能:千里眼(?)





KTR-08

AKを素体にサイガのレシーバーを使って合衆国のメーカーが組み上げたフルカスタムコンプリートモデル。

信頼性をそのままに拡張性や使い勝手を引き上げた物。

外装を素のまま使うカインにしては珍しく、非常事態ということでゴテゴテと多量のMODを装着してサプレッサーまで付けている上に中も外もカスタムパーツがモリモリでSIX12を無理矢理アンダーマウントされているためハイパーフロントヘビー。弾無しで計5kgオーバーがグリップより前にある。スリング必至。非常事態だから……(震え声)

弾は7.62x39mm


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