やはり領主の屋敷は豪華でした…
「あの、ミズキさん…やっぱり私は家で待ってた方が…」
コリンとウィルからの依頼を引き受けた翌日。
ミズキ、コリンと一緒に領主の屋敷に向かう道中、リアは本日三度目となる切実なお願いをするが…
「何度聞かれてもダメなもんはダメだ。店長命令だと思って諦めろ」
そのお願いは店長によるパワハラによってにべもなく断られてしまった。
「そもそもこのメンツを見てみろ。万が一あちらさんが実力行使に打って出た場合、お前以外に対抗できる武闘派がいるか?」
そう言われて、同行しているメンバーを見渡すと…
足は速いが、俊敏性があるわけではなく、体格はヒョロヒョロのコリン。
そして、常日頃からこと戦闘に関してはお荷物以外の何者でもない、と恥ずかしげもなく胸を張る店長。
…お世辞にも武闘派とは言えないメンバーがそこにはいた。
「あの…前々から思っていたんですが、当たり前のように女の子に守ってもらおうとするのって、男としてどうなんですか?」
リアがそんな現状に嘆息し、その元凶に冷ややかな目を向けるも…ミズキは自分の弱さに全く負い目を感じることなくふざけた口調で屁理屈をこねる。
「おいおい、男の方が強いという差別的な考えは良くないな。ここは男女平等の実力重視、適材適所で行こうぜ?」
「なんでしょう…内容としては正しいはずなのにこの男に言われると無性にイラッとしますね…ちょっと一発殴ってもいいですか?」
鼻につく口調で繰り出されるミズキのひねくれ発言に振り回されながらツッコミを入れるリア。
そんなまるで夫婦漫才かのような二人のやり取りを目の当たりにし、
「お二人とも、本当に仲が良いんですね」
「「どこが仲良いんだよ(ですか)!!」」
コリンはその様子を微笑ましく眺めていた。
――と、そんなやり取りをしているうちに、気付けば目的地の目の前に。
「おー、さすがに領主の家となるとデカイな…。金持ちが無駄に家を豪華にしようとするのはどこの世界でも共通なんだな」
普通の家3~4軒分ほどはあるんじゃなかろうかという程の大豪邸を見上げながら皮肉るミズキ。
「いいですよね。ああいう立派なお屋敷に住めるなんて」
一方、対称的に隣を歩くリアは目を輝かせながら屋敷を見つめている。
「はぁ?あんな無駄にデカいだけの家のどこがいいんだよ。あんなの家の中移動するだけで疲れそうだわ」
しかし、そんなリアの言葉にミズキは嘲るような笑みを浮かべながら異を唱え、
「大丈夫ですよ。ミズキさんはあんな豪邸とは無縁の人ですから」
それにムッとしたリアはジト目で睨みながら皮肉で返す。
「ま、まぁまぁ、お二人とも。ウィルさんも待ってるでしょうし、そろそろ行きましょう」
そろそろ約束の時間も迫っているということもあり、コリンは二人の間に入り先へと促した。
「それもそうだな」
ミズキはコリンに同意し、門に手をかけ、
「え!?ちょっ、あの!私まだついていくことに納得してないーーって、ちょっと!!」
リアの抗議をスルーして門を開けて中に入っていった。すると…
「皆さん、お待ちしておりました」
門を開けると、そこには初老の執事がお辞儀をしていた。
「どうも」
「こ、こんにちは」
「よろしくお願いします」
「黒崎さん、それにリアさんにコリンさんまで…ようこそおいでくださいましたーーおや、リアさん。何やら表情が優れないご様子ですが、如何されましたかな?」
「えっ!?い、いやぁ…あはは」
これぞ執事と言わんばかりの礼儀正しい挨拶を披露しつつ、一目でリアの様子がおかしいことに気付くウィル。さすがは領主に仕える一流の執事だ。
いきなりの指摘で不意打ちされたリアは乾いた笑い声で誤魔化そうとするが、
「いやいや、聞いてくださいよ。コイツさっきから『帰りたい、帰りたい』って駄々こねまくりで…」
その試みは、ニヤニヤしながらウィルに告げ口する男の手によって失敗に終わった。
「ち、ちょっ…ミズキさん!?」
反論したいが基本的には本当のことであり、根が真面目なリアはなかなか反論できず…
「せっかく領主様とお会いできるっていうのに、すみませんね」
「そうですか…配慮が足りず申し訳ございません。リアさんも是非我が主にご紹介したかったのですが…強制はできませんし、仕方ないですね…」
「くっ!」
「そうですね。僕も優秀な部下なしで交渉の席につくのは少し不安てすが、本人の意思というのもありますし…」
「んぐっ!!」
「リア、無理矢理連れてきて悪かったな。あとはお前の意思に任せるよ」
「リアさん、残念ですが、また機会がありましたら…」
神妙な顔で"無理しなくてもいい"と告げるウィルとミズキ。
少なくともミズキのそれが演技であることを差し引いても、それらの言葉は真面目なリアには効果抜群だったらしく…
「もう!行けばいいんでしょ!行けば!!何かあったら絶対にミズキさんに責任取ってもらいますからね!!」
少女は若干投げやり気味になりつつも、同行を決意するしかなかった。
「なんというか…ご愁傷です」
そして、一部始終を隣で見守っていたコリンにまで憐れみの目を向けられると、
「ほら!行くなら早く行きますよ!!」
「ちょっ!リアさん!?」
リアはヤケクソ感満載に一人でズンズンと、コリンは慌ててそれを追いかけながら屋敷の方へと先行していった。
――と、そんな中、
「良かったのですか?」
残されたウィルは二人を追うでも、制止するでもなく、もう一人残されたミズキに訊ねた。
「何がです?リアのことなら大丈夫ですよ。単細胞なんでしばらくすればすぐに機嫌直ってーー」
「依頼人である私が言うのもおかしな話ですが…引き返すなら今が最後ですよ?」
ふざけてはぐらかそうとするミズキの言葉を遮り、真剣な口調で問いかける。
「一応言っておきますが、旦那様がすぐに増税や処罰と言い出すのは事実ですし、もしもの時に私が皆さんを庇おうにも限界があります。ーー勿論、成功報酬は大きな額になると思いますが、その分大きなリスクがあること、覚悟はされてますかな?」
それは脅し等ではなく、あくまで忠告…それくらいはミズキも重々承知していた。
もし失敗でもしようものなら、リアが懸念していた通りの結末にもなりかねない。まさにハイリスク・ハイリターン。普通なら二の足を踏んで然るべき依頼なのだが…
「別にそんな覚悟いらないでしょーーだってこの依頼、100%するんだから」
ミズキに迷う様子はまるでなく、自信満々に言い切った。
「何か勝算でもあるのですか?」
「そこは後からのお楽しみということで。ま、見ててくださいよ。ーーほら、さっさと行きましょ」
それだけ言い残し、ミズキは少し先まで進んだところで待っているリア達の元へと歩いていった。
「黒崎ミズキ…何も考えていないだけの阿呆なのか、それとも…とりあえず、お手並み拝見させていただきましょう」
そして、その後ろ姿を眺めながら、ウィルは一人呟くのだった。




