ぶらり裏幻想郷????編 終
「君は…?」
流石に慣れて来たぞ。急に話しかけられるのも もうこれで三回目か?
「あたいかい?あたいの名は小野塚小町さ。ここで……いや、あててごらんな」
一体何をあてろというのだ、と私がぼやくと あたいの職業さ、と彼女はまた笑った。よく笑う女だ。 ……これまでとはまた違う方向に厄介そうだぞ。
辺り一面真っ赤な花で埋め尽くされている。何という花なのだろうな。さっきまで居た屋敷と同じ様に静かだ。小町は花の中に生えている唯一の木にもたれて私を見ている。
さて諸君も一緒に彼女の職業を考えようではないか。まず私は らんに腹を蹴られここにいる。 場所から推測していこう。予想としては蹴られて吹っ飛ばされた場所がここ、というのが一つ。蹴られてひょっとして死んでしまった先がここ、というのが一つだ。らんが気絶した私をここに運んだ、というのも考えられなくは無いがそれは吹っ飛ばされた場合と同じことだ。幻想郷の里の外のいうことには変わりない。そう、私は幻想散歩の達人なのである。幻想郷で行っていない所などほとんど無い。そしてここがどこかわからない。……ということはおそらくここは普通には来れない場所となる。先程話した通り周りには花と一本の木しかない。
うーん。何か思い出せそうな、思い出せなさそうな。
…そうだ!思い出した。だいぶ前に道具屋の主人からこんな場所の話を聞いたぞ。花が沢山あり、大きな刃物を持った女がいると言う場所。そしてそこは私がまだ行ったことのない場所でもある。何故か?普通には行けない場所だからだ。ふふっ 私は真相に辿り着いてしまった様だ。場所はわかった。次に女の職業を当てよう。と言っても もう私は答えがわかってしまった。刃物を持った女の職業も主人に教えてもらったのだ。ずるいなんて言わないでくれたまえよ、知っていたものはしょうがないだろう。私は指を小町に突きつけ叫んだ。
「小野塚小町!ここ、白玉楼の庭師であろう!」
「……まさか外すとは思わなかったよ。この下の花、何だと思ってんだい?」
外したのか…… 花……?この赤い花か 何だろうな 私は花には疎いのだ。花の名前なんて蒲公英と向日葵と桜ぐらいしか知らんのだ。これは蒲公英でも桜でも無い。となれば
「ぼた「彼岸花だよ」
小町は呆れたとでも言う様に天を仰いだ。それからゆっくりと大きなため息をついた。何だか馬鹿にされている気がする。いや実際そうなんだろう。
「お前さん帰りな」
思わぬ展開だぞ。どう言う魂胆なのだ。あっちにずっと歩いてけば帰れるさ、と小町は指を指した。よくわからないが帰らせてくれると言うのはありがたい。お礼を言って私は歩き出した。
言われた方向には彼岸花とやらしか無い。しかも歩くにつれ霧が出て来た。それでも小町を信じて行くしか無い。霧はどんどんひどくなる。もう自分の足も見えない程だ。これは不味いんじゃないか?と独り言を呟いた直後、火を吹き消した様に急に真っ暗になった。
「師匠!師匠!バカ師匠!!」
耳元でキンキン声の何かが喚いている。
「師匠をバカ呼ばわりとはどう言うつもりだ。アホ弟子」
家の布団に私はいた。おまけにアホ弟子も布団に乗っかっている。
ししょ~ とアホ弟子は涙を流しながら鼻水を啜った。少し口に入ってるじゃないか、汚い。
「死んじゃったかと思ったよ~ 」
私が太陽の畑に出かけてから一ヶ月余り経っているらしい。里の門の側で倒れていたのを行商人が見つけてくれたそうだ。
私は今回の散歩でこれまで知らなかった幻想郷の一面を知った。今思い返すとあの彼岸花の場所は三途の川だろう。小町は死神だったのではないだろうか。私は死にかけていたのだろう。しかし未だにゆかりとらん の屋敷が何処にあるのか、正体が何なのかはわからない。幻想郷には知らなくていい事があるのだろう。だがその知らなくていいことを知らないままでいいのだろうか。
先日里の貸本屋である興味深い本を見つけた。時代に取り残されたかの様に本棚の隅で埃をかぶっていたその本は、[古ぶらり幻想郷]とでも言えるものだった。私と同じ試みをした者が過去にも居たのだ。しかし彼の目的は私とは違った。彼は妖怪に立ち向かうすべを探すため幻想郷を歩いたのだ。私は衝撃を受けた。紅魔館編で言った通り、里の外では妖怪の方が上だ。しかしその常識を撃ち壊す事が出来るかもしれないと彼は書いていた。妖怪がみんな悪というわけではない。人間と仲良く共存している者がほとんどだ。しかし人間を憎んでいる、悪意を持っている妖怪もいる。この本の最後にはある大妖怪の事が書いてある。いや、あったとでもいうべきか。紙が千切られており、途中から読めない。しかし残っていた部分だけで私にとっては十分だった。危険度最高レベル、この幻想郷で最も人間を憎んでおり、最も人間を殺めた、この幻想郷の支配者。八雲紫。
私は幻想郷が好きだ。愛している。もっと多くの人に幻想郷散歩の魅力を知ってもらいたい。里の外にしか無い美しさを知ってほしい。そしてそのためにはまず私が幻想郷の全てを知る必要があるのだ。
私は紫について、裏の幻想郷について調べてみるつもりだ。
あなたは人里から出たことがあるだろうか。聞いてみると意外と多くの人が出たことがないと言う。とても惜しいことだ。皆里で生まれそして一度も外に出ずに死んでいく。じつに惜しい。里の外にはたしかに妖怪がいて危険で道も歩きにくい。しかしそれを補っても余りある美しい、そしてどこか懐かさを感じさせるような風景がそこにはある。あなたも休みの日、天気のいい日、少し疲れた日にぶらりと歩いてみるのは如何だろうか。