神田さよ箸『東北れぽーと』を読んで
『東北れぽーと』を読んで
男と女の震災物語
―神田さよさんに―
1995年に神田さよは
まだ見ぬ白馬の王子と恋に落ちたのだ
阪神淡路大震災の時に
恋心が芽生えた
ただ訳もなく恋をしたい気持ちが
高ぶっていた
いつ現れるとも分からない彼に憧れ
現実を必死に確認して
体験して
表現して
それこそがイノチかのように
阪神淡路大震災の
乱雑で散々たる現状を
戦争が終わった後のような風景を
彼氏のように抱きしめて
それから16年
彼女の前に白馬の王子が現れた
現れてはならない白馬の王子が現れた
一回目は偶然
二回目は奇跡
三回目はイカサマ
と言われているように
二回目の起こってはならない奇跡が
起こったのだ
東日本大震災という白馬の王子に
出会ったのだ
理不尽だが彼女はときめき
枯渇し始めていた井戸水が
湧き出るように
活き活きと輝き
遠く離れた彼氏に会うために
何度も東北に会いに行った
彼氏の惨状は神田さよの惨状
神田さよが体験した風景を彼も持っていた
いわば男と女
阪神淡路大震災が神田さよなら
東日本大震災は彼だ
男と女が巡り会い
恋に落ちるのに時間は要らなかった
同じ境遇と
価値観が一致した
神田さよが男に惚れて
東北に通い始めた
彼を何度見ても飽きなかった
この荒れた地
傾いた家
津波にのみ込まれた街
そんな彼が東北にいる
それだけで充分だった
現実に現れてはならない
夢に見た白馬の王子が
遠く離れた東北にいた
おてんばで
真っ直ぐに生きて
ちょっと小生意気な女が
東北という男によろめいた
私たちは同じ被害者
私たちは同じ震災を体験した者同士
気心も心意気も同じだ
挫けちゃ行けない者同士
男の未来は私
私の過去は男の現在
神田さよはそう言い聞かせて
男を何度も励ましに
東北に行った
※二〇一五年六月八日