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北洋燃える~HI作戦発動(5)~

昭和18年9月


「機材受領ノタメ護衛総隊主力ハ舞鶴ニ向カワレタシ」


 いつものごとく輸送船団護衛を終え内地に帰還し、補給と航空隊の新型機慣熟訓練を実施していた海上護衛総隊は海軍軍令部の命令を受け、本土-蘭印-ニューギニアの輸送船団護衛任務を一時中止して舞鶴に向け日本海を北上していた。

 装備等の受領は、一般的に海軍の一大補給基地である呉か(装備品の)生産地から近い横須賀が適地のはずなのだが指示された先は日本海に面した舞鶴だ。恐らく日本海方面から大規模な輸送を伴う作戦が計画されているのだろう。

 輸送船団護衛という地味な任務ではあるものの、護衛対象の情報は常に収集している。おかげで陸海軍の兵站状況にかなり明るくなったが、それをもってしても日本海を起点とする(護衛総隊主力の護衛を必要とする様な)大規模な輸送計画が練られているという情報を得ることはできなかった。

 軍令部の意図はどこにあるのか?陸軍が単独で何かをやろうとしているのか?

 疑問を抱えたまま舞鶴に入港すると、埠頭は「特別に一般開放」がなされ、多数の民間人による大歓迎を受けた。その模様は戦時下にもかかわらず新聞に(検閲付きではあるが)


 「帝国海軍(微妙に所属が異なる)航空戦艦部隊舞鶴ニ凱旋」


 とでかでかと掲載される始末だ。主任務の「機材受領」だが、「山城」「扶桑」の航空隊向けの「音速雷撃」関連機材は貨車で送られてきており、補給は碓かに完了した。しかしこれらの機材はわざわざ舞鶴まで運んでくる類のものではない、佐世保、呉、あるい大神で十分補給できる。

 異様な歓迎に狼狽しながらも

 「機材受領というのは欺瞞だろう。(舞鶴)を起点とする何らかの作戦の発令がある」

と、本命の作戦発動を待っていると今度は、


 「大湊ニ寄港サレタシ」


と更に意味不明な命令が下された。

 護衛総隊は混乱しながらも舞鶴を出港し日本海を北上、佐渡ヶ島南方を経由し津軽半島の付け根に向かうことになった。



「ずいぶんと涼しくなった」

「南方の陽気が恋しいねぇ」


というのは航空護衛艦「扶桑」水兵の軽口である。



-青森県大湊-



「大井君。どう思う?」


 連合艦隊出撃から6日。日本列島の北、青森県大湊湾には訳のわからないまま舞鶴を出港した海上護衛総隊主力と、どこからやって来たのか?連合艦隊の航空母艦2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦6隻の軍艦が集結していた。

 トラック島出港後にいきなり分離された第四航空戦隊の空母「龍驤」「祥鳳」を基幹とする空母2、巡洋艦1、駆逐艦6の艦隊は、トラック島南東から南西に進路を変更。グアム-フイリピンを結ぶ線の中間地点を全速力で突っ切り大湊に到着していた。

 旗艦「龍驤」の艦内には護衛総隊首脳と、航空戦隊司令官角田中将を始めとする第四航空戦隊首脳が集結。これから実施される「作戦」の調整を行うことになっている。

 「厳秘」のスタンプの押された作戦概要は海上護衛総隊、第四航空戦隊首脳で回し読みされたが、大半が納得できない表情で黙り込んでいる。

 角田の開口一番の言葉は、司令部、軍令部からの作戦に対して思うことがあってもなかなか口には出せない第四航空戦隊ではなく、(一応ではあるが)外様の海上護衛総隊の大井中佐から本作戦の異論を引き出そうと考えたのだろう。

 碓かに奇妙な作戦だ。連合艦隊主力ではなく分派した兵力と「戦力外」と思われている海上護衛総隊とをもって辺境の敵拠点を叩く。それも複数目標への攻撃と占領作戦だ。もう少しそれらしい陣容が必要ではないか?

 まぁ、大井にとっては他人の連合艦隊だ。好き放題言っても問題はない。大井は「おおいに」私見を述べ始める。



「海上護衛総隊は陸軍、海軍陸戦隊と協力してアッツ島とシェミア島を占領するとなっています。この作戦は例の新型爆撃機B-29に対するものでしょう。B-29の航続距離は7000キロと聞いています。

 米軍が本土爆撃を敢行するにはB-29の作戦半径内に飛行場を建設することが必須となります。シェミアに航空基地が建設されているのはここを起点として本土を爆撃する狙いがあります。無視はできません。

 しかし、ここの占領が必要でしょうか?オホーツク、ベーリングは年中悪天候で、晴天の日のほうが少ない。1機2機ならまだしも、梯団を組んで数で押す爆撃機の運用は難しい。シェミアの占領は必要ない。基地建設が当面不可能になる程度に砲爆撃をすればいいと愚考します」



「大いに」語った大井中佐に角田中将は笑みを浮かべた。想定していた意見だったのだろう。



「海上護衛総隊サンは手厳しいな。本作戦には意味がないということか?」

「いえ、そうではありません。B-29対策としてアッツの占領は必須です。アッツを我が軍が抑えることでダッジハーバーはアッツ近辺への基地設営が難しくなる。B-29で本土を狙うのであればアッツ周辺に飛行場を作るか、B-29を搭載できるバカでかい空母を建造するしかない。早晩アッツで陸戦になります。アッツは島全体が大きいので、補給が十分ならかなりの期間、持ちこたえることができるでしょう。千島に中継点を設ければ米軍よりも補給は楽です。陸軍には申し訳ないが可能な限り戦闘を避け、米軍が飛行場を建設する動きを見せたられを叩く。半年、いや、3ヶ月持ちこたえればいい。滑走路が使用不能になっていればB-29の脅威はなくなります。飛行場は逃げられませんから。

 それと飛行場破壊程度であれば我々(海上護衛総隊)だけで十分対応可能です。連合艦隊主力は来る一大決戦に備えて温存すべきです」

「将来の脅威を軽減するために・・・か。碓かに一理ある。だが、GFにも都合があるんだ。長官から聞いた話だが・・・諸君。他言無用だぞ?」



 全員が頷くのを確認し、角田中将はこう述べた。



「陸海軍は地球を半周できる爆撃機を開発中だ。完成は目前と聞いている」

「・・・それは・・・つまり」

「シェミア(の飛行場)は必要だろ?(占領すれば)そのまま使用できる。第四航空戦隊の任務はシェミア接収の邪魔になるダッチハーバーを当分立ち直れないくらいに叩くことだ。本作線は海上護衛総隊の担うアッツ、シェミアが本命だ。ダッチハーバーはGF全艦でやりたかったらしいんだがトラックの動向は米軍が常に目を光らせている。綺麗どころが動くとあちこちから米軍がやってくる。そうなると殴り合いになる。こちらも無事じゃ済まない。

 GFが負ける材料は今のところない。が、近い将来に備え戦力は温存しておきたい。そんな訳で第四航空戦隊が選ばれた。封緘命令書を開封するまでは何も知らされていなかったんで貧乏くじを引いたと思って腐ってたんだが当たりだったので気分は悪くない。しかし「惜しくない」と思われているのは癪だ。

 本作戦でGF主力は囮になって米海軍から逃げまくって太平洋中を引きずり回してくれるそうだ。「龍驤」「祥鳳」がダッチハーバーを叩く間に海上護衛総隊は必ずアッツ、シェミアを獲ってほしい」

「島嶼攻撃は「山城」「扶桑」にうってつけの任務です」

「「扶桑」「山城」はソロモン、ポートモレスビーと大活躍だったからな。しかし「山城」。変わったよなぁ。噂には聞いていたが実際見てみると驚くしかない。俺が(山城に)乗ってたときは主砲12門は多すぎると思ってたんだが、さすがに4門にまで減ってしまうと寂しい」

「副砲も全廃ですからね。そのかわり飛行甲板と航空機が載りましたから排水量は差し引きゼロです。艦内環境はかなり良くなってます。戦闘力も相手が駆逐戦隊程度なら単艦で殲滅可能です。1個戦隊程度であれば敵は逃げるしか選択肢がありませんし、逃げても航空機で足を止められて最後は主砲で「ドン」です。改装で船足も早くなってますし、航続距離も結構伸びてます」

「そりゃ頼もしいね。おまけに「大いに宜しい」フネも同行してるから潜水艦に怯えることもないしな」

「あの軽口は「大いに」反省しております」

「はははは、それでは諸君!征こうじゃないか!作戦名は「MR作戦」だそうだ。全艦の装備点検完了次第出港だ!陸さんは単冠湾で待っている。験担ぎにしても嬉しいじゃないか。」




-北海道能取湖畔-


「寒いな。詫間は夏服で余裕だったんだが」


 七輪の土鍋から上がる湯気を前に、はるばる四国から(例によって)九州を経由して飛んできた詫間空飛行隊長(兼飛行教官)が感じ入ったようにつぶやく。吐く息は白い。よって鍋も美味い。この時期の北海道北端と四国の瀬戸内とでは気温差は思った以上に身体に堪える。

 湖畔に陣取った詫間空「カラス1」「カラス2」の搭乗員と能取水上機基地の面々は黙々と鍋をつついていた。



「これか?これは燃料だ。いや潤滑油かな?向こうの連中に給油してやれ」



 前回同様、九州で機体にロケットと電子機器を搭載するついでに、こすっからい容姿の親父(九州に覇を唱える別府造船グループを率いる来島義男とかいう奴らしい)に有田焼の容器に入った大量の同盟国発祥の人間用燃料シュナップスを積み込まされたのだが、その燃料は性能を十二分に発揮していいた。

 基本、余所者には冷淡なのが軍隊だが、燃料のおかげで歓迎ぶりが半端ではない。あちこちの鍋の周辺で燃料を称える声が上がっていた。



「なんでここ(能取)にいるんです?ウチ(詫間空)じゃなくてもいいんじゃないかと思うんですけど?」

「前にアッツに飛んだからだろ?つまりはそういうことだ」

「前回も強行偵察でしたけど、そんなに何回も行く用事があそこ(アッツ)にあるんですかね?」

「多分、(島を)奪るんだろう。米軍の爆撃機が原因だろうな。あれは大艇並の航続力があるらしい。で、大艇よりも速い。発動機がいいから高空でも馬力が落ちないのは「カラス1」で確認済だ。おまけに与圧されているので高空を飛べる。で、陸上機だから爆弾も結構積める。そんなのが飛んできたらまずいどころの話じゃない。一発でも東京に爆弾落とされたら陸海軍大臣は二重橋の前で腹を切らにゃならん」

「我々は露払いってことですよね?」

「カラスは電探に映らないからな。敵電波の調査のため東芝さんにも同乗してもらってる。「詩吟」とかいうらしい。カラスも改造されてるから前より楽かもな」

「カラスも随分変わっちゃってますからね。知ってますか?大改造を魔改造と言うらしいですよ」

「魔改造はいい例えだな。発動機が米国製になったから馬力に余裕がある。さすが舶来製だ。機上電探も装備してる。ちょっと見た目は色以外普通の大艇だが中身は別物だ」

「厚遇されているのか冷遇されているのかよくわかりませんね」

「実験動物扱いだからな。少しは約得があってもいいんじゃないか?酒も持たせてくれたしね。俺達は商売で軍人やってるけど巻き込まれた人間はたまったもんじゃない。貧乏くじ引いたみたいだけど勘弁してくれ東芝さん」



 隣で鍋つついていた「東芝さん」は笑顔で応じた。



「北海道は一度行ってみたかったんですよ。まさか飛行機でのお大尽旅行だとは思ってもみませんでした。私は立場云々より現実が好きですね。それに皆さん親切ですし」

「そう言われちゃ無碍にするわけにはいかんよな。「カラス1」の乗組員は大家族みたいなもんだから。よし!気合い入れて呑もう!」



 かくして、連合艦隊主力を囮として使い倒す秘匿作戦名「MR」は様々な人間を巻き込みながら開始された。

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たまに、読み返しております 色々忙しく更新出来ないとは思いますが、書けるまで、お待ちしております
更新通知があるから読んだけど 地味に読み覚えがあるから編集したんだろうか?? まぁ、また更新をまつよ!
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