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北洋燃える~HI作戦発動(4)~

「奴らがこの海域にいる。なぜか?」



 米国太平洋艦隊司令官レイモンド・スプルーアンス大将は作戦卓上の索敵線、哨戒線が大量に書き込まれた作戦地図の空白部分を人差し指でコツコツと叩きながら幕僚たちに問いただした。

 明らかに不機嫌な彼の様子に同席している幕僚達は何も言い出せない。

 連戦連勝(太平洋艦隊にとっては連戦連敗)の連合艦隊の出撃に、



 「雌雄を決する時が来た」 



 と、太平洋艦隊は決戦を決意。決戦の地となるであろうフィジー・サモア方面に空前絶後とも言える索敵線を構築してその動きを探ろうとしたのだが、連合艦隊はそれに全く引っかからない。

 フィジー・サモア方面の「空振り」に、2度目の真珠湾攻撃の可能性を感じた米軍は北太平洋に索敵線を再構築する。

 真珠湾攻撃から続く米海軍の連敗の責任を取らせる形で海軍上層部が大量に罷免、左遷、予備役編入されている。この状況が加速するのを太平洋艦隊司令部は非常に恐れていた。

 これ以上の将官のパージは艦隊運用に影響が出る。無論、ホワイトハウスはそこまで考えてない。海軍実働部隊維持のためにこれ以上下手を引くわけには行かない。

 多大な人員を太平洋に注ぎ込んだ結果、米軍は連合艦隊の居場所を索敵線の空白地帯。すなわち、北太平洋の赤道より北、日付変更線の西と断定した。

 ここは戦力空白地帯、あるいは日本の勢力下。連合艦隊が本拠地をほぼ空にして出撃しなければならないほどの戦略目標はない。

 近所にミッドウェイが存在するものの、連合艦隊が全力で当たる程の戦略目標とは考えられない。それに目標がミッドウェイであったのなら(出港時期から換算すると)基地を壊滅させ帰投中であってもおかしくないほど時間が経過している。なぜ、さっさと攻撃しないのか?



「オーストラリアからニューギニアを経由しフィリピンに至る陸軍の日本侵攻ルートは事実上消失した。ヒマラヤ経由で新型爆撃機を中国に運び込んで日本本土爆撃を敢行したものの、ハエの様に撃ち落とされたらしい。

 爆撃機のクルーには申し訳ないが海軍にとっては悪いことばかりではない。空母に陸上機を載せろという無茶は言ってこなくなった。

 陸軍が無茶を言ってくる前にトーキョーから2000マイル圏内の島。ボニン諸島(小笠原諸島)を攻略し、橋頭堡とするしかない。無論、海軍だけでは無理だ。海兵隊、陸軍の協力が必須だが、まずはこの海域を手に入れる必要がある。

 陸軍はアリューシャン方面を足掛かりにしようとしてるが、アリューシャンは知ってのとおり年中荒天だ。爆撃機の大規模運用適地ではない。

 本国の分析は、「日本海軍はボニン諸島近海で演習を行っている。気にせずさっさと帰還せよ」ということだ。日本軍はこちらの意図くらいは読んでいるという分析だ。まったく・・・(演習を)やりたいのはこっち(太平洋艦隊)の方なのだがね」

「それではこちらも「訓練」をやってみればどうでしょう?」



 スプルーアンスの愚痴に参謀の一人、エドウィン・レイトン少佐が応え、場の空気が固まった。



「本気で言っているのか?」

「かなり本気です」

「聞こう。話したまえ」

「本国で我々が知らない何か、謀略もしくは政治的なものが動いている可能性があります。勝手にやってて欲しいのですが、このまま臨戦態勢を解いてしまってはこちらのモチベーションが下がるだけに終わります。奴らのおおまかな所在はわかっています。それじゃあ奴らを無視してこのまま訓練に移行してはどうかと」



 軍人の嫌いなワードであろう「政治」を言外に匂わせ、彼は太平洋艦隊首脳の現状を説明する。



「太平洋艦隊の索敵線は過剰でした。ありったけを出しています。「作戦終了後」元の状態に戻るまで最低でも1週間、疲労回復を考えると10日は必要でしょう。これを空振りのままにするのはもったいない。この状態を「実戦・臨戦」でなく「訓練」とします。

「出撃したけど空振りになった。だが日本の艦隊の居所はわかった。我々の攻撃限界の外だ。もったいないのでこのまま洋上訓練を行い日本軍を挑発する」

 とでも報告します。こっちも気分の問題ですが兵の心労は軽減されるでしょう。通常訓練よりハードな分、技量向上も見込めますし、万一索敵線上に敵が攻勢をかけてくればそのまま実戦に転じることも可能です。危なくなれば逃げればいい」



「逃げる」という言葉に場の空気が微妙になる。それを感じたのか、スプルーアンスは生真面目な態度ではあるが、意識的に面白そうな顔を見せた。



「逃げるというワードはいただけない。負けが込んでるから逃げ癖まではつけたくないのだ。誰か「訓練の詳細について」意見、提案ははあるか?」

「接敵したら、全力で後退。周辺海域で哨戒にあたっている他の任務部隊から交互に攻撃を仕掛けるのはどうでしょうか?」

「続けたまえ」

「我々の兵力の展開範囲が広過ぎるのは言うまでもありません。太平洋艦隊は南太平洋と北太平洋の赤道より北の全域に展開しています。索敵では強力ですが、分散したままジャップの主力と当たるというのは無謀です。しかし初撃を受けきる、あるいは躱すことができれば我々のターンです。多方面から入れ代わり立ち代わりの攻撃が可能になります。トータルな戦力はこちらが上です。奴らをどのあたりで叩くか?我々の「訓練海域」設定がポイントになるでしょう」

「ふん。どのあたりを「訓練海域」とする?」


「ミッドウェイとジョンストンを結ぶ線の中央から東側を訓練区域とし、ここを中心にジャップの居座りそうな海域に薄く戦力を展開します。

 この海域の西側に索敵線を構築し巡洋艦、駆逐艦を主軸とした遊撃部隊を編成。威力偵察を行います。索敵線に敵が引っかかったら即座に臨戦態勢に移行。数が優勢であれば暫時戦場に集合して各自攻撃、劣勢な場合は敵を引き付けながら後退します」

「誘い出して、連続攻撃か。悪くない。消極的に見えるがいいプランだ。訓練なら戦力展開の言い訳にもなる。君のオリジナルか?」

「ジャップの陸戦を参考にしました。奴らあの島で100年近く殺し合いやってましたから参考になることは多い」

「日本の戦史か。見破られる可能性はないのか?」

「やった方とやられた方の両方の作戦です。woodpecker tactics とrevolving wheel formationです」

「いいだろう。その線で「訓練準備」に入りたまえ」



 首脳が持ち場に散った後、スプルーアンスは従兵の運んできたコーヒーを口に運びながらつぶやく。


 

 「我々は本当に「戦争」をやっているのだろうか?」



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>woodpecker tactics とrevolving wheel formation 餌を取ろうと突いたら、毛虫じゃ無くて蛇だった啄木鳥さんお気の毒作戦と、円月廻転の元ネタ陣形。さてどうなる…
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