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北洋燃える~HI作戦発動(3)~

 日本における世界地図の中心。皇居から3000キロの円を描いた際、軍事的、特に本土防衛の点から決して無視できない場所が園内に存在する。

 北海道から千島列島を経由してアラスカに連なる島嶼地域、アリューシャンだ。

 開戦当初からアリューシャンへの侵攻はシベリア方面への米軍進出妨害と、僻地ではあるものの「米国国土の占領」というプロパガンダ的な意味を含め検討されていたが、北方の「ど田舎」であり、高緯度海洋特有の気候から荒天が多く霧が発生しやすいため、軍事、特に航空機の運用には適さない地域であると少なくとも日本軍に(恐らくは米軍にも)認識されており、この地域への進出はおざなりになっていた。

 何せ領土の主であるはずの米国民が存在すら知らない「ど田舎」だったのだが状況は一変した。


「(本土空襲の)憂いを排除せよ!」


 脅威が顕現したのだからやらざるを得ない。アリューシャン方面へのテコ入れ(一般的には「泥縄」という)は急遽日の目を見ることになる。

 事前偵察のため、各種新機材の試験に使用されていた詫間航空隊の二式飛行艇と百式司令部偵察機がアリューシャン方面を強行偵察。幸いなことにダッジハーバーにB-29の配備は行われていなかったが、アッツの眼の前に大規模な航空基地が建設されようとしていることが判明した。奴らはやる気だ。事は一刻を争う。

 機動部隊で叩くのが上策だが、連合艦隊本拠地トラック島の挙動は米軍も注視している。こちらの意図が明らかになればアリューシャンは日米海軍総力での殴り合いの場に発展する可能性がある。大日本帝国陸海軍が総力を挙げて戦争終結のための一大作戦「SKI」の発動に備えている現在、ここで無駄に戦力を損耗させることはできない。となると、アリューシャンへのテコ入れは米軍の意表を突いて行うしかない。


「損害皆無で一方的な勝利」


 無理難題を押し付けられた連合艦隊首席参謀黒島大佐は、部屋に引きこもり寝食を忘れフラフラになって作戦を起案。宇垣参謀長から数回のやり直しを命ぜられた後、軍令部に空輸され、ここでも数か所の訂正を受け承認された。

 これを受け連合艦隊主力艦艇は「HI作戦」と名付けられた作戦要項に従い慌ただしく南東に向けて出撃していった。



「連合艦隊動く」



 連合軍の諜報、情報部門は2月に起こった天皇によるクーデター(菊の粛清)の全容をかなり不正確ではあるが、把握しており、その目的が戦争終結であることであると分析。連合軍に対して有利な条件で戦争を集結させるために近く一大作戦が決行されると確信していた。

 これに直接対峙することになる米軍も、この半年、戦力の増強と練度向上を図っており、積極的な攻勢を控えていた。その結果、練度こそ不十分ではあるものの、数の上では十分に連合艦隊と雌雄を決するだけの戦力が整っていた。



「今こそ決戦の時!」



 連合艦隊の全力出撃の情報を得た米軍は、その進路(南東方面)から米豪の補給線を完全に分断するのが作戦目的であると分析。迎撃のためフィジーを起点として機動部隊を中心に遊撃戦を行う方針を固めた。

 この方針により米軍機動部隊はフィジー、サモアの勢力圏内に展開。濃密な索敵線を設定し連合艦隊の動きを把握しようと努力していた。

 フィジー、サモアからオーストラリアへの物資輸送だが、ニューギニア方面で捕虜になった連合軍兵士は日本の皇帝との間で「兵役に復帰しない」ことを条件に解放されており、この約定と「沈没船からの遺品回収協定」のためポートモレスビーから珊瑚海周辺は一時的に非戦闘地帯となってしまっている。そのためオーストラリア方面への物流拠点のフィジー、サモアには行き場のない航空機とその他の資材が山ほどある。戦力の不足は考慮する必要はない。

 たとえ連合艦隊が全力を投入してもフィジー、サモアを陥とすことは不可能だ。そう、(米軍は)待てばいいだけだ。


 しかし肝心の連合艦隊はトラックを出港後、その姿を消し、索敵線に引っかかることはなかった。困惑した米軍は航空機、潜水艦を動員し、連合艦隊の動向を捉えようとしたが、文字通り連合艦隊は、「かき消すように」消えた。

 南太平洋海域地図上に展開する味方艦艇と航空機による索敵線を大量に、何度も描きながら血眼になって索敵を行っているのだが、その姿を発見することすらできない。

 つまり、連合艦隊はこの索敵線の外にいる。トラック島出撃時の進路、南東は欺瞞だ。奴らの目標は北太平洋。もしかするとハワイか?

 半ばパニックになった米軍は、全力で索敵網を転換。ハワイ周辺に異常なレベルの索敵線を設定した。

「(アフター)パールハーバー・アゲイン」

 それだけは絶対に避けなければならない。真珠湾攻撃で罷免、左遷されたキング。また、ホワイトハウスの横槍の作戦失敗の責任を押しつけられて軍を去ったニミッツの例がある。彼らは市井で不遇に晒されている。責任はないのにこれだ。責任の所在が自分達にあった場合の処遇なぞ考えるだけで恐ろしい。

 米軍の必死の哨戒網にも関わらず、それでも連合艦隊の姿を捉えることはできなかった。



「奴らはどこで、何をやっている!」



 怒りに任せて叫んでみたものの、侮りがたい敵の所在不明に米軍、特に太平洋艦隊首脳は怒りがじわじわと不安、恐怖に転換しているのを感じていた。


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