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蘭印上陸作戦

今ひとつ脈絡のない文面になったので、更に改稿です。

 揚陸母艦としての「土佐丸」の初陣は、翌年のジャワ島バンタム湾の上陸戦であった。海軍からの移籍組で構成される第二航空隊は陸上で機種転換訓練の真っ最中であり、副業の「航空母艦」任務には難があったためである。

 この作戦に参戦した「土佐丸」は物資と兵員を搭載し揚陸支援にあたったのだが、上陸作戦そのものよりも、他の艦艇との速度調整に多大な努力を注ぐこととなった。

 航海中、18ノット航行の輸送船に21ノットの「土佐丸」が速度を合わせるため、船団の至近で何度も大きな進路変更を行わなければならず、


「土佐丸の進路変更が怖い。速度を落とすか、独行して欲しい」


 との要望が上陸戦直前まで船団の僚艦から絶え間なく上がってくる羽目になる。売りである「優速」が仇になったのだ。


 考えてみれば「土佐丸」1隻で上陸戦を行うことなどまずあり得ない。揚陸母艦としての「土佐丸」を十二分に活用とするのなら陸軍は優速輸送船の建造に注力すべきだったのだが、そこは貧乏国の悲しさ。輸送船団の各船長からは、

「船団随行の難しいデカブツ」

「一緒に航行すると敵に攻撃されそう」

という悪評をいただくことになる。


 身内からの悪口に耐え、3月1日深夜。バンタム湾に突入した「土佐丸」をはじめとする上陸船団は上陸を開始。第一次上陸部隊がジャワ島制圧に乗り出す。。

 この時、「土佐丸」はデリックでの揚陸と併せ、甲板上に揚陸予定の野砲と重機を展開し支援射撃を行う。

 作戦は大成功。上陸部隊は無血で上陸を果たしたが、この戦闘中に上陸船団は敵の雷撃を受け、完全無血の勝利とはいえない状況に陥る。

 被雷したのは、輸送船1隻、病院船1隻、掃海艇1隻と「土佐丸」で、「土佐丸」は右舷中央部付近に複数の雷撃を受けた。

 かつて英米の調査団から「一発喰らったら沈むような船は軍艦とは言い難い」と評された「土佐丸」である。普段から「自分たちのフネは紙装甲だ」と認識している乗員はパニックに陥りながらも懸命に応急措置を行う。

 雷撃は第一バルジに命中。文字どおり「紙装甲」を簡単に食い破り内部で盛大に爆発した模様だが、上陸作戦のためバルジ内に注水していたのが功を奏し、被害は第一バルジの部分剥離と、第二バルジ(本来「土佐」が装備していたバルジ)表層の変形程度にとどまり、沈没には至らなかったが、被雷した他の艦艇は轟沈に近い形でバンタム湾のヘドロの海に沈む。

 この雷撃で上陸作戦に影響が出るかと思われたが、上陸部隊指揮の第16軍軍司令官今村陸軍中将と、その幕僚の座乗する「神州丸」には雷撃の被害が及ばなかったため上陸指揮に影響は出ず、その後の作戦に大きな影響はなかった。(被雷の位置関係から「土佐丸」が「神州丸」の盾になったと考えられている)

 何とか生き残った「土佐丸」も中破と判定され、物資を揚陸後、応急修理のためシンガポールまで後退することになった。

 この「敵」の雷撃。当初は敵駆逐艦もしくは潜水艦による雷撃と思われたのだが、何と!重巡「最上」「三隈」が米重巡「ヒューストン」と豪軽巡「パース」の交戦の際に放った酸素魚雷が到達したものと後に判明し、海軍関係者は真っ青になる。

 通常なら陸軍は大喜びで海軍を責めるはずなのだが、陸軍は何ら海軍の責任の追及を行わなかった。正確に言うと責任追及ができなかった。

 戦意高揚のためバンタム湾上陸戦は、かなりの「盛り」も交えて華々しく報じられた後であるため、味方の誤射で損害があったなどとは口が裂けても言えない。

 何せ「皇軍=神軍」なのだ。絶対に、断じて同士討ちなどはない。

 また、被害に遭った「土佐丸」に至っては、陸軍の秘密兵器であるため参戦したことすら明らかにしてはいけない。隠せ!徹底的に隠滅せよ!

 そんな訳で、海軍に更に貸しをつくるという政治的判断も含め、真珠湾に続いて「土佐丸」はまたしても日陰の存在となってしまった。

 「海軍の厚意」で、シンガポールで他の海軍艦艇を押しのけて「土佐丸」は応急修理を受ける。その際、バルジ内から不発の九三式魚雷が発見された。「不発にしたくない」という意識から現場では信管を過敏に設定する傾向があるにもかかわらず、触雷しても起爆しないというのは奇跡に分類される事象である。扇状に発射されるはずの魚雷が一気に2本も命中する事も含めて。


 「ひょっとして、「土佐丸」幸運艦なんじゃないのか?」

 「いや、俺は貧乏くじ専門だと思うぜ?」


 とは、シンガポールで修理に従事した「土佐丸」船務応急ダメコン要員達の言である。恐らくどちらも正解だろう。

 剥離したバルジ外縁部を鉄板で被覆し、応急修理のなった「土佐丸」は、本格修理のため、生ゴムなどの資源を搭載。内地への輸送船団を率いる格好で台湾経由で本土に向かう。

 この際、活躍したのが、かつて温泉旅館に放り込まれた「土佐丸」烹炊所要員。「目が肥えている」彼らは砂糖、胡椒などの調味料から英軍が残していったアルコール類や嗜好品、保存食材などを全力で買い漁り、船倉に詰め込む。また、寄港先の台湾でもパイナップルやバナナを買い込み、大神帰港の際、別府造船所社員と地元の小学生に大判振る舞いし、帝国陸軍と別府造船の地元好感度をさらに上げることに成功した。

 残念だが、これも「陸軍機密兵器」のため報道されることはなかったが、地元の住民に、

「赤船も立派になってお国の役にたっとるのぉ~」

と褒められるようになった。


 さて、成功裏に終わったはずの蘭印上陸作戦だったが、「土佐丸」はセールスポイントであった「優速」が仇になり、身内の陸軍から、

「土佐丸帯同の上陸作戦は非常にやりにくい」

 との評価を下され、運用に陸軍上層部は頭を悩ませることになる。せめて同型艦がもう1隻あれば状況も変わるのだろうが、「加賀」を海軍から分捕る訳にもいかない。

「修理を完璧に済ませてしまおう。いろいろ考えるのはそれからだ」

と大神での修理は余裕をもって行われ、生まれた余裕で鹵獲機材の試験がなされることになった。

 これに目をつけたのは、やはり海軍であった。

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