閑話2 -竹槍物語(3)-
福岡県 博多 渡邊鉄工所
「これは…」
「「ぼくのかんがえたさいきょうさいこうのせんとうき」A10(エーテン)!日出を守る守護神!日出限定、数量限定、爆撃機限定の重迎撃機だ!どうだ!凄いだろ!」
大分から渡邊鉄工所に乗り込んだ、九州に覇を唱える別府造船グループ総帥、来島義男社長は、渡邊鉄工所経営陣の前に自信満々でスケッチ(という名前の落書き)を披露した。
「重…迎撃機?日出限定…?清々しいほどの我田引水だ…こんなことでいいのか…」
「奇抜過ぎる…本当に飛ぶのか…これだから素人は…」
「ウチ(渡邊)もキワモノと揶揄されるが、来島さんには遠く及ばん。さすがにここまで突き抜けていると…」
渡邊鉄工所の重役、技師達の反応に来島は気を悪くしたらしい。何せここは別府造船ではない。ノリツッコミに長けた社員が揃っているはずはないのだ。
「細け~事はどうでもよろしい!これは「空飛ぶ戦車」なんだ。それと重量物を中心に置いて安定を求めるのは、ありとあらゆる乗り物の基本だとウチの宮部に聞いたからこんな格好になったんだけど違うの…かな?」
ノリツッコミには長けてはいないものの、処世術程度はわきまえている。来島の機嫌が悪くなった事を敏感に察した渡邊鉄工所の幹部の一人が別府造船の技術者らしい人間の意見を補足して場の空気を変えようと努力した。
「それは間違ってません。重量物が重心にあると安定性、運動性の自由度は高くなります。エンジンは噴式みたいですね…エンジンの後ろの長い筒はなんなんですか?」
「噴式というのは合ってっけど、君達が想像しているような立派なモノじゃないよ。最新の航空機エンジンが造船会社に回ってくるなんて幸運は全くないんだ。こいつは別府造船が開発したパルスジェットエンジンだ。構造が簡単な上にそれなりの出力が出る。が、いかんせん燃費が悪い。タンクに穴が空いているんじゃないかと思うくらい激しく燃料を消費する。その代わり悪食なんで少々粗雑な燃料でも燃える。
天ぷら油を精製したやつとか、(もったいないからやってないけど)焼酎の強いヤツでも飛ぶ。あと、エンジン部品の一部はほぼ使い捨てだ」
「使い捨てですか?採算性悪そうなエンジンですね。あとこの翼面積では運動性能もよくないんじゃないですか?」
「運動性能?何それ?美味しいの?さっきも言ったけどさ、コイツは重迎撃機なのよ?それも爆撃機専用の!戦闘機を追い回したり追い回されたりすることは全く考えられていない。爆撃機を一撃でたたき落とすことが全て!一気に攻撃!無駄弾を大量に叩き込んだら燃料タンクが空になるまでエンジン吹かしてケツまくってさっさと逃げる。だからここまで簡素なの!あと、エンジンはプロペラ機用のエンジンよりも格段に安い。高いプロペラ機用のエンジン買うよりもこっちの方がお得だとウチの経理部長が言ってた」
「はぁ…経理部長さんですか…そうですか…」
「でだ。エンテ式の研究やってるのはわかってんだけど、それを一時中断してコイツを3ヶ月で設計して欲しい。その代わり開発費は倍出す。早く仕上げればその分丸儲けだから頑張るように!」
(まぢかよ…)
こうして開発されたのが、地域限定ご当地重迎撃機A10である。※
生産性向上(というか、でっけぇ船専門の別府造船では凝った加工なんぞできない)のため、円形断面胴体に渡邊鉄工所が研究中のエンテ翼機の線図を参考にした、後退角と弱い下反角のある翼を高翼配置している。少ない翼面積と操縦席の位置から離着陸時には機首上げ角が過大となると予想されていたため、来島のアイデアで主翼の前桁にギア、後桁にピボットを装備し、手動で上下に動かすことで主翼の迎角を押さえている。
高翼配置としたため、主脚は胴体内に格納されるので脚が短く、着座位置が低い。そのため滑走中の速度感は半端ない。また、離着陸時の横風に弱いという欠点も露呈している。
外板は肉厚のジュラルミンと薄い鋼板をプレス加工で形成。鉄部分を溶接することで鋲の使用を抑え、一部は鋼板と竹段ボール紙のサンドイッチ構造材を採用して接着剤で接合している。
エンジンは別府造船が独自に開発したパルスジェットエンジン(推力380kg 900馬力相当)を操縦席後方に2基搭載した。
また、ジェットエンジンの排気干渉を避けるため、双尾翼(それも下側が長い)が採用されている。
パルスジェット2基の出力は決して高くないが、機体が極端な単機能機(直線番長)として設計されているため、最高速度は時速645kmと、陸海軍の甲戦を上回る数値をたたき出すことに成功している。
これに加え、高空迎撃、攻撃後の離脱用に機体後部に補助ロケット(推力500kg、燃焼時間15秒)を装備しており、ジェットエンジンと併用した場合の最高速度は短時間ではあるが時速700kmを超える。
主武装は機首の米国製M4機関砲(P-39エアコブラや、PTボートから鹵獲した。仕入れ先はニューギニア)2門で、携行弾薬数が少ないという欠点を二重ヘリカルエンドレス弾倉を開発して克服。(ちなみに紙+鉄製)携行弾薬数を各75発にまで増量することに成功している。
副武装は翼下に吊り下げられたロケットランチャーで、最大4基を搭載した場合の60発の空対空ロケット(無誘導)の発射は「当たりさえすれば」編隊殲滅すら可能と言われたが、A10の滞空時間の問題からロケットランチャー2基に落下式燃料タンク2基(最大4基)搭載が通常兵装であった。
(見た目は「F-8」っぽい翼配置に「桜花」っぽい胴体。「AS014」パルスジェットエンジンを背負い式に2基搭載した「震電」の翼形状と「He162」の尾翼を持ち、機首にM4機関砲、翼下にハイドラ70発射ポッドを備えたキメラの様な機体であるが、こ時点では「F-8」も「桜花」も「震電」も「AS014」も「He162」も、「ハイドラ70」も存在しないので、誰が何と言おうとこれがオリジナルである)
A10は九州地方(正確には日出)の敵爆撃機の迎撃「だけ」のために別府造船が九州飛行機に依頼して製造した清々しいまでの単機能機だが、肝心の敵爆撃機が一向に九州に飛来しなかったため、一部の機体を陸海軍が借り受ける形でスマトラ島と千歳に移し、連合軍爆撃機の迎撃と国内航空機関連会社が総力を挙げて秘密裏に開発していた超大型爆撃機の護衛として配備した。
その際、主武装のM4機関砲は(鹵獲品ということもあって、弾丸の手配が難しいため)二式三十粍固定機銃2門に変更されている。
スマトラでの運用実績は対爆撃機に限れば非常に良好で、副兵装のロケット攻撃は連合軍の爆撃機クルーから「バンブーロケット」と呼ばれて恐れられた。
千歳配備の機体は秘密裏に占守島に転属され、局地防衛に従事したと言われているが、この時期の占守島航空隊の記録は未だ公開されていない。
対爆撃機では無敵だったのだが、護衛戦闘機の進出や、高高度を飛来するだろう戦略爆撃機に対しての能力不足が指摘されたため、エンジン評価用としてモータージェットやターボジェットエンジンを搭載した性能向上型が設計されている。
A10の成功で妙な自信を深めた渡邊鉄工所改め九州飛行機は、勢いをかってエンテ型の戦闘機を開発。
当初からジェットエンジン搭載前提で設計されたJ7W1は非常に良好な性能だったのだが、A10の轟音と振動に慣れたテストパイロットは「なんだかこれじゃないんだよなぁ~」と不満を漏らしたそうな。
※試作中の開発名称A10(来島社長命名。なぜにAなのか10なのかは不明)を視察に訪れた陸軍関係者が「英天」と脳内誤変換し、陸軍では「英天」と記述される。(借用機なので機体命名規則に反していても文句は出なかった模様。ちなみに米軍の公文書ではA10ときっちり記述されている)
-別製対空噴進飛翔体一型-
開発名称・愛称「竹槍」。連合軍には「Bamboo Rocket」の名前で知られる。正式名称は「別製対空噴進飛翔体一型」
渡邊鉄工所(後の九州飛行機)の重迎撃機「A10」の副兵装として開発されたが、その威力と汎用性から非制式ではあるが陸海軍の重戦闘機や攻撃機、陸海軍の武装輸送船にも搭載され使用された。また、陸軍歩兵の対戦車兵器としても少数が流用されている。
現代でいう対空ロケット(ミサイルではない)で、全長約1m、重量約6kgの固体燃料ロケットをランチャー(別製対空噴進弾発射筒一型)に15本搭載し、一斉発射する。(陸軍歩兵向けランチャーは4発装弾で、単発発射が可能)
弾体は筒状胴体に炸薬と個体推進薬を充填したもので、推進薬充填作業の危険性を無視すれば「尋常小学校の生徒でも作ることができる」とまで言われた程の簡易さであった。(実際、推進薬の充填は主婦が担当している)
統制品であった軽金属の使用を極力減らすため、竹紙(竹製ボール紙)を使用して胴体が製作されている。胴体の製造は愛媛県川之江町、組み立ては同県宇和島市で行われていた。これは開発を行った別府造船の工場(日出)と海路による交通が容易であったためである。
開発当初は二種類の推進薬の燃焼速度調整、燃焼温度制御や組み立て精度の問題で、飛行距離が出なかったり、とんでもない方向に飛翔する状況だったが、陸軍と中島飛行機からの出向技師らの精力的な開発と、川之江町の製紙業者の高い加工能力により性能が向上。無誘導ではあるが一撃で重防御の爆撃機を撃破できるまでになった。
有効射程距離が700~800mと、20mm機銃の有効射程距離(おおよそ200~300m)よりも格段に長いため、対戦闘機空戦時には一撃目で竹槍を使用して相手の態勢が崩れたところを機銃で攻撃するという方法が編み出されている。
「A10」には2基搭載されたが、「A10」の運動性、飛行時間を無視した場合は4基まで搭載できた。
全長:1200mm
重量:5.5kg
外径:45mm
炸薬:焼夷炸裂段、焼夷徹甲弾、成形炸薬弾等
有効射程距離:700~800m
水平飛行距離1100m(最大)
中央部分に固体推進薬と点火装置を内蔵する。紙製である。弾体はライフリング(ボール紙の筒。トイレットペーパーやラップの筒の内側参照)が外側に出るように製造されており、発射時に弾体を回転させることで弾道を安定させている。弾頭は糊付けで本体と結合され、出撃直前に安全ピンを抜いて信管を活性化させる。信管は激発信管。最小射程は300mである。
尚、ボール紙の原料が竹であったため、洒落で緑色に塗装されている




