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閑話2 -竹槍物語(2)-

日出 別府造船超技術研究所(OTL)



「諸君には新型の対空兵器の信管を開発してもらう。簡単に言うと「近所に来たら爆発するやつ」だ。具体的に言うと、敵の近所まで飛ばして電波を出してその反射を拾う。ここでドップラー効果で周波数が変わってくるのでそれが一定のところまで来たら…ドカン!な?簡単だろ?」



 OTLの碌でもない仕事は大抵来島社長の一言で始まる。これは仕方がない。OTLは来島社長が好き勝手にコキ使える数少ない手駒なのだ。



「いや、全然簡単じゃないです。精密電機部品を弾丸(タマ)に詰め込んで発射するなんて正気の沙汰じゃない。発射の瞬間に部品(真空管)が砕け散ります!」

「何となく対航空機用だとは思うんですけど、加速が問題です。それに加速に耐えられたとしても大砲は施条ライフリングしてますから、強烈な回転にも耐えなきゃならなりません。部品の重心を回転軸の中心に集中させるのはかなり難しいです。一番の問題点は電気部品や電池を搭載すると寸法がとんでもない大きさになるということですね。どんなに頑張っても戦艦の主砲砲弾サイズになっちゃうんですけど?」



 OTLの所員(研究所という名前ではあるが、それ程規模は大きくない。十数人の変人奇人が集まっているだけである。空気を読むとか協調性とかをどっかに置き忘れてきた連中なのだが、実力だけは折り紙付きなので半ば隔離されるような形になっている。そう、「混ぜるな危険」である)が例によって来島にツッコミを入れる。通常なら考えられない光景だが、別府造船、いや、来島とOTLに限っては日常の風景だ。悪態をつきながらもOTLの所員は来島の無茶振りを実現させようとするし、来島は来島で限界以上の無茶はさせないよう気を遣っている。

 OTLの面々のツッコミは想定の範囲だったらしい。来島はしてやったりという笑顔を浮かべて俺様顔で彼らに回答という名前の説教をしはじめた。年寄りはこういうことが大好きなのだ。そう。来島義男も若くはない。



「誰が大砲つ~た?キミタチは頭が固い!信管載っけるのはロケット!噴進弾だ!ロケット花火の親玉と考えて欲しい。これなら加速も(大砲と比べると)緩いし、回転なんぞ大砲からしたら屁みたいなもんだ。振動と急激な気圧、温度変化対策程度だろ?※。寸法だって、たとえ直径が戦艦の主砲の口径を超えても問題ない。な?余裕じゃん?」

「ロケットですか?ウチ(別府造船)は造船所ですよ?」

「うん、知ってる。最近よく言われるし俺も言ってる。あれって断る時の言い訳にいいんだよね。だが、我が社は君達のためにビール醸造やら食肉、水産物の加工もやってんのよ。造船所がビール作ってるんだよ?あとソーセージとかハムとか。何が言いたいかというと、細けぇ~ことはどうでもヨロシイ!考えるな!感じるんだ!ロケットはドイツが実用化に向けて開発中らしいが先方に気を遣う必要は全くない。ウチ(別府造船)が一番乗りしても問題ないんだ。それにキミタチの担当は「信管」だ。さすがに全部は無理だと俺でも思う」

「本体はどうするんですか?」

「本体はウチ(別府造船)に新部門を作る。ロケット燃料の開発もそこでやる。心配しなくていい。陸軍と中島飛行機からそっち系がものすご~く好きそうなヤツを「出向」「技術指導」という形で引っ張って来る手はずは整ってるし、海軍が研究中の航空機用噴進器と、陸軍の噴進弾の資料は既にかっぱらってきてある」

「うわ、えげつない」

「あと、予算限度は本開発に関しては全くない!青天井だ!ただぁ~し!経理部長の承認を得るように!」

「経理部長!!!それっていつもと同じじゃないですかぁ~」

「Es ist die Holle!(うぁぁ、地獄だわ!)」

「経理部長から差し戻しなしで合議貰うのは帝大に合格するよりも難しいですよ?」

「そういうな。俺なんか交際費支出明細を見た税務署員から同情されてんだぞ?ま~い~や!来週中に開発線表と、現時点での問題点を洗い出して提出してくれ。他社へのネゴが必要な場合が俺が引き受ける」



 来島は自信満々で電波信管の開発をOTLに押しつけた。仕込みは万全!最も脆いと考えられた真空管は補聴器用に製作されていたものを参考に東芝に耐加速、振動の小型真空管の製造研究を依頼済みで、既に試作品も納品されている。

 優秀な技師と夜間哨戒器の儲けが原資の潤沢な資金があるので量産も問題なかろう。

 OTLの仕事は少ない部品での近接信管開発になる。前世の記憶で米軍が多大な費用と時間をかけた「砲弾発射時の強烈な加速と遠心力」対策を信管をロケットに搭載することでしれっと回避したので、米軍よりも実用化は早いだろう。

 来島ドクトリン(と関係者の間で言われている)の真髄、「無駄弾をばらまく」ことはできないが機関砲や高角砲よりはずっとましな対空兵器になるに違いない。加えて、小型化、省電力化ができれば赤外線誘導の目もある。当然、大がかりなモノになるし開発コストは跳ね上がる。経理部長が猛反対するだろうが、考えるだけならタダだ。来島の妄想は広がるのだが…。



「当面は低、中高度の防空か空対空にしか使えんな…成層圏はやっぱ遠いや…」



 来島の見上げる空はとてつもなく広い。来島義男は大法螺吹きと言われるが、徹底した現実主義者とも言われているのだ(本当か?)


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― 新着の感想 ―
[良い点] >そっち系がものすご~く好きそうなヤツ 小惑星の名前にもなったあのお方ですね。
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