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閑話2 -戦略爆撃機製造に関するムーブメント-

-海軍木更津飛行場-



「は?異動でありますか?」

「018航空隊に貴様を含めて陸攻二機分。22名を異動させよとのことだ。人選は任せるが頭数には貴様が入ること。上からの条件なんだ。一体何をやった?」


 海軍752航空隊司令園山中佐から告げられた人事異動内示に飛行隊長、野中大尉は思わず問い返す。

 まず時期がおかしい。752航空隊は発足(改称)してからまだ4ヶ月。ニューギニア方面への進出を目指して猛訓練の最中だ。この状態での異動は下策だ。

 加えて、異動は通常なら最低でも4機の飛行小隊であるはずであるのに、2機構成の飛行分隊であること、移動先の018航空隊という名称だ。



「質問よろしいでしょうか?そもそも、この時期の異動は不利益が多いと愚考します。何かの意図があるのでしょうか?あと018航空隊とは何でしょうか?」


「018航空隊は、新設の航空隊と聞いている。下2桁で横須賀鎮守府(ヨコチン)所属の特設航空隊と言うことはわかるが、運用航空機の種別が分類外の零番台だ。新機材の運用部隊なのか、それとも欺瞞のためか。いずれにしてもこの時期の異動と併せて尋常じゃないのは確かだ。異動規模も分隊(二機)だぞ?

 ここからはお前ら以外に、偵察要員1機分の抽出を命令されている。ただし、指名があったのは貴様だけだ。だから聞いてる。左遷とか懲罰人事ではないと思うんだがまったくもってわからんのだ」


「身持ちは良くはありませんが、本件は全く身に覚えがありません。しかし、新機材となるとせっかく陸攻の操縦に習熟してきたのが無駄になります。この情勢時間は貴重です。何とかならんですか」


「703空にもそれとなく聞いてみたんだが、あっちにも似たような内示があったそうだ。あっちも陸攻乗り2機分だ。大規模じゃないので、恐らく隠し通さなければならないような秘密裏の編成と見てる。同じ様な辞令が海軍全体に出ているだろう。もう少し探ってみたいとはおもっているがね。何にしても貴様を出すのは惜しい。が、上には逆らえん。寄せ集め部隊になるので慣れるまでは大変だろうが、まぁ、上手くやれ」



 御前会議から半月後。このような光景は全国、いや、全戦域の海軍基地、陸軍基地で見られた。異動の単位は小さいものであったのだが、対象となる範囲が全軍に及んでいた。

 外部からは目立たないように


 「戦争を終わらせるための準備が始まった」



 彼らは一様にそう考えたのだが、動きがあったのは軍部だけではなかった。




-群馬県 中島飛行機太田製作所-


「え~。私が「Z計画」の相談役を拝命した来島義男です。ご存知の方もいるかと思うけど、九州で船を作ってます。

 このたびのZ計画開始にあたり、参画企業の皆様から、部外漢ながら相談役に推され就任しました。本来であれば、本計画の主幹である中島社長が挨拶なり行うのが筋なのですが、中島社長は皆様の会社の経営陣とともに、この計画を完遂するために必要な費用の調達にアタマを悩ませているところです。勘弁願います」



 中島飛行機太田製作所に集められた技術者達に、九州に覇を唱える別府造船グループの総帥、来島義男は、軽い冗談も交えて切り出したが、残念ながら生真面目な技術者たちには通用しなかったようである。

 それぞれが(本来)所属する組織から「中島飛行機太田製作所に行け。詳しい内容はそっちで聞け」と言い渡されてたどり着いたそこは、日頃からライバル視している他社の技術者や、無理難題を押しつける軍の航空関係者がひしめき合っていた。

 微妙な空気に気がついたらしい。来島は咳払いをすると、口調をかえて話し始める。



「あ~、相談役という役職ですが、私…面倒だから俺でいいや!俺が相談されるんじゃなく、俺が相談するんで覚悟しといてほしい。

 さて、Z計画だけど、皆さんに多くは望んでいないんだよね。Z計画で製造される航空機。仮称「Z機」だけど、この機体に要求されることは、


「地球の裏側まで6トンの爆弾を運ぶ」


 たったそれだけなんだ!それ以外は一切の制限はない。予算は使い放題だ。今日の時点で各社が持ち寄って1億程出してる。足りなければ工面する。その準備で俺たち経営者は頭を悩ませてる。まぁ、カネのことは全く考えなくていい。ただし開発期間は6ヶ月。6ヶ月以内に開発を完了して、爆弾を積んで地球の裏側にまで飛んで貰う」



 どよめきが起きる。基本無理だがこの反応は織り込み済み。(何せ航空機メーカーの社長連中も同じ反応だった。が、この連中に働いて貰わないと話にならない)

 あちこちから「無理」「無茶」「寝言」「素人がなにを」云々の言葉が上がるが来島は無視する。この無理。何が何でも通さなければならない。

 来島は文句を垂れ流していた技術者が黙り込み、再び話を聞く態度になった事を確認して、こう続けた。



「…Z機は決戦兵器だ。地球の裏側まで飛べるということは、地球上のどこにでも爆弾を落とすことができるということなんだ。

 わざわざ兵隊へーたいを船に乗せて、海を渡って、敵が待ち構えているところに上陸する。そんな手間が一気に無くなる。実に効率的だろ?やらない手はない。

 でもね。俺たちが考えつくんだ。当然、米国も同じことを考えつく。いや、これはマジでそういう情報が入ってきてる。そう、奴らもやってる。人間の首の上にはアタマが必ず1個あるからね。

 おまけに、あっち(米国)のほうが頭数が多い。カネもあるし、工業力なんて桁違いに向こうが上だ。一緒にスタートしたら、あっちの方が先にゴールしちゃう。

 そうなると、日本は太平洋の向こうからの爆撃で焼け野原になる。

 そう。日本の負けだ。迎撃?でっけぇ爆撃機が雲霞のように飛んでくるんだよ。オマケになかなか墜ちない。米軍のB17なんて堕とすのに苦労するらしいからね。全部叩き落とせるはずがない。考えただけでぞっとするね。

 米国の国力は圧倒的なのよ。日本がヒコーキ1機作る間に10機以上作っちまう。頭数が多いからパイロットなんかも日本の数倍で揃えられる。中身はわからんけどね。ホント!たまったもんじゃない。


 でもさ、勝ち目はあるんだ。


 こっちの勝ち目は1つだ。米軍は企業に開発発注をしてんのよ。陸海軍が三菱さんとか中島さんに競争試作させてるだろ?勝利のタネはあれなのよ。あれって結構無駄がある。

 会社によってそれぞれ得手不得手があるし、「教えちゃ駄目」って社外秘なんかもあるだろ?なもんで、他の企業じゃ解決済みの技術開発を1からやるいう無駄も出るのよ。

 だからみんなに集まってもらった。開発速度は間違いなくこっちの方が早くなる。ちゃっちゃっと開発して、先に爆弾を落としちまおう!


 何が言いたいかというと、君達の頑張りが勝利条件なんだ。

 あっちが先に開発しちゃうと、こっちの工場、造船所が瓦礫になる。ヒコーキがなければ、フネがなければ戦争継続能力がなくなる。


 つまり負けちゃうのよ。


 そうなると、日本は植民地以下の存在になる。たぶん、あっち(アメリカ)の南北戦争前の黒人の扱い程度になるんじゃないかな?。

 航空機開発?無理無理!造船だって木造の漁船程度しか許されないだろうね。ウチ(別府造船)も創業時代の規模に縮小して漁船の修理をチマチマやることになる。取り上げられた工場とか造船所は連合国、まぁ、アメリカ人のモノになっちゃうだろうね。で、「再び戦争させないため」って名目で、軍に関係した会社は徹底的に解体される。


 今まで積み上げてきたもの。磨いてきたものが全てなしになっちゃう。そんな事は絶対に嫌だね。絶対に、絶対に嫌だ!

 でもさ、俺には技術がないのよ。アタマ悪いしさ。

 俺は君達のケツを引っぱたいて無理をしてもらうために相談役を受けた。当然、君達の社長も相当無理をしている。

 本計画のために必要な資金は三菱と、中島、川西、川崎、東芝を筆頭にすべての会社が、清水の舞台の上に櫓を立ててそこから飛び降りる覚悟で拠出してる。今日も追加資金調達をどうするか、アタマ付き合わせてるけどね。


 はっきり言う。開発失敗で日本は終了!そして君達は空を取り上げられる。どうだ?嫌だろ?じゃぁ動こう!立ち上がろう!明日のために!自分たちのために!何度も言うけど、俺はそれを君達に押し付けにやってきた。わかる?「やれる、やれない」の話じゃないの。君達には「やる」または「やってやる」しか選択肢がないないんだ」



 とても大企業の経営者とは言えない砕けた口調で、三菱、中島を筆頭とする国内航空機関連会社の技術者が集められた理由と、これから開発する機体の概要、そして米国に対する「勝算」を説明した来島に、当初冷ややかだった技術者達の目の色が変わる。

 日本の将来が自分達にかかっているという使命感は当然だが、米国(の航空機会社)との開発競争という、彼らにとっての競争相手を設定されたのだ。奮起しないほうがおかしい。

 加えて、常日頃からの他社ライバルと組んでのいわゆる「全日本(オール・ジャパン」での参戦だ。頼りになる味方も決して少なくはない。



「俺達の空は渡さない!」

「相手は米国。不足はない!頼もしい味方も居る」

「社長が清水の舞台の上の櫓から飛び降りるんだら、俺はその上に脚立を置いて飛び降りてやる。無論、死ぬ気なぞまったくない」

「米国なにするものぞ!」



 来島のアジテーションに技術者たちは盛り上がった。アジった張本人、来島はしてやったりという表情で皆に礼を述べていたが、技術者の中にはこれから作り上げようとする航空機がいかに規格外の化け物であるかを想像し、それをたった半年で創り上げなければならないという事実に身震いする。

 来島の要求はシンプルではあるが、無茶以外の何者でもないからだ。



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