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ハイエナたちの狂宴(開宴前夜)

適当なサブタイトルが思い浮かばない。(誰か考えてください)

ZKマコトチャン様から、素敵なアイデアを頂きました。サブタイトル変更です。

「悪魔が死んだ!」


 クレムリン、ホワイトハウス、ダウニング街ではこのニュースをネタに宴会が催された。(ドイツ国内や東部戦線のあちこちでも大小様々な宴会が催されたとの記録が残っている)

 世界を敵に回して大戦争を引き起こした男。ヒトラーの歴史からの退場はそれほどまでにインパクトが大きかった。

 戦争に飽いた、希望の見えない未来の行方に不安を抱いていた、決して少なからぬ人たちは彼の退場を機に戦争終結を画策し始めた。


 「死人に口なし」


 全ての責任を故人に押しつけ自分達の行為を正当化、降り掛かってくるであろう責任を回避するためだ。

 そのためにはアドルフ・ヒトラー一人ではとても足りない。バラバラになった連合国(いや、枢軸国も含めてだ)を1つにまとめる接着剤の様な人物が、全世界から等しく憎まれるという重責を担う人物が必要になった。

 残念だがイタリアや大日本帝国では貫目が不足している。何せイタリアはイタリアだし、日本は地理的に僻地過ぎる。ヨーロッパの国々の国民は日本が戦争を行っていることを知らない者も多い。「日本?何?それ美味しいの?」みたいな認識の国も多い。

「今日の友は明日の敵」。自由主義を掲げる国家は「防共」の一点でドイツとの停戦を目論見始める。(フランス?知らんがな)彼らにとっては「極悪非道」と非難を続けていたナチスドイツの頭目が退場した今、残された、いや祀り上げられた叩くべき巨悪は全世界に社会主義を輸出しようと目論んでいるソビエトの方が脅威だ。自業自得ではあるが彼らに「対ドイツ」の名目で与えられた物資と技術はあまりにも多かった。



 動き始めたのはヨーロッパだけではない。松も明け切らぬ昭和18年(1943年)1月。大日本帝国で突如御前会議が開催される。

 内閣の承認を受けて開催されるのが通常(実は御前会議自体、通常の会議ではない)だが、第124代天皇裕仁陛下から勅命招集された会議に帝国政府要人と軍幹部は戸惑いを隠せなかった。

 招集者には前線指揮官の名前もあったのだが、命令書には、


「万難ヲ排シ参内スベシ」


 の文面とともに、帝国臣民であれば絶対に拒否することのできない人物の名前が記されていたからである。

 この状況にあっても出席を拒否、あるいは代理を出席させようとする高級将校も少なからず存在したが、欠席あるいは代理の出席を勅使に伝えた瞬間、彼らは憲兵により拘束され帝都に連行される。

 ただならぬ状況に文字通り「万難ヲ排シテ」宮城に向かった(あるいはさせられた)彼らは、更にただならぬ状況を目にする。通常(陛下のご意向もあり)、必要最小限の警備しか行われていない宮城は近衛師団が完全武装で固めており、更にその外側には警視庁が帝都のみならず、関東一円からかき集めた制服姿の警官で埋め尽くされていた。

 要人が案内された議場は皇居の大広間であり、既に軍部と政府、加えて財界の関係者が集まり始めていた。これらが一堂に会するという何から何まで異例づくめのものであった。



「開戦から半年はとうに過ぎた。皆は(戦争を)どうするつもりか?」



 開催直後、御前会議では一言も発しないことが多い陛下から発せられた言葉は辛辣の一言に尽きた。

 これを聞いた陸海軍大臣ら軍部の出席者は青ざめた。陛下は忘れておられない。開戦決議の御前会議で陛下は言外に戦争反対を述べられたのだが、参加者は「やむなし」と戦争に突入している。陛下はそれを決して忘れられておられない。

 陛下は「強固に反対」を望んでいたと言うことを今更ながら思い知らされたのだ。



「ドイツは内戦状態に突入していると聞いた。オーストラリアは陸海軍、外務省の尽力により武装中立に傾いているとも聞く。米国政府も民の支持を失いつつあると聞く。上面だけを見れば帝国及び同盟国が優勢であろう。だが、我が国民は困窮の極みにある。体面にこだわっている場合ではない。各国が戦争忌避に動きつつある今、今しか戦争を終わらせる機会はない。朕はこれまで立憲を尊重し、国政に極力関わらないよう心がけてきた。が、今回はあえてその禁を破る。皆は直ちに戦争を終わらせる方策を奏上せよ。期限は20日。20日後ここに参集、各自戦争終結の施策を述べよ。帝国の命脈は恐らく半年は続かない。半年。半年である。半年以内に必ず戦争を終結させる施策を奏上せよ!方策は問わない。帝国の降伏も視野に入れてかまわない!繰り返す!20日以内に戦争を終わらせる方策を提出せよ!」



 何から何まで異例づくめの御前会議は極短時間で終了した。皇居から退出する軍、政財界関係者達は複数でグループを作って何処へか去ってゆく者、自社あるいは自宅、本拠地に急ごうとする者に大別された。

 九州に覇を唱える別府造船グループを率いる来島義男は、本戦争の方向性を絶対に逆らえない人物から示された事に対し感動を覚えていた。連戦連勝の報道に沸く中、彼はこのまま敗戦に向かうのではないかと密かに考えていたからだ。しかし、陛下のお言葉により、日本が向かうべき道筋が示された。間違いなく戦争は短期に集結する。いや、終わらせてみせる。

 来島の役目は短期終結を唱える軍の将官からこれはと思う人物を見出してそれを支援することだ。

 とりあえず帰社し、残っているあろう数名の役員。あるいは口うるさい技師長あたりを捕まえて意見交換くらいはできるだろう。そう考えながら坂下門に向けて歩き出そうとした来島に声をかける男がいた。



「来島社長。ちょっと付き合わんか?」

「中島さんか。俺、ちょっと飲みたい気分なんだけど、中島さんそっち駄目じゃん?」

「飲むのか?軍や政財界の連中の密会予約で東京中の料亭は満員だぞ?」

「ま、そーだろな。陛下のお言葉で大混乱してるだろうね。じゃ、亀戸(別府造船東京支社)でいいかな?俺だけが飲んじゃうけど、茶菓子くらいは出せる。よければ車に乗せてくんない?俺、電車で来たんだわ。経理部長が五月蝿くてね」

「相変わらずだな。乗ってゆけ」


 衆議院議員であり翼賛政治体制協議会顧問でもある中島飛行機元社長中島知久平と、来島は車止めに向かって歩き始めた。



-亀戸 別府造船ビル-


「ただいまぁ~。中島さんもいるからお茶頼む。俺は茶碗だけでいい。あと、「間宮」の羊羹があったよな。中島さんにお出ししろ。俺も羊羹は要るからな」



 秘書(来島と同年代のおばさんである)に茶菓子と湯呑の準備を命じた来島は社長室の書架を眺める。中島も何度か訪れたことがあるのか、なれた様子で(いつの間にか用意されていた)菓子折りを秘書に手渡す。

 外套を衣装かけに放り投げた来島は社長室に設けられた各社の整備教本(漫画である)を眺める。


「あれ?新刊が入ってるや。愛知の発動機整備図解の改版かぁ。あそこも気合入ってるなぁ~中島さんトコも確か「栄」の整備図解出してるよね?」

「ああ、本一冊で稼働率が跳ね上がるらしいな。正規の整備兵でなくとも発動機の簡単な整備なら十分やれると前線から感状まで届いている。いや、それはどうでもいい。今日の陛下のお言葉。どう捉えた?」


 中島の問いに来島社長は即答せず、本棚の整備教本の後ろを探ると角瓶を取り出した。先程の「間宮」の羊羹といい、最近は海軍との付き合いも浅くなさそうだ。

 角瓶を掴んで応接セットに戻り空の茶碗にウィスキーを注ぎ込んで一気にあおり、熱い息を吐き出して茶碗をテーブルに叩きつけるように腕を置くと組んでうつむいた。



「来島。どう考えている」



「どこまでが本気で、どこまでが冗談なのかさっぱりわからない人物」が世間の来島義男に対する評価だ。普段はおちゃらけている来島の滅多に見せない態度に中島は戸惑いながらも、再度声をかけた。

 同年齢ということもあって二人は仲が良い。海軍機関科のエリートの座を蹴って起業した中島と、海軍兵学校入学失敗後、家業を継ぎ別府造船グループを国内有力の企業グループに育て上げた来島との間にどのようなシンパシーがあったのかはわからないが、ありとあらゆる業種に首を突っ込んでいる別府造船グループが航空機製造関連の業種に手を出していない。

 三菱などの大手との競合を避けたいと考えているのもあるとは思うが、中島飛行機と「仲良くやりたい」と考えているのだろう。(その代償として発動機やらプロペラやらを随分と分捕ってはいるが)

 しばらく沈黙が続き、来島が顔を上げた。


「今(戦争を)止めないと日本の明日はない。俺んトコも中島さんトコ(中島飛行機)も終了だ。ただ、このまんまじゃとてもじゃないが(戦争を)終わらせることはできん。あと一回。一回だけあっち(米国)にこっぴどく負けてもらって、こっちから停戦を申し込むしかなかろう。いや、降伏でもいい。格好が付かんが「名を捨てて実を取る」これしかない。そのための「あと一押し」が必要なんだが、今の日本にそれだけの力はない。「回天の一策」が必要だ。中島さんとこの大陸横断大型爆撃機構想。ありゃ、悪くはないけど時間が足りんだろう。中島飛行機の全開発資源をそっちに振り分けても半年で間に合うかどうか微妙だ。たぶん、その間にあっち(米国)も同じ事をやってくる」



 平静を装ったが来島の言葉に中島は驚く。彼が密かに構想している「Z飛行機」計画は未だ具体的なプランとなってない。すなわち、中島飛行機、いや中島知久平の極秘プランであったからだ。


「大半がまだ俺の頭の中にしかない新型機構想がなんでお前に筒抜けなんだ?」

「人間の首から上には必ず頭が1つ付いてるからね。中島さん見てたらなんとなくわかるよ。向こう(米国)だって、頭はあるから同じ事を思いつかない道理がない。そうなると開発競争だ。どう考えてもこっちの分が悪い。頭数、手数だと必ず負ける。そしたら中島飛行機も別府造船もオシマイだ」


 来島社長は二杯目のウィスキーを湯飲みに注いで、今度はちんまりと口を付けた。もともと酒が強い方ではない来島の顔は酸性のリトマス試験紙の様になっている。



「俺は別府造船を、別府グループで働く仲間とその家族を守りたい。今までは積極的に戦争には加担していなかったが陛下が避戦を明確にされた。俺は動く!そして別府グループの仲間達を守り抜く」



 来島の言葉に中島は笑みを浮かべた。「相場師」「詐欺師」「変人」など好意的でないあだ名も多い来島だが、会社のためでなく「仲間のため」と言い切る、有り体に言えば青臭いところが中島をはじめとする政財界人に好まれているのは確かだ。



「とりあえず大神に米軍機は1機も侵入させない」

「渡邊鉄工所への出資計画はその準備か?」

「ウチ(別府グループ)の機密事項なんだけどな?中島さんも人のこといえないじゃん。渡邊への出資は「思いつきで少数飛行機を作る」ためだよ。中島さんとこも三菱も会社が大きすぎる。少量生産なら組織が小さい方が便利だ。既存技術の組み合わせで俺は防空戦闘機、それも大型爆撃機専門の重武装迎撃機を作る。中島の二式戦、三菱の十三試局戦が裸足で逃げてゆくような超重武装の機体を作る。無論、別府湾から国東半島限定の防空戦闘機だ。他は中島さんとこに任せるんでよろしく」

「清々しいほどの自己中心、他力本願だな。聞いてて気分がいいぞ」

「ああ、地元を守れずして何が防衛だ。俺は別府とともにある。中島さんも腹を据えるべきじゃないかな?」

「ああ、お前の一言で踏ん切りがついた。爆撃機の発動機は三菱に投げる。「火星」を36気筒化すればなんとかなるだろう。ハ42で三菱は技術的蓄積がある。その分の開発余力を全部機体に突っ込む。なんとしても半年以内に試作機を飛行させてやる」

「俺んとこも手伝うわ。高空を飛行させるつもりだろ?与圧室が要るよな?別府は最近潜水艦もやるようになったんだわ。圧のかかりが逆になるけど何かの役には立つ。あと、爆弾搭載量は満載6トンを何としても実現してくれ。俺に新型爆弾のアイデアがある。どうしても6トン必要なんだ」



 航空機産業に乗り出す決意を固めた来島と、Z飛行機を短期間で開発するという中島の意思は合致。亀戸の電話局は長距離電話(おそらく九州だろう)と、電報の配達に忙殺されることになった。




-都内 市ヶ谷 陸軍参謀本部-


「大命は下った。俺は終戦に向けて動く」



「特に必要である」と御前会議に呼び出された辻政信陸軍大佐は参謀本部に帰着すると、部下たちに旗幟を鮮明にした。

 驚いたのは彼の部下である。何せ辻はバリバリの継戦派だったからである。まぁ、ポートモレスビー攻略でやり遂げた感、今で言う「燃え尽き症候群」の様な様子を見せたため、無茶振りが少なくなったと密かに胸をなでおろしていたのだが、いきなりの方向転換。それも180度真逆であったので、一瞬、精神に異常をきたしたのではないかと考えたくらいである。

 御前会議の内容はよくわからないが、陛下のご意向もしくは陸海軍に加え政財界の重鎮及び最前線で活躍する連中を集めて開催された会議である。恐らく辻参謀「ごとき」ではひっくり返せない規模での「合意」があったと思われる。そうなると辻参謀の処世術が活きてくる。「勝ち馬に乗る」のは好きではない偏屈参謀だが、「負け馬には絶対に乗らない」のもまた、彼の能力である。



「しかし、納得しない者がいるのでは?」



 部下の一人が継戦派の行動を危惧する。そう、帝国陸軍には戦国時代さながらの下剋上の風習が未だに残っている。黒幕から忖度という形で青年将校や下士官がテロの凶器として使い捨てられる。実に陰湿な風習である。困ったことに、事の善悪は全く別にしてこれらのテロが日常的に行われているのが現在の帝国陸軍なのだ。恐らく、このあと終戦派と継戦派との間で陰湿なテロの応酬が交わされるであろう。その標的になるのが辻一人だけとは限らない。部下である彼らが「見せしめのため」凶刃に倒れる可能性も十分にあるからだ。



「いる。間違いない。何せ、俺がその筆頭だった。面倒なことにそんな連中に限って発言力が大きい。が、終戦派も継戦派もどうしても避けられない事がある。最低でもあと一回。連合軍を叩き潰さなければならんということだ。その一点で、終戦派も継戦派も団結できる。一致団結している間に継戦派を終戦派に転向させるか、あるいは排除するかそこらへんはおいおい考えればいい。幸いなことに継戦は下策、不可能、敗戦に繋がると考えている連中は陸軍将官、佐官、尉官に多い。あとはどちらがえげつない方法でお互いを蹴落とすかだ。継戦派は馬鹿ばかりだから、直接行動に出る可能性が高い。終戦派と見做される将官の身辺警護を厳重にするよう憲兵に依頼しろ。俺たちは表向き継戦派に身を置く。貴様らは将官の旗幟を洗え」



 部下に指示を行った自称「作戦の神様」辻政信大佐は、傍らの鞄に目を遣ると一人つぶやいた。



「あと一勝か…洒落で研究していたが、これをやるしかないかもな…」


内容が少ない割には長文になりました。さて、今後の展開はどうなることやら…

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― 新着の感想 ―
本当は日本がこの作品のように戦争が終わってたらなぁと思うが俺の父ちゃん、昭和18年に陸軍へ再度のお務めさせられてその時元嫁から離婚されててその後終戦後ソ連に抑留、復員してから母ちゃんと再婚して俺がいる…
[良い点] 仮想戦記物の定番とも言えるあの飛行機やあの飛行機がいよいよ登場するようで楽しみです。 [一言] そう言えば、渡邊鉄工所と言えば、現代の海上自衛隊でも使われている3連装短魚雷発射管のメーカー…
[良い点] 待ってました! 御前会議で、一気にクライマックスですかあ。 [気になる点] >>俺に新型爆弾のアイデアがある。どうしても6トン必要なんだ まさか・・・ ■ファットマンなら4.5トン、リ…
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