閑話2 - 海上護衛隊「扶桑」「山城」公試でのできごと -
-太平洋 宿毛湾沖-
海上護衛総隊旗艦(候補)、戦艦「扶桑」「山城」の公試は大詰めを迎えていた。
連合艦隊所属艦でありながら、海上護衛総隊といういわば番外地扱い所属の艦船であるためか公試の項目は通常に比較して驚くほど少ない。(改装を格安で押しつけられた別府造船の社長が「ん?俺達の仕事にケチつけんのか?あのハシタ金で発注しといて?」と凄まじいクレームを政財界経由で海軍にねじ込んだのが原因とされている)
それでも押さえるところは押さえる。一連の公試の最後を飾る標柱間試験には今後、この船の主となる海上護衛総隊の首脳陣が陣取っていた。
既にボイラーと補機扱いのディーゼルエンジンは全開で、ボイラーとタービン、ディーゼルの不協和音が船体を振動させている。あとわずかで標柱を通過。ここから1海里の所要時間が魔改造「扶桑」「山城」の真価を問う数値となるのだが、海上護衛総隊の首脳陣の反応は微妙なものであった。
「GFは一体何を考えているのだろうか。「大いに宜しい」どころの話ではないと思わんか?どうだ?参謀?」
海上護衛総隊を率いる野村中将は、総旗艦に予定されている「山城」の昼戦艦橋から屋外を眺めながら若干の皮肉を込めて参謀の大井中佐に問いかけた。
「はっ!「大いに」反省しております。実際、「大いに」どころの話ではありません。輸送船の護衛部隊に戦艦、それも2隻とは大盤振る舞いにも程があります。旗艦設備のあるフネを寄越せとゴネたのは確かですが、こんなモノを寄越すとは…何か裏があるのではないでしょうか?」
民間造船会社による怪しげな改装を受け、海上護衛総隊に配備された重(爆)雷装艦2隻の評価を駄洒落で応えたため、海軍内の知名度が抜群に向上した海上護衛総隊参謀大井中佐はこれに律儀に応じる。
「考えられんこともないな。実際これを「戦艦」に分類していいのかも正直悩む。戦艦であるにも関わらず搭載機18機。対潜水艦用の投射器や高角砲を満載。これはもう、別艦種に分類すべきでないのか?」
「さしずめ「航空戦艦」といったところでしょうか?いや、「対潜戦艦」と言ってもいいかも知れません」
「「航空戦艦」ねぇ。俺もその手の艦種について考えるところはあったんだが、実際に目にしてみると予想の範囲を大きく超えている」
「後部主砲を全廃して、飛行甲板を設置する程度なら誰も考えるところですが、ここから左舷前方まで斜めに飛行甲板を張り出すというのは、まさに発想が斜めです。しかし、輸送船団の護衛艦としては最良でしょう。何せ4門だけとは言え、36サンチ砲搭載艦ですから輸送船狙いの駆逐艦なんぞ一掃できますし、鈍足と馬鹿にされる「扶桑」「山城」型でも船団護衛なら十分すぎる船足です。運用に習熟したら、水雷戦隊程度であれば互角に戦えるような気がします。それに搭載機を見てください。あんなのどっから引っ張ってきたんです?ドイツのBF109の様に見えますが?」
違法建築と陰口を叩かれる艦橋(航空指揮場が増設され更に違法度が増したが、艦橋下部に搭乗員待機所や整備員待機所などの航空関連施設が増設されたため、なんとなくまともに見えるようになった)から見下ろす飛行甲板には、見慣れない航空機が発進準備を行っていた。恐らく標柱を越えたあたりで発艦するのだろう。陸海軍の航空機を見慣れた人間には違和感を覚える「ハナの長さ」と絞り込まれた機首。そう、液冷エンジンの機体である。
「陸軍の試作機「キ-61」の艦上型だな。試作機をかっぱらって、海軍が試作中の偵察機の発動機に交換している。陸軍の試作機は発動機不調で難儀してるそうだから実戦配備はこっちの方が早いかもしれん」
「なぜ陸軍の機体を?」
「輸送船の大半は陸軍が差配している。装備も手当しやすいところから引っ張って来るのは当然の事だ。我々のような陸海軍の思惑が一致するするところは、何かと便利だな」
「つまり搭乗員は陸軍ですか?」
「ああ、陸軍の「土佐丸」飛行隊から転属してもらってる。1階級昇進で転属だったんだが、皆嫌がったのが解せん。しかし、GF、いや帝国陸海軍は我々に一体何を求めているのか…この陣容では我々に求められるのが輸送船団護衛「だけ」とは思えん。ほれ、そっちを見てみろ。あれは二式戦の艦上型試作機だ。噂によると一式戦の艦上型試作機が「大変なこと」になったんで、名誉挽回に中島(飛行機)が採算度外視で開発したらしい。他にも試作機の運用試験依頼やら、電波兵器の評価依頼があちこちの会社から俺のところに届いてきている。運用が大変なことになるだろうな。なにしろ同じ機種が4機以上ないんだ。整備員の負担は大変なものだろう。参謀もそこらへんを汲んでやるように。まぁ、「扶桑」搭載予定の双発試作哨戒機なんかは、字面どおりの性能なら潜水艦に対しては無敵になるがな」
「ここまで装備が充実するとGFを疑ってみたくなります。実際考えてるんじゃないですか?例えば陸軍の「土佐丸」とかと組んで一大作戦とか?」
「ははは、いい冗談だ。22ノットがやっとの鈍足戦艦に出番なんぞあるわけがなかろう。輸送船のお守りが分相応だ。GFとの共同作戦なんて足手まといにしかならんぞ?今じゃ戦艦にですら30ノットが要求されている。少なくともGF旗艦(大和級。最高速度27ノット)に追従できない様なフネに大作戦への出番なんぞないよ」
「そうですね。鈍足でよかったと思いますよ」
「標柱通過ぁ~今!…最高速度27.8ノット!」
「出ましたね…27ノット…」
「…案外、参謀の予想通りになるかもしれんな…」
「何か嫌ですね…。ものすごく…」
「ああ…まったくだ…」
「キ-61」艦上型試作機
川西のキ-61のエンジンを愛知のアツタに換装し、艦上戦闘機仕様にしたもの。
もともとは、キー61の運用試験、訓練用に不調だったハ-40エンジンをアツタに換装したもので(別府造船来島社長の発案らしい)評価試験が終わった機体を川崎が艦上戦闘機に改造した。海軍は新型艦上偵察機と爆撃機の配備を進めており、開発が中止された次期艦上戦闘機の代用として、同型式のエンジン搭載機であれば(もしかして)海軍での採用があるかと考えた模様。
試作された4機は海上護衛総隊に配備され、前線での運用試験を受けることになる。
尚、原型機が「飛燕」と呼ばれたため、海上護衛総隊からは非公式に「海燕」と呼ばれている。
二式戦闘機艦上型試作機
一式戦闘機の艦上型試作機が「土佐丸」への着艦試験時にとんでもないことになったリベンジのために、中島飛行機が二式戦闘機を艦上型に改造したもの。(来島社長が「とんでもないこと」を周囲に面白おかしく話したのが相当アタマにきた模様)航続距離は陸上型よりも更に短くなったが、元が元だけに優秀な重戦闘機に仕上がっている
局地戦闘機(雷電)開発に遅れが生じた海軍が臨時に少数採用している。
海軍採用型は搭乗員から「タニカゼ」の名称で呼ばれた。(「雷電」より微妙に強いという意味らしい。戦闘機の命名には微妙に合致しているが、局地戦闘機の「風」はOKなのだろうか?)
「キ-48改」対潜水艦哨戒機「南海」
九九式双発軽爆撃機艦上型を艦上型に改造、速度性能を落とし揚力を増やして航続距離を延ばしたもの。乗員は3名。艦載するにあたり主翼に折りたたみ機構を追加したり、全長を切り詰めたりしたが、超大型のエレベータを装備した陸軍の「土佐丸」、海上護衛総隊「扶桑」「山城」の空母に分類されない艦艇でしか運用できなかった。
運用実績は良好で、東芝と別府造船の弱電技術を投入した新兵器KMXを搭載し敵潜水艦を次々に発見。「大井」「北上」の重(爆)雷装艦からの(爆)雷攻撃により、かなりの数の潜水艦に被害を与えている。
海上護衛総隊の「扶桑」「山城」に各4機が搭載され。そのフォルムから「ライギョ(雷魚)」と呼ばれた。




