ポートモレスビー攻略戦(17)
深夜の重砲攻撃、未明の艦砲射撃で幕を開けたポートモレスビー上陸作戦は第二段階、上陸部隊と守備隊の戦闘に移行した。
日本軍の上陸に備え、堅牢な海岸陣地と戦車などで十分以上の防衛体制を敷いた連合軍に対し、日本軍上陸部隊は当初から苦戦が予想されていた。事実、水際で1個大隊が損失するという大被害を被っている。
しかし、連合軍側も戦艦部隊からの地形が変わるほどの射撃を受け、航空戦力の消滅、陣地及び通信の寸断、対歩兵の最有力戦力である戦車の損耗が無視できないレベルに達していた。
頼みの綱のオーストラリア本土、連合軍の周辺基地からの航空支援もスタンレー山脈を文字どおり飛び越えて飛来したニューギニア各地の陸海軍の基地航空隊の戦闘機と、南雲中将率いる第一航空艦隊の戦闘機によりその数を大きく減じている。そして、肝心のオーストラリアは本土を攻撃され、少なくはない数の爆撃機が地上で破壊され、また、本土を攻撃されたこと、特にこれまで「後方」であると考えられていたケアンズが空襲されたことにより、ポートモレスビー防衛に充てる戦力を本土防空戦力として引き抜かざるを得ない状況に陥っていた。
日本軍の攻撃は、連合軍の様な無理押しをせず大火力に頼る戦いに変化していた。上陸戦初日の損害が無視できない数であったためである。
制海権と大部分の制空権は自軍にあり、海上から戦艦、巡洋艦による制圧射撃が行われていたし、至近であれば、大胆に海岸に接近した駆逐艦からの支援射撃さえ受けることもできた日本軍は無理をせず内陸部に迫る戦法を採った。
これは、先陣を切った海軍陸戦隊が海岸の橋頭堡に陸軍部隊と合同で「通信本部」なるものを立ち上げた事により、攻撃と支援が上手く噛み合うようになったためである。
陸海軍の各種無線電信電話装置、野戦電話、機上無線機、果ては駆逐艦から艦隊内通信電話機をも分捕って持ち込み、陸海軍間の情報共有と作戦統制を始めたのだ。
作戦本部があるラビと連合艦隊旗艦「武蔵」との間にもホットラインが設けられ、最新の戦況が最前線陸海軍の首脳部にもたらされ、上陸部隊から支援要請を行ってから、3分以内で、艦砲射撃または戦闘機からの銃撃が実施されるなど、「痒いところに手が届く(上陸部隊指揮官談)」ような手厚い支援が行われている。
この「通信本部」の設置は、ニューギニア戦線に大きな発言力を持つ「ニューギニア主計本部」から出たもので、当初は「不足品の補給が円滑に行えるよう、陸海軍の情報を共有しましょう」という主計の考え方によるものだったのだが、陸海軍の参謀から絶賛され、トントン拍子に事が運んだ。あとは「運ぶのに便利だから」と、土佐丸の上陸部隊に押しつけられただけの様である。
そんな訳で、自軍に制空権、制海権があり、不利となると過剰な援護射撃まで受けられる。そうなると積極的に突貫する必要はない。まずは足場を固めるに限る。
ポートモレスビー攻略戦の第二日目はポートモレスビー救援と、日本艦隊の攻撃のためオーストラリア本土から飛来した攻撃機、爆撃機と、第一及び第二航空艦隊の戦闘機との交戦で幕を開けた。初日から明らかに数が減っているものの物量で押してくる連合軍の航空戦力は明らかな脅威であるが、日本軍側も勢力下のココダに終結したニューギニア各地の基地航空隊の戦闘機部隊と、オーストラリア本土爆撃作戦を完遂した第二航空艦隊の戦闘機部隊が戦線に参加、昨日以上の陣容で来襲するB-17、B-24をタコ殴りする。
第二航空艦隊山口少将をして、「B-17は「墜ちない」。B-24は、「足が長く更に墜ちない」と言わせた重爆撃機だが、同伴する戦闘機のパイロットの技量は日本陸海軍の戦闘機乗りに比べて著しく低い。それに加え、ケアンズ空襲で本土防衛のためとしてかなりの数の戦闘機部隊が引き抜かれている。質、量ともに日本軍に劣るのでははっきり言って話にならない。
頼みの重爆撃機も「墜ちにくい」だけであって、複数の戦闘機で攻撃されればさすがに墜ちる。そもそも金属は空中に浮かぶような物質ではない。オーストラリア本土から飛来した爆撃隊は、十分な戦果を上げることなく帰投するか、珊瑚海に沈んでいった。
爆撃機と戦闘機を一蹴し制空権を完全確保すると、第一航、第二空艦隊の艦爆、艦攻が来襲。精密な爆撃で地上陣地を破壊する。
執拗な艦砲射撃と航空機支援に第一次防衛戦が壊滅した連合軍は海岸陣地を捨て内陸に後退する。これを上陸部隊が追撃、更に沖合の揚陸艦からは第二次の上陸部隊が上陸を開始する。
第一次上陸部隊とは違い、組織だった迎撃を受けることなく第二次上陸部隊は軽微な損害で上陸を成功させ、内陸部へ侵攻を開始した。
この時点で日本軍の敵は時間しかなかった。
そう、全力攻撃、全力支援が可能な時間は72時間。これ以上の戦闘は陸海軍の補給が保たないのだ。
ポートモレスビー攻略戦は最終局面に向かおうとしていた。




