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ポートモレスビー攻略戦(16)

「なんだありゃ!速い!」


 ポートモレスビーの海岸で上陸部隊を迎え撃つ連合軍兵士は、高速で接近してくる異形の船舶に唖然とした。

 海岸に突撃しつつある、いわゆる「普通の上陸舟艇」の速度は自転車のそれに近い。歩兵に比べれば十分に速いのだが戦闘艇としては鈍足の部類、「手頃な標的」だ。しかし、異形のそれは接近中の「普通の上陸舟艇」の倍の大きさ、三倍の速度で、先行する上陸舟艇を蹴散らしながら豪快に水煙を上げて海岸に迫ってくる。



「ジャップの新兵器だ!潰せ!よくわらかんがとにかく潰せ!アレはヤバい!潰せ!潰すんだ!」



 本能的に危険を感じたのか、それとも「一番槍を潰す」という戦闘の定法に則ったのか、守備部隊の指揮官は異形の艦艇「別製運貨艇」への集中攻撃を命じる。

 上陸部隊に痛撃を与えるべく配置されたはずの火砲陣地は、黎明からの艦砲射撃でその数を大きく減じているが、上陸部隊にとっては脅威であることに変わりはない。

 重火器の火線が六隻の運貨艇に集中するが、さすが軍属から絶大な支持を受ける別府造船製の製品!集中砲火を通常の船舶ではあり得ない動き、そう、例えるなら自動車がジグザグ運転をするような機動で躱しながら海岸に接近する。何よりその高速に重火器が照準を合わせることができない。



「速い!速すぎる!」

「落ち着け!接岸した所を狙い撃つんだ!フネは陸上を走れない」

「うぁぁぁ…海岸を突っ切ってこっちに来る!なんで陸上走ってんだよ!」



 別製運荷艇は海岸で速度を落とさず今度は砂煙を上げながら陸上に突進。コンテナから海軍陸戦隊2個小隊が飛び出す。



「一番槍は海軍陸戦隊が頂いた!塹壕を潰せ!橋頭堡を確保だ!」



 ポートモレスビー守備隊は、想定していた迎撃地帯。水際と砂浜を怪しげな上陸舟艇で軽々突破され混乱する。何しろ塹壕の目の前にいきなり敵歩兵が迫ってきて肉弾戦が始まったのだ。そして日本陸軍の肉弾戦の強さは世界のどの国も認めるところである。

 別製運貨艇で抜け駆け上陸。最前線の塹壕のいくつかを制圧したした海軍陸戦隊と陸軍歩兵部隊は、そこから小火器で敵陣地への攻撃を行い、後続の上陸部隊の援護を行う。

 生き残った陸上からの砲撃、機銃や迫撃砲によるものが多かった。重砲陣地は昨夜続く艦砲射撃であらかた沈黙しているのか、反攻に備え温存されているのか?

 中小火器のみの攻撃であっても、非武装の別製運貨艇や、上陸を狙っている大発艇にとっては脅威だ。陸戦隊と揚陸した別製運貨艇は船体を機銃弾、小銃弾で穴だらけにしながらも、その高速で待避に成功したが、8ノット程度の速度しか出ない大発艇は格好の的になり、少なくはない艇が迫撃砲弾の直撃を受けて砕け散り、横転する。

 それでも蟻が巣穴から這い出るがごとく、海岸を目指す敵上陸部隊の動きは止まらない。



「一番乗りは持って行かれたが、本命は俺たちだ!一気に攻め込むぞ!突貫!」



 遅れて接岸した陸軍上陸部隊の士気も高い。ポートモレスビー攻略が今後の戦争の流れを作る分岐点であることを十分理解しているのと、抜け駆けした土佐丸上陸部隊に対する怒りの感情があるのだろう。

 大発から飛び降り、腰まで海水に浸かった兵士が水際を目指し突進するが、その速度は遅い。水面に小さな水柱が連続して上がると、その進路上の兵士が倒れ海水が赤く染まる。

 迫撃砲の爆発でバラバラになった、人間だったものが上陸部隊に降り注ぐ。それでも上陸部隊の足は止まらない。そう、人だ。結局、最後はいかなる時も人なのだ。

 ポートモレスビー攻略戦の第一段階。上陸戦は、連合軍側が海岸の防御陣地を放棄するまで続き、この戦闘において、上陸時の戦死・負傷者数は事前の念入りな制圧射撃にもかかわらず1000名を越えた。1個大隊が上陸用舟艇から海岸にたどり着く前に全滅したことになる。

 何とか橋頭堡を確保した日本軍のポートモレスビー攻略戦の初日は多大な犠牲を払いながらも終わる…はずはなかった。



「よく燃えてますね。真昼の様だ」

「新型砲弾(三式弾)かな?アレは対空用なんだが、通常弾の残りも心許ないからか?そもそもこれだけの量を叩き込むと思ってなかった」

「徹甲弾の出番がないのが寂しいですね」

「アメリカの戦艦は引きこもってるし、空母の綺麗どころもあらかた海の底だからなぁ。主砲の標的は敵基地くらいしか残ってない。徹甲弾を使うとしたらトーチカ相手だろうから昼間だろうね」

「あの(艦砲射撃の)下には居たくないですよね」

「ああ、多分あそこは地獄だ」



 砲身冷却と損耗調査のため一時的に砲撃がまばらになることはあっても、地獄のような砲撃はほぼ、絶え間なく続いていた。

 昼間は上陸部隊「が」攻撃している場所、上陸部隊「を」攻撃している場所だけに砲弾が飛んできたのだが、夜間は着弾観測ができないため、公算射撃で地上施設をまんべんなく砲撃してくる。絨毯砲撃だ。連合軍は一方的に大口径主砲の(めくら撃ちの)標的にされてしまう。戦艦主砲の威力はすさまじく、着弾点から半径70m以内の人間は確実に即死し、着弾点の物質は爆散してしまう。この威力の艦砲射撃をポートモレスビー沖の戦艦群から夜通し受け続けた連合軍兵士は悲惨以外の何者でもなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新乙。 新年のお年玉かな?
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