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閑話 -泥棒陣内(14)-

「で、なんで貴様が(今回も)乗ってんだ?」

「今回は弾着観測に加え通信妨害もあるんです」



 もう、何度目かになる「オタク号」の搭乗任務をこなしている尉官パイロットは久々の同乗者のニューギニア主計本部所属の通信士、御宅曹長に質問した。

 ニューギニア主計本部はニューギニアで戦いに身を投じる者にとって、(階級、指揮系統を問わず)雲の上、あるいは闇の中の存在である。

 人間、メシがなければ生きて行けない。少なくともニューギニア主計本部はその命の糧と、戦うための物資を「ほぼ」完全に都合してくれる、いわば神の様な組織だ。その主計本部の人間が最前線に出張る。普通なら後方であれこれ指揮をとるのだが、それがわざわざ前線に出てきている。それだけで好感が持てる。それと、相手が若いため自然、口調が砕けてきていた。

 ポートモレスビーのレーダ群を無効化するため、「土佐丸」のレーダ予備部品を流用してでっち上げた広帯域レーダー妨害装置(御宅曹長特製)と別製夜間哨戒器を搭載した「オタク号」こと、Fi156はポートモレスビーへの夜間出撃を敢行していた。

 ただでさえ積載スペースが少ない機体に電子機器満載。真空管の熱で後部座席は熱帯の密林のような暑さだ。まぁ、飛行している場所が熱帯なので大した差はなかろうが…。

 極めて短い滑走距離で離着陸できる「オタク号」は連合艦隊戦艦部隊の過剰なまでに容赦ない攻撃で灰燼と化したラビに突貫工事ででっち上げた臨時滑走路を足場に、地味な嫌がらせをちまちまと続けていた。



「この電波妨害装置、自分が作ったんですよ。広帯域に大出力で無変調電波を発信するだけなんで単純な造りなんですけどね。だけど、辻参謀殿に製造物責任だとか何とか、妙な言いがかりを付けられてですね…。ホントどうしてこうなったのか…」

「そりゃ、災難だったな。で、実際の所どうなんだ?」

「電波ってのは距離の二乗で減衰するんで、機上からのショボい発信でも十分嫌がらせにはなります。本物のレーダー波は自分が発信した電波が目的から跳ね返ってくるのを受信しますから、電波強度は相当弱いんです。だから機上ここからの妨害で十分です。米軍のレーダーは軒並み役立たずになってますよ。それに加えて、ニューギニア周辺の基地とか守備隊、珊瑚海に突入する連合艦隊の各艦も全力で敵の通信妨害やってますから、今頃モレスビーとオーストラリア本土は大騒ぎになってるんじゃないかなぁ」

「愉快だな。こんなカトンボ1機がニューギニア戦線全体をかき回してるってのは」

「問題は、コイツ(Fi156)が確実に狙われるって事です。何せ、弾着観測までしなくちゃなりませんから。少尉殿も貧乏クジ引かれましたね」

「貧乏クジ?確かに夜間の飛行は怖いが、この機体は夜でも平気で飛べる。後席から飛行指示が出るから山に衝突することもないし、地面にぶつかることもない。まったく気にならん。それに今回の特別手当がまた、すごいからなぁ。これだけ遅いと山肌ギリギリを飛行するだけで、敵機は攻撃できん。ちょっとしたコツは必要だが敵に墜とされることはないと思うぞ?それよりも、そろそろ貴様の「本業」の時間じゃないのか?」

「本業ですか?実況放送のアナウンサーは通信兵の任務には入ってないんですけどねぇ~。それでは…と。あ~ニューギニアで戦う帝国陸海軍の皆様、及びこの通信を傍受している連合国の皆様。こんばんわ!ただいまよりポートモレスビー攻略の模様を、ニューギニア放送組合(NHK)が実況ナマ中継でお送りします」



 ニューギニア放送組合による弾着観測&実況中継が始まった。





「いやはや…本当に来ちまったぜ…」



 怪しげな新機材により第15連隊はイミタ山地を軽々と突破。ポートモレスビー進撃の足がかりとなるカギまでの補給路を構築することに成功する。

 ここにニューギニア、フィリピン方面の野戦重砲兵連隊から強引に抽出し、「ニューギニア特別重砲部隊」を臨時編成する。彼らは上陸のブナからわずか1昼夜でカギへの終結を完了したのだ。

 スタンレー山脈を横切る「ニューギニア鉄路」に投入された新機材「別製機動運搬車」の最大搭載量は1.5トンなのだが、さすが「鉄路」。複数の運搬車を重連、三重連で編成し、急峻な山脈を制覇してしまったのだ。急勾配の箇所においては4重連編成+人力で乗り切る力業だ。陸軍は人材の宝庫(微妙に意味が異なる)。ここでは招集された国鉄出身の兵が大活躍する。兵曰く、


「重連は漢のロマン」


らしい。

 ここから更にポートモレスビー攻撃可能な重砲(九二式十糎加農砲)の射程距離18キロまで運搬しなければならないのだが、本来、これを牽引する機材の九二式五屯牽引車は分解しても別製機動運搬車に搭載可能な重量にならない。だが、ここで「別製牽引機1型」が活躍。分解して輸送された牽引機は複数編成(2頭立て、4頭立て)で重砲を素早く輸送。攻撃開始の24時間前にポートモレスビー15Kmの位置まで進出。念入りに偽装された重砲陣地を構築した。

 ちなみに、これらの大ドカの運転ダイヤも招集前に国鉄に勤務していた兵が組んでいる。

 さすが本職。遅延、故障など予想されるありとあらゆる事象を踏まえ、最適なダイヤを編成した。

 面白いことに連合軍ポートモレスビー守備隊は、日本側の一連の動きに無関心で山脈側の警戒ラインはモレスビー市街地ギリギリの12km圏に構築されていた。つまり、接近し放題だ。

 積極的攻勢に出ず、守りを固める腹づもりなのだろう。恐らく、重砲が山脈越えをするとは思ってない。


「重砲はない」


 連合軍は歩兵主体、加えて山砲程度の部隊での攻撃が来ると読んでいたのだ。これは正しい。山脈越えを画策した馬鹿が帝国陸軍にいなければ…。



「ぼちぼちかな?本部に電話しろ。「弾薬節約ノ要アリヤ?だ」しみったれた砲撃だとわざわざここまで出張ってきた意味がねぇ」


 野戦電話で本部(ニューギニア戦線主計本部)と連絡を取っていた通信兵が明るい声で応える。


「本部より返信。「弾薬節約ノ要ナシ。大イニ撃テ。後顧ノ憂ヲ残スベカラズ」でありますっ!」

「うはっ!張り切ってるな。よっしゃ、総員射撃準備。作戦開始時間と共に盛大に射撃開始だ。いいか!俺達の砲撃がキモだ。どれだけ短時間に滑走路に弾を叩き込めるかが勝敗を左右する。俺達の役目は重い!気合い入れていけ!」

「ココダより連絡。「夜明ケト共ニ護衛ノ戦闘機出撃ス。砲撃ニ専念サレヨ」」

「嬉しいねぇ。間もなく作戦開始。4、3、2、1テッ!」


 まだまだ真夜中の作戦開始時刻と共に、重砲群が一斉に射撃を開始した。


投稿したつもりが、投稿してなかったでござる。

どうしてこうなった…

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